ダンジョンへ拉致してきた美少女ケモミミ幼馴染がしっとり激重感情抱えてた件~ドロップアウトガールRのばあい~ 作:IXAハーメルン
「何してるんですかぁ~?」
「んー、修行かなぁ」
ボクの前に並べられた色とりどりの小瓶。
中には様々な液体、結晶がたっぷりと詰められており、一つ一つにやたら長いカタカナのラベルが貼り付けられている。
ボクはそれの一つ、テトロドトキシンと描かれた小瓶をつまみ上げ、中の結晶を一気に口の中へ放り込んだ。
「おいしそうな修行ですね!」
「そう?」
「はい!」
じゃり、じゃりと砂糖でも食べているかのような感覚。
しかしうまいかと言われれば否、なにせ味なんてしない。
ただなぜかチクチクとした感覚が口の中に広がり、びみょ~に痛い。
「こっちの世界の食事はどれも素晴らしいです! どんなものでもとても美味しくて……特に先ほど食べたらーめん? というものは最高でした!」
「やー、まさかあの大盛りを全部平らげるとは思わなかったけどね……二キロくらいあったよね?」
「食べられるときに食べないと! 野生では生きていけませんよ!!」
「ミカが言うと笑えないよ!」
罪人の娘ネタをこするのをやめて! 反応し辛いでしょうが!
「ちなみにこれの中身は何ですか? えーっと、確かこの文字は……ひどら、じん?」
「あー……」
彼女が小瓶の文字を読み上げていく。
一応、それぞれの毒性や性質など、細かく記されたデータは鬼灯さんから送られてきているのだが……うん。
それぞれを一々言うのも面倒だし、端的に言ってしまうと――
「毒」
「毒!?」
「猛毒」
「猛毒!?」
「大体一舐めでも摂取したら死ぬ」
「死ぬほどのぉ!?」
せわしないなぁ。
両手を上げ後ずさるミカを横目に、ボクは追加でもう一本テトロドトキシンの小瓶を開けた。
もちろんいうまでもなく劇物なのだが、それを平然と口にしているボクに疑いの目線を向けてくるミカ。
「……この世界の古典には
和尚がツボの中の水あめだのを食われないように嘘をつくも……なんて話だけれど。
ミカの眼を見ると疑い半分、好奇心半分のきらつき。
いやいやいやいや!
「食べられないようにするための嘘とかじゃないよ!? 絶対に触っちゃだめだからね!」
「扇げばこう、いい感じに……」
「ならないよ! 言っとくけどこの瓶一つで数百人は死ぬからね!」
マジでちょっとでも舐めたら冗談で済まないぞ!
「……す、すみません。この世界は知らないことがいっぱいなので……」
あまりの形相でボクが怒鳴るものだから、ミカはしゅん、とその大柄な体を小さくして座り込んでしまった。
しかしはた、とこちらを見てすくりと立ち上がり、ボクの両腕をがしっとつかみ上げた。
「どうしてこんないろんな毒なんて飲んでるんですか! 死ぬ毒を飲んだら死んでしまうんですよ!?」
「あんたは今さっき飲もうとしてたでしょうが! ボクはいいの、毒が効かないから!」
「……ほ、本当ですか?」
いったん彼女を落ち着かせ、ボクはいろいろな説明をした。
ボクが毒を操る――今のところ一つだけだけど――こと、取り入れた毒を生み出せること、そして毒として扱われる物質に耐性があること。
「ああ、『固有魔法』のことですね!」
納得がいったように手を打つミカ。
「ああ、基質のことそっちではそう呼ぶんだ。魔術って面倒だなぁ」
そうか、大本は同じだけど千年分かたれた世界だ、いろいろ呼び名も変わってくるよな。
そういえば初めて会ったとき、ダンジョンオオサソリのこと『アナトリ』? とか呼んでたし。
しかしぽつりとつぶやいたボクの肩をがしっとつかみ上げ、ミカが鼻息荒く叫んだ。
「魔術ではありません! 魔法です!!」
「どっちも意味は同じじゃん……」
「全然違います! これだから素人は!!」
いったいどこから引っ張ってきたのか、ホワイトボードを転がしてきたミカは、キュ、キュとペンを駆け巡らせていく。
不慣れで不格好なひらがなを書き連ね、彼女はボードを力強く叩いた。
「いいですか? 魔術は技術体系が完成していて、訓練次第で誰でも扱えるものの総称です」
「ほへー」
「見ていてくださいね?」
突如として彼女が自分の指先を嚙み切る。
びっくりしたボクをよそに、彼女はそのまま自分の杖先を傷口へと当てがった。
「『レイディアントブレス』」
「おー……」
見る間に収まる血と傷。
おー、これが回復魔法か。
そういえば輝良が倒れちゃったときにも、確か同じのやってくれたなぁ。
「魔術です、回復魔術」
「あ、はい」
魔術ね、うん。
「一方で固有魔法は、術者それぞれの魔力の波長によって生み出される、個人に依存したものなのです!」
「はぁ……あ」
そういえばこの前ミカと戦う前、鬼灯さんがなんか説明してた気がする。
魔力の波長を弄ることで疑似的に基質を再現したとか……これって、ミカの話と同じ?
