いやなんでそんな色してるの君?
「黄玉」って名前は一体どこに行ったの、ねぇ!?
以前から話だけは聞いていた
代々白上神社の祭神と共に、この磐ノ戸の地を冥獣の襲撃から守り続けた退魔の一族
生と死の境界を定める力を持ち、その力を持ってして当時の白上神社の祭神と共に冥界の扉を封印するも、その代償として一族全員が死に絶えたという悲劇の一族
そして、恐らく…僕の遠い親戚にあたる人達
一体どこでその血が入ったのかは定かではないけれど、それでも確かに僕と同じ血を持っていたであろう人々
それが
「白上神社の…神主一族」
その言葉と共に、僕は改めて写真に映っている人々を見る
当然そこに映っているのは知らない顔ばかりだ
だけど、それがもしかしたら自分の知らない遠い親戚のものなのかもしれないと思うと、途端に興味深いものに思えてくる
自分の中にある謎の感情の由来が分かった気がした僕は、それでも思わず「これが…」という声が出るのを押さえる事が出来なかった
「そっか、そう言えば写真を見せるのは始めてだったよね」
「えぇ…、まさかこんなものがあるなんて…」
「…まぁ、知っての通りもう随分昔に途絶えた家のものだからね
今となっては、うち以外で当時のあの人達の事を覚えてる人はもう殆どいないんじゃないかな?」
そう言って苦笑する大神さん
その反応から、もしかして実際に会った事があるのだろうかと思い聞いてみると、驚いた事に大神さんはあっさりと頷いた
「うちはこれでもそれなりに長生きなんだよ?
少なくとも、このアルバムの写真に映ってる人達は全員知ってるよ」
「あの…もし良ければどんな人達だったのかとか聞かせてもらっても?」
「いいね!みこも聞きたい!!」
そんな僕らの言葉に大神さんは軽く頷くと、「それじゃあ、まずはどこから話そうか」と少しだけ考えてから語り始める
と言っても、その内容は本当に些細なものだ
このおじいさんは優しい人でよく子供に飴を配ってただとか、こっちのお兄さんは強気な性格のわりにものすごい奥手で、そっちのお姉さんと付き合うまでに10年かかっただとかそんなものばかり
大神さんの口から語られるそれは、何百年もの間この土地を守り続けた屈指の精鋭一族の話にしてはあまりにもありふれた庶民的なものだ
だけど、彼らのそんな何て事のない日々を語る大神さんはとても楽しそうで
まるで大切な宝物のようにその話をする彼女の瞳には、優しげな光が宿っていて
「ーーそれでこの女の子が、この間海斗くんが見つけてくれたトパーズをくれた子だよ」
「あぁ、さっきミオちゃんが落としてた奴?」
「そうそう
もっとも本人はそれが原石だとは知らなかったみたいだけどね
単に山で拾った綺麗な石をうちにくれただけで、後で調べてびっくりしたよ」
そう言ってネックレスを取り出しながらボーイッシュな雰囲気の少女の写真を見つめる大神さん
だけど、その眼差しは他の写真を見ている時よりも愛おしそうで…
それを見ていると、以前彼女が白上さんの事を自慢の妹だと笑っていた時の事を思い出す
きっと、白上さんと同じくらいに大事な存在だったのだろうと何となく分かる
だから
(…羨ましいな)
ふと気付けばそんな事を考えてしまう
そして、それはきっとそうやって大切な人の話をする人を見ていると、僕自身も家族の事を考えてしまうからだろう
もうあんな風に自分の事を想ってくれる人がいないという現実を、改めて突き付けられるような気がするからだろう
(…止めよう、不毛だ)
そう思い、首を振るも止まらない
例え家族がいなくても、今の僕には信頼できる友達が何人もいる
この白上神社に集まる人達は本当に良い人ばかりだ
それで十分じゃないかと思っても、僕の目蓋の裏にはあの事故の光景が浮かんでくる
父さんと母さんを失った日の事を思い出してしまう
そして、小さくなった二人と誰もいない空っぽの家の情景を思い浮かべる度に、僕の心は確実に蝕まれていく
沸き上がる孤独という感情に飲み込まれそうになる
だけど、勿論そんな事は僕だけの問題であり、目の前でケーキを食べながら盛り上がる二人には関係がない
ここに来てから久しく感じる事のなかった…いや、目を反らしていた感情に僕が密かに苦しんでいる中で、大神さん達の話題は既に写真の少女の事へと移っている
そして、「あの子はカレーが大好きで、あれさえあればいつもニコニコしてたっけ」と懐かしそうに語る大神さんに、みこさんがニコニコしながら尋ねた
「ミオちゃん、その子の事大好きだったんだね?」
「…そうだねぇ、まぁ親友だったからね
それにあの子に限らずあの人達自体が、幼かったうちにとっては家族みたいな存在だったからね」
そう言って静かに目を伏せる大神さん
そして「確かに、あの頃は楽しかったな…」と感慨深げに呟くも、すぐに目を開けて彼女は微笑んだ
「でも、うちは今だって楽しいって思ってるよ
フブキがいて、みこちがいて…そして海斗くんがいる
そんな今の白上神社がうちは大好きだし、何よりフブキと同じように二人の事も家族みたいなものだと思ってるよ?」
「…え?」
思わず言葉が漏れる
それを聞いて大神さんは意外そうな顔をするも、すぐにちょっと呆れたような顔をした
「もう、何鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるのさ海斗くん
一緒に命がけで冥界の扉
を封印した君を、今さら他人だなんて言う訳ないじゃん!」
「で、ですが…」
「…それとも、海斗くんはうち達の事嫌い?」
「そ、そんな訳…!」
「良かった!
