白上縁起恋灯絵巻 ミオしゃ√【完結】   作:DX鶏がらスープ

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あなたがいてくれたから



比翼の誓い

小学生の頃、学校でこんな宿題をもらった事がある

曰く、「自分の名前の由来を聞いてみよう」

 

恐らくいつの時代どこの場所でも出されるであろうそれは、だからこそきっと誰もが一度はした事があるであろう最もなポピュラーな宿題だ

そしてだからこそ、その例に漏れず僕もまたこの質問を両親にして、その回答をもらった事がある

 

そしてその時の答えは「海の水全てを掬い上げられるような大きな器」

 

(あなたに強く優しい人になって欲しくてね

海を丸ごと掬い上げる升のように、皆を丸ごと懐に入れて守ってあげられるような人になりますようにって願いを込めたのよ?)

 

そう言って母さんが笑っていたのをよく覚えている

 

だけど

 

(…どうして今、そんな事を思い出すんだろう?)

 

一瞬だけ不思議に思う

しかし、その疑問はすぐに氷解する

何故なら今目の前で大神さんが泣いているから

辛そうな、苦しそうな顔をして泣いているから

 

だったら僕は何をするべきだろう

目の前で泣きじゃくる大神さんに、何をしてあげられるだろう

 

その答えは…

 

 

 

 

 

「ーーそうだよ、うちは卑怯者なんだよ」

「…大神さん?」

 

意図が分からず僕は聞き返す

だけど、聞こえていないのか大神さんはそのままポツリポツリと続ける

 

「皆が最後の戦いに赴く中で、だけどうちだけは一緒に行かなかった

生き残った数少ない一般の村人達や、自分の力では動けない重病人の人達を守る為にうちは村に残った

皆の帰る場所を守る為に、うちは一人だけ戦いに行かなかったんだ」

「…」

「その選択が間違っていたとは思わない

現に村は守れたしうちも生き残った

その結果守れたものだってたくさんある

だからうちは正しい

間違ってなんかない

…だけど!」

「…」

「みんな…みんな死んじゃった!

おじちゃんも!おばちゃんも!お兄さんも!お姉さんも!

みんなみんな死んだ!

あの子だって結局帰って来なかった!!

それなのに…それなのにうちだけ生き残った!!

うちだけが、生き残ったんだ!!」

「…」

「だからうちは卑怯者だ!

戦えたのに!守れたのに!!

それでもうちはその選択をしなかった!できなかった!!

村を守るため?戦えない人達を守るため?

そんなの言い訳だ!

だってうちは神様なんだ!!

きっと、もっと何かが出来たんだ!!

皆を救えたはずなんだ!!

だからうちは…うちは…ーー!!」

「ーーそこまでです」

 

そこで僕は大神さんを抱き締める

するとそこで我に返ったのか、途端に大神さんは静かになった

 

「…か、海斗くん?」

「落ち着いて下さい、大神さん

また熱が出ますよ?」

 

だけど、大神さんは僕の腕の中で力なく乾いた笑みを浮かべる

 

「………本当はね、分かってるんだ

こんな事言ったって仕方がない事くらい

きっとこれがただの後悔なんだって事くらい」

「…」

「でもダメなんだ

今でもふとした瞬間に考えちゃう

うちにはもっと出来る事があったんじゃないかって

もっとうちが頑張ってたらあの子は帰ってこれたんじゃないかって

そう考えたら、途端に自分が生きている事自体が恥ずかしく思えてくる

どうして今自分が生きてるんだろうって思っちゃうんだ」

「…」

「だからね、海斗くん

うちは本当は生きていちゃいけない神様なんだよ

ただただ惰性で生きて、生き恥を晒しているだけの怠惰で最低な神様

皆の後を追って死ぬ覚悟もない薄っぺらな神様

そんなうちにはこうやって君に慰められる権利すらーー」

「…そんな悲しい事、言わないで下さい」

 

堪らず大神さんを抱き締める腕に力を込める

 

「大神さんは素敵な人です

いつも周りに気を配っていて、みんなに優しいお姉さんのような人です

一緒にいると安心できる暖かい人です」

「でも、うちはあの時何も出来なかった

皆の事を守れなかった…」

「だけど、何も守れなかった訳じゃない

自分で言ってたじゃないですか

守れたものもたくさんあるって

彼らが帰る場所を…彼らが本当に守りたかったであろうものをあなたは守り切った

そうですよね?」

「それは…

だけど…」

「えぇ、そうですね

それでも守れなかったものがある

だからこそ、そんな自分が許せない

そうですよね?」

 

ーーそれなら、僕が代わりに大神さんを大事にします

 

そう告げると大神さんは驚いたような顔をする

だけど僕は構わず続けた

 

「大神さんが自分の事を大切に出来ないと言うのなら、僕が大神さんの事を大切にします

大神さんが自分が幸せになってはいけないと言うのなら、僕が大神さんの事を幸せにします」

 

だから…

 

「ーー自分の事を粗末にしないで下さい

生きてちゃいけないだなんて、そんな悲しい事を言わないで下さい」

「海斗くん…」

「お願いします、大神さん

これ以上自分で自分を傷つけないで下さい」

 

そんな僕の懇願に思わずと言った様子で大神さんは黙り込む

そしてあたりに暫しの沈黙が流れる

だけど、それもすぐに大神さんの怯えるような小さな声によって破られた

 

「………どうして」

 

ーーどうしてそこまで優しくしてくれるの?

