ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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「雨、かぁ……」

 

 窓枠に打ち付ける小さな雨粒の騒がしい音に目を覚まし、薄暗い空をカーテンの隙間に見つける。

 ボクは枕元のスマホへちらりと視線を向け、朝とも昼とも言えないこの時間帯に何かできるわけでもなく、再び布団の中へともぐりこんだ。

 生憎と親から離れてアパートで独り暮らしの身だ、誰に何か言われるわけでもない。

 

 昨日は結局、協会から帰ってきてからすぐに寝てしまった。

 学校? 勿論行く気なんてない。

 今日はバイトも休みの日だ……まあ、仮にあったとしてももしかしたらサボってたかもしれない、なんたって昨日あれだけ盛大に知り合いがやらかしてたわけだし。

 

「はぁー、どうしよっかなぁ」

 

 いっそ、全部放り投げて新しい他のバイトでもしてみようかな……いっそメイド喫茶とか。

 いや、ボクには向いてないか。そう、本屋だとかカフェだとかのあまり騒がしくないヤツのほうがいいのかな。

 お金使わないから貯金もまあまああるし、なーんにもしないのもいいカモ。

 

 ひっかぶった布団の中で、次から次へ流れていくくだらないニュースをスクロールしているボクの耳へ、コツコツとした足音が入る。

 安くてボロいアパートは外の音も丸聞こえだ。けれどこの時間帯は大半の人が部屋を離れているはず、配達だろうか?

 

 だがその足音が止まったのは、ボクの部屋の前だった。

 コン、コン、というなんだか妙に間の開いたノックオンが響く。

 

「……配達なんて頼んでないんだけど」

 

 スマホも握ったまま小さなのぞき穴へ右目を当てる。

 最近は物騒だからなぁ、なんてどこか遠いことの様に感じながらも周囲を伺うと、一人分だけ人影が部屋の横に立っていた。

 

 ずぶ濡れのパーカーと張り付いたスカート、片手に握った小さい旅行カバン。

 彼女はいつも(・・・)より低めに視線を落としたまま、足元に溜まる水たまりを眺めていた。

 

「っ、きら!? 傘は!?」

 

 急いで扉を開けた瞬間パっと上がる視線。

 彼女はまるで倒れるような勢いでボクの元へ近寄り、何も言わず強く抱き着いてきた。

 

「んぎゃぁ!?」

 

 びちょびちょ! 朝っぱらからびっちょびちょ!!

 入ってくる! キンキンに冷えた冷たい水がパジャマにっ!

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 いきなり何なのもう!

 

「りつ、とめて」

「は?」

「ここしか、行けるところない」

 

 まったく意味が分からん。

 いつも突拍子がないけど、今日はさらに輪をかけて無茶苦茶だ。

 

「行くところないって……家も、というか学校も……」

 

 握ったままだったスマホが小さく震える。

 輝良に抱き着かれたまま画面をタッチすると、飛び込んできたのはお父さんからのメッセージだ。

 

『狐天さんの娘さんが家を出たらしいんだが何か知らないか?』

 

 それなら今、ちょうど目の前に……なんて指が動きかけて、そのままボクはバックスペースを長押しする。

 

『知らない』

『昔から輝良は気分屋だし』

『そのうち帰ってくるんじゃない?』

『今バイト中だから』

 

 ぽちりと電源を押し込む。

 何度かそのあとも小さく震えたけれど、ボクはそれにまったく気付かなかった(・・・・・・・)

 

「はぁ、とりあえずお風呂でもわかそっか」

 

 昨日はへとへとで、着替えてすぐ寝ちゃったし丁度いいや。

.

.

.

 

 

「昔はよく一緒にお風呂入ったよね、ほら輝良の道場の大きいヤツ」

「ん、遊んだあと」

「輝良があっちこっちいきまくるせいでドロドロだったからね、昨日とおんなじで」

 

 サラサラの黒髪へ手櫛をかけながらドライヤーを軽く揺らす。

 輝良の髪はいつもきれいで滑らかな手触りだ。これで何も特別なことはしてない、なんていう事があるんだからそんなときは頬をつねっている。

 

「ん?」

 

 白い首筋に見えた何かに違和感を覚え、ボクは彼女の髪を思い切り掻き分けた。

 

「ちょっ、あんたタトゥーなんて入れたの? しかも首筋に!」

「いれてない」

「入れてないって、いやあるじゃん! もー、黙ってたら可愛いんだから、無駄に変なことしないほうが良いって!」

「ホントに入れてない」

 

 入れてないって……現に首筋にあるじゃん、この小さいとはいえ狐っぽい黒いヤツ。

 何があったのか知らないけど体は大事にしなさいな、全く。

 

「ねえ、いつまでいたいの?」

「……ずっと」

「ずっとかぁ」

 

 ボクたちが黙りこくって、雨と、騒がしいドライヤーの音だけが部屋に残った。

 

 聞くべきことだとか、やらせなくちゃいけないことはいくつもある。

 けれどそれを全部口にしてしまえば、明日には輝良がこの部屋から出て行ってしまっているような気がした。

 ボクは将来だとかなんかよりそっちの方がとても恐ろしく感じて、ぱちりとドライヤーの電源を落とす。

 

 

 

「あ、店長ですか?」

『ああ谷百合さん!? 昨日の件だけどあの子の親御さんが――』

「バイト飽きたんでやめまーす! ごめんちゃい! じゃ!」

『は――』

 

 はいはい着信拒否! メッセージアプリブロック削除! ついでにほかのバイトメンバーも全員同上っと!