それなら何も問題ないよね?」
狼狽える僕にニッコリと微笑む大神さん
だけど、やがて彼女はアルバムの写真を撫でながら話し始めた
「…これはみこちにも言える事なんだけどね、うちもフブキも二人がいてくれて凄く感謝してるんだ
だってうちらは普通の人には見えないんだよ?
白上神社の神主一族の人達がもういない今、もし君達がいなかったら、きっとうちらはもっと暗くて寂しい生活をしていたと思うんだ」
「大神さん、それは…」
「ううん、良いの海斗くん
人が皆いつかは死んじゃうのと一緒
いつかはそうして忘れられちゃう事は覚悟してる
でもそれは今じゃない
そして今は君達がいるからとっても楽しい
それで良いし、それだけで良いんだよ、きっとね」
そうして大神さんは微笑む
「だからね海斗くん
こんな所で良ければいつでも遊びに来てよ
何もない場所だけど、それでもうちらは君の帰って来る場所くらいにはなれるから」
「大神さん…」
思わずまじまじと大神さんを見てしまう
けれど、先の発言に嘘も偽りもないのは言うまでもない事だろう
だから、僕は咄嗟に何も言うことができなくて
「…ちなみに、みこもいる事忘れないでね?」
「あはは、ごめんごめん!
別に忘れたりなんてしてないよ?
みこちだって大切な家族だよ!!」
そう言って、みこさんの機嫌を取るようにもう一切れケーキを切って渡す大神さん
そしてそれを受け取ったみこさんが「ラッキー!」と言いながらケーキを食べていると、用事で外に出ていた白上さんが帰ってきた
「ただいま~、ってあれ?
そのケーキどうしたんですか?」
「この間のお礼にって、海斗くんが持ってきてくれたんだ
フブキも食べるよね?」
「はい、もちろん!
海斗くん、ゴチになります!!」
そう言って「ケーキ♪ケーキ♪」と嬉しそうに卓につく白上さんと、そんな彼女の為に、冷蔵庫に入れていた残りのケーキを取りに行く大神さん
結局その後、先の話題が蒸し返される事は一度もなかった
普通にケーキを食べて、食後に皆でゲームをやってからほどほどの所で解散
特筆すべき出来事は特に無かったけど、それなりに楽しい時間だったと思う
それに何より…
(家族みたいなもの…か…)
その言葉を思い出す度に胸の奥が暖かくなる
永らく心を蝕んでいた冷たい氷のような孤独という感情が、あの言葉のおかげで少しだけ溶けたような気がする
例えそれがかつて失ったものとは違うものだったとしても、それでも僕らの間にも確かな繋がりがある
共に過ごした日々は決して嘘なんかじゃない
それを改めて確信させてくれた大神さんには本当に感謝しているし…だからこそ、そんな彼女と共に過ごすこの日常が愛おしい
ずっとこんな日々が続けば良いのにと心から思う
そして同時に、それらとは異なる理由で自分が高揚している事にも僕は気が付く
果たしてそれがどうしてなのかは、まだぼんやりとしか分からない
だけど思い当たる節がない訳でもなくて…
(………)
今はまだ答えは出せない
自分の中で気持ちの整理が付いていないからだ
だけど、もしその果てに何らかの答えを見つける事があるのなら
そして、それがこの日溜まりの日々を壊すかもしれないものであるのなら…
「その時は…ーー」
そこから先の言葉は続かない
しかし、それを見つけなければいけない瞬間が必ず来る
何となく、そんな予感がするのだった
ちなみに、主人公が親戚の物件を借りている事は本編の方で書いたと思いますが、その親戚は別に磐ノ斗の人ではありません
どういう経緯か偶然磐ノ斗の不動産を持っていて、持て余すぐらいならというご厚意で主人公に貸してくれただけの一切関係ない人です