 

そんな大神さんの言葉に対する僕の回答は極めてシンプルだ

 

「目の前で泣いている女の子がいたら、助けたいって思うのは当然の事ですよ」

「…」

「………そして、それが好きな人なら尚更です」

「………え?」

 

大神さんは目を丸くする

でも、結局僕の理由はこれだけだ

 

大神さんの事が好きだから

 

それ以上の理由は存在しないし、むしろこれだけで構わない

それだけあれば、僕は迷う事なく進める

 

その事にようやく気が付けた

今まで名前を付けることが出来なかったこの気持ちに、今なら真っ直ぐに向かい合う事ができる

 

そしてこの気持ちを僕に教えてくれたのは、他ならぬ大神さんだ

 

「…大神さん、前に僕の事家族みたいなものだって、言ってくれましたよね?

大神さんにとっては何気ない言葉だったかもしれませんが、あれ実はすごく嬉しかったんです」

 

ーーだって、僕も一人だけ生き残っちゃった側ですから

 

その言葉に思わずと言った様子でこちらを見る大神さん

だけど僕は敢えてそれには応えずそのまま続けた

 

「だから僕もちょっとだけ大神さん気持ち、分かるような気がするんです

そして、だからこそ僕はあなたに自分を責めて欲しくない

笑っていて欲しいんです、大神さん」

 

そう言って僕は大神さんの目を見る

 

「だって僕は楽しそうにしている大神さんが好きだから

あなたの笑顔に僕は救われたから

あなたと過ごす日々が、僕に生きる理由をくれたから」

 

ーーだから、今度は僕があなたを支えたい

あなたの力になりたい

 

「また石のコレクションを見せて下さい

一緒にゲームをして、お菓子を食べましょう

そんな楽しい日常の中で笑っている大神さんが僕は好きだし、そんな日々をみんなが送れる場所こそが、80年前大神さんが守りたかったものなんじゃないですか?」

 

その言葉に絶句する大神さん

そして、彼女は震える声で僕に問いかける

 

「…良いのかな?」

 

まるで迷子になった子供のように不安げな顔で大神さんは小さく呟く

 

「うちは、君の手を取っても良いのかな?

幸せになりたいって…願っても良いのかな?」

 

そんな大神さんに僕は微笑む

 

「当たり前じゃないですか

ずっとこの土地を守り続けたあなたが報われないなんて、そっちの方が道理に合わないですよ」

 

ーーそれに仮にダメだと言われても僕が大神さんを幸せにします

あなたの笑顔を守ってみせます

 

そう僕が伝えると、大神さんはくしゃくしゃな顔で微笑んだ

 

「…うちで良いの?」

「はい」

「海斗くんの周りにはフブキやみこちみたいなかわいい子はたくさんいるよ?

それでもうちで良いの?」

「はい」

「年だってうちは海斗くんよりずっとずっと上だし…何より、うち人間じゃないんだよ?

それでも良いの?」

「はい」

 

そこまで聞いた上で、最後の確認のように一番最初の問いが繰り返される

だから僕は包み隠すことなくありのままの気持ちを伝えた

 

「………本当に、うちで良いの?」

「いいえ、大神さん

あなたが良いんです

いつも一生懸命なあなただから

いつも誰かの事を思いやれるあなただから

そして何より、あなたと一緒に過ごす日々はいつだって、まるで日溜まりみたいに優しくて暖かかったから…」

「海斗くん…」

「だから…好きです、大神さん

あなたが自分の事を大切に出来なくても、代わりに僕が大切にします

あなたの事を必ず幸せにしてみせます」

 

そう言って、一度僕は大神さんから離れる

そうして再度訪れる沈黙

だけど、次に言葉を発した大神さんの表情はどこか吹っ切れたようなものだった

 

「………ははは、そんな風に言われちゃったら、うちは何も言えなくなっちゃうね」

「…」

「それに病気で弱ってる女の子に、有無を言わせず一方的に自分の思いを押し付けるとか…控え目に言って最低だよ、海斗くん?

他の女の子にこんな事したら絶対に嫌われるからね?分かってる?」

「…」

 

そこで大神さんはやれやれと首をすくめる

 

「………でも、きっとそんな君だから、うちも仕方がないなって許せちゃうんだろうね」

「大神さ…ーー!」

 

言いかけた瞬間に大神さんの人差し指に遮られる

 

「ミオで良いよ、海斗くん

これからお付き合いをするのなら、流石に苗字呼びは味気なさ過ぎるからね」

 

そう言って大神さんは微笑んだ

 

 

 

「これからよろしくね、海斗くん?」

 

 

 





と言う事で前半戦終了です

今回はここからもうちょっとだけ…
いや、わりと普通に続くのでもし良ければ付き合っていただけると幸いです
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