ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第84話

「……私は罪人たちの娘でした」

 

 ミカは静かにその生い立ちを語った。

 

 ただ里から離れた森の中の一軒家で、言葉の話せない乳母が彼女の世話係。

 両親の形見として残されていたのは一本の古びた大杖と緑のローブのみ。

 

「ただ、両親の罪状は知りません。マーガレット、私の乳母に聞いても首を振るばかりでした」

 

 悲しげに笑いミカは自分のローブを撫でる。

 

「精霊魔術はマーガレットから教わったんです。彼女は喋れませんでしたが、精霊の力を借りてしゃべる以上に豊かな言葉を私へ伝えてくれました」

 

 そういうとミカはゆっくり立ち上がり、先ほど生やし、鬼灯さんによってへし折られた大樹の元へと歩み寄る。

 彼女がその枝の一つをそっと手折ると、不思議なこともあったもので、みるまにその枝は姿をにょきにょきと伸ばし、もともと彼女が握っていた杖の姿へと戻った。

 

 ミカ曰くこれができるのは自分と、精霊魔術を教えてくれたマーガレットだけらしい。

 いわれるがままにボクや鬼灯さんも一本小さい枝を折ってみたが、あっという間に手の内で枯れてしまった。

 

「不思議なこともあるものね」

「あー……なんか嫌われてるみたいでいやだなぁ」

 

 ただでさえボク毒属性みたいな感じになってるのに、さらに自然にまで嫌われてるみたいでなんかこう……めっちゃ複雑なんですけど。

 

「その……ごめんなさい……」

「いや別にミカが悪いわけじゃないし!」

 

 ボクの言葉に、しかし少しバツが悪そうな顔をしつつ彼女は再び語りだす。

 

 姿を隠しては時々薬草などを里へ売りに生き、多くは森の恵みを狩り生きる日々。

 それこそがミカの人生のすべてだった。

 

「でも、四年前のことです……マーガレットが突然、姿を消しました。町に降りた日からです」

 

 森を駆け、草原を探り、猛獣の巣を漁る。

 それでも何も見つけられなかったミカは、ローブを纏い、杖を手に一人、里まで下りた。

 初めての経験。

 不安と恐怖に駆られての旅、しかしそれはあっさりと終わった。

 

「でもきっと、普段はマーガレットが精霊魔術で何かしてくれていたんです。何も知らない私は……何もできず、衛兵に捕まりました」

 

 結局今もミカとは出会えていないらしい。

 

「投獄されて確か……三日、くらいでしょうか。里長に謁見することになったんです」

「……あら? 罪人の娘が、わざわざ里長と?」

「はい。私のことを憐れんでくれたのです、子に罪はないと」

 

 苦し気にミカが笑う。

 ボクと鬼灯さんの視線が交差した。

 

 ……怪しい。

 そもそも里長ってのがあれこれ命令を出しているから、ミカは里に立ち入れなかったんじゃないのか。

 憐れみで、というのは少し苦しい話だ。

 

 しかしミカはその里長を信じ切ってしまっている。

 本人がそこまで言う相手を悪く言うのもバツが悪いので、ボクたちは彼女の話を無言で聞き続けた。

 

「それからは幸運なことに、里長の元で教育をしていただくことになりました」

 

 あたたかな食事とあたたかな寝具。

 森での暮らしとはまるきり異なる生活の元で、ミカは魔術を学び、常識を学んだ。

 

「そして里長が縁、恩義のある組織の元で働くこととなったのです。それこそが――」

「曙光、って訳ね」

「はい」

 

 こくりと頷く彼女。

 鬼灯さんが深々とため息をつく。

 

「貴女は曙光について、どんなふうに話を聞いているのかしら?」

「……詳しい話は聞いていません。ただ、かつて奪われた世界を取り戻すのだと、そのために多くの人員を欲しているのだと伺っています」

 

『奪われた世界?』

「かつての世界は広大であり、魔力に満ち、豊かであった。それを取り戻すことが使命である、とのことです。細かなところは知りませんが、里長が恩義を果たすためであれば私はどんなことでも成すつもりでした」

 

 なんだか随分と壮大な話になってきた。

 

「律、ちょっとこっちに来なさい」

「はい! あ、ミカは休んでて! これ飲んでていいから!」

「あ、ありがとうございます……あの、どうすればいいのか……」

「あー、ここの棒から吸って!」

 

 紙パックのイチゴミルクにストローをぶっさし彼女に渡す。

 おやつで飲む予定だったが仕方がない、弱ってる女の子には甘いものと相場が決まってる!

