エリア11の軍施設の俺に割り当てられた部屋。そこはいつもとは違う緊張感が支配していた。
「なんで呼ばれたかは、わかってるよね?」
椅子に座り机の上で手を組んで、上官として振る舞っている俺。
その横で副官として控えているヴィレッタ。
そして、机の前で直立不動で立っているのが、今回の主役である枢木スザク。
「はい、理解しています」
「では、もう一度初めから聞こうか。なぜ錯乱状態に陥ったのか」
「それは……」
スザクは言い淀む。
「自分でもよく解っていません。ゼロを追い詰めたところまでは覚えているでのすが……」
「それ以降は覚えていない、と」
「はい」
そう言い、俺と視線を合わせる。
視線からは嘘を言っているようには感じない。スザクは本当の事を言っているのだろう。
だが、ここは軍なのだ。
規律ある行動が出来なかった者には処罰が与えられる。
今回のスザクの行動を見過ごす事が出来ない。
「あの行動を見る限り君には前線はまだ早いようだ。次回の作戦では外れてもらう。さらに、医師の鑑定を受けること」
いいね? と、上官として返答する。
「……了解しました」
話は以上だ、というように手を払う動作をする。スザクは敬礼して部屋から立ち去って行った。
部屋には重い空気と、俺とヴィレッタだけが残った。
椅子を回してヴィレッタの方に向き直る。
ヴィレッタは腕を組んで体をこちらに向けてはいるが、顔はスザクが出ていった扉を見ている。
「甘い。と言いたげだね」
「あたりまえだ。あの錯乱状態を見たならば、戦場に出せるものか」
「そうだけど、ね」
そう言って、左手にある窓から空を見る。その青さは無言の圧力を掛けられているようだ。
重い沈黙が部屋を支配する。
「……何か言いたい事があるんじゃないのか?」
ヴィレッタは扉に視線を向けたまま聞いてきた。
その声色には、今までにない不安と優しさが感じられた。
だからだろう、俺は胸のうちにある迷いであり、不安を口に出してしまった。
「最近思うんだ。俺って何がしたいんだろうって」
ここ最近、いろんな事がありすぎた。
ユフィと出会い、シンジュク・ゲットーでの一連の事件。
先日のナリタでの立ち回り。
なんか全部が空回っているように感じる。
自分の心が周りに対して置いていかれている気がして、たまらなく不安になってくる。
俺は何をしたいんだろう。
俺には何が出来るんだろう。
俺ってなんなんだろう。
って。
「だから思うんだ。何かが出来てるようで、本当は何も出来ない人間なんじゃないかって」
それは俺が今抱えている悩みの告白だった。
誰も答えてくれない自分に対する迷い。それがじわじわと俺を蝕んでいく。
ヴィレッタは腕を組み、視線は扉に向けたまま俺の弱音を聞いている。
弱音を吐ききった部屋の空気はさらに重く冷たいものになった。
だって、その問い自分では答えられない。
その重苦しい沈黙を破ったのはヴィレッタだった。
「6年前。私が騎士候になって初めて実戦に出た時の話だ」
そういって、ヴィレッタはポツリポツリと過去を語りだした。
*
私はその時、初めての実戦だったので後方支援組だった。
が、緊張ためか間違えて最前線まで進んでしまったのだ。
そのため私は孤立し、更には敵機に囲まれた。
初めて敵と出会った恐怖で何もすることが出来なくて、敵の銃口がこちらを向いた時、もう駄目だと思った。
そんな時だ。その最前線に一騎の
あっという間だった。その
次の戦場でもその
それはまさに理想の騎士の姿だった。その姿に私は強烈に憧れた。
私はその
誰かの下士官になるなら、あのように最前線を駆け向ける人の下に付きたかったからだ。
しかし、あの最前線にいた
……お前達、存在しない部隊を知ったのはずっと後になる。その頃にはもう出会う手段は無かった。
それからしばらくたった時だ、噂話が聞こえてきたのは。皇族とナイト・オブ・ラウンズの後援を受けてナンバーズが騎士候になったと。
私は直感した。あの時の
そうして私はその人物に会うため奔走した。そして3年前、私はお前と出会った。
その時の衝撃たるや。そこにいたのは年端もいかぬ少年だったのだ。
だが、戦場を共にして理解した。誰よりも最前戦に出て戦うその少年こそが、あの時の
*
そう言ってヴィレッタは俺の椅子の前まで歩いてくると、
椅子の肘掛けに上から手を置き、身を乗り出して俺と顔を突き合わせる。
ヴィレッタは想いが届くようにと、胸の内にある感情を強く吐き出してきた。
「私にはお前が何よりも眩しかった! 誰よりも最前戦に立ち、誰よりも味方のために戦っていたお前が!」
言葉を吐き出した後、ヴィレッタは顔をガクリと下に向けた。
今の自分を見られたくないようにと。
が、心の叫びは止まらない。
「だから、そんな弱音は吐かないでくれ……。その背中を追わせてくれ……。私の
足にポツリポツリと涙が落ちてくる。その涙は熱かった。
……ヴィレッタには俺がそんな風に見えていたのか。
当時の俺にはそんな事、考える余裕なんて無かった。
ただ、機械のように眼の前の敵を倒していただけだったのだが、他人にはそう映らなかったようだ。
機械的に戦うのは楽だ。何も考えなくていい。
だから出来た事もある。
でも、今の俺には心がある。高く飛べる翼がある、強い剣もある。
心を持てたからこそ、萎縮していたのかもしれない。
そう、今必要なのはあの頃のように
翼を生やし、剣を持ち、誰よりも前で戦うこと。戦闘の一番前で皆に背中を見せること。
それが俺のようだ。
その答えは、胸にストンと落ちた。
自分で自分を正しく理解しているものはいない。
一番近くで見てくれた他人であるヴィレッタがそういうなら、そうなのだろう。
ヴィレッタ、と声を掛ける。
その声は俺が出したとは思えないくらい優しい声だった。
その声に反応して、ヴィレッタは涙混じりの顔を上げて見せてくれる。
「出来るか解らないけど、君が憧れるようなフロントライナーとして頑張ってみるよ」
そうして、言葉を一度区切り、
「ありがとう、ヴィレッタ」
その顔は年相応の柔らかい男の子の笑顔だった。
その顔にヴィレッタは一瞬見惚れていたようだが、はっと気がついて、俺から距離を取った。
赤ら顔になり手でポニーテルの先をいじりながら、
「別にお前の事が心配だったとかそういうのではないというか……」
ごにょごにょと、小声で言い訳をしている。
改めて、窓から空を見上げる。
その空はさっき見た時より青く、どこまでも飛んで行けそうに高く見えた。