『共同戦線……?』
誰もいない政庁の空中庭園で俺はゼロと会話をしている。
誰にも聞かれない秘密の話だ。
当然、通信先のゼロは訝しんでいる。
当たり前だろう。敵であるラウンズからこんな提案をされたのだから。
その疑問をゼロは口にする。
『なんの為の共同戦線だ?』
「そっちも懸念していること。嚮団の事だよ」
『っ!?』
その単語が俺から出るとは思っていなかったのだろう、ゼロの驚愕が通信越しでも伺える。
「俺としては、潰せるうちに潰したいんだよ」
『それが、なぜこちらも益があると?』
「そっちも邪魔だろ?
ついに出た重要人物の名前に、諦めがついたのか通信先の声は調子を取り戻していた。
『なんでもお見通しというわけか』
「そんな事はない。知っている事しか知らないよ』
それで、と言葉をつなぐ。
「おおよその位置は掴めているんだろ? そっちは位置を、こっちは戦力を。いい取引だと思うが」
しばしの沈黙の後に返答はあった。
『……この事を総督は知っているのか?』
「いや、あくまで俺の独断だ」
『……解った。嚮団の位置を教えよう』
「話が早くて助かるよ」
襲撃日時の合わせなどを確認して、ゼロとの密談は終わった。
その後、俺は自分の部屋へと足を運んだ。
扉を開けて部屋に入る。と、照明は落ちているが中に人の気配があった。
扉横のスイッチに手を伸ばして照明を点ける。
すると部屋奥の窓前にヴィレッタが腕を組みながら、外を見て佇んでいるのが目に入る。
そんなヴィレッタを横目に俺は机へと向かい椅子に腰を掛ける。と、横から弱々しい質問が飛んできた。
「……私はお前を信じていいんだな?」
まるで、俺が何をしていたのか知っているような口ぶりだった。
でも、
「言えるのはこれしかない。……俺を信じて付いてきてくれ」
椅子を回し、横にいるヴィレッタに顔と視線を向けて言う。
それをどう捉えたかは、ヴィレッタしか解らない。
けど、ヴィレッタは目を閉じて深く息を吐くと、窓から離れて机の前まで移動した。
俺もそれにならって、椅子を回しヴィレッタと正対する。
「それで、どう動くんだ?」
「嚮団の位置が分かった。明日出発して、先行しているレイラ達と合流する」
「わかった」
ただ、と告げる。
「行くのは俺一人だ」
「……わかった。その間の事は任せてくれ」
「頼むよ、副官」
「イエス・マイ・ロード」
珍しく敬礼も取ってくれた。
それを信頼の証だ、と思う事しか出来ないのが、俺は少し悔しい。
*
俺は翌日の早朝から中華連邦へ向けて準備を開始した。
本当はアヴァロンを使いたかったが、シュナイゼル様と一緒にペンドラゴンに行っているので使えなかった。
まぁ、目立つからそもそも使えないけど。
指定された位置までは海路と陸路を繋いで行くことになる。
先ずは特派の格納庫へ向かった。
ランスロットを使えるように、トレーラーと装備、備品一式を持っていくためだ。
ロイドさん辺りが渋るかと思ったが、あっさりと承諾してくれた。
なぜなら、ロイドさん達は鹵獲した紅蓮の改造に夢中になっているからだ。
紅蓮聖典八極式、本当に作ってるんだぁ……。
その前に、ランスロットを改造してくれないかなぁ……。
そんな思いと共にランスロットを積んだトレーラーへ乗り込み、
陸路でキュウシュウ・ブロックを目指し、そこから海路で中華連邦へ向かう。
中華連邦へたどり着いたら、先行して捜索していたレイラ達と合流して嚮団の位置まで向かった。
レイラ達も嚮団の位置をおおよそ掴んでいたので、答え合わせは楽だった。
そのまま、トレーラーで嚮団の位置まで走り続ける。
数日後、その場所に着いたが、ゼロからの通信は無いのでしばしの待機となった。
アキト達は旅一座として野営の経験があるので、こういう時に頼もしかった。
ゼロから通信があったのは、俺達が嚮団の位置に着いてから2日後だった。
俺がランスロットの調整をしている時だったので、外にせり出したコックピットから通信機越しにゼロの声を聞く。
聞こえてくるゼロの声は淡々としていた。まるで虫を排除するように些末な事だとでも言うように。
『準備は出来ているな?』
「もちろん、そっちは?」
『これより
「では、外にいる連中は任せてもらおう」
『ああ』
コックピットでゼロとの短い打ち合わせを終える。
そして指揮所としているトレーラーにいるレイラを無線を飛ばす。
「レイラ、仕掛けるぞ。まず外に陣取っている連中を始末する」
『了解しました。各パイロットにも指示を出します』
