「さて、君の名前を聞こうか」
互い向かいになっている品の良い長椅子に腰掛けている、ナイト・オブ・ナイン。ノネット・エニアグラムが訪ねてくる。
隣には、コーネリア・リ・ブリタニア座り、紅茶を嗜んでいる。
その長椅子の後ろに、ものすごい眼で俺を睨んでいる、ギルバート・G・P・ギルフォードがいる。
そして、その向かいで借りてきた猫のように縮こまっている、俺。
ここは、基地にある総督室。
大きな窓に重厚な机。そして、ふかふかした紅いカーペットが敷かれている。
本来、俺なんかが来れる場所ではないが、何故こうなったかは少し時間を遡る。
*
ボロボロの格納庫でいつものように
「ここか!イレブン・スリーという少年がいるというのは!」
入口に一人の女性が大きく、だが、通る声で現れた。
背が高く白い軍服を着た短い髪の女性は、ブリタニア軍で高い位置にいる人だと一目でわかった。
俺達は全員、直立不動の姿勢を取った。
ここまで高い位の人物がここに来たことがないので、どうしたらいいのか解らなかった。
「で、誰がイレブン・スリーなのかな?」
再度問われ、俺はおずおずと手を挙げる。
「イレブン・スリーは自分ですが…」
「そうか。そうか。着いてきたまえ」
そう言い、紫のマントを翻して歩き出していく。
それを慌てて追いかける。それを見ている皆の視線が雄弁に語っている。
『お前は何をしたんだ』
と。
*
そうして、話は冒頭に戻る。
「さて、君の名前を聞こうか」
「……」
「ああ、まずは私から名乗るべきだな。ノネット・エニアグラム。気安くノネットさんと呼んでくれ」
「ノネットさん…ですか」
そう呟いた瞬間、ギルフォードがキッと睨み付けてきた。
怖っ!
その視線に気付いたのか、
「止めないか、怯えているじゃないか」
「エニアグラム卿を気安く呼ぶなど、ナンバーズには烏滸がましすぎます」
「私が良いと言っているんだから良いのだ」
そう言われると大人しくなったが、こちらへの視線はきついままだ。
その視線に耐えながら、返答する。
「…名前はカイ・アサトです」
「カイか。いい名前だな」
うんうんと、頷きながら名前を褒めてくれる。
ナンバーズになってから、上官に怒鳴られることしか無かったから、こういった雰囲気にどうしたら良いか戸惑っていると、ノネットさんが教えてくれた。
「なぜ自分はここに呼ばれたのか、と思っているのだろう?」
「はい…」
「それは簡単だ。君はコーネリアを救った。だから呼んだんだ」
頭にハテナが浮かぶ。
助けただけで呼ばれる?ナンバーズである俺が?
いやいや、それだけで呼ばれることなんてないでしょう?
「うん、まるで理解ってないな。そう、君はコーネリアの命を救った。だから礼を言われる。当たり前のことだろう?」
「ですが、自分はナンバーズですよ?そんなのに皇族の方が礼を言うなど前代未聞ではないでしょうか?」
「妙に大人だな、君は」
そんな中、渦中の人が口を開いた。
「普通ならば無い。が、エニアグラム卿が『命を救ってくれたのだから礼を言うべきだ!』と言って聞かなくてな…」
そう言って、コーネリアはこちらに体と視線を向けてくる。眼と眼が合う。
「おまえに助けられた、礼を言う」
そういって、頭を下げた。
その言葉を聞いた時、俺の胸に熱いものが込み上げてきた。
この世界で「俺」を思い出してから、心が休む暇なんて無かった。
親が死んでいたから、生きるのに精一杯だったし、戦場の最前線で敵を誰より倒しても、感謝すら無かった。
命がけでやってきたことに、ようやく意味が出来たみたいで、胸に空いていた穴が埋まっていくようで。
声を殺しながら、俺は泣き出してしまった。が、その涙は熱かった。
ようやく、この世界に認められたみたいで嬉しかった。
いきなり子供が泣き出したので、コーネリアはおろおろと焦っていた。
隣では、ノネットさんがよく言った、と満足げに頷いている。
俺が落ち着くのを待ってくれていたノネットさんが、質問をしてくる。
「さて、本来聞くべき質問をしようか。なぜ、君のような子供があんな最前線にいたのかな?」