1.始動
青く澄んだ空を飛んでいる輸送機の窓からは、海に浮かぶ島国が見える。
「日本」……、いや、「エリア11」だ。
俺が窓から食い入るように外を見ていると、隣の席にいるヴィレッタが声を掛けてきた。
「『エリア11』の言葉では、『故郷に錦を飾る』だったか。嬉しいものなのか?」
「難しい言葉をよく知ってるね。まぁ、騎士になって故郷に戻れるからね、嬉しいよ」
「それにしては、感動が薄い顔をしているな」
「そうかな?」
里帰りになるが、郷愁とかは特に浮かんでは来ない。
「俺」は「俺」を思い出してからの「エリア11」しか知らないから、「日本」という国に特に思い入れはない。
「俺」が覚えている「日本」は別世界だからな。
すると、スピーカーから、まもなく「エリア11」へ着陸します、とアナウンスが聞こえてくる。
7年ぶりに「エリア11」のトウキョウに舞い戻ったのだ。
トウキョウに降り立った後はまず、総督府へ出向くことになっている。
着任した報告を「エリア11」の総督、クロヴィス・ラ・ブリタニアへしなければいけないからだ。
通された総督室前で、ヴィレッタと2人椅子に座って待つ。
しばらくして秘書の人が「中へどうぞ」と案内してきたので、執務室へと入る。
執務室には、豪華な椅子にクロヴィスがくつろいだ様子で座っていた。
クロヴィスの前まで行きヴィレッタと一緒に膝をついて、頭を垂れて挨拶をする。
「お目に掛かれて光栄です、クロヴィス殿下。騎士アサト、現時刻を持って着任致しました」
「おお! 君が騎士アサトか! 姉上から話は聞いているぞ。ナンバーズながら卓越したデヴァイサーだと」
「お褒めに預かり光栄の極み。これからは殿下の騎士としてその剣を振るいましょう」
「ああ。頼むぞ!」
お互いによそ向けの声と仮面で挨拶はつつがなく行われた。
執務室を出て、総督府を外に向かって歩いている最中、
俺を見て敬礼を返してくれる文官、軍人は多いが、すれ違った後ろからはささやき声が聞こえてくる。
「ねぁ、あれが例の……」
「イレブンの分際で騎士なんて……」
まぁ、想定されたものだが、歩く先々で聞こえると流石に気が滅入る。
俺の後ろを歩くヴィレッタの耳にも入っているだろう、その顔が不機嫌になっているのが理解ったので、
軍施設へ向かう車の中で、ヴィレッタを宥めた。
「……ヴィレッタ。頼むから、表情に出すのを抑えられないか?」
「無理だな。あんな、あからさまな侮辱、到底許せるものではない」
「そうは言っても事実だからなぁ。というか、怒ってくれるんだ?」
「……影でこそこそされるのが嫌いなだけだ」
車で、軍施設にたどり着くと入り口で騎士の一行と出会った。
その貴族達からは、自分達がここで力を持つというのを隠さない横柄な態度が見て取れた。
先頭にいる貴族が、こちらを見やるとあからさまに上からの言葉を投げかけてきた。
「おやおや、イレブンがこんな場所で騎士の格好をするなど、死刑は免れないぞ?」
そのあからさまな侮辱にヴィレッタが反抗しようと動き出したが、それを手で制する。
「自分は本日付けで着任した、騎士アサトと申します。名誉ブリタニア人の資格は持っています」
「ほぅ。私はジェレミア・ゴットバルト。イレブン如きは戦場の隅でハイエナのごとく戦果を漁っていろ」
そう言って、俺を手で除けると肩で風を切って廊下の向こうに進んでいった。
お付の人たちはこちらを笑いながら、ジェレミアに付き従う。
後には、怒り心頭のヴィレッタとそれを抑える俺だけが残った。
その後、俺の充てがわれた部屋にたどり着くと、窓の近くに備え付けられた机の椅子に座り、大きく息を吐く。
「着いてそうそう、貴族に喧嘩を売りそうになるなよ、ヴィレッタ」
「貴様はあんな侮蔑を受けてよく抑えられるな! 私なら決闘を申し込んでいる所だぞ!」
「まだ波風立てたくないんだよ」
「……『まだ』か。まぁ、ここが戦場になればお前の地位は一気に上がるだろうからな」
「戦場になれば、ね」
椅子を回して、窓から平和な外を眺める。
俺が動くのは、もう少し先かな。
本当は「枢木スザク」と会っておきたいけど、これから何が起きるか予想が出来ないから止めておこう。
歴史通りになるかも知れないが、彼には少しばかり地獄を見てもらおう。
暫くの間、緩やかな時間を過ごしていたが、
クロヴィス殿下から「シンジュクゲットー殲滅」の命が下り、俺達は出撃することになった。