ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第73話

「えーっと、送られてきた地図だとここら辺なんだけど……」

 

 しばらくして祇穣院(ぎじょういん)さんから送られてきた地図は、意外にも電車で一時間もあればたどり着ける場所だった。

 鬼灯さんの実力、そしてダンジョンの崩壊や曙光の行動を考えれば、相当の場所にまで行く覚悟があったボクからすれば拍子抜けだ。

 

 みーちゃんを肩にのせきょろきょろと周囲を見回すも、いろいろな建物が散見していていまいちどこに入ればいいのか分からない。

 うーん、こっちか? いや、こっちの方がカフェだし清楚な鬼灯さんがいそうな感じが……

 

『おお、随分と派手な建物じゃのぅ!』

「こ、ここって!」

 

 ふと、みーちゃんが嬉しそうな声を上げた。

 彼女が言う通り目の前の店は中々に派手だ。虹色のライトに照らされ、大きな看板が掲げられたその場所は……

 

「パチンコ屋だけど!?」

 

 す、とスマホをそちら側に向けるとなんという事だろう、ピンはそこに突き刺さっているじゃないか。

 

「……マジかぁ」

 

 頭を掻きながら小さくぼやく。

 

 パチ屋って未成年立ち入り禁止だよね……?

 む、むむ……い、行くしかないかぁ……?

 

 まだまだ灼熱の昼頃の日差しを背に受け、ボクは常識と現状の葛藤の合間で揺れ動く。

 いや、たとえなにがあろうと戦い続けると決めたのだから、今更パチ屋に入るかどうかで悩むだなんてバカらしい。

 

「いよっし!」

 

 こそこそと、周囲の目から逃れるように自動ドアを潜り抜け奥へと進む。

 幸いにして平日の昼間、人の数も少なければお店の人もあまりいない。

 

 くっ、輝良みたいに大人な見た目だったらどうとでもなったってのに!

 

「はぁ!? 赤は普通落とさないでしょ!? っち、はぁ~~~!」

 

 忍者さながらの動きで周囲を伺っていたボクの耳へと、怒りに満ちた一人の女性の声が届いた。

 

 む、うるさい人だなぁ。

 これでお店の人が寄ってきたらどうするってんだ、こっちは潜入調査中だってのに。

 

 唇を尖らせいったい誰が騒いでいるのか、なんて台の隙間からそいつの顔を覗き込んだボクは……その、丸くて大きなケモミミや、太い尻尾に目をひん剥いた。

 

『あ』

 

 ほ、鬼灯さん!?

 

 

「塩たこ焼き一つ……いや、二つ下さいな」

 

 パチ屋の前に止まっていた屋台カーからたこ焼きを受け取った鬼灯さんは、ボクへと熱々の一パックを手渡してきた。

 

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 困惑するボクをよそに、彼女はどんどんと歩いて行ってしまう。

 そのまま近くの広く、しかし人気のない公園まで足を運んだ彼女はベンチへと座り、たこ焼きへとつまようじを突き刺した。

 

「はふぁ、五万円のたこ焼きは沁みるわね」

「はぁ……そうですか……」

 

 えっと……?

 

 どうやらボロ負けした鬼灯さんは、何を話すでもなくすぐに店を出た。

 ボクはその後ろについていったい彼女が何を口にするか、なんてドキドキしながら待っていたのだが……今はこの状況である。

 

 ボクは膝の上にたこ焼きのパックを置きながら横の鬼灯さんを眺めると、彼女もこちらを横目で見ていたようで、もぐもぐと口をしばらく動かしてから顔をこちらへと向けた。

 

「断るわ」

「あの、まだ何も」

「断ると言っているの。貴女の指南なんて、やっているほど暇じゃないもの」

 

 え、めっちゃパチンコしてたじゃん!

 しかもすっごい手慣れた感じで負けてたし!

 

「あ、あの、鬼灯さん。暇じゃないって……今までパチンコしてましたよね?」

「スロットよ」

「どっちも同じじゃないですか……」

 

 賭博は賭博、何も変わりはしないでしょ!

 

 ボクのイメージの鬼灯さん像がガラガラと崩れていく。

 え? あのクールでかっこよくて強くて、ちょっとチャーミングな鬼灯さんはどこに?

 

 何度眺めてもそこにいるのは、五万を溶かしてたこ焼きを頬張る立派なパチカス、いや、スロカスだ。

 

「それじゃあ頑張って頂戴、応援してるわ」

「え!? ちょ、ちょっと待ってください! せめてもう少し……!」

「総主に聞いたでしょう? 頷くかどうかはこちらの判断、そして断られたのならそれ以上の話なんてないわ」

 

 唖然とするボクをよそに、あっという間にたこ焼きを食べ終わった彼女はゴミ箱へとプラケースを押し込み、のんびりと歩いて公園を去ろうとする。

 

 うそでしょ!?

 こんなあっさり!? もう少しなんかあるじゃん、力試しとか試験とかさぁ!

