ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~   作:IXAハーメルン

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第85話

「曙光での働きに不満は感じませんでした、里長からあたたかな寝床と十分な食事は与えられていたので」

 

 ぽつり、とミカが語る。

 

「その、律さんと、もう一人、あの時一緒にいた……」

「あー……輝良、だね」

「そう! 輝良さんと出会うまでは」

 

 ボクたちが出会ったとき、それはまだダンジョンのいろはすら理解していないような初心者の頃だった。

 輝良と一緒にいたボクはまだ真の意味で戦いの危険性も理解せず、のんびりとダンジョンで遊んでいたような気もする。

 懐かしく、寂しく……いや、必ずまた取り戻すんだ。

 

 しかし覚悟を再び固めるボクの横で、ミカが不可解なことを言い出した。

 

「私たちはダンジョンに侵入する際、魔術によってゲートを開いて侵入しているのですが」

「げ、ゲートってなに?」

 

 店の出入り口にある防犯ゲートくらいしかなじみないんですケド?

 

「……? ふ、普通の奴ですよ?」

「いや全然わからんけど」

 

 逆に何を言ってるんだお前は? みたいな感じで小首をかしげられたのだが、それはこっちのセリフである。

 

 え、あっちの世界の人ってそんなわけわからん事誰でも出来んの? こわ~。

 

「いたって基本的な次元魔術の一環で、空間と空間をつなぐだけの最も単純で低級な技術ですよ。ほら、こんな感じで」

 

 ミカが杖先で地面をトン、と叩く。

 瞬間、彼女の横に黒々としたひび割れが生まれた。

 あまりにも異様な空間の亀裂、しかし彼女はためらうことなく手を突っ込み……同時にボクの肩へ走る軽い衝撃。

 

「ね?」

 

 そこには彼女の手だけが浮かんでいた。

 

「は??」

「えぇ!?」

 

 えぇ!? はこっちのセリフだって!

 

 ボクの反応に大変困惑した反応を返すミカ。

 目を白黒するボクの姿に彼女は自分の顎へと指を当て、すっかり考え込んでしまった。

 

「あまり魔術は一般的ではないのでしょうか? そういえば先ほどの戦闘も固有魔法ばかり使っていて……」

「魔法技術に関する話は後程にしましょう、随分と技術体系に差がありそうだもの」

「あ、は、はい!」

 

 鬼灯さんの言葉に頷く彼女。

 

 話の大半はよくわからないが、どうにもボクたちの扱う『基質』と彼女の扱う『魔法』、いや、確か会ったときに言っていたのは……『魔術』、か。

 『魔術』は根本的にいろいろ違うらしい。

 もしナユタさんがミカに会ったらとんでもなく大喜びするんじゃないだろうか。

 下手したらこっちの人類が新技術に邂逅する初めての瞬間になるのかもしれない。

 

 こほん、と小さくミカが咳払いをした。

 

「とにかく、ダンジョンに元来存在する出入口は危険であり、一度間違って出てしまえば二度とは出られない地獄絵図に繋がっていると教わったのです」

「誰に?」

「里長です!」

 

 ……やっぱなんか適当吹き込まれてないかこの子。

 

 しかし先ほどまでとは一転し、彼女は表情を曇らせて視線を傾けた。

 

「ですが律さんと輝良さんに出会ったあの日……少しだけ疑問が浮かんでしまって……」

「疑問?」

「そう!!!!!」

「わっ!? うっさ!?」

 

 耳がキーンとするわ!!

