ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第80話

「ふ、ふ、複数は聞いてませんって!!」

「さーがんばってー! 死にそうになったら助けてあげるわー!」

 

 必死に逃げ惑うボクの頭上で、一体どういう仕組みか、優雅に足を組んで座る鬼灯さんがひらひらと手を振る。

 

 くそ! 自分は余裕だからって!

 

 苦し紛れで抜き取ったレベル計測装置。

 ボクは背後から迫るドラゴン――ドラゴンはドラゴンでも翼がない、いわゆるドレイクって奴――へと照準を向けた。

 

「れ、レベル3000!? 短時間で上がり過ぎでしょ!」

 

 あまりのレベル差にくらくらする、こちとらまだ1000に届かないってのに。

 それに体格も圧倒的だ。頭だけでもボクの上半身くらいある、地を這うトカゲ型故に体高こそないものの、その太い四肢を使って素早く駆けずり回ってくるもんだからやってられない。

 そんな化け物がなんと二匹! 仲良くこちらを追いかけてきている!

 

「本気で殺そうとしている相手達に、今後も複数戦はずるいなんて文句を言うつもり?」

「それは……!」

 

 いうつもりは……まああるけど……!

 

 複数戦の経験がないわけじゃない。

 ただそれは大概が格下か、あって同格。遥か格上を、さらに同時など今まで全くと言っていいほどない。

 

「レベルはあくまで体内の魔力量、判断基準の一つに過ぎないわ」

 

 んなこと言われたって!

 

 体内の魔力量が上がれば単純に身体能力が上がる。

 これは今のボクも同じ、つまりレベル差はシンプルなパワー勝負で負けていることになる。

 言うまでもなく体格も負け、さらに数でも負けてると来ている。

 

 どうすりゃいいのさ!

 

 頭で抱えたい気分のボクの上で、のんびりとあくびをする鬼灯さんがぱちぱちと手を打った。

 

「さああくせくと己を知り、敵を知りなさい。貴女の脳みそとおめめは何のためについているのかしら?」

「~~! ムチャクチャな!」

 

 一匹のドレイクが勢いよく飛び掛かってきた。

 無意識の感覚で間一髪、それを思い切り横へ飛んで避けるも、しかしもう一匹が間髪入れずに飛び掛かってくる。

 それもやはりギリギリの回避、冷や汗と共に地面をのたうつように転がり、勢いのままに立ち上がった再び駆け出す。

 

「行動には全て理由と挙動があるわ。ただ見て避けるだけじゃ戦いは変わらないわよ、筋肉の動き、足の運び、視線、全てを意識しなさい」

 

 絶え間のない連撃に息をつく暇もない。

 

 

「スタミナ管理ももっと厳密に、無駄な動きを減らしなさい。敵は一人で戦う時に息が整うのを待ってなんてくれないわよ」

「ハァ……! ハァ……! そんなの……! いわれても……っ!」

「逃げてたらなおのこと息は切れるわ」

 

 知ってますよ!

 

 避ける度に体を、髪を掠めた爪先が地を抉り抜いていく。

 連撃とはすなわち様子見、あの喰らってしまえばそれだけで腕先が飛んでいく猛撃すら、この存在にとっては小競り合いの範疇に過ぎない。

 

 自分の体格を遥かに超えるドレイク、くわえて二匹。

 逃げきることは出来るかもしれないが、きっと上空の彼女が許してくれないだろう。

 取るべき手段はとうに理解している。

 

 猛撃の間隙、連中が互いに距離を取り前後したその瞬間。

 背を見せ逃げ惑っていた状態から反転、ボクは片腕を前方へと構えた。

 

 ――受けきるっ!

 

「『デッドリースケイル』!」

 

 即座に伸びる結晶たち。

 いまだ毒の変換は出来ていない、それでも今回は普段とは異なる。

 

 片腕だけに意識を傾け、より強い指向性、つまり結晶の生える方向を整えた。

 文字通りの『(スケイル)』と化した片腕だけの基質励起。

 飛び掛かり、振りかざされた爪から目を離さず、地面へ力を流すように斜めへ体を傾ける。

 

 全身を打ち抜くような衝撃。

 結晶が砕け散っていく。

 

「~~っ!」

 

 重い――!

 

 だが、この体に傷はなかった。

 一方向へ整然と生えそろった結晶たちは、普段より明確に衝撃の分散を成したのだ。

 

 飛び掛かりにより生まれた大きな隙、受けきったことによって生まれた余裕。

 元々低い体高、脳天はがら空きだった。

 片手に握りしめた鉄扇が空を切る。

 

「――オラァッ!」

 

 展開はない、単純な質量と勢い任せの一撃。

 今度飛び散ったのはドレイクの鱗だ。

 あえて狙った鼻先へ力強くめり込ませ、思い切り振り切ったことでドレイクはもんどりうち大きく体勢を崩す。

 

 堅牢な鱗は鉄扇による攻撃を受け付けない。

 しかし守りが浅い鼻先、生まれた傷に流し込む致命の一撃。

 蒼く染まった鉄扇を展開し、二度、三度と傷口へその切っ先を斬り付けていく。

 

「鼻先狙いは悪くないわね」

「お褒めの言葉どーも!」

 

 だが安心などしていられない。

 既に迫る残された影、ボクは今複数戦に身を投じているのだから。

 

 再び生成された片腕の『デッドリースケイル』。

 倒れたドレイクを踏みつけ、その爪先で同胞の鱗を貫くことすら厭わず、それは一直線にこちらへと襲い掛かってきた。

 

 ――これも、受ける!

