遠き星エイリア、もといお日様園では一妻多夫が認められている(詭弁) 作:\コメット/
12:00投稿にしました。
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入学初日の騒動から暫く経ち、入部テストを難なくクリアした私は、晴れて雷門サッカー部の一員となった。
そして聞いて驚くと良い。
私はデビュー戦の栄都学園との練習試合で後半から投入され、見事ハットトリックを決めてチームを勝利に導いた。
「あ、あのー、愛星?」
本来なら拍手喝采雨霰、エース番号譲渡も不可避の所業を成し遂げたはず。
だが、スタジアムにいた観客は歓声の嵐だったにも関わらず、味方のチームメイトからはあれ以来避けられるようになってしまった。
確かに見せ場を全て奪ったのはやり過ぎたとは思うし、ポッと出の私がいきなり実力を見せつけたのはいきなりで驚くのも無理はない。
「あ、愛星」
しかし、それにしては空気が通夜というかなんというか。
ビハインドで折り返したハーフタイム中、何やら天馬...そうそう、天馬というのは件のグラウンドでの勝負で必殺シュートを止めていた少年のことである。
松風天馬、良い名前だ。まさしく私の婿に相応しい。
その天馬が先輩達に物申していた気がするが、生憎と私は後半どう逆転するかの脳内シミュレーションに忙しく、右から左へ話を聞き逃していた。
勝敗指示がどうとか管理サッカーがどうとかの話だった気がするが、そんなもの気にするくらいならボールを蹴るなと私は言いたい。
「聞こえてない...?あ、愛星ー」
そういえば栄都学園の男どもからも覇気が感じられなかったな。
おかげでやりやすくはあったが。ハーフラインよりロングシュート3本、トドメに天馬からのアシストによるキャプテン拓人───神童拓人のこと。彼奴も良い。とても良い───によるボレーシュート一閃。4-3で試合には勝利と、私による華々しいデビューとともに、近いうちにある大会、ホーリーロードの前哨戦としてはこれ以上ない結果に終わった。
「愛星、愛星、愛星ー!」
と、我が婿が私の名前を連呼している。そろそろ応答してやるとしよう。愛い奴め。
「どうした、天馬」
「や、やっと気づいた...その、さ。俺たち、あの試合以降みんなから避けられてるよね?」
「うむ、なぜだかな。理由はどうでもいいが」
「どうでもいいんだ...それで、愛星が」
「愛花でいい。いずれ私の婿になるのだから、堅苦しく苗字で呼ぶこともないだろう」
「婿って、また冗談言って...まだ中学生なんだから、そんなのよくわかんないよ」
「中学生だからこそだ。想像してみろ、婚期を逃したことで仕事に従事、いや仕事に逃げ続けて左手薬指を残業中に見つめては溜息を吐く毎日を」
「なんだかリアリティがあって怖いなぁ」
うちの園長のことである。
「で、私がどうした?」
「あ、あぁうん。それで、愛星...愛花が一緒になって練習に付き合ってくれるのは、俺としてもすごい有難いんだけど...」
「だけど、なんだ?」
「なんで...今もこうして、その...俺の尻触ってくんの?」
さわさわ。もみもみ。
「スキンシップの一環だ。気にするな」
「そ、そっか!じゃあ納得.........いやできないよ!?なんだってスキンシップで尻撫でるのさ!?」
「私は手持ち無沙汰になった時に人肌を求める時がある。孤独を埋めるにはスキンシップが持ってこいだからな。兄的奴の背、姉的存在の手、などなど。家にいる時は常に彼らにくっついてるのが私だ。私にとってはいつものことだから、天馬が気にする必要はない」
「だからって尻を触る必要はないよね!?こんなことがいつものことになんて、なって欲しくないよ!」
「なにおう!?将来の婿ならば嫁たる私の我儘の一つくらい許容する覚悟を持て!触る箇所が尻なのはあれだ!身長差的にそこが触りやすいからだ!」
「尚更嫌だし理由になってないよ!」
「ハッ!さては天馬、私の尻を触りたいんだな?さっきから尻尻連呼しているのは自らの欲望を抑えきれないからだな?此奴め、意外と欲張りだな?」
「な、なんでそうなるんだよ!?」
「ふっ、それならそうと早く言え...遠慮することはない。存分に私の臀部を愛でるといい。だが、そちらがそうする場合は時と場所を考えることだ。私からやれば単なるスキンシップだが、天馬がやれば側から見たら痴漢、もといセクハラだからな。私としては、今ここでおっ始めても構わないが...」
「やらないって!ああもう助けてよ信助ぇ!」
「あんまり近づきたくないかなぁ」
離れた場所で苦笑の信助。性は西園。
天馬と同じく実力はまだまだだが、小さい体躯ながらジャンプ力は並外れたものを持っている。
婿、というよりは愛玩候補といったところか。
「天馬、私は寂しいんだ。婿候補の一人だった道也さんが監督をクビにされ、先輩は誰も寄って来ず、京介はピッチ外でサボり。もうこうして人肌を分け与えてくれるのはおまえしかいない」
