行政特区「日本」、その開設式典が始まる日。
その成功を占うかのように、その日は晴天に恵まれていた。
行政特区「日本」内に設立されたスタジアムにはイレブンいや、「日本人」が満員になるほど駆けつけていた。
そこには静かな熱気があった。これから起こることへの期待がそうさせているのだろう。
スタジアムの構成は舞台裏から通路が伸びてセンターステージへと続いている、そこにはマイクが置かれていた。
ユフィ、コーネリア様の名代として来ているダールトン将軍と貴族の方々、そして、キョウトの要人達は貴賓席に座っている。
警護用に
俺とヴィレッタ、スザクはスタジアムの舞台裏で有事に備えて待機している。
舞台裏にある旗艦の横にはランスロットをフロートユニットを付けた状態で配置。
アヴァロンにも上空で待機してもらっている。本当に念のためだ。何事も起こって欲しくない。
俺は制服から懐中時計を取り出し、時間を確認する。
「そろそろ開始の時間だな」
その開始時間ちょうどに、それは現れた。
上空から一騎の黒い
ゼロだ。
ゼロを肩に乗せている黒い
貴賓席の前で停止すると、そこに居るユフィに向かってゼロは、
「ユーフェミア・リ・ブリタニア、あなたと2人きりで話がしたい」
と、告げてきた。
騒然としているスタジアムを無視して、舞台裏へと黒い
そして、マニピュレーターに乗ったゼロが舞台裏に降り立つ。
ユフィは既に舞台裏まで降りてきているが、俺達の後ろに控えてもらっている。
俺達はゼロとユフィの間に入る形だ。
まず、SPが金属探知機でゼロの全身を確認しているが、特に反応は無かった。
金属類は持っていないらしいが、ゼロなのだ。警戒に越したことはない。
俺は2人きりで会うことを「絶対」に阻止しなければいけない。
先を知っているからか、俺はユフィに向かって懇願するような口調で言ってしまった。
「ユーフェミア様、流石に2人きりというのは……。せめて、私か枢木を護衛に付けてくれませんか?」
その懇願はユフィに届いているようだが、ユフィはゼロと会うことに脅威を感じていない様子、
「大丈夫です、私を信じて下さい」
俺に向かって優しくそう言った。
そう言われてしまうと俺には何もできない。「皇族」と「騎士」、階級の差を埋めることは出来ない。
そうして俺は、旗艦へ入っていく2人を見送る事しか出来なかった。
2人が話し合っているその間、待っている時間がもどかしい。
そのイライラが出たのか、足を踏み鳴らしてしまう。
ヴィレッタは珍しい俺の行動に気付いているが、指摘はしてこない。
スザクはというと、黒い
すると、黒い
ゼロの副官だろうか。
その女性がスザクに問いかけようとした時、突然、左目を押さえてうずくまった。
うずくまった女性にスザクは駆け寄り、跪いて女性の肩に手置いた。と思ったら、スザクはそのまま気絶してしまった。
その異常事態にSP達が女性に駆け寄ると、なぜかそのSP達も倒れてしまう。
俺達には、状況が全く見えていなかった。
「何が起きているんだ……?」
ヴィレッタのそのつぶやきが、全てを表していた。
すると、旗艦からユフィが走って出てくるのが見えた。
部隊裏まで来たので、俺はユフィに声を掛ける。
「ユフィ、ゼロは」
そう声に出したときだった。
ユフィは俺に向かって腕を上げ、手に持っているものを向けてきた。
その手には銃が握られていた。
パンッという乾いた音と共に、俺の胸に衝撃が走り、痛みが体を支配する。
「カイ!」
ユフィの行動に一歩遅れてヴィレッタが動き、倒れ込む俺を受け止めてくれた。
俺の意識はそこで途切れた。
*
ユーフェミアは、スタジアムのセンターステージまで行き、マイクに向かって宣言した。
「『日本人』を名乗る皆さん! お願いがあります。今すぐ死んで頂けないでしょうか?」
その発せられた言葉に、ざわざわと混乱するスタジアムの「日本人」達。
自分が発した言葉を飲み込めていない民衆にじれたのか、
再度、パンッという音がした。そして、最前列に座っていた男性の胸に血が滲み絶命した。