 

「貴女はどう思うかしら?」

「ワンミリオンパーセント騙されてますね」

「私も同じね。ただいくつか引っかかるところがあるの」

「あ、ボクもです」

 

 鬼灯さんが頷く。

 気になる点、それは『かつての世界は広大であり、魔力に満ちていた』というところだ。

 これにはボクたちが一つ思い当たるものがあり、そして曙光の行為――つまりダンジョンへコアを設置し、侵食現象を招く行為――に合致する内容がある。

 

 磐境(いわさか)の結界。

 

 かつて世界の魔力を封じ、世界を切り分けた強大な結界だ。目的は神の降臨を止めるため、詳しくは分からないが神は魔力を追って世界へと現れるらしい。

 これによって人類は魔力を失い、モンスターなど存在はまた別の世界へと切り分けられた。

 いわゆるダンジョンってのはこの切り分けられた側の世界であり、ダンジョンの入り口は結界が緩んだ亀裂みたいなものであるらしい。

 

 これはまさしく、『かつての世界』に合致する。

 

「……曙光の目的は、磐境(いわさか)の結界、その破壊でしょうか」

「今のところは、それ以外考えられないわね」

「それと、連中のアジトや行動が全くつかめない理由もわかったわね」

「え、本当ですか?」

 

 協会中が情報を探し集めて分からなかった曙光のアジトや行動が!?

 

 まさかの新たな話に目を見開く。

 しかしさらに続けた彼女の言葉に、ボクはさらに驚愕することになるのだった。

 

「異世界人、とでも言えばいいのかしら。ああいや、大本は同じ世界なのだけれど……要するに、結界で分かたれたもう一方の人類たちってことよ」

「ぉえ!? 異世界人!?」

「はぁ、貴女ね。人生でエルフだのエルフの里だの見たことあるの?」

「や、ないですけど……密林の奥の部族みたいなもんかと」

 

 なんかエルフって森の中で弓打ってそうだし……ねぇ?

 探したら案外アマゾンの奥地とかにいるんじゃないの?

 

 小首をかしげるボクへあきれたようにため息をつく鬼灯さん。

 

「こっちの世界からは結界によって完全に魔力が取り去られた、一方であちらのほうはそこまで完璧ではなかったのでしょうね。だから世界にも魔力が多少は存在するし、エルフもそのままの姿や暮らしを保っていられたのでしょう」

 

 要するに、ボクは今まで磐境(いわさか)の結界は人の生きる世界と、モンスターが生きる世界、二つに分けたのだと思っていた。

 しかし現状わかる範囲でもどうやら三つ、エルフたちの世界、今ボクたちがいる人類の世界、そしてモンスターたちの世界に分かたれたってのが正しそうだ。

 

 んー複雑。

 まあでっかい地球儀が三つに分けられたって感じか。

 曙光はでっかい地球儀を取り戻したくて、分けられてる原因の壁、つまり磐境の結界をぶっ壊したいって感じ?

 

「あー、なるほど~……ん?」

 

 鬼灯さんの話を必死にかみ砕いて考えていたボクだが、ここでふと疑問が浮かんだ。

 

「もしそうだとしたら、どうして祇穣院(ぎじょういん)さんは曙光のアジトに予想が付かなかったんでしょうか?」

「どういうことかしら?」

「や、だって祇穣院(ぎじょういん)さんたちの先祖が結界を作ったんですよね? それなら世界をいくつに分けたかとか、あちらの世界がどんな状況なのかとか分かるはずじゃ?」

 

 そもそも分けたのが祇穣院(ぎじょういん)さんたち四大封守だとしたら、彼らに分けられた世界の話が伝わっていないってのは妙な話だ。

 

 フーム、と考え込むも思い浮かぶのはあのうさん臭いおっさんの顔。

 あの人、輝良のこととかも全部黙ってボクたちに近寄ってきたしなぁ。

 悪い人じゃないんだけど……まあ、なんか知ってて黙ってることとかいっぱいありそう。

 

「……確かに」

「まーあの人笑顔で普通に情報隠すとかしますし、なんか理由があって黙ってるのかもしれませんけどね」

 

 あはは、なんて笑ったボクへ、鬼灯さんはにっこりと笑みを返した。

 その拳は固く握られている。

 

「律、ここから出たら直ぐに協会の本部まで行くわよ。あの男の顔に、私の拳がお話ししたいみたい」

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