1.空を駆ける
エリア11の軍施設に在る俺に割り当てられた部屋は、先日と同じ状況だった。
椅子に座り上官として振る舞っている、俺。
その横で副官として控えている、ヴィレッタ。
机を挟んで直立不動で立っている、枢木スザク。
机の上に置いたコーヒーを一口飲んでから、視線をスザクに向けて俺は話を切り出した。
「まずは、スザク。学園生活はどうだい?」
「知り合いがいたので、なんとかやれています」
「そうか」
再度、コーヒーを飲んでから話題を変える。
スザクは緊張したままだ。
「医師の診断の結果や、これまでの行動を踏まえると、君には記憶の欠落以外の異常は認められなかった。よって現時刻を持って、俺の配下に戻ることを許可する」
「有難うございます!」
その言葉に安堵したのか、大きな声と返礼を返す。
「と、いう事で早速だが任務だ。君をユフィの護衛に任命する」
「ユーフェミア様の護衛ですか」
「俺達は日本解放戦線の残党狩りを命じられているため、ここを離れる機会が多い。そのためユフィの護衛のあてがないか、と相談が来た」
「それで自分ですか」
「そう。特派とも話はついている。君専用のチームが組まれるのでランスロット・トライアルの個別運用も問題ない」
「至れり尽くせりですね」
「ああ」
そこで、俺は姿勢を正し改めてスザクに向き合う。
スザクもそれに倣い姿勢を正す。
「俺がここまでするのは、ユフィの護衛の為でもある。が、俺が君にあげられる最後のチャンスでもある。それをものにして欲しいと期待しているよ」
「イエス・マイ・ロード!」
スザクは返礼をし終わると、腰を折りこちらに向かって頭を下げた。
「ありがとう、カイ。君の期待に応えてみせるよ」
そう言って頭を上げて、再度返礼をおこなった後、扉に向かい部屋から出ていった。
早速、ユフィの所に向かうのだろう。
横に立っているヴィレッタに顔を向けて聞いてみる。
「甘いかな?」
「お前が甘いのはいつもの事だ」
*
日が傾き、夕日が辺りを照らす中、俺とヴィレッタはコーネリア様から軍議場に呼び出された。
執務室ではなく、軍議室ということは出撃があるのだろう。
軍議場までの廊下を歩きながら、隣を歩いているヴィレッタに質問する。
「なんか、神根島?の任務から帰ってきてから、スザクとユフィの距離感が近くなってる気がするんだけど気の所為?」
「……気の所為だろう。おまえに男女の機微はわかるまい……」
「ん? なにか言った?」
「なんでもない」
そんな風に会話をしながら、軍議場の扉の前まで着いた。
扉の前に立つと、扉が自動で開いたのでそのまま室内に一歩踏み込んで、入り口で名乗る。
「カイ・アサト、参上しました」
「ヴィレッタ・ヌゥ、参上しました」
既にコーネリア様は部屋の中央奥にある豪華な椅子に座っていて、横にはギルフォード卿の姿が見えた。
その部屋の壁には機械が並んでおり、オペレーター達が何か話をしている。
コーネリア様の前まで行き、礼を取る。
それを見たコーネリア様は早速、本題に入った。
「シュナイゼル兄様からの要請で、エリア18に向かう」
「エリア18、ですか」
「そうだ、沿岸部にある基地が制圧されたようで急を要する。そのため一番近いエリアの私たちが動く」
「その間、エリア11は?」
「シュナイゼル兄様が動いてくださる」
なるほど、基地の制圧か。いつも通りの作戦な気もするが、なぜかコーネリア様の顔が渋い。
いつもと違う感じが見て取れたので聞いてみる事にした。
「何かありましたか?」
「シュナイゼル兄様から作戦を提案されたのだが……」
「珍しく口ごもりますね」
「……作戦は単騎突撃による基地の撹乱後に、沿岸から総力を持って制圧するというものだ」
「単騎で撹乱。それは……」
「そう。お前の事だ」
「なら、そんなに悩まなくてもいいのでは?」
「三百はくだらない敵がいる所に単騎突撃だぞ! 生存確率がどんなものか予測を聞くか!?」
珍しくコーネリア様が感情的になっている。
俺を心配してくれているのだろうか? そんなちょっと珍しい光景を見たからか、心の声がつい口から出てしまった。
「コーネリア様って優しいですよね」
「なっ……!」
「貴様! 殿下に対してなんという口を!」
ギルフォード卿がこちらに銃を向けそうな勢いで叱責してくる。
「待て! ギルフォード! 良いのだ!」
コーネリア様は右手で顔を覆いながら、左手でギルフォード卿を制する。
右手の隙間から見える顔が、赤くなっているように見えるのは気のせいだろう。
「たらしが」
そんな声が聞こえた気がする。
そんな慌てたコーネリア様が落ち着くのを待ってから、俺は姿勢を正しコーネリア様を真っ直ぐに見て言う。
「大丈夫ですよ。コーネリア様。俺はフロントライナー。誰よりも最前を駆ける者です。死にませんよ」