「さぁ、ブリタニアの皆さん! 兵士の方々! 『日本人』を皆殺しにしてください!」
そして、虐殺が始まった。
スタジオ内外に警護として配置されていた、
男性、女性。老人、大人、子供。関係なく等しく「日本人」の命が散っていく。
慈悲なんてものは存在しなかった。
*
麻酔がきれたのか、俺は意識を取り戻した。
天井が見える。どうやらベットの上で横になっているようだ。
顔を右に横に向けると、制服を血で濡らしたヴィレッタが座っているのが見えた。
どうやら、俺をアヴァロンに運び込んでくれたらしい。
薄ら聞こえるヴィレッタの話を聞くと、運よく急所は外れていたみたいだった。
治療を終えたばかりだが、俺は上体を起こそうとした。
だが、ベットから起きようとするのをヴィレッタに止められた。
「その体で無理はするな!」
「しかし、ユフィを止めないと……」
痛みを我慢して体を動かす俺をヴィレッタが、手で優しく抑える。
「ユーフェミア様は枢木がお前の代わりにランスロットに乗って探している。だからお前は休め!」
そうやって、ベットへ横になるように優しく押し戻される。
……どれくらい経っただろうか。急に外が慌ただしくなった。
見てくる、と言ってベットの横に座っていたヴィレッタが医療室の外に向かって行った。
「ユーフェミア様が見つかったが、負傷しているらしい」
戻ってくると状況を知らせてくれた。その状況に居ても立っても居られない、俺はなんとか体を起こそうとしたが動かない。
ヴィレッタが手助けしてくれて、ようやくベットから立ち上がることが出来た。
そのままヴィレッタの肩を借りて、手術室の前まで歩いていく。
歩くたびに痛みが走る。その痛みが意識をはっきりさせてくれる。
手術室の前には、血で体を真っ赤にして座り込んでいるスザクと、その横にセシルさん、ロイドさんがいた。
しばらくして、手術室の扉横にある「手術中」の明かりが消える。
それを見たスザクは勢いよく立ち上がり、中に駆け込んだ。
それに続く形でセシルさん、ロイドさんも中に入っていった。
手術室の前で、俺とヴィレッタは手術した医師の報告を聞く。
医師には、俺からコーネリア様、シュナイゼル様に報告することを伝えた。
ヴィレッタに肩を借りながら、手術室の中に入っていく。
医療ボックス内にはユフィが横たわっていて、その横でスザクが祈るように両手を握りながら座っている。
セシルさんとロイドさんは入り口付近にいた。
俺はヴィレッタから離れて、ゆっくりとだが医療ボックスに向かい、スザクの反対側にあるモニター横まで歩く。
モニター横に着いてユフィを見るが、ユフィは身動き一つしない。そもそも生気というものを感じない。
その時、心音を監視しているモニターの波長が一本線になった。
スザクは泣き崩れ、ヴィレッタとセシルさん、ロイドさんは、無言で部屋を出ていった。
手術室の中には、俺とスザクだけが残った。
部屋には無情な電子音だけが部屋に響いている。
俺がモニターを止めると、電子音は止まった。
そして、泣き崩れているスザクに向かって告げた。
「スザク、落ち着いて聞いてくれ。ユフィは死んでいない。そう見せかけただけだ」
そう、死を偽装したのだ。
医師達も重篤ではあるが峠は越したと教えてくれた。
「なんで言ってくれなかった!」
勢いよく立ち上がり、ユフィが寝ている医療ボックス越しに胸ぐらを掴まれる。
傷が痛みを発するが、それを押さえて答える。
「ユフィはもう普通に生きられない。表に出ることも許されない」
「だからといって!」
「じゃぁ、どうしろと!? これ以外に正解があるのかよ!?」
その問いにスザクは答えられない。胸を掴んでいる手を離して椅子に座り込み俯いている。
「でも何処に?」
「ホッカイドウで匿ってもらおう。俺が持っている独自のルートで送る」
そして、俺が倒れている間の事をスザクに聞いた。ゼロがユフィを撃った、と。
スザクはまだ信じていないように呟いた。
「なんで、ユフィはあんな行動をしたんだろう……」
その答えは以外なところから来た。
「教えて上げようか?」
医療室に入り口に見知らぬ少年が立っていた。