ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第78話

「準備は整っています」

「ええ、それと物品については今後律に渡してちょうだい」

 

 鬼灯さんが白衣を着た人へ何かを告げる。

 周囲を見回せばせわしなく歩き、何かを確認する数十人はいそうな人々。

 

 会議室を出て、ボク達は協会の二階へと足を運んだ。

 するとそこにあったのは、どこか区役所然とした普段の協会とは真逆、やたらとごちゃごちゃ様々な計器が並べられ、大掛かりな機械がいくつも置かれた部屋だった。

 

「この五年間、世界中で魔力と基質に関する研究が進められているわ。やはり特徴的なのは、同じ魔力を扱っているにも関わらず現れる、個人による基質特性の違いね」

「はへー」

 

 ぼやっと周囲を見回しながら鬼灯さんの話を聞き流す。

 

 こんなのが普段の頭上にあるだなんて知らなかった。

 研究所って感じ? なんか皆忙しそうだなぁ。

 

「現在、基質の根底とはすなわち、魔力の波長であると結論付けられているわ」

「えーっと波長、ですか?」

「そう。音の高低が周波数で決まるように、魔力にも体外へ排出される際の波長によって大きく性質を変える」

 

 人それぞれ放出する波長が異なる、基質が千差万別である理由がそれだ、と鬼灯さんは語った。

 

「勿論それだけで全てが決まるわけではないわ。本人の精神状態、環境、魔力の放出強度から肉体的要因までが複雑に絡み合っているもの」

 

 条件が複雑になるほど解明というのは難航する。

 細かな条件による変化などははっきり言ってまるきり分かっておらず、未知のままであるとのことだ。

 

「とかく、波長を調整することで人為的に、一部の単純な基質は再現が可能になったの」

 

 彼女は少し薄暗い施設の中を歩きながら、あちこちに並ぶ機器などの説明を挟みつつボクへと語った。

 ボクは正直良く分からなかったので、適当にうんうんと頷きながら聞き流していく。

 

 まあ要するに研究頑張ってますってことでしょ!

 やー、なんかここにいる人皆頭よさそうだなーとは思ってたんだー!

 

「肉体やそれに付随する物体の希薄化、空気抵抗を始めとする摩擦の極端な低減、断熱圧縮への抵抗、超高速射出や着弾地点への精密なコントロール、加えて細かな調整を無数、実現された魔術装置が――」

 

 なんだか長い説明をつらつら続けている鬼灯さんの表情は楽しげだった。

 

 ……おもえばこの人、ボクに毒を飲ませる時もやたらうきうきだったんだよな。

 もしかして本当は戦闘とかより研究のほうが肌に向いてるんじゃ。

 

 リュックを抱きかかえ――ちなみに中ではみーちゃんが寝ている――ぼへっと彼女の後ろについて回っていると、突如として彼女が足を止めた。

 その目前にあるのはやたらとごてごてした装置だ。

 鬼灯さんはその傍らに足を運び、装置へと手を当てがってこちらへ語った。

 

「現在協会へ実験的に配備されている『強制射出装置』よ、これを使って現場へと跳ぶわ」

 

 『強制射出装置』。

 いったいこれがどんな装置なのかは見た目じゃ分からないが、少なくとも分かることがある。

 絶対人体に使ってはいけない名前をしている、ということだ。

 

 ……まさかだよ?

 まさかだとは思うけど、ロケットみたいに人体を射出するとか言わないよね?

 それに何より、この大層立派な機器が魔術装置だって言うのなら、人間を射出するよりもっとイメージにふさわしいものがある。

 

「……あの、転移とかじゃないんですか?」

 

 そう、魔術での移動と言えばやっぱり転移が王道。

 こんな脳筋過ぎる、人間を射出してお届けなんてバカっぽいことをするなんて!