「固有魔術は強力ですが訓練も個人に依存してしまいます、ただし共通する技術として――」
なんだか分からないことを語るミカの前で、ボクはうんうんと相槌を打ち続ける。
ほへ~。
全然わからないけどミカが楽しそうだからいっか。
しばらく彼女の魔術魔法談義を聞き流していると、リビングの扉がゆっくりと開いた。
鬼灯さんだ。今日は久しぶりに車いすに乗っている。
「なかなか興味深い話をしてるわね、二人とも」
「あ、鬼灯さん。もう病院は終わったんですか?」
「ええ、最優先で診てもらえるよう手回しされてるもの」
そうそう、出会ったときから分かっていたことだけど鬼灯さんは足が悪い。
正確にはリハビリもして全力で動き回ることも数分なら可能らしいが、やっぱりダメージがあったりで中々常時万全とはいかないようだ。
『回復剤じゃどうにもならないんですか?』
『……ええ。ダンジョンが出た初期の頃の傷でね、まだそういったものも高価だったのよ』
なんて少し言いづらそうに語った、詳しいところは完全に濁されてしまったけど。
つまるところいわゆる古傷って奴だ。
ただし車いすだなんて侮ることなかれ。そもそも高レベルゆえにイカレた膂力をしている鬼灯さんだ、車いすで爆走、ドリフトくらいなら余裕でこなす。
鍛えた成人男性程度なら、鬼灯さんの車いすの前にはひとえに風の前の塵に等しいといえるだろう。
「貴女に会ってから考えていたのよね、こちら側の魔導技術はおそらく大きく劣っているのではないかって」
車いすから降りた鬼灯さんはゆっくりと椅子へ座り替え、机の上で眠るみーちゃんを撫でた。
「そちらの世界ははるか昔から魔法、魔術を扱えていた、そうよね?」
「え? ええ、まあそうですねぇ、というとこちら側は違うと?」
「ええ。こちら側が大々的に魔術に触れたのは五年前、ごく一部では技術や知識が継承されていたようだけれどね」
ダンジョンが世間に知れ渡って五年、いうまでもなくそこからこちら側の人類は魔導技術の研究を始めた。
世界単位での情報のやり取りは科学のそれと同じであり強みであるが、さりとて五年。
「こちら側の世界は千年間によって、魔導技術の大半を完全に失ってしまっているわ。当然よね、エネルギーとなる魔力がそもそも存在しないのだもの」
「なるほど……確かに、そうなると最も初歩的な『固有魔法』ばかりを扱っているのも納得ですねぇ」
鬼灯さんの言葉にミカが頷く。
彼女からすればやはり、ボクたちが扱う『基質』は稚拙なものなのだろう。
いわば石で作った斧とマシンガン。まあ鬼灯さんはとんでもない怪物ゴリラだったのでマシンガン相手でもぼこぼこにしていたけど。
つまりどういうこと? こわ、考えれば考えるほど意味わからん過ぎるでしょこの人。
「律、貴女今何か余計な事考えてないかしら?」
「や、全然ですよぉ~! 今日のご飯何食べようかなぁ~って!」