「準備ができ次第、始めるぞ」
『イエス・マイ・ロード』
俺はシートに座り直しコックピットを奥にスライドさせ、キーを差し込んでランスロットを起動させる。
各モニターが点灯していき、ランスロットに火が入る。
ランスロットの周りにいる、アレクサンダも順次、起動準備に入っていく。
しばらくして、無線機からレイラの声が聞こえてきた。
『各機、起動を確認。準備完了しました』
「よし、作戦開始!」
俺は無線機に向かって叫んだ。
嚮団殲滅作戦が始まった。
人目を避けるためか、外で警護している
ランスロットは空から、アレクサンダは地上から、警護の
突然の襲撃に警護の
こんなの俺達の敵じゃない。
警護の
黒の騎士団だ。
突然現れた黒の騎士団に俺以外の皆が混乱している。
特に、リョウとアヤノが一番混乱している。
『はぁ!? なんで黒の騎士団がこんな所にいんだよ!』
『どうすんのさ、これ!?』
そんな2人に対して、ランスロットを着地させながら俺は冷静に声を掛ける。
「落ち着け! 黒の騎士団はこっちを攻撃しない。中に入っていくのを邪魔するな」
『はぁ!? どういうことだよ!』
『なるほどねぇ、そういうこと。思ってたよりやるじゃん、うちのリーダーは』
『どういうこと!? ユキヤ!』
ユキヤはこのカラクリを見抜いたようだ。
『どうもなにも。黒の騎士団と手を組んだってことでしょ。ねぇ、リーダー?』
「使えるものを使った。それだけだ」
無線機からは非難轟々が飛んでくるがそう言われることは想定内だ。
黒の騎士団の機体がどんどん中に入っていく。中では「粛清」が行われているだろう。
そうして、いくらかの時間が経った時、アキトが急に無線に向かって叫んだ。
『散れ!』
その合図とともに、全機がその場を離れた。俺はランスロットを空へと向ける。
すると、地下から一騎の大型兵器「ジークフリート」が空に向かって飛び出してきた。
俺は通信機に向かって叫ぶ。
「あれに敵の首魁が乗っている! 全員攻撃を集中させろ!」
しかし、ジークフリートに搭載されている、電磁装甲により全ての攻撃が防がれてしまう。
ランスロットのハドロンブラスターも使用したが効果は無かった。
ならば、接近戦あるのみ。
俺はランスロットの
巨大なスラッシュハーケンが飛んでくるが、それを切り落としながら、さらに肉薄していく。
敵機から
『なんでここにランスロットが!?』
「それをお前が知る必要は無い!」
相手は大型だが移動速度が思っている以上に速い。距離をなかなか詰められない。
ならば、
「アキト。
『了解』
スティックを操作してBRSを起動する。
コックピットが暗転し、モニターの色も反転する。
俺の感覚が鋭くなっていく、俺の身体がランスロットに溶け込んでいくようだ。
そうして、ランスロットとの同期を済ませた俺は再度、ジークフリートへと肉薄していく。
感覚が研ぎ澄まされているせいか、相手がどう動くかが予測できるようになっている。
相手との距離はみるみるうちに縮まっていく。
そして、ジークフリートに取り付くことが出来た。
ランスロットを操作して
全力で操縦桿を引きスロットルを全開にして、ジークフリートから飛び跳ねる。
瞬間、ジークフリートの左右にある機構が展開して表面を電流が走った。
が、それは躱したぞ!
展開された内部機構が見えたジークフリートに対して、俺はランスロットのハドロンブラスターを撃ち内部機構を貫く。
電磁装甲のユニットが破壊されて、防御が崩れた。
「全機、攻撃集中!」
無線に向かって叫ぶと、地上にいるアレクサンダもジークフリートへ集中攻撃をし、それは全て着弾した。
そのまま、ジークフリートは地上へと堕ちていき活動を停止した。
BRSを解除しランスロットで墜ちたジークフリートに近づき、コックピットを確認すると
俺はゼロと通信を繋げる。
「ゼロ。
『わかった、あれはこちらで対処しよう』
「では、共闘はここまでかな」
『ああ、助かったよ、アサト卿』
「こちらこそ」
それで通信は切れ、俺達の短い共闘はあっさりと終わった。
黒の騎士団を尻目に俺達は撤退を始めたが、帰りにリョウとアヤノが俺に詰めてきて大変だった。
そうして、数日後、俺達は海路と陸路を使って、トウキョウ租界へと返ってきた。
トレーラーを特派に戻した後、俺は自分の部屋に向かう。と、扉の前にいつも通りに制服を着て、ポニーテールのヴィレッタが立っていた。
いつも通りの日常だ。
「ただいま」
「……ああ、おかえり」