本編の反省としてヒロインとの絡みが少なかったような気がするので、今回はなるべく主人公にはヒロインと絡んで欲しいと思う今日この頃
「おはようフブさん!ミオちゃん!!
…ってあれ?フブさんだけ?」
「えぇ、ミオならもう出掛けましたよ」
時刻は午前9時頃
朝食の後片付けが終わり、他の家事も一通り片付けたタイミングで神社に来たみこさんにそう返すと、みこさんは「なんだ残念」と言いながら詰所の畳に腰を下ろします
そんな彼女にヤカンのお茶を出しながら「何か用でもあったんですか?」と聞いてみますが、どうやら大した用はなくて、ただ遊びに来ただけとの事
「折角の休日だから一緒に遊びたかったんだけどな」とちょっと残念そうなみこさんの様子に苦笑しつつ、白上がまだ暖かいヤカンのお茶を注いで渡すと、「そう言えばミオちゃんは結局どこに行ったの?」とみこさんが聞いてきたので、白上は先約があったらしい事を伝えます
「先約?」
「えぇ、なんでも海斗くんとピクニックに行くんだとか
昨日の夜から楽しそうに準備してましたよ?」
それを聞いてみこさんは驚いたような顔をします
「…ねぇ、それって」
「まぁ、十中八九アレでしょう
先日交際を始めたばかりみたいですしね」
そんな白上の言葉を受けて、みこさんは感慨深げに頷きます
「そっか~、うまくいくと良いよね」
「そうですね、でもきっと大丈夫ですよ」
「?、どうして断言できるの?」
そう不思議そうに首を傾げるみこさん
だけど、そんなの心配する必要なんてないじゃないですか
「だってミオと海斗くんですよ?
きっと悪い事にはなりませんよ」
「あ~
まぁ、それもそっか
なら大丈夫だね」
「はい
きっと素敵な一日になりますよ」
そう言いながら、白上は自分のお茶に口をつけます
・・・・・・
今さらの話だが、この磐ノ戸の地は田舎だ
人口が多い場所に行けば、学校や商店街等のような人が集まる場所もない訳ではないが、それ以外は基本的に田んぼや畑ばかりで何もない
それは僕らのような付き合いたてのカップルにとってデート場所がほとんどないという致命的な問題に収束するのだが、あくまでそれは一般論
皮肉にも僕らにとってそれは決して悪い事だけではなく、むしろ良い方向にも働くのだから分からないものである
「これが街中なら人目を気にしないといけないけど、ここならそもそも人がいないしね
余計な事を考える必要がないこの場所は、案外うちらには穴場かもよ?」
そんなミオさんの言葉は、まったくもってその通りであり、現に今田んぼの畦道を歩く僕らを気にする人間なんて誰もいない
ただ青い空がどこまでも広がり、周囲にはもうすぐ収穫の時を迎える稲達が重そうに金の稲穂を垂れている
そして心地よい風がそれらを揺らし、その間を縫うように真っ赤なアカトンボがそこら中を飛んでいる
そんな中を歩きながら僕らが目指しているのは、神社から少し離れた場所にある小さな丘だ
そこは特に何の特徴もない普通の丘だが、ミオさん曰くそこはとても綺麗な紅葉が見れる場所らしく、今の時期ならきっと見頃だろうとの事
と言う訳で、事情が事情なだけに、一緒に街にくり出すのも一苦労な僕らの初デートはそこでの紅葉狩りという事になったのだが、先にも言った通り今僕らが歩いているあたりには本当に何もない
だから自然、僕らは目的地に向かいながら二人で色々とおしゃべりをする事になったのだが、そんな中で僕は段々と不安になってきた
と言うのも
「ーーそれにしても良かったんですか?
一緒にご飯を食べるとかは難しいでしょうけど、ウィンドウショッピング位なら出来ましたよ?」
そう、確かにミオさんと一緒にデートに行くのは困難な事が多い
まず、普通の人には見えない彼女とのデートは、どう頑張っても傍から見れば僕の一人芝居にしか見えない
だから立ち振る舞いには気を付けなければいけないし、そうでなくとも食事なんかはもっての他
食べ物が浮いてるところなんて見られたら目も当てられないし、そもそもミオさんは土地神の性質としてこの磐ノ斗の地から出られない
そうなると必然的にお出かけ先は磐ノ斗の商店街しかなくなるのだが、それでも先に言った通り立ち振る舞いにさえ気を付ければ通りを一緒に歩く位ならできる
むしろ、都会ほど人の多くない磐ノ斗の商店街の方が人目を避けやすいだろうし、大きな町よりはミオさんと一緒に出来ることは多いだろう
それを思えばこそ、本当にこれで良かったのかと尋ねる僕に、ミオさんは首を横に振った
「ううん、いいの
だって、きっとそれだとうちも海斗くんも思いっきり楽しめない
折角のデートなのにそれじゃあ意味がないし、それに…」
そう言いながら、ミオさんが僕の手を取る
「み、ミオさん!?」
「…それに、ここでならこうして君と触れあえる
だからこれで良いんだよ」
そうしてニッコリと笑うミオさん
だけど、正直僕にはそれどころではない
初めて感じる彼女の手の暖かさに心臓が跳ねる
その手の柔らかさに何だか落ち着かなくなってしまう
だから
「えっと、ミオさん…
その…」
「ん?嫌だった?」
「い、いえ!
