ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第82話

「無茶苦茶な……!」

「あなたたちの所業と比べれば大したものじゃないわ」

 

 静かに歩み寄る鬼灯さん、杖を向ける『代理人』。

 防戦一方、しかし『代理人』はここで突如として大地へ己の杖を深く突き刺し、自分の指先を絡め何かを唱えた。

 

「――『輪廻術(リィンカーネーション)』」

「あら、新技ね」

 

 攻撃を警戒しナイフを構える鬼灯さん。

 突如激しい振動を始める大地。現れるのは根か、それとも枝か。

 彼女の突き刺した杖がぶわりと膨らみ姿を変え――

 

「『定命の運命(モータルディスティニー)』!」

 

 岩を砕き現れたのは、あまりにも悠然なる大樹。

 『代理人』は枝の上へと飛び移り、薄緑の結界を自分の周囲へと張り巡らせた。

 スケールの違い過ぎる技に、ボクは遠くでそれを見ながら唖然としていたが……

 

「う……くる……しい……!?」

 

 突如全身を襲う異常なまでの倦怠感。

 それと同時に、あの大樹がにわかに輝きを帯びる。

 

「……周囲から力を吸ってるのね、自分は結界内でぬくぬくと回復。随分と陰湿な技だこと」

 

 小さな舌打ちと共に鬼灯さんが飛び出す。

 

「その大木でもへし折ってあげれば収まるかしら?」

「やらせません!」

 

 大きく振られる『代理人』の腕、その動きに合わせ大地が揺れた。

 

 地面を恐ろしい勢いで駆け抜ける鬼灯さんを追うように、葉の嵐が、根の総攻撃が背後から襲い掛かる。

 大樹には寄らせないという強い意志。

 その無数の攻撃をナイフで、脚で、尾でたたき返しつつも、しかし隙のなさに彼女は攻めあぐねていた。

 

「身共に貴女方を傷つける意志はありません、ただ歯向かってくるのであればその力を削がせていただきます!」

「傷付ける意志はない? ふ、うふふ! 面白いことを言うのね貴女!」

 

 鬼灯さんを縛り付けようと取り囲んだ木々の根。

 意思を持つかのように襲い掛かるそれらは――ばらばらに刻まれ一帯へと散らばった。

 

「そんな……!? 炎岩竜ですら取り押さえられるのに!?」

「ふふ、それが私未満の存在ってだけでしょう?」

 

 ぬらりと輝くナイフの切っ先。

 驚愕の一瞬をつき、彼女はすでに大樹の目前へと到達していた。

 

「コアを設置した時点で遅いわ」

「ひっ」

 

 怯えつつ、鬼灯さんと『代理人』との間へ即座に貼られる結界。

 

「貴女は」

 

 その拳が結界へ突き刺さり、砕ける。

 

「踏み越えてはならない領域に」

 

 砕ける。

 飴細工のように、そのすべてが。

 

「すでに立ち入っているのよ、『代理人』さん」

 

 ついに、彼女が大樹の前へと到達する。

 

「……み、身共はっ!」

「まだいうのね」

 

 枝の上で構えていた『代理人』だったが、必死に張った結界のすべてがあまりにあっさりと砕かれたことに、怯えた声色で叫び、大樹の裏へと飛びのいていく。

 

「情報は吐けるように首だけは残してあげる」

「っ! 『鬱然たる境界(ラグジュリアントヴァウンダリー)』『鬱然たる境界(ラグジュリアントヴァウンダリー)』!!」

 

 そしてさらに貼られる二重の壁。

 だがそれだけでは安心できなかったのだろう。

 大樹、そして二つの巨大な壁の後ろで彼女は加えて、再び無数の結界を張った。

 

「――基質解放『白銀華』」

「……っ! 使ってるのは固有魔法だけなのにっ!」

 

 叫び、さらに貼られる結界と壁。

 だが遅い。

 すでに、彼女による連撃は済んでいた。

 

 

「――『砕けろ』」

 

 

 紙を指で突き破る。

 誰しも一度はしたことがあるだろう。

 あれ、だ。

 

 実にあっさりと、大樹、そして後ろに築かれたすべての壁や結界が、がっぽりとえぐり抜かれた。

 

 何が起こったのかボクには理解できなかった。

 彼女がどんな基質を持っていて、どんなふうに振るって、どういう結果こうなったのかなんてさっぱりだ。

 ただひとつ、否が応でも理解してしまうことがあった。

 

 暴力。

 理不尽なまでの、絶対的な破壊。

 

「これが……鬼灯さんの力……」

 

 大怪獣バトルじゃん。

 ボクはバッグをぎゅっと抱きしめ、小さく震えた。

 

.

