ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「コアの方角確定しました!」
繰り返す戦闘を抜け、ダンジョンを走り続けて十分、ようやく検知器に方向が引っかかった。
ダンジョンコアから出る特異的な信号の補足、これこそがこの場における唯一の道しるべだ。
「さあさっさと終わらせましょう、貴女が対応しきれるうちにね」
「……やっぱりボクが戦うんですね、はい」
疲労困憊の身体でため息をつく。
傷一つない鬼灯さんと、ボロボロの衣服のボク。
言うまでもなく、ここまでの戦闘はほぼボク一人の手で全て攻略してきた。
ドレイクからワイバーン型、草食獣型のモンスターなどいくつかのモンスターを相手取ってきたが、交戦の度に上がる相手のレベルはあまりに厄介だ。
やー……コアが見つかって良かったよホント。
こうなればもうボクがやるべきことは普段と変わらない。
ダンジョンコアの元まで行き確保、そして破壊。
ボクが走るうしろに鬼灯さんが着いてきて――走ったその先で、ボクは見えない壁に激突した!
「んへにゅっ!?」
「あら? 結界? でも協会の仕様とはずいぶんと異なるわね」
鼻血を垂らして立ち上がるボクの横で鬼灯さんが見えない壁を撫でる。
「そうなんですか?」
「ナユタに聞いたでしょう? 協会の扱うモノはベースの基質が存在する、極端に逸脱した仕様のものはまだ作れないわ」
そういやそんなこと言ってたような言ってなかったような。
まあ仕組みはともかく、そもそも協会で扱われてる結界とは色合いが違うので別物というのは分かる。
協会の結界はうっすらだけどオレンジ色をしているのだ、こんな無色透明じゃない。
「律、攻撃してみなさい」
「えー、鬼灯さんがやったほうが……」
「文句言わないの」
……絶対鬼灯さんがなぐったほうが早いと思うんだけどなぁ。
渋々結界の前に立ち、ボクは両手で一本の鉄扇を思い切り握りしめ――ぶん殴った!
「ハァっ!! ……いったぁ!?」
~~……!! お、ぉぉ……!!!
がいん! とあっさり弾かれる腕、跳ね返った鉄扇が思いっきり太ももへめり込む。
「やっぱりだめみたいね」
「~~! 分かってたらやらせないでくださいよ!!」
どう考えてもこうなるの見えてたでしょ!?
痛む部位を撫でていると、鬼灯さんが後ろに下がっていなさいと一言。
唇を尖らせて少し離れた所へ歩いているさなか、後ろから彼女の鋭い声が背中をついた。
「はァッ!」
きれいな回し蹴り。
恐ろしい風切り音を上げ振り回されたかかとが結界へめり込んだ瞬間、ガラスが砕け散るような音と共に、目に見えて消えていく結界。
鬼灯さんは頬に掛かった髪を軽く払い、にっこりとこちらを振り向いた。
「さ、進みましょう」
「……こ、コワ~」
逆らうのなるべくやめよ。
多分指先一つで殺される。
.
.
.