そういう訳ではないんですが…」
「なら良かった!
ほら、もう少しだよ!!」
そうして手を繋いだまま歩き出すミオさん
その足取りは軽やかで、手を引かれるがままに僕は付いていく
結局繋いだままの手に、僕は内心で慌てっぱなしだったが、ふとミオさんの方を見ると顔が少し赤いような気がする
(…あれ?)
見間違いかと思いもう一度顔を見ると、今度はそんな事はない
鼻歌を歌いながら歩くその顔はとても平然としたもので、恥じらいや羞恥などと言った感情はそこにはない
だけど分かる
繋いだ手から伝わってくる体温が
微かにかいた彼女の手汗が
そして何より、少しだけ震えているその手が教えてくれる
平然としているようで、だけどミオさんも緊張している事を
僕が彼女との触れ合いにドキマギしているのと同じように、ミオさんもまた決して落ち着いている訳ではない事を
むしろ…
そこまで考えた時、こちらを向いたミオさんと目があった
「どうかしたの?」
不思議そうに首を傾げるミオさん
その表情は普段通りの落ち着いたものだが...きっとそれは取り繕ったものなのだろう
むしろさっき自分から手を繋ぎに来たのだって、僕よりも彼女本人の方が恥ずかしがっているに違いない
(それなのにどうして…)
一瞬だけ疑問に思うも、すぐにその理由は何となく分かった
だから
「…大丈夫ですよ」
「あ…」
ミオさんから繋いできた手を、今度は僕の方から握り返す
怯える彼女を包み込む様に、震えるその手を優しく握りしめる
「焦る必要なんてありません
僕達は僕達のペースで距離を詰めていけば良い…そうですよね?」
「…まったく、君には適わないね海斗くん」
観念したかのように苦笑するミオさんの手を、改めてしっかりと握る
そんな僕の行動に驚きつつも、ミオさんも笑って僕の手を握り返してくれる
そうして僕らは手を繋いだまま歩いていく
それからしばらくして、見事に色づいた何本もの紅葉の木が見えてきた
噂に違わぬ紅の情景
まるで燃えているかのようなその深色合いに僕が思わず見入っていると、いつの間にか手を離していたミオさんが「ここら辺にしよっか」と言いながらレジャーシートを敷いてくれる
そして、その言葉に従い座った僕の前に彼女は持っていた鞄の中からお弁当箱を取り出した
「いつもよりちょっと早起きして作ったんだ
どうかな?」
そう言って開かれたお弁当箱の中身はシンプルながらも家庭的で暖かなものだった
真っ赤なトマトに緑色のブロッコリー
ふわふわの卵焼きと甘辛く炒めたごぼうのきんぴらの横には、食欲をそそる色合いの唐揚げが鎮座し、さらに横には海苔でかわいらしい顔が描かれたミニサイズのおにぎりが二つ
それだけでも十分に美味しそうなのに、加えてミオさんは暖かな湯気の立つ味噌汁の入った水筒を取り出し、更に別のタッパーにデザートとしてうさぎカットのリンゴまで用意しているという至れり尽くせりっぷり
「ほ、本当にこれ食べて良いんですか!?」
「もちろん、そのために作ってきたんだから!
召し上がれ」
そんなミオさんの言葉に促されるままに、僕はお弁当箱の中身に箸をつける
まずは唐揚げ、そして次にきんぴら
卵焼きの後はおにぎりに手を付け…と次に次にお弁当箱の中身を平らげていく
それもこれも、ひとえにミオさんの作ってくれたそれが美味しいからであり、途中で感想も言わずに無心で食べ続けていたことに気が付いた僕は、慌ててミオさんに向き直った
「美味しいです!すごく!!」
「そっか、良かった!