.

.

 

 

「あら、案外無事なものね」

 

 ぐったりと倒れ伏せる『代理人』を眺め、鬼灯さんが小さく笑った。

 

「……一応拘束とかしたほうがいいですかね?」

「大丈夫よ、何もさせないから」

「あ、ソッスカ……」

 

 すっ、とボクは後ろに下がった。

 ベツニビビッテトカジャナイヨ。

 

 彼女の発言は油断とかじゃない。

 シンプルに力に差がありすぎるのだ。赤ちゃんに殺されないよう気をつけろ、そういわれたって大概の人が笑ってしまうのと同じだ。

 

「さて、さっさと起きてもらおうかしら」

 

 鬼灯さんが緑のローブへと手を伸ばす。

 少し乱暴な扱い、気絶した『代理人』は抵抗もなくあっさりと体を持ち上げられ、それと同時に深々と被ったフードがずるりと落ちた。

 そこから現れたのは豊かな金の髪と、人としては異様なほど長い、いわゆる『エルフ耳』というやつ。

 

「……ん? んん!?」

「あら、どうしたの律」

「い、いや! そのですね!」

 

 見間違い!?

 こ、この人って!?

 

「ミカ!?」

 

 それはダンジョンに潜り始めて間もない頃のボクや輝良と、たった一度だけの交流をしたミカだった。

 

「まさか、知り合い?」

「えーっと、知り合いというか……一回しか会ったことはないんですけど……」

 

 まだ『あそび』だったあの時、輝良はサソリの麻痺毒に倒れた。

 結論から言えば大した毒性でもなく、文字通りただマヒしているだけだったんだけど、経験の浅いボクはすっかりパニックを起こしていて。

 そんな輝良によく効く薬草をあてがい、ボクへ戦いの危険性を説いたのがミカだ。

 

 いい子だった。

 なんだか妙に気弱で、なのに妙なことを口走って、分けたごはんにはやたらと反応がおかしくて。

 

「……どうしてミカがここに!?」

「困ったわね。少し暴力的に振舞って口を割らせようと思ったのに、知り合いなら手を出しづらいわ」

「えーっと……アハハ。その、恩があるので優しくしてもらえると助かるというかぁ……」

「この子次第ね」

 

 鬼灯さんが取り出した水筒をひっくり返す。

 キンキンに冷えた水がミカの顔面を覆いつくす。

 

 乱暴しないとは?

 いや彼女からすればこれは乱暴に入らないのだろうか。

 ミカには恩があるけれど、同時に彼女は曙光のメンバーでもありなんとも言いづらい。

 

「うっ……わ……私は……?」

「目が覚めたみたいね?」

「ひっ!? バケモノ!?」

「ぶふっ! あははっごっ!?」

 

 ミカの反応を笑ったら鬼灯さんに尻尾で殴られた。

 

「ごきげんよう。『代理人』、いや、ミカさん?」

「なぜその名を!? っ、いや、そう……ですか……」

「……うん、久しぶりだね。やっぱり覚えててくれたんだ」

 

 ボクのことを見て小さく視線を下へ向ける彼女。

 

 やっぱり覚えててくれた。

 きっとあの時、赤髪の男に襲われたとき同士討ちにもかかわらず助けてくれたのも、やっぱり。

 いや、ミカの性格ならボクじゃなくてもきっと助けていたのだろうか。

 

 ……なんでこんな子が、テロ組織なんかに加担してしまったのか。

 知りたい。

 たった一度だけの出会いしかしなかったけれど、その胸中を。

 

「ねえミカ、どうして曙光なんかに所属してるの? どうしてダンジョンコアなんてばら撒いてるの?」

「それは……い、言えません」

「まだるっこしいわね。言いなさい、殴るわよ」

「ひょ、ひょぇぇ……!? ごめんなさぁい……! でも言えません~~……!!」

 

 半泣きで顔を覆うミカ。

 先ほどまでの『代理人』としての瀟洒な態度や、壮大な戦いを演じていたとは信じられないほど情けない泣き声を上げ、あわあわと必死に顔の前で腕をクロスさせている。

 

 ちょ、ちょっと待ってください鬼灯さん!

 ミカにも何かきっと事情が!!

 

 まあまあと鬼灯さんの腕に抱き着き、もう少しゆっくり話を聞いてみましょうなんて言うボクの横。

 

「……ぐっ!? あ、あああっ!!」

「っ、ミカ!? どうしたの大丈夫!?」

 

 突如としてミカが胸を押さえ悶え始めた。

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