 

「ああ、あるけどスワンプマン問題が解決してないもの」

「スワンプマン?」

 

 あまり聞きなじみのない話に首をひねると、彼女は唇へ指を当てしばらく考え込んでから、横にあったホワイトボードを引っ張り出して説明を始めた。

 

 スワンプマン、それは有名な思考実験の一つだそうな。

 思考実験ってのは実際に何かするわけではなく、空想上でのみ存在する仮定を考える、いわば妄想みたいなものだ。

 だが今回の転移問題、これは現実と思考実験が繋がってしまっているのだそうな。

 

 まず転移の際、最初の地点にいたボクをA、そして転移先のボクをBとする。

 転移を行った際、Aのボクはバラバラになって消え、Bで再構築されたと考えるべきだが、はて、このAとBのボクは同一人物なのだろうか? という話らしい。

 要するにBのボクはAのボクとそっくりそのまま、精巧な『ボク』だが、Aのボクの意識は消滅の時点で途絶、Bは記憶こそボクそのものだけれど、Aの意識が繋がっているわけではない。

 

「そんなモノ、恐ろしくて使えないでしょ?」

「あー、なるほど」

 

 Bのボクは確かにボクの記憶を持ち、ボクの考えを持ち、ボクとして生きていく。

 だが本物、Aのボクは二度とこの世に存在することはない。

 仮に魂なんてものが存在していて、AからBへとボクの魂が移動したなんて確認出来たらまた話は変わってくるけど……中々そうもいかないわけで。

 

「じゃあこの強制射出装置はどんな仕組みなんですか?」

「簡単に言うと死なないようにして狙った地点まで極音速以上の速度でぶっ飛ばすわ、人型ミサイルね! 五分もあれば現地に到着できるわ!」

 

 ははーん、やっぱりね!

 ボクの予想は完璧に的中してしまったわけだ!

 

「駄目よ律、逃げたら二度はないと考えなさい」

「いやそんなこと言われたって! 絶対そんなん死ぬじゃないですか!」

「無論、最低限の安全対策は取られている」

 

 わーぎゃーと叫んでいたボクの横に、突如として人影が経った。

 

 すらりとした体つきのその人は、一見すると一般的な男性ほどの身長も相まって性別を見誤る。

 しかしながらその体つきをちらりと見たボクは、どうやらその人が鬼灯さんに近い年齢の女性であることに気づいた。

 

「あら、ナユタ。珍しいわね協会に来るなんて」

「データの確認と定期メンテナンスだ。『強制射出装置』は未だ実験段階にある、整備もこの私以外に出来る代物ではない」

 

 二人は親しげな様子で言葉をいくつかかわし、ナユタと呼ばれた彼女がボクへと視線を投げかけた。

 

「話は聞いている、まさかあの鬼灯が弟子を取るとはな。ナユタだ、ネクスティインダストリーにて特定領域……ダンジョンと基質に関する応用、開発の研究をしている。以後よろしく」

 

 す、すごい……!

 これがうわさに聞く? リケジョってやつか!

 

 淡々としていてクールでスマート、鬼灯さんをさらにかっこいい方面へ成長させたかのような人だった。

 彼女が差し出した手をおずおずと握り返し、ボクは小さくぺこりと頭を下げる。

 

「あ……谷百合律、です。その、鬼灯さんとは強くなる修行をつけてもらって、ます?」

「そうか、鬼灯は大学の後輩でね。どうにも近頃は、以前にもまして酒と賭博にのめり込みすぎている気がある、君も苦労すると思うが頑張ってくれ」

「ちょ、ちょっとナユタ!」

「事実だろう」

 

 ナユタさんの言葉に少し顔を赤らめて、その肩をはたく鬼灯さん。

 しかしナユタさんは眉一つ動かさず、むしろ淡々と鬼灯さんを責めるものだから、結局鬼灯さんは良い淀んでぷい、と顔をそむけてしまった。

 

 おお、あの鬼灯さんが一方的にやられてる。

 強いぞこの人。

 

「そういえば確かにいっつもパチンコしてますねこの人」

「いいのよ! むやみにダンジョンに入れば連絡がつかなくなって、問題が起こったときに対処ができないでしょう! これは仕方のない時間つぶしなのよ!」

「君の財力ならいくらでも自前で台を買うこともできるだろう、むしろそうしたほうが移動のロスや連絡に気づかないミスなどを潰せると思うが」

「ちょっとナユタ! 弟子の前だってのに……」

 

 ぷんぷんと怒る鬼灯さんをよそに、ナユタさんはボクへと顔を近づけ、すこしだけ悪戯な笑みを浮かべ耳元へと囁いた。

 

「君は彼女に遠慮しているようだが、案外鬼灯は俗な奴でね。特に酒が入った時なんかは――」

「もー! いい加減にして!」

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