ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「これが通貨よ、円ね」
「ほうほう」
「これはスマホ、連絡を取ったり、物を調べたり使い方は多岐に渡るわ。今度貴女用の端末も用意しましょう」
「ふむふむ」
「これはパソコンね、スマホに似た用途だけれど更に汎用性が高いわ。現代社会はこれで成り立ってるといっても過言ではないわ」
「なるほどなるほど!」
机の上に並べられたものを頷きながらじっくりと眺め、ミカはぱぁっと明るい笑みを浮かべた。
ここは鬼灯さんの家だ。
ちなみにバカかってくらいデカい、門下生を死ぬほど抱えた道場がある輝良の家と同じくらいといえばそのデカさがわかるだろうか。
なんと窓を覗くとプールまで中庭に見える……なんか落ち葉とか溜まりまくってきたないけど。
鬼灯さん曰く、なんとなくノリであれこれつけたものの、ほとんど使っていないとのこと。
この豪邸にいったいおいくら万円、いやもう一つか二つ桁が上かも、かけているってのに、実にもったいない話だ。
「どう? 少しは馴染めそう?」
「ぜんっぜん! わかりませぇん!!」
「……ま、そうよね。急ぐ必要はないもの、ゆっくり覚えていきましょう」
あれこれと興味津々なミカへ物を教えるも、そもそも現代文明に一切なじみのない彼女が理解できるわけもなく。
これからしばらくはミカがここに住むことになる。
ボクはミカのことをもうすっかり信じている、が、まあ協会からすればそういうわけにもいかない。
まずは彼女自身の調査、それが済み次第彼女がいた世界、仮称『異世界』への潜入、エルフの王族探しが決行される。
「じゃあボクはここらで失礼しますね……」
あとは鬼灯さんにお任せしよう。
ボクは聞こえるか聞こえないか、いや、ギリ聞こえない寄りの声をぼそっとつぶやき、こそこそと扉を開け、足音を消して部屋から抜け出し――
「待ちなさい」
後ろから脳天を鷲掴みにされた。
「あだだだだっ!? ほ、鬼灯さん頭鷲掴みはっ! その握力で鷲掴みはだめですって!!」
わ、割れる!!
イチジクくらい簡単につぶれる! くしゃっと!
「何か忘れてるわよね?」
え、ええ~?
覚えてないなぁ~? ナンノコトダロ?
静かな抵抗。
鬼灯さんの腕を両腕で必死につかみ上げるも、ピクリとすら動かない。
それどころか締め付けは刻一刻と強まるばかりだ。
「……カバンの中もつくえの中も探しましたか?」
「随分舐めた言葉を吐くわね、貴女を永久の夢の中へ送ってもいいのよ?」
くっ、だめだ。
ボクの頭蓋骨が持たない。
渋々と抵抗をやめ、背負っていたリュックを地面へと転がし声をかける。
「みーちゃん、出てきてー」
『くあぁ……ようやくか』
もぞもぞとした動きと共に、中から子狐が現れる。
彼女は
『さて、と。白虎の娘よ、このわらわに用か? 礼は弾んでもらうぞ?』
「みーちゃんはとりあえずお菓子あげとけば喜びます」
「ええ、構わないわ。冷蔵庫の中に一日限定20個のケーキがあるの、それを貴女にあげるわ」
『うむ、なんじゃかわからぬがそれでよし!』
いいんだ。
いやボクも食べたいんだけど、絶対高い奴だし。
一口だけでももらえないかな?
ぽてぽてと歩いたみーちゃんがくるりとジャンプをすると、一瞬の次にはその場に少女が現れた。
彼女は九尾をわさりと揺らし、鼻高々に胸を張ってふふん、と鼻を鳴らす。
「えっと、みーちゃんです」
「わらわは
それ初めて会ったときも言ってたけどなんか決め台詞なのかな。
そのあと速攻で輝良に詰められてへにゃへにゃになってたけど。
「わー! 神様なんて初めてみましたぁ~!」
両手を広げ、偉大さをアピールするかのようなポーズをとるみーちゃん。
ミカもミカで代理人をやっていた時の雰囲気はどこへやら、のんきにパチパチと拍手をかましている。
「この子はいったい何者?」
「えっと……神様、です。多分」
何とも言えない微妙な顔で聞かれたので、ボクも何とも言えない微妙な顔で返す。
ボクたちの頭を悩ます最大の問題、その根本的な要因となる『神』の存在。
話に聞く存在と、目の前の存在。つながりを見出すには少し欠けているものが多すぎる。
古風なしゃべり方や、時々ふわっと滲み出す知識はまあなんとなく分からなくもないけど、どうにもこう、纏っている雰囲気がどうにも……ね……?
