ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「あの……鬼灯さん……」
「なーに持ってんの♪」
貴女に渡された毒です。
笑顔でカスみたいなコールを始める鬼灯さん。
ジョッキを抱きかかえ震えるボク。
……いやだって、今まで毒を操るなんて言ってはいたけど、具体的には麻痺毒しか使ってこなかった。
第一本当に耐性があるかどうかすら曖昧な状態で、誰しもが知っているようなふぐの毒を一気飲みしろなんて言われて、はいそうですかとジョッキを傾ける度量なんてない。
「い、いや……ちょっと……」
「飲み足りないから持ってんの♪」
せめて刻むだろ……もっと段階を……!!
一口、いや一滴! 安全を確認しながらの調整が……!
「はい飲ーんで飲んで飲んで♪ 飲ーんで飲んで飲んで♪」
ちらりと視線を向ける。
彼女の腕が伸び、がっしりとジョッキの下を掴み上げた。
そのままぐいぐいと押し込んでくるものだから、ついにはボクの口元にまでその冷たい透明なグラスが触れるとこまで来てしまう。
「飲んで?」
「う……」
「飲んで?」
「や……」
「飲んで?」
「はい……飲みます……」
恐怖をひっつかみぶん投げて、無理やり人間ぶっ殺しオレンジジュースを喉の奥へと流し込む。
味はいたって普通の柑橘。さわやかな酸味としっかりした甘さや芳醇な香りは、中々お高い味がしてゆっくりと味わいたいものだ……入り混じっている不純物のことを考えなければ。
あーだめだめ!
何も考えちゃダメ!
一気一気! 一気に喉奥へ流し込んで――!?
「うぎゅっ!? けほっ! こほっ!」
「ちょっと律、危ないんだから溢さないでちょうだい! 猛毒が入ってるのよ!?」
「それを飲ませてるのは鬼灯さんでしょ!?」
どういうメンタルでそんなこと言えるの!?
無責任にもほどがあることをのたまう彼女をこっそり睨みつけ、ボクは再びジョッキへと口をつけた。
そして一気に最後まで飲み干し――けふ、とパンパンになったお腹を小さく撫でる。
う、く、くるしい……!
それに美味しいもの食べたり飲んだりしておなか一杯ならともかく、こんな最悪のモノを飲まされていっぱいだなんて!
どうしよう……基質が上手く働かなくて毒が効いちゃったりしたら……!
心によぎる一抹の不安。
表情にも出ていたのだろう、鬼灯さんは少し真面目な表情を取り持ち、ボクの両腕はそっとすくい上げた。
「貴女は大丈夫よ」
「……なにがですか?」
「テトロドトキシンは人工呼吸器を使えば死なないわ!」
ほな安心か~! ってなるかい!!
.
.
.
「……三時間、効果なし。正直半信半疑だったけれど、貴女の基質は間違いないみたいね」
「こっちも気が気じゃなかったんですけど!」
「生きてるんだからいいじゃない」
しれっと言い放った彼女は、手にしていた少し傷の多い懐中時計をポケットへと戻した。
「さて、毒を一つ取り入れたわけだけれど。さっそく毒の再現は出来るかしら?」
「……ちょっと試してみます」
言われた通りにさっそく集中してみる。
「――基質励起!」
ダンジョン外において、、ボクは今までならごく微量しか毒を放出できなかった。
しかし鬼灯さんとの交戦を経て
つまり、ダンジョン外でも基質を自由に操れるようになった。
突き出した両腕へ集中すると同時、どこか表現しづらい『熱』が体の内側からあふれ出す。
ボクはそれを本能のままに操り、脳内へと己の思う姿を描き上げていった。
うおおお! これが恐怖を克服し毒を飲んだ成果だ!!
「はぁっ!」
即座に両腕を覆う
「出来ませんでした!」
「挨拶だけは一丁前ね」
はい、失敗である。
これは普段使っている麻痺毒、先ほど取り入れたふぐ毒の成分は一ミリも含まれていない。
理由は分からないがやはり自分の力の一端だからなのだろう、それだけは確信して言える。
えー?