 

「せ、せめてボクの実力を見てから判断してもらいます!」

 

 こんなあっさり流されてたまるか!

 彼女は限りなく頂点に近い実力者、その指南は言うまでもなく大きな意味を持つ。

 輝良に近づくには最短のルート、そうやすやすと諦められない!

 

 ボクが鉄扇を握ると、鬼灯さんは胡乱な目つきでこちらを眺める。

 

「……ダンジョン外での無断の武器使用は法律、そして言うまでもなく協会の規約にも反しているわ」

「今は誰も周りにいません!」

「まったく……」

 

 面倒くさそうに彼女は地面の小枝を拾い上げると、それをこちらへぶらりと見せつける。

 

「じゃあこうしましょう。わたしはこれを、武器として使うわ」

「……バカにしてるんですか?」

「ふふ、そうだと言ったら?」

 

 本当にただの変哲もない小枝だ。

 鉛筆よりも細く、定規ぐらいのサイズしかない。ダンジョンに入ったことのなかったボクですらへし折れるくらい、見るからに貧弱な枝。

 それを武器だというのか。

 

 彼女はいつものたおやかな笑みを絶やさない。

 

「それともう一つ、基質も使わないであげる。ふふ、貴女の意識があるうちに一太刀でも浴びせたら考えてあげるわ」

「……『基質励起 トキシックアーツ』」

 

 ボクを、舐めるなよ。

 

 無意識に握りしめた鉄扇へ血が垂れる。

 ダンジョン外故に基質は普段ほどの影響を及ぼさない、ほんのわずかに血の色が蒼へ近づく程度。

 それでも人一人を麻痺させるには十分だ、ほんの少しでも掠めれば。

 

「はぁッ!」

「ふふ、遅すぎ」

 

 右へ、左へ。

 ボクの連撃は彼女の、一見緩慢にも見えるステップで容易く避けられていく。

 

「っ、なんで! 当たらない!」

「視線でバレバレ、それに直線的過ぎるわ」

 

 笑顔の裏側に隠された嘲り。

 ならばと下からの切り上げ、両手の左右からの挟撃、出来ること思いつくこと全てを試すも、やはり届かず。

 わずかに気が抜けたその一瞬だった。

 

「はい」

「うぎゅっ!?」

 

 突如腹部に走る衝撃。

 白黒の毛玉、いや、彼女の尾がめり込む。

 軽い動作から想像もしえない鋭い衝撃に、くらりと意識が一瞬遠のく。

 

「……くそっ!」

「まさか尻尾は飾りとでも思っていたの? それとも卑怯だって?」

「まだまだっ!」

 

 こんなところで倒れていられるか!

 

 飛びかけた意識も噛み潰し再び武器を構える。

 彼女からの攻撃の意志は全くない。退屈そうにあくびをしながら鬼灯さんは、手にした小枝をふらふらと揺らしている。

 

「なめ……るなぁ!」

「それもぜーんぜんだーめ」

 

 振りかかったボクの目の前にはいつの間にか彼女が立っていた。

 ぶすり、とボクの頬に小枝があてがわれた。

 

「戦闘の才能がないわね貴女、まるでなってない」

 

 苦し紛れの一振り、しかしそれは彼女が手にした小枝の上を掠り抜け、無意味にも空を切る。

 

「弱い弱い弱い弱い、本当に弱い。 ふふ、これで師事してほしいだなんて本当に笑えるわ」

「うるさい! たとえどれだけ弱くたってボクは最後まで戦う!」

「……本当に、不愉快な子ね」

 

 その時だ。

 彼女の視線が一気に、すぅ、と冷たくなった。

 

「貴女みたいな子は無茶を繰り返して最後に友人も、自分の命も、全部失って終わるの。ふふ、何もできずに必ず最後まで後悔を続けて死ぬわ」

 

 今までにないほど低い声。

 笑顔も忘れた彼女は一瞬でボクまで近づくと、息が上がり動けないこちらの顔を下から覗き込む。

 

「その程度なら全部諦めてしまいなさい。そもそも魂転の巫女とは生まれる世界が違う、貴女は凡人の世界で、凡百の暮らしをしていればいいの」

「うぐっ!?」

 

 再び腹部へ走る衝撃。

 しかし今度は一度で済まされなかった。二度、三度と首筋や足、腕にまで激しい打撃が連続して襲い掛かってくる。

 その一撃は恐らく彼女からすれば手加減に手加減を重ねたものなのだろう。

 だが理不尽なまでの実力の差からすれば、それはもはやないに等しい。

 

 喰らうたびに意識が遠のいていく。

 意識を取り戻す余裕すらない。重なる衝撃が着実に、意識を奪い立ち上がる意志を削いでいった。

 

「っ、く、そっ……」

「黙って、何もせず、何も知らず、ただ生きていきなさい。それが貴女みたいに何もできない人間にとっての幸せってものよ」

「まっ……て……」

 

 いつの間にか、こんなにも地面が近い。

 掠れる意識の中で彼女は最後にぽい、と小枝を投げ、公園から立ち去っていった。

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