ところで、僕は以前修行の一環として白上さん達の冥獣狩りに同行していた訳なのだが、一連の修行が終わった後の今でも僕は彼女達と共に冥獣狩りに赴き続けている
それはせっかく磨いた退魔師の能力を落とさないようにといった理由もあるにはあるのだが、一番大きな理由は今の白上神社の中で僕も今では立派な戦力の一つとして数えられているから
対冥獣に特化した僕の能力が実際の戦場で非常に役に立つからに他ならない
「海斗くん!」
「分かってます!!」
場所は夜の草原
白上さんが冥獣を引き付けている間に準備を終えた僕は、彼女の合図と共に刀印を切る
その瞬間に用意をしていた術式が起動し、白上さんがここまで誘導してくれた冥獣達を囲むように巨大な結界が発動する
そしてその直後、中に捕らわれた冥獣達の体が崩壊し始める
彼らの周囲を覆うのは僕の生と死の境界を定める力に覆われた結界
それに触れた冥獣達は死者としての側面が強くなりすぎた為に生者の世界である現世で存在を保てなくなり、冥界へと強制送還されていく
それを見届けた白上さんは残心と共に持っていた刀を納刀する
そして「ふー」と息を吐きながら僕に話しかけた
「やっぱり海斗くんと一緒の冥獣退治は楽ですね」
「いえいえ、白上さんの卓越した戦闘能力があってこそですよ
僕は力を使うだけですし」
「それでもですよ
あの頃よりも結界術の精度も上がってますし、力の制御も上手くなってます
それは海斗くん自身の頑張りの成果なんですから、誇って良いんですよ?」
そう言って笑う白上さん
「何なら将来的には『渡り』が出来るようになるかもしれませんね?」
「『渡り』?」
冗談めかして話す白上さんに詳しく聞くと、この力は極めれば死後の世界でも自身の存在を保ち、現世との行き来を可能にするものなのだとか
実際に、かつてほとんど死後の世界に近い土地であったこの磐ノ戸に捨てられた捨て子だったらしい白上神社の初代神主はこれのおかげで生き延び、その後時の朝廷に保護されて訓練と教育を受けた後に、この村の神主となったのだとか
「とは言え、これは奥義みたいなものです
それに、生者としての側面を究極にまで高めるという仕様上、死んでからこの力を使って蘇るみたいな事は出来ませんし、もちろん死者を連れて帰る事も出来ません
本当にただただ冥界に行って帰って来れるだけですね」
「…あの白上さん、もしかしてそれ死んだ人に会えたりしますか?」
「えぇ、理論上は多分可能だと思いますよ
でも、広大な冥界で目当ての人に会える確率なんて、それこそ砂漠に落とした針を探すようなものです
まず無理でしょうし、仮に会えてもよほど自我の強い人でなければ生きてる時の事は覚えていないでしょう
それに、そもそも難易度が高すぎて、今まで初代位しか『渡り』が出来る人はいなかったみたいですよ」
それを聞いて少しガッカリする
もし父さんや母さんにまた会えるのなら…という考えが浮かばなかったと言えば嘘になるが、それでも実質不可能というのならあまり意味はない
そして、そんな僕の様子を不思議そうに見ていた白上さんも、しばらくすると僕の境遇を思い出したのか慌てて頭を下げた
「ご、ごめんなさい!
白上、海斗くんの事情を知ってたのに...!!」
「…いえ、気にしないで下さい
大丈夫ですから」
そう答えるものの、話題が話題なだけに気まずい空気が流れる
(参ったな…)
確かに落胆はある
それでも、死者との再会が相当な無理難題である事くらいは僕だって分かってるし、古今東西この手の話には裏があることが常識だ
だからこそ、それが無理だと知ってもやっぱりかと思うだけだし、それで白上さんを責めようだなんて思う訳がない
そういう訳で、白上さんが責任を感じる必要なんてこれっぽっちも無いのだけど…
(とにかく、話題を変える必要があるな…)
「そ、そう言えば、白上さんの剣術って綺麗ですよね?
何と言うか、見ていて絵になるというか…
誰かに習ったんですか?」
「は、はい、ミオに習いました!」
「え?大神さんから?
でも大神さんってあんまり武器を使いませんよね?」
「術の方が好きというだけで、別に使えない訳ではないんですよ?
何なら使える武器の種類だけならミオの方が多い位です」
「へぇ、大神さん器用なんですね」
僕は感心するも、白上さんはそれに対してゆるゆると首を振った
「…いえ、努力家なだけだと思います」
「?
そうなんですか?」
「はい、ミオは昔からがんばり屋で、いつも誰かの為に一生懸命で…そして自分の感情をいつも後回しにする
そんな人です」
「え?」
思わず白上さんを見るも、少し悲しそうな顔をしたまま白上さんは続ける
「見えませんよね?
でも、実際ミオっていつも白上達の都合に合わせてくれますよね?
基本的に白上達の事を後ろで静かに笑って見守っている、そんな感じがしませんか?」
「それは…」
「お人好しと言えば聞こえは良いですし、事実そうなのでしょう
えぇ、ミオは優しい
でも、その優しさの裏で自分の気持ちを押し殺してるんだとしたら?
本当の自分の気持ちを誰にも言えずにいるんだとしたら?
それだけが白上は本当に心配で…」
そんな白上さんの言葉に僕は何も言えなくなる
これまでそんな事考えた事も無かったけど、確かに思い当たる節がないわけでもない
いつも僕らを見守っている彼女の笑顔が、本当に心からのものなのかと気になってしまう
だけど
「…でも、実は白上、最近はそんなに心配してないんです」
その言葉に思わず振り向くと、先ほどまでとは打って変わったように白上さんは柔らかな表情を浮かべる
「だって、最近ミオは海斗くんと仲が良いですからね」
「へ?」
「おや、違いましたか?」
不思議そうにこちらを見る白上さんに、だけど咄嗟に否定の言葉が出てこない
それどころか、改めて真っ正面から言われると何だか照れてきて…
「えっと、確かにそうですけど…」
「それなら分かりませんか?
ミオが海斗くんに対して以前より素直になってるって事が
あまり自分の意思を前に出さないミオが、それでも海斗くんに対しては少しずつそうでなくなってる事が」
「!」
ハッとする僕に、白上さんは続ける
「だから白上は心配していません
だって、今のミオにはちゃんと自分の気持ちを伝えられる相手がいますから
きっと、白上が心配するような事にはならないと信じてますから」
「白上さん…」
「だから海斗くん、ミオの事よろしくお願いします
これからもミオと仲良くしてあげて下さい」
そう言って白上さんは僕に頭を下げる
だけど、それに対する僕の返答は最初から決まっている
「勿論です
僕の方こそ、大神さんにはお世話になっているので」
「ふふ、ありがとうございます
海斗くんならそう言ってくれると思ってました」
だからこそーー
「改めて、ミオの事大切にしてあげてください
きっとミオも喜ぶと思いますから」
そう言って微笑む白上さんに、僕は改めて頷くのだった
でも実際には大神さんから白上さんと付き合う許可を取るよりも、逆の方が難易度高そう…