 

「あ、す、すみません……」

 

 しゅん、と表情を曇らせるミカ。

 

「お二人の見た目は我々と比べ確かに変わっていましたが、言葉も通じるし、それに何より……」

 

 しかしあっという間に一転し、きらきらとした表情を浮かべてボクの肩をがしっとつかみ上げた。

 

「あ、あんな美味しいものを食べれる地獄なんて、本当に存在するのか、と!! この飲み物もそうです!!」

 

 ちゃぽん、と音を立てる小さな紙パック。

 描かれているのは真っ赤な果実とミルクの絵柄。

 そう、一本百いくらもしないただのイチゴミルクだ。何ならイチゴすら入ってない、香料だけのやっすいやつ。

 

「ただのイチゴミルクだけど」

「こ、これはいちごみるくというのですね!? こんなおいしいもの飲んだことありません!!」

 

 

 

 鼻息荒く紙パックをフリフリするミカ。

 彼女は不慣れそうにストローへ口をつけ、ズズズッ! と力強くストローを吸い上げさらなる満面の笑みを浮かべた。

 

 ……イチゴミルクごときで随分と大げさな。

 

「アンタ普段どんなの飲んでるのさ」

「白湯か必要に駆られた場合薬草を煎じたお茶です!」

「めっちゃ丁寧な暮らしじゃん」

 

 日が昇ると同時に起きて寝起きにヨガとかしてそう。

 

「……そして同時に、二人の来たというダンジョンの外にも興味が湧いてしまったのです」

 

 紙パックをその大きな胸元の前で抱きかかえ、まるで静謐な聖堂でお祈りでもするかのように目を瞑るミカ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「それでも一度だけの出会い、成さねばならぬ使命の前では些細な出来事。モンスターを避け、これを――」

「っ、ダンジョンコア!」

「貴女たちはそう呼んでいるのですね。我々はこれを核石と呼んでいます」

 

 彼女が取り出したのはダンジョンコアのぎっちりと詰まった小袋。

 

「核石を設置する日々、すべては里長への恩義へ報いるため。そう思って日々を過ごしてきたのですが……まさか、このようなものがあるとは」

 

 そう言い、顔をゆがめたミカは無意識にだろうか、自分の胸元、呪印のあった位置をそっと撫でた。

 

 命を奪う呪印、発動条件は敗北。

 その目的は間違いない、こちら側の人間へ情報を渡さぬためだろう。

 要するに使い捨ての人材というわけだ。おそらく彼女だけではないだろう、各地で頻発するダンジョンの侵食、崩壊現象には彼女と似た人々がかかわっているに違いない。

 さらに加えて、おそらくミカの言う『里長』はこちら側の存在を認知している。

 

 厄介な話になってきた。

 

 まず第一に単なるテロ組織として考えられてきた『曙光』。

 その真の目的はおそらく磐境(いわさか)の結界の破壊。当然それが成されれば起こるのはかつての世界の再現、つまり神々が暴れまわり、あるいはモンスターが闊歩する無秩序な世界。

 さらに『エルフの里長』、そして『曙光の上位層』はこちら側の世界を認識したうえで、構わずそういった行為を行っている、と。

 

「私はこの先、何を信じたら良いのでしょうね……あはは」

 

 乾いた笑いをこぼす彼女。

 その手はローブの端をぎゅっとつかみ、小さく震えている。

 

 ボクたちからすればどれだけ怪しかろうと、ミカにとっては里長は不遇の自分を見出し、教育を与え、衣食を約束した恩人だ。

 しかしその信頼を根底から覆す死の呪印、そして自分の行っていた行為の実態。

 己の信じるすべてが偽り、彼女はそれを無意識に理解し始めていた。

 

「鬼灯さん!」

 

 一度は毒に混乱したボクたちを救い、二度は曙光の他メンバーに殺されかけたボクを救い、そして今は目の前に。

 彼女のいったい何を疑えというのか。

 いや、この場に彼女を疑う人間なんて誰一人としていないはずだ。

 

「貴重な異世界の人間、それも末端とはいえ組織の()一員! 彼女のような人間を放っておくのは協会の利益や規律に反するのではないでしょうか!」

 

 鬼灯さんが静かに頷いた。

 

「仮称『異世界人』、ミカ。貴女を私の権限で保護するわ」

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