「……何かあったのか?」
「ちょっとした心境の変化です」
「……わかった。では作戦開始だ!」
そうして、俺達はエリア18へと向かい始めた。
俺達は、本陣とは別行動になる。
そのため別の移動手段が必要になるが、なんと太っ腹なことにシュナイゼル様の旗艦、アヴァロンを貸していただいた。
ロイドさん達特派のみんなも乗ってエリア18へと向かう。
道中、格納庫内でランスロットに乗ってフロートユニットのシミュレーションを行う。
シミュレーターのチェックはセシルさんがしてくれている。
『流石です。フロートシミュレーターでもトップクラスですよ』
「ありがとうございます」
空中戦はもっと手こずるかと思ったが、そうでもなく思い通りに動いてくれた。
コックピットにいると、ランスロットにフロートユニットが装着された音が響いた。
『フロートユニットはエナジー消費が激しいため稼働時間に留意して下さい』
「了解です」
その後も、作戦開始までシミュレーターを使って慣熟訓練を行う。
そして、無線機からセシルさんが
『作戦エリアに到着しました。ブリッジへ向かいます』
と、言われ作戦が開始される。
ブリッジに着いたセシルさんから無線が飛んでくる。
『こちら、ブリッジ。ランスロット、飛行甲板へ移動を開始』
ランスロットが、飛行甲板へ送られていく。
その際、ミサイルアラートが鳴る。目標の敵基地が応戦してきたのだ。
「弾幕を張りますか?」
『この位置なら大丈夫です』
飛んできたミサイルは全て、アヴァロンのブレイズルミナスが防ぐ。
ブレイズルミナスの防御力はランスロットで証明済みだ。
飛行甲板に到着し外に出た。
見える景色は暗闇に包まれていて、いつの間にか夜になっていた。
外に出た俺はランスロットに火を入れるべく、スロットルを全力で踏む。
さらにMEブーストを掛け、一気に最大出力まで持っていく。
『ランスロット、発艦!』
「ランスロット、発艦!」
ランドスピナーを使って飛行甲板を最大加速で駆け抜け、空へと飛び出す。
飛び出した後、フロートユニットを展開し、ジェットエンジンに火を入れてランスロットを前進させる。
フロートユニットを信じていないわけではないが、本当に
そうして目標の敵基地まで前進していると、途中、敵ヘリ部隊が陣取っていた。
それをスラッシュハーケンで落としていく。
今のランスロットはヘリより小さくさらに機動性が上なため、圧倒的有利で敵ヘリを落とす事が出来る。
敵ヘリ部隊を突破し、再度加速させる。基地はもう目の前だ。
そして、敵基地の滑走路へと着陸する。
この時点でエナジーフィラーは半分位だが、問題ない。
単騎での吶喊なんて想像外の戦法を取られ、浮足立っている敵を見て唇を舐めて潤す。
右手にヴァリスを、左手には
さあ、最前線へと行こうか!
どれ位、時間が経っただろうか。敵を倒すのに夢中になっていた俺はコーネリア様の声で現実に戻された。
『道は開かれた! 総員、突撃!』
その合図と共に、沿岸に待機していた部隊が続々と上陸してくる。
俺を追い越していく
同じタイミングでランスロットのエナジーフィラーも尽きてランスロットは停止した。
その後は作戦通りに進み、あっさりと敵基地の奪取に成功した。
残処理はエリア18の連中に任せて、俺達はエリア11に舵を向けた。
まさに電撃戦だった。
エリア11に向かう最中、コーネリア様がわざわざ専用回線を使って『よくやった』と褒めてくれた。
やっぱり、コーネリア様は優しいよな。
エリア11に着いたのは午前中だった。その足で俺達はシュナイゼル様が出立されるのを見送る。
政庁前に親衛隊、そして俺とヴィレッタも並び、シュナイゼル様とコーネリア様が話をされているのを後ろから見ている。
なんか、あんなによそよそしいコーネリア様は初めて見る。
それほどシュナイゼル様を慕っているということかな?
コーネリア様と話をしているシュナイゼル様だったが、
後ろに俺が並んでいるのに気がついたのか、コーネリア様と副官を伴って俺の方へ歩いてくる。俺の前まで来ると、
「君がアサト卿かな。噂は聞いているよ」
「シュナイゼル殿下に覚えていただけるとは、光栄の極み」
「……あんな作戦を立てておいてなんだが、まさか成功させるとは。これからも妹のため、よろしく頼むよ」
「イエス・ユア・ハイネス」
シュナイゼル様に向かって敬礼を取る。コーネリア様同様ナンバーズだからといって態度が高圧的には感じない。
だが、これからのことを思うと少し警戒してしまう。
「殿下、そろそろお時間です」
シュナイゼル様の副官であるカノン・マルディーニがシュナイゼル様に声を掛ける。
「ユフィは何処に行ったのかしら。兄上のご出立だというのに」
「ユフィとは昨夜話をしたよ。どこかの学園祭に行くと言っていたね」