ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「はい♪ なーに持ってんの♪」
「あの……鬼灯さん……」
「なーに持ってんの♪」
「い、いや……ちょっと……」
「飲み足りないから持ってんの♪」
楽しそうに手をパチパチと叩く鬼灯さん。
ボクの前に並ぶ小瓶たち。
それらには一つ一つ、やたらと長ったらしく不穏な文字が書き記されている。
そして僕は怪しい液体がなみなみと注がれたジョッキを両手で抱え、冷や汗をかきながら飲むしかないのかと震えた。
……どうしてこうなった!!
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ついに鬼灯さんに認められたあの日。
それから一週間ほどたった後、ボクのスマホへとようやく彼女から連絡があった。
曰く協会まで足を運んでくれとのこと。
……ついに修行の日々が始まる。
これからはきっと日本中を飛び回る彼女について回り、より熾烈な戦いがあるのだろう、と……ここまでは思っていた。
「はっきりってしまうと律、貴女にはハングリー精神が足りないわ」
「は、ハングリー精神ですか……?」
「ええ、執着心は随分と強いみたいだけれどね」
通された奥の会議室で、鬼灯さんはパイプ椅子の上で足を組みボクへと呆れたようにため息をついた。
「貴女の基質はとても面白いものよ。取り込んだ毒素の再現や肉体の変質、使い方次第では無限の可能性があると言えるわ」
「……そんなにですかね?」
まあ、麻痺毒が便利なのはそうだけど。
即効性で相手の動きを止められる、元はダンジョンで戦ったオオサソリの毒から作り出したこれは、ボクの命を度々救って来た。
きっとこの基質がなければボクはすでに死んでいただろう。
だがボクの前で座る彼女は全然違うと首を横に振った。
「まず『毒』の定義がどこまであるのか。自己の認識次第なのか、肉体への一定以上のダメージが起因となるのか、自分自身への理解が全く足りていない」
キュ、キュ、とペンを鳴らしてホワイトボードへ色々書きこんでいく鬼灯さん。
「次に毒の幅。貴女、聞けば麻痺毒一本じゃない。毒にも広い幅があるわ、幻覚性のモノ、神経毒、触れた皮膚へ作用するものから内臓へのダメージに至るまで、極論酸素ですら高濃度なら危険よ」
高濃度の酸素が毒になる、これは確かにボクも聞いたことがある。
まあ世の中のモノは結局許容量次第であり、水だって飲み過ぎれば死ぬし塩だって舐めすぎれば死んでしまう。
そう考えればなるほど、確かにボクは今まで『毒の扱い方』を考えることはあっても、『毒の幅』を増やすことは考えたことがなかった。
「貴女はより幅広い毒性を取り入れ、理解し、それを自由に操れるようになる必要がある」
「なるほど~!」
ぽん、とボクは手を打った。
訓練でなく突如始まった座学、しかし言われてみれば確かにその通りだ。
操れる毒の幅が広がる、それはまるっと対応できる幅が広がるということ。
以前戦ったカタストロフベアとやらも麻痺毒からはすぐに抜け出していた。こちらが先に致命傷を与えたから良かったものの、あと一秒遅れればこちらがお陀仏だった。
わー、さすが最前線で戦ってる人の考えだなぁ。
基質は人それぞれだってのに、ボクよりもこういうのを思いつくなんてさすがだ。こういうのは全然考えたことなかったや。
「やー、やっぱり粘って良かったなぁ。さすがです鬼灯さん!」
「ええ、貴女が喜んでくれてうれしいわ」
彼女がニッコリと笑う。
ボクもにっこりと笑う。
「ということではいドン!」
突如、ガチャン! と大きな音を立てて会議室のテーブルの上へ、大きな木箱が叩き付けられた。
鬼灯さんが笑顔のままあけ放つと、中から現れたのは様々な小瓶だ。
液体から結晶、色もモノによってとりどり、挙句には小瓶の上に何かシールが貼り付けられ、やたら長ったらしく文字が書きこまれている。
そのどれもが聞きなじみのないものだったが……一つ、たった一つだけ、ボクが理解できるものがあった。
