ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「レベル650、か」
『いけるかの?』
「余裕」
表示された数値を睨みつけ、計測装置を脚のベルトへとひっかけ仕舞う。
レベル600、クレアちゃんを助けた時の大狼と同じくらい。
あの時は息も絶え絶え、ギリギリで倒したけれど――
「基質励起――『トキシックアーツ・デッドリースケイル』!」
明朝、ランニングからのトレーニングをしていたボクの元へと連絡が入った。
即座に協会へ足を運ぶと同時、屋上で待っていたヘリへと乗り込んでのダンジョンへの急行。
連絡が入ってから時間にしておよそ一時間ばかし。ボクは侵食現象の始まった、とあるダンジョンへと足を踏み込んでいた。
目前の豚とも、人とも言えない奇妙な生物が巨大な木塊を振りかざす。
「ふんっ!」
蒼の結晶で出来た両腕を十字に構えると刹那、激しい衝撃と共にボクの両腕へと棍棒がめり込んだ。
構えた足先が地面へとめり込む。
素で喰らえば致命的な一撃。しかし結晶が砕ける、それは同時に破壊によって衝撃が吸収されるという事でもある。
空中で散っていく結晶の中、ボクはその棍棒すらも踏みつけて正面へと飛び出した!
「ハァッ!」
鉄扇がその首筋へとめり込む。
わずかな抵抗。だが確実に伸びるボクの膂力は、そう長くは許さなかった。
振り切ると同時、その体からすれば小さな傷は致命的な影響を及ぼす。
「脳に近いと
荒い吐息と共に、奴の身体が止まった。
同時にボクは着地。その脚を支える腱へと絶え間のない斬撃を繰り返す。
一撃、二撃、三、四、五六七撃!
浅い傷はより深く、より致命的に。
ついに体重を支えきれなくなった足首の腱は、こちらからでも分かるほどの音を立てて引き千切れ、奴はついに膝をつく。
麻痺し動かぬ体、さらけ出された首筋は――
「――致命的」
気が付けば周囲には細かくなった結晶が舞っている。
ボクが切り裂くほどに傷口には麻痺毒が染み込み、心臓の鼓動に合わせあふれ出す血が足元へと広がっていった。
血に舞い、血に溺れ、血に酔う。
そしてついにオークは力を失い、一つの魔石を残して崩れていった。
「……ふぅ」
『良い動きじゃ、そのでっどりーすけいる、とやらも慣れてきたみたいじゃな』
「うん、想像以上に使いやすいよコレ……まあ、あんま使いすぎると腕の皮とか剥げてめっちゃ痛いけど」
ボクの腕を覆っていた結晶が崩れ落ちていく。
露わになった腕には細かな傷が無数に入り、じんわりと血がにじんでいる。
デッドリースケイルは今までの血を使った技と異なり、直接腕の表面を毒へと変換して使う技だ。
結晶そのものによる防御力、砕けることによる毒のばら撒きは攻防一体。しかし同時に腕を変換しているということは、砕けるほど元となった腕にもダメージが行くということ。
勿論回復剤を使うことで補うことはできるが、やはり消耗は激しい技と言えるだろう。
「……ダンジョンコア、やっぱりここにも」
実のところボクはここまで、手にした機器に示された反応を追ってここまで来た。
曙光によるテロ行為は苛烈だ、ボクがこうやって駆り出されているわけだから言うまでもないが。
しかし協会とてただ手をこまねいているわけではない。特に街の近くのダンジョンにはまず侵食初期の反応を感知する機器、そしてダンジョンコアの位置を特定する機器の配布も最近行われた。
……実態の分からぬ組織、直接叩くことが出来ないのが歯がゆい。
『今回も持ち帰るのかえ?』
「いや、これからは壊していいらしいよ」
鉄扇で一振り。
魔石は容易く粉微塵へと変わり、あっという間に空中へと散って行く。
これでもう侵食現象は起こらない。
「もう大丈夫です、今はこの結界内で皆さん安静にしていてください!」
ボクは少し歩いたところに貼った結界へ足を運び、中で怯え待つ人々へと声をかける。
ダンジョンコアは破壊した、モンスターのレベル上昇はこれで完全に防がれた。この結界が破壊されることはない。
手にした無線はポイントをここまで引いてきた特別なものだ。
ダンジョン内で外部との連絡手段はない、これを除いて。
「周囲のモンスター排除は終わりました。巻き込まれた市民全員の保護は済んでいます、あとは突入部隊にお任せします」
『やあお疲れ様律クン、また腕を上げたんじゃあないかい?』
「ああ、今日は
鬼灯さんににべもなく鍛錬を断られてから半月。
ボクは以前にもましてダンジョンに潜り、協会からの崩壊したダンジョンへの救難も多く受け持っている。
多くのモンスターと戦い続けたことでボクのレベルは今800を超え、ついに1000の大台を望んだ。
輝良と別れたあの日から、レベルはもう二倍になる。
……これだけレベルが上がったってのに、あの日見たカルミアたちの動きには全く届きそうにない。
ましてや鬼灯さんなんてまるきり、だ。
まだ、まだ足りない。
『や~、聞いてるよォ。キミも諦めないねェ~』
「……今日もお願いします」
遠くを見ると十数人ほどの人たちがこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。
ここにもう用はない。
.
.
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パチ屋のウィンドウが開く。
車椅子に乗り、相変わらず負けたであろう彼女がしょぼくれた顔でこちらへと視線を向ける。
「はぁ~~……」
ボクは無言で鉄扇を構えた。
「もう五回目よ? いい加減諦めてくれないかしら?」
「――基質励起」
「はぁ……」
正直、彼女の指南などもはや興味はない。
ただの意地だ。ボクの覚悟や努力なんて無意味だと笑う彼女に、土の一片でも叩き付けてやりたい、一太刀でも浴びせてやりたい。
今までボクと輝良は、どこまでも二人の間での世界で戦ってきた。
だが鬼灯さんと交戦したマッハと名乗る曙光の男、先日の孫七やオトギリ、カルミアといった実力者たち。
その誰も彼もがボクを嘲り、その力の無さに呆れ、まるで存在しないかのように戦っていた。
分かっている。
経験の浅さ、戦闘に対する意識、何もかもが彼らとはまるで違うと。
それでもボクは強くなっているんだ、前へ進めているんだって、それを証明したかった。
「力なき理想などただの妄言に過ぎないと言っているの」
攻撃は変わらずとどかない。
今は小枝など握っていないが、しかしシンプルな体術だけでボクの攻撃の一切は捌かれていく。
彼女は再びボクの視界から外れ、気が付けば背後に回っていた。
その太く鞭のように巨大な虎の尾が、こちらへと振りかぶられる。
彼女の言葉はどれもが熾烈だ。
人の心など考えない。いや、人の心を最も理解しているからこそ、ボクの現状を分かっているからこその、あまりに鋭利過ぎる刃を何度も振りかざされる。
傷ついた穴にまた刃が捻じ込まれ、こぼれた心の血を踏みつけられる。
諦めろ、あきらめろ。
才能がない。力がない。気力が足りない、勇気がない。
お前に希望なんてない。
「はい、終わり」
そしてそれは、息も絶え絶えに両腕を構えたボクへと叩き付けられ――
「――あら?」
腕と尾、その合間から小さな結晶が崩れ落ちる。
ダンジョンで振るう力と比べれば随分少量だが、彼女の手加減した攻撃を防ぐには十分な量。
「――『デッドリースケイル』。鬼灯さん、おんなじ攻撃パターンじゃ読まれますよ!」