これどうしたらいいんだろー?
普段こんなことしないから全然わかんないよ! 気合い? それとももっとなんか違う別の要素??
「危ないからさっさと消してちょうだい」
腕を動かしてだばだばしていると、鬼灯さんがいやそうに顔をしかめた。
「やれって言ったのは鬼灯さんなのに! ひどい!」
「だって結晶が舞ってるもの。貴女動くだけで危ないんだから、歩く生物兵器みたいなものね」
「言いすぎですよ! さすがに怒りますよ!!」
言われて見れば周囲には結晶が散り始めている。
腕を少し動かしただけでもこれだ、特に室内だからなおのことなのだろう。
ボクはしぶしぶ基質を止め、結晶を消し去りながらひとりごちった。
にしてもひどい言われよう!
これでも立派な乙女なんだけど!?
「自分の出す毒を自由自在に操れるようにするところからね、まずは二つの毒の切り替えを練習しましょう」
「……はーい」
切り替えって言われたってきっかけすらつかめそうにない。
どうしたらやれるのかも皆目見当つかないのだから困りもの。かといってこの基質はボクだけのモノ、誰かに教えを乞うたところで答えなどあるはずもなく。
……ま、でもボク一人じゃ思いつきもしなかったことだから、一歩前進……なのかな?
とりあえず家の近く、最初に輝良と行ったスライムのダンジョンで練習でもしてみようかなんて考えていたその時、鬼灯さんのスマホが突如なりだした。
「あら、ふむ……」
画面をスクロールし、顎に指を当て考え込む彼女。
どうやら何か問題発生のようだ。
しばらく文字を読み込んでいた鬼灯さんであったが、ふとこちらを見上げてボクへと画面を見せつけてきた。
「九州で侵食現象が確認されたそうよ」
「なんと」
「大本の平均レベルは確か500程度、まだ発生からそう時間は経ってないから今なら1000程度かしら」
スタート段階でレベル1000。
ダンジョンの侵食は何度も繰り返し起こり、そのたびにダンジョン内のモンスターのレベルは跳ね上がっていく。
仮にこれからボク達が向かうとしてかかる時間は十時間を優に越す、たどり着いた時には、それはもう恐ろしい数値になっているに違いない。
現地の探索者たちが対処をするしかない。
「心配ですねぇ」
「レベル1000以上となれば対処できる数も限られてくるわね」
「あ、やっぱりそうなんですか?」
ここ最近ボクの周りでは基質解放をする奴がぽこぽこ出てきて、さらには暴れたもんだから感覚がおかしくなっているが、本来探索者の大半はまだそこまでレベルを上げてはいない。
当然だ。レベルを上げるにはより強大な敵に挑まなくてはならず、言うまでもなくそれには死が付きまとう。
死線をひたすら、しかも自分から潜り抜けてレベルを上げる奴なんてのは、そうあちこちにいるはずもない。
……ま、誠に遺憾ながらボクもまた、そういった人間になりかけているけど。
「現在登録されて、かつ生存が確認されている探索者の九割はレベル500未満だもの」
「え!? そんなに!?」
「まずそもそも、一度死に直面すればそのトラウマを乗り越えられない者が多いわ。いわゆるPTSDって奴ね」
それは決してボクに無関係なものではない。
戦いの際に甦る恐怖とは何度も戦ったことがあるし、自分の命や友人を失う事への恐怖、これもまた何度も経験してきた。
「そう、ですか」
ボクがそれを乗り越えられてきたのは一概に、輝良が一緒にいてくれたから。
ボク以上に恐怖し、それでも戦い続ける彼女がいたから、ボクは今、こうやって彼女のために戦う意志を持っていられる。
思えばあの道具屋の老爺も同じようなことを言っていた。
大半の人間は戦いを続ける前に折れてしまうと。ダンジョンの世界には思ったほどの夢はない、あるのは残酷な力による命の奪い合いばかり。
「さて、じゃあ行きましょうか」
「あ、はい! トレーニングですね!」
「……? 何言ってるの?」
へ?
「侵食への対応に決まってるじゃない。『