テトロドトキシン。
ゲームや小説、創作でおなじみの物質、いわゆるふぐ毒って奴である。
「……あの、なんですかこれ?」
鬼灯さんの笑顔が一層深くなった。
ボクはそっと椅子から立ち上がった。
「座りなさい」
「……はい」
ボクはそっと椅子へと腰を下ろした。
「まずこれからテトロドトキシン、いわゆるふぐ毒ね。それとボツリヌストキシン、ボツリヌス菌によって生み出されるトップクラスの筋弛緩性毒ね。それとこっちはアドレナリン、いわゆる興奮成分。次にシロシビン、マジックマッシュルームに含まれる成分で幻覚作用を持つわ。それとこっちはヒドラジン、シャグマアミガサタケから抽出された成分でロケットの燃料にもなる者よ。効果としては触れた部分から腐食を起こし、内臓まで犯す……」
無数の文字による暴力。
だがボクはそれをいたって単純にようやくできた。
つまり、この小瓶の中身をちょっとでも舐めたら死ぬってことだ。
『貴女はより幅広い毒性を取り入れ、理解し、それを自由に操れるようになる必要がある』
数分前の彼女の言葉がボクの脳裏をかすめた。
ボクは立ち上がった。
「二度は言わないわ」
「はい」
ボクは座った。
「ちょ、ちょっと待ってください! なんですかこれ!?」
「短期間だったから集めるのは大変だったのよ、協会の権限で医療用のものもいくつか混じっているわ」
「そういう問題じゃなくて! どれも下手に触れたら普通に死ぬやつじゃないですか!?」
「ええ、特にボツリヌストキシンには気を付けてね。溢したら私も死ぬと思うから」
「怖くて触れませんよこんなの!」
震える手でスマホを引っ張り出し、彼女の言うボツリヌストキシンとやらを調べ上げるとそこに書かれていたのは、0.9
マイクログラム!?
ミリじゃなくてマイクロ!? 0.000001g!?
人生でまず使わない単位なんですけど!?
「じゃあさっそくテトロドトキシンから」
「え!? 本当にこれ飲むんですか!?」
きゅぽん、と小気味のいい音を立てて瓶を開ける彼女。
そしてにこにことした笑顔でそれを差し出されるボク。
こ、殺される!?
輝良に会うとか以前に毒殺される!!
「あら、瓶からじゃ飲みづらい?」
そういう問題じゃなーい!!
こちらはふぐ毒、ボツリヌストキシンと比べれば毒性が弱いとはいえ、日本人なら誰だって知っている。
ふぐ毒は摂取したらヤバい、普通に死ぬと。
こちらもあわてて調べれば致死量0.5mg。なーに、ボツリヌストキシンと比べれば少ないじゃーん! って言えるかバカ!
液体が透明なのが余計怖い! どれくらい溶けてるのか分からないから余計怖い!! 絶対生半可な量じゃないって!
「ちなみに溶解量は1g程度よ」
「人が二千人死ぬ量なんですけど!」
「うるさいわね……じゃあ飲みやすくしてあげるわ。少し部屋を開けるけど……逃げられるなんて考えない事ね」
渋々といった様子で会議室を抜け出す鬼灯さん。
逃げようかな? 逃げないと殺されるかな? 逃げても追いつかれて殺されるかな?
うーん!
さながら死刑囚である。
いや、死刑執行のほうがまだすぐ終わるからましかもしれない。
なにせ今ボクの目の前には激烈な効果を持つ毒がずらりと並んで、さあ一個ずつ飲めといわれているのだから。
椅子の上でじっと座り目を瞑っていると、扉が開く音共にボクの前へと何かが置かれる音がした。
大きなジョッキである。
中には……オレンジジュースだろうか、さわやかな橙色の液体が注がれている。
わあオレンジジュース。
ボクオレンジジュースだいすき。
「じゃあ注ぐわね」
無慈悲に注がれる無色の液体。
一瞬で人間ぶっ殺しオレンジジュースが完成した。
「はい、持って?」
「い、いや……」
「貴女の覚悟とやらはこの程度なの?」
「いや……そういうわけじゃないですけど……だって……」
「はい♪ なーに持ってんの♪」
地獄のようなコールを笑顔で歌う鬼灯さん、おそらくこれは世界で最も邪悪な一気飲みコールだろう。
そして冒頭に戻る、というわけだ。