 

「っ、氷!?」

 

 しかし攻撃を受け止めたと同時、片腕を突き抜ける違和感。

 腕先が凍っている。いや、凍結は見る間に進んでいく!

 慌てて振り返るとドレイクの爪先は、歩く度に地面を薄く凍らせていた。

 

 やられた、魔法だ!

 

 効果はいたって単純。しかしそれでもボクの行動を阻害するには十二分以上だ。

 見る間に侵食を始める氷結。

 大慌てで基質を解除し、腕へ張り付いた結晶と共に氷の進行が剥がれ落ちていく。

 

「平均して1000を超えると大概のモンスターは魔法を扱ってくるわ」

「最初から言ってくださいよ!」

 

 あっぶな!

 もし少しでも対処おくれてたら、ボク本体まで凍ってたぞ!?

 

「最初からなんでも敵が」

「教えてくれるわけないっていいたいんでしょ! もうわかってますよ!」

「分かってるならよろしい」

 

 鷹揚に頷く鬼灯さん。

 

 ~~! これだから!

 

「っ、もう動き始めた!」

 

 しかし文句を言っている暇はない。

 先ほど鼻先を切り付けたドレイクも動き始めた、麻痺の効きが明らかに悪い。

 果たしてレベル差ゆえなのか、それとも高レベルのモンスターは何かしらの毒耐性を持っているからなのか。

 

 二匹のドレイクがボクを挟んで駆け出す。

 

「あら、諦めたのかしら?」

 

 足を止める、上がった息で肩が揺れた。

 

 逃げることは可能。

 だがさっきの状態に後戻り、それにスタミナがこれ以上持たない。

 あと五分、いや、三分も全力で動けばもう何もできやしない。

 武器を振るうとなればなおさらだ。

 

 迫る足音。

 凍り、砕け散る地面。

 

 『全てを意識しろ』

 

 思い返せ、全ての挙動を。

 力強い巨体、膂力、魔法、そして――同胞の鱗すら貫いた、その鋭利な爪ッ!

 

「――『デッドリースケイル』!!」

 

 挟撃のその刹那、ボクの両腕を覆う蒼い結晶。

 逃げることにはあまりに不利で、衝撃を耐えきるにはあまりに脆い。

 ボクは腕の周囲だけを解除し、その生み出された巨大な結晶をドレイクたちの合間へ残して――思い切り飛びずさった!

 

 轟音が周囲へ伝わる。

 生物同士が衝突したとは俄に信じがたい音と共に、ドレイクたちは互いの爪、牙によって相手を抉り、切り裂き、そして残され砕け散った結晶が傷口へと無数に突き刺さった!

 

 ボクの頭上で愉快そうに笑う声と、少し気の抜けた拍手が鳴り響いた。

 さながら勝利を確信したファンファーレとでもいうべきだろうか。

 大量の血を流し、しかし麻痺によって動くことすら出来ぬドレイクたち。

 

 あとは仕上げを残すのみ。

 展開された鉄扇の跡に残るのは、ただ二つの大振りな魔石だけだった。

.

.

.

 

「いい判断ね。自分の力だと傷が入らないなら、相手の膂力を上手く使う。相手の動きの観察も良く出来ていたわ」

「はぁ……あ、ありがとう……はぁ……ございます……!」

 

 ……き、き、き、きっつぅ~~~~!!!!

 マジモームリなんだけど!! 見てよこの限界でプルプルの腕と脚! それに基質で削れた腕の傷!

 

「はい、これで回復ぅ~」

「うぎゅっ」

 

 乱雑に首元へ突き刺された回復剤。

 にこにこと笑いながら鬼灯さんは注射器を投げ捨て、無慈悲にも正面を指差した。

 

「コアの反応はあっち。どんどん戦って前に進まないと、侵食が進んでモンスターのレベル跳ね上がっていくわよ~」

「ひぇ……そんな……!」

「周囲の退避は済んでいるから人的損害はないだろうけれど、それでも建築物や土地はダンジョンに呑み込まれるわ。始末書書くのは面倒よ。律、頑張ってね?」

「え!?」

 

 ボクが書くの!?

 鬼灯さんじゃなくて!?

 

 絶望しながら脚を進めるボク。

 幸か不幸か、回復剤によって疲労もある程度は抜けている。

 しかし一分も進まないうちに、周囲から土煙が無数に、しかも一直線にこちらへと向かっていることに気づいた。

 

 ドレイクだ。

 それも――

 

「あら、七匹同時」

「さ、流石にあの量は!!」

「そうねぇ……じゃ、こうしましょう」

 

 一瞬、一陣の風と共に彼女の姿が消えた。

 そして次々に、周囲の土煙が消えていく(・・・・・)

 

「はい、これで残り三匹ね」

 

 血の滴るナイフを握った鬼灯さんは、にっこりとボクへ笑いかけた。

 

 え?

 もう四匹倒したの?

 三秒くらいで?

 

「さ、頑張ってみましょうか!」

「……ふぁい」

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