頑張ったかいあったね!!」
「はい、本当にありがとうございます!!」
「ふふ
オーバーだな~、海斗くんは」
そう嬉しそうにほほ笑むミオさんだったが、ふと何かに気付いたように懐からハンカチを取り出すと「海斗くん、ちょっと動かないでね」と僕の顔へと近づける
「え、えっと?」
「じっとしててね…っと
うん、これで大丈夫だね」
そう言って僕の顔をハンカチで拭ったミオさんは「これできれいになったね」とハンカチを放した
「顔に食べかけがついてたからね
拭いておいたよ」
「…あの、ミオさん
僕一応高校生なんですが…」
「ふふ、うちから見れば海斗くんはまだまだ全然子供だよ
だから、大人しくお世話されても良いんだよ?」
そう言って正座している自分の膝をぽんぽんと叩くミオさん
それが意味することを何となく悟った僕が、恥ずかしさのあまり「勘弁してください…」と顔を赤くするのを笑って見ていたミオさんだけど、やがて僕がお弁当を食べ終わる頃になると、まるで懺悔でもするかのようにミオさんが話し始めた
「…本当はね、ちょっとだけ申し訳ないなって思ってたんだ」
ーーだってうちは人間じゃないから
普通の女の子みたいに、君と一緒に街で遊ぶ事はもちろん、この磐ノ斗の地から出ることが出来ないから
「…だから、せめて海斗くんに喜んで欲しかったんだ
神様としてならともかく、恋人としてうちに出来る事ってあんまりないから...」
そう言って、どこか暗い顔をするミオさん
だけど、そんなミオさんの悩みは僕にとっては杞憂だ
だって
「ーーそんな事を言うなら僕だって同じですよ、ミオさん
僕だって何か高価なプレゼントをあげられる訳でもないし、ミオさんに贅沢させてあげられる訳でもない
まだ何にも出来ない子供です」
「そんな事ーー」
「ありますよ、そんな事
結局僕らはお互いの為にほとんど出来る事がない似た者同士です
でも、僕はミオさんと一緒にいて楽しいですし、ミオさんだって僕と一緒にいるのは嫌じゃないですよね?」
ちらりと目をむけると、ミオさんが
「あ、当たり前だよ!」と慌てたように返してくれたので、少し安心する
ともあれ
「ならそれで良いじゃないですか
僕もミオさんも互いの事が好きだから…一緒にいたいからこうして今ここにいる
それ以上に重要な事って何かありますか?」
「海斗くん…」
「だからミオさん、一緒に今を楽しみましょう
その為に僕らはここにいるんですから」
…その後の事だが、特にこれといって語るべき事は特にない
ただミオさんの作ってくれたお弁当を食べて、二人で真っ赤な紅葉の下でおしゃべりをしただけ
他にした事と言っても、強いて言うならたまたま近くに川があったので、折角だからと二人で水切りをしたぐらいだ
「良い、海斗くん?
水切りのコツは良い石を選ぶ事と、正しい姿勢で投げる事だよ
このくらいの大きさ、重さの平たい石を、水面と並行に回転をかけて投げつければっ…!」
「すごい!10回…いや20回は跳ねましたよ!!」
「ふふん!
まぁ、うちにかかればざっとこんなものだね!!」
概ねこんな感じであり、宝石などの鉱石類だけでなく、川遊びの石にも詳しいという意外な側面をミオさんは見せてくれた
もっとも、これに関しては石云々関係なしに、昔は娯楽が少なかったからだという話だったけど…それでも凄い事には変わりない
だから僕は素直にミオさんを褒めたのだけど、流石にこれで褒められるとは思っていなかったのか、ミオさんは少し恥ずかしそうにしていた
ともあれ、こうして楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、気付くと既に日が暮れかけている
だから僕らは適当なところで切り上げて帰る事にした
「今日はありがとね、海斗くん
とっても楽しかったよ」
「いいえ、こちらこそ
楽しかったですよ、ミオさん」
「いやいや、うちの方こそーー」
「いいえ、僕の方がーー」
そう言ってお互いに何度かお礼を言い合って…それが何だかおかしくて僕らは笑う
でも、そんな馬鹿みたいな時間がとても愛おしい
そして、これからこんな時間が何度でも訪れるんだなと思うと、何だか心が暖かくなる
そして、それはミオさんの方も同じだったようで、僕らは暫し見つめ合う
「………帰りましょうか」
「………うん、そうだね」
そうして僕らは自然に互いの手を繋ぐ
そして互いにそれに気付き、笑い合って…
「!
…聞こえましたか、ミオさん?」
「うん、あっちの茂みの方だね」
近くで聞こえた草が揺れる音に、僕らは咄嗟に振り返る
何故なら、何度か言った通りここは田舎だから
そして田舎というのは得てして都会にはいない野生動物がいるものであり、この磐ノ斗の地もその例に漏れず普通に熊が出る
更に言えばこの土地だけで言うならば、それが冥獣である可能性だって十分にある
だからこそ、僕らは警戒する
僕ら以外誰もいない場所で突然聞こえた物音
それが鹿や雉位なら別に問題はないが、もし熊なら…?
はたまた、冥獣なら…?
細心の注意を払いながら、僕らは音のしたあたりを慎重に確かめようとして…
「お腹…減ったでござる…」
い、一体どこのござるさんなんだ!?()