「ふふん、白虎の娘よ。偉大なる我の存在を疑うのは致し方あるまい、さりとてここに顕現していることは覆しようのない事実なのじゃ。しかとその目で確かめ、そし」
「神ってのはこんなにバカっぽい生き物なのかしら? 初めて会ったから信じられないわ」
「なんじゃ貴様! この無礼な奴め! これ! どれだけ寛大なわらわとて許さぬぞ!」
なんと勇猛果敢なことだろう。
みーちゃんは勇ましくも前へと進み、ぽかぽかと鬼灯さんへ殴りかかるではないか!
「ぐわーっ!!」
そして鬼灯さんの尻尾でたやすく吹き飛ばされた。
弱い。
「り、律! おい律や! お前の師匠はいささか暴力的が過ぎるぞ! なにか言ってやれ!」
「えー、無理だよ」
ボクまでボコられたくないもん。
横で戦いっぷりを見るほど、弟子入り前の鬼灯さんってのは手加減に手加減を重ね、さらに手加減しまくっていたってのがよくわかる。
イラついて殺されなくてよかったよ、うんうん。
涙目でボクの足へ縋り付く神さまの頭をよしよしと撫で、とりあえず適当にあやしておく。
「確かにさっきの知識は間違いがないものだったわ、けれど神という言葉を信じるには少し足りないわね」
「……一応、根拠はあるんです」
「聞きましょう」
あまり思い出したくはないあの日の出来事。
「みーちゃんはダンジョン内で封印されてたんです。そこへの調査は
「……なるほどね、それで?」
「輝良の力で結界を破ったんです、そしたら何もない空間から社が現れて、さらにその中から突然現れたんです」
一瞬の出来事だった。
社が輝き、中から現れたのがまさしくみーちゃんだ。
「確かに、神秘的な邂逅ではあるわね。ただそれだけで神の名を信じるのはやはり難しいわ」
「その、絶対的な根拠はあるんですけど……」
いい淀んだボクへ鬼灯さんが鋭い視線を向ける。
「言ってみなさい」
「魅了です、それも絶対的な。ボクは一瞬で堕ちました、輝良だけは問題なかったんです。多分それも魂転の巫女としての力かと」
あれは抵抗だとか、そういったレベルのモノじゃなかった。
文字通りの絶対的な支配。かけられた側の人間はその瞬間すら認知できず、ただ本人の認識だけがみーちゃん最優先へと書き換えられている。
あまりに一方的で理不尽な力だ。
「魅了……」
「ただみーちゃんは自分で操れないんです、無条件で強制。この髪のお札を取れば……」
みーちゃんの髪をゆるっとヘアゴム、それに結びつけられたお札こそが唯一、彼女の力を抑え込むことができる手段だ。
このお札はみーちゃんが封印されていた社の近くにて存在したもの。
もしこれがなかったら、彼女をあの場から移動させることなどもってのほかだったろう。
ボクが指さすそれをじっと見つめ、鬼灯さんはしばし考え込んだ。
しかしようやく口を開いたと思えば、とんでもないことを言い放ってきた。
「やってみなさい」
「えぇ!?」
正気ですか!?
なんとなく言われそうだとは思ってたけど、やっぱり実際に言われてみれば疑わざるを得ない。
あの時は輝良もいたし、ボクもたまたま意識を取り戻せたからどうにかなったけど……次みーちゃんの力が発揮されたとき、ボクが必ず耐えられる保証はないのだから。
もし抵抗できず、みーちゃんが外に出たいだなんて言い出したら……文字通りの終わりが近い。
「神の力、その程度を知りたいわ。いつか対峙する可能性もあるもの、仮に抗えなかったとしてその場合の感覚や反応は確認する必要があるわ」
しかし鬼灯さんは譲らなかった。
ただの興味ではない、必要なことなのだと語る。
「うぇぇ……」
本当にやるのぉ……?