「あの人は!」
僕の叫びに反応し振り向く姿。
結界を突き抜けた先、荒野にそれは立っていた。
濃い緑のローブに緻密な刺繍、そして何より顔を覆う布地。
顔すら見えぬ神秘的ないでたちの彼女は、女性としてなおとびぬけた身長、そしてそれを優に超える杖を片手に握りこちらへと構えていた。
「まさか、とは思いましたが。また貴女でしたか」
「あらあら、以前あった……たしか代理人殿、なんて呼ばれてたかしら?」
彼女の言葉に鬼灯さんが返す。
クレアちゃんを救出するため無茶して輝良と飛び込んだダンジョン。初めて表出したボクの基質、命からがら倒した大狼。
しかしさらに襲い掛かってきたもう一体の大狼を難なく倒し、ボクへ襲い掛かってきた赤髪の大男がいた。
死ぬ。
あの時はそうおもった。
だが間一髪、その男の攻撃を止めてくれたのは、男と同じく曙光に属する目前の、代理人と呼ばれていた彼女だった。
「以前の頭の出来が弱そうな彼はいないみたいね」
「……身共は一人のほうが慣れているもので」
「そ、どちらでも構わないわ」
じりりと交代するも、有無を言わさず飛び掛かる鬼灯さん。
「お待ちください! 身共に戦闘の意思はっ!」
「以前戦わなかったのはね、守らなければいけない相手がいたからよ」
そういうと鬼灯さんはこちらへ視線を向けた。
あの時、鬼灯さんがきっと守ろうとしたのは輝良だ。
魂転の巫女であり、今後大きく影響を及ぼす彼女を守るため、あえて大規模な戦闘をしなかった。
だが今は違う。
「律、自分の身は自分で守りなさい」
「――! はいっ!」
それは彼女が本気で戦うという合図。
それほどまでの相手なのだろうか。聞く余裕などない、ボクは大慌てでリュックを抱えて大きく距離を取った。
思うところはある。
なぜこんなことをするのか、どうしてボクをあの時助けたのか。
されど今できるのはただ、鬼灯さんの戦闘の邪魔にならぬよう逃げることだけ。
「曙光さん、貴女たちの目的を吐いてもらうわよ」
一本のナイフが抜き取られた。
長く大振りだが簡素で、戦闘だけに特化した一振り。
しかしそれこそが開戦の火蓋、『代理人』は大杖を握りしめ大きく飛びずさった。
「くっ、
叫びと同時に起こる天変地異。
大地を貫き巨大な木の根らしきものが一帯へと広がると、さらにそこから無数の根が壁となって彼女たちの間へと熱く張り巡らされた。
「……やはり、基質と異なる魔法体系」
小さくつぶやき、目前へとそびえたつ巨大な壁へ飛び掛かる鬼灯さん。
だが体積の差が圧倒的すぎる。
数メートル、いや十数メートルもある屹立した壁は、遠くから見たこちらからでもさらに圧倒的な厚みがある。
さらに緻密に張り巡らされた細かな根はみっちりと絡みあんでおり、たった数秒で築き上げられたとは思えないほどの絶対防御。
うそでしょ!?
あんな力見たことない!
あれにナイフ一本で立ち向かったって!
「基質解放、『白銀華』」
巨壁に覆われ全身を影に沈める鬼灯さん。
だがその時、彼女の耳や尾が輝きを灯した。
彼女が静かにナイフを収める。
そして固く握ったこぶしを正面へ向け――無数の連打をかました!
「ふ、ふふ! その程度じゃ揺るぎもしませんよ!」
その一撃は、先ほど彼女が結界を振るった蹴りと比べれば、あまりに貧弱な一撃だった。
音はしない。衝撃で壁が飛び散ることもない。それどころかかすり傷一つすらついていない。
『代理人』は少し余裕を取り戻した口調で壁の向こうから声を上げた。
や、やっぱりさすがの鬼灯さんでもあの壁は……!
でもこれだけの力を操る相手、時間をかけて回り込んだところで攻撃が……!!
「――これくらいかしら?」
数秒の連打、そしておまけとばかりに彼女が最後の回し蹴りを叩き込む。
だが無駄だ。
壁に傷は一つもついてやいない。
細かな根の一つですら、彼女の連撃は通りはしなかったのだ。
堅牢すぎる。
これが曙光の実力。以前鬼灯さんが『強そう』だなんて言っていたけれど、そんなの比じゃない。
その体に傷一つすら付けられないなんて絶望的な差じゃないか! どうやってこんなのと戦えってんだ!
「もう逃げ――」
撤退だ。
そう叫ぼうとしたその時だった。
「うわわっ!?」
突如吹き荒れた猛烈な風がボクの背を押した。
まるで壁へと吸い込まれるかのような暴風、よたよたとどうにか近くの岩へと捕まり、暴れまわる髪を抑えながら前方へと視線を向ける。
な、なに!?
またあの曙光の新しい攻撃!?
細めた視界で捉えたその光景は――
「『砕けろ』」
髪と服をたなびかせ立ち尽くす鬼灯さん。
そしてまるでゴミくずのように千切れ吹き飛ぶ、巨大な壁の姿だった。
「第二ラウンド、開幕かしら?」