 

 こちとら学校バックレバイトウーマンだ!

 第一ぶっちゃけこんな高校生真昼間から雇ってるコンビニもグレースレスレだし、まー向こうも大してあれこれ言えないでしょ!

 まあ雇ってくれてたのは結構感謝してるけど! 恩知らずの塊みたいな行為でごめんなさーい! あっはっは!

 

 ……いつか謝りにいこ、うん、そのうちね。

 

「え、ちょっりつ!?」

「いーのいーの! 別にバイトなんて探せば無限にあるんだから!」

 

 でも、なんてもぞもぞ口の中で言葉を転がす輝良。

 元といえばあんたがいきなり家に押しかけて来たってのに、その通りにしてやったらこの態度なんだから困ったヤツだ。

 

「ほらいつまでも湿気たツラしてんなーっ!」

「ぅわぷ!?」

 

 ボクはドライヤのスイッチを思い切り押し込み、冷風を輝良の顔へぶち当てた!

 慌てたように顔を覆い隠した輝良へ、さらに僕は自分のネットバンク口座が映ったスマホをぐりぐり押し当てる。

 

 ほれほれ~! ほれほれよく見ろ~!

 

「ここに今三桁近い万円があります! はいよく見て!」

「え、すごい、ね?」

「そう、ボクはすごいの! こんだけありゃなんでもできるよ!」

 

 何の意味もなくたまるお金、何に使うわけでもなかったお金。

 意味のない数字だったけど、今、このタイミングで意味が生まれた。

 

 ボクはずっと穏やかな生活が好きだと思っていた。

 何も変わらない毎日ならそれでいいと思っていた。けど今、こうやってバイトだとか全部ぶん投げて思う、案外刺激的なのも悪くないって。

 ……うそ。実は昨日から思ってた、輝良がコンビニに飛び込んで、二人でダンジョンに入った時から。

 

 ボクは少し俯いている輝良のほっぺを両手でぺちん、とはさんで小さく息を吸った。

 

「ねえ輝良、明日からいろんなダンジョン行こうよ。いろんなダンジョン行って、いっぱい戦って……」

「……うん」

 

 楽しかったんだ、ダンジョンが。

 ダンジョンが楽しかったし、何より輝良と二人で子供の頃みたいに走り回るのが、ボクは本当は楽しかったんだ。

 二人で行けばどんなところだってきっと楽しめる、きっとどこへだって行けるって思ったんだ。

 

「それでいっぱい好きなことしよ! やりたいこと全部やろう!」

「……うん! りつ、りつ、だいすき!」

「知ってる!」

 

 抱き着いてきた輝良をぎゅっと抱きしめる。

 半開きになったカーテンの隙間から、晴れた空の柔らかい光がボクたちへ差し込んだ。

 

 そしてちいさく、くぅ、と輝良のおなかが鳴く。

 

「……なに?」

「どうせ家出る前からなんも食べてないんでしょ!」

「たべた」

 

 間髪入れずに輝良のおなかがまた鳴いた。

 

 ふーん、家主にそうやって嘘つくんだ。

 それならこっちだって考えがある。

 

 ボクは冷蔵庫を漁り、一昨日バイト先……いや、元バイト先で買い込んだ半額の弁当を見せつけ、にやりと彼女に向かって口角を上げた。

 

「じゃー、この『卵マヨがたっぷり乗った大満足チキン南蛮弁当』はボクだけで食べちゃおーっと」

「ぁえ……たべ……」

「輝良はおなかすいてないししょうがないよねー」

 

 レンジへ放り込んで三分、もぞもぞちらちらとこちらを見る輝良を無視して、ボクは冷蔵してあった味噌汁を温め直し、部屋のローテーブル前に座り込む。

 

「いただきまーす」

 

 さて、こちとら昨日の晩からシュークリームと、クリーム抜きシュークリームしか食べてないからおなかがペコペコだ。

 さっそくあつあつのチキンを箸でつまみ上げ――

 

「わたしもたべる!」

「わ! コラちょっと!?」

 

 箸で持ち上げた大ぶりのチキンへ、輝良が横からかぶりついた!

 

「いただきます!」

「もう食べてる!」

 

 もう一個お弁当あるからボクのは食うなーっ!

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