「う...っ、久遠監督がいなくなったのには俺も関わってるから、そう言われたらどうにもできない...」
なぜあれだけ優秀な道也さんを解雇するのか、まるで理解に苦しむ。
理事長と校長の学校運営方針はどうなっているのだろうか。
私がロングシュート3本でハットトリックを決め、栄都学園を沈めたのは、関係ないだろうし...。
あぁ、京介というのは天馬と戦っていた男子のことだ。
今はツンケンしているが、そのうち私を求めるようになる。あいつはこちらから優しくすると寄って来ない黒猫のような性格をしているからな。
「俺のせいで、久遠監督がいなくなって...キャプテンも練習に来てないし...」
「そのことについてはあまり気にするな、天馬。おまえは間違っていない。私が保証する。誰もが平等に勝利を貰えるサッカーだなんて、私も御免だ。だからそう悄気るな」
「愛花...」
「あ!もしかして、愛星が天馬のお尻触ってるのって、天馬を励ますためだったりして!?」
「え、ホントに!?そうなの愛花!?」
「いや、私が触りたいから触ってるだけだが」
「そこは嘘でもそうって言おうよぉ!?」
ふふ、反応がいちいち大きい。愛い奴。
「おまえたち、なんだその腑抜けたプレイは!?」
と、ゴール前から何やら怒声が聞こえる。
見れば、覇気のない部員達に車田剛一と三国太一が叱責を向けていた。
「そう言われても...監督もキャプテンもいないんじゃ、出るやる気も出ないですよ...もうおしまいです」
「あいつらが余計なことするから...っ」
と、倉間典人がこちらを睨んでいる。
なんだろう、私たちの輪に加わりたいのだろうか。
抱いてやるよのポーズでも取っておこうか...あ、すごい嫌な顔して逃げられた。素直じゃないなぁ。
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そんなこんなで、私たちは現在走っている。
どうした急に、と思われるかもしれないが走っているものは走っているのだ。
かく言うのも、
「楽しみだね、天馬!」
「うん!どんなことするんだろう、円堂監督の練習って!」
こういうことなのだ。
練習の休憩時間中、新監督としてあの伝説のゴールキーパー、円堂守がやってきたのである。
生けるレジェンドが目の前に現れたのだから、流石の私も驚いた。
普段の練習では見えないことを模索する、をお題目として、円堂監督は河川敷を指定。
現在、私たちはそこを目指して走っているというわけだ。
「くっ、おい!離せ、この...!」
四人で。
先頭を天馬、続いて信助、その後ろに私と、最後に京介。
私がツンケンしている彼の手を握って、河川敷へと向かっている。
「そう照れる必要は無い、京介。おまえの眼差し、練習に混ざりたいという気が丸分かりだったぞ?」
「見当違いも甚だしいぞこのアマ!俺はフィフスセクターのシードであって、おまえたちと馴れ合うために入部したわけじゃない!」
「ふっ、強がりを...本当に黒猫のような奴だ。いや、孤独を格好良いと思い込んでいる黒狼とも言えるか」
「なんの話だ!?」
「おまえの魂の話だ!」
「益々意味がわかんねえ...!」
今はそれでいい。円堂監督も言っていただろう。取り敢えずついてくれば、見えるものがある筈だと。
「剣城を制御してる...」
「栄都学園でのハットトリックといい、やっぱり愛星ってすごいんだ...」
「むふん、将来は尻に敷くつもりだぞ。こいつも私の婿候補だ」
「誰がおまえの婿になるか!誰が!」
「剣城もお尻揉まれるのかなぁ」
「剣城、その点については俺も同情するよ...」
「勝手に同情するな!いいか、本当に触ってみろ!その時は...」
「SMや陵辱プレイは私も勉強中なんだ。少し待って欲しい」
「んなことしねえ!!」
「さぁ、痴話喧嘩もこの辺にして、着いたぞ!」
「クソ...ペースを崩される...!」
「来たか!」
赤いバンダナ、優しげではあるが凛々しさも感じる目つき、何よりも明るい笑顔で、円堂監督は河川敷グラウンドの中央で待っていた。
「一年全員か、嬉しいぜ!松風天馬!」
「はい!」
「西園信助!」
「はい!」
「愛星愛花!」
「はいっ」
「剣城京介!」
「...なんだって、こんな...」
「京介、返事」
「...チッ、はい」
「にしし、待ってたぞ!」
間近で見ると、なんだ。やはり良い男じゃないか。
だが私にはわかるぞ。
この雰囲気、おそらく彼は既婚者。気が強くも良妻賢母な奥さんがいるに違いない。
私に寝取りの趣味は無いので、婿候補からは除外だ。
「それじゃあ、天馬はそこにあるコーンを並べてドリブルの練習だ。信助はヘディングの精度を上げる特訓、愛星と剣城は1vs1で勝負だ!」
「「はい!」」
「はい」
「...誰が練習に参加すると言った」
「監督、京介は私と戦って負けるのが怖いらしい。他のを見繕ってくれないか?」
「そうなのか?」
「ふんっ、俺がそんな安い挑発に乗るとでも...」
「なんだ?技スロットがシュートで真っ赤みたいな顔をしてからに。ドリブル技の一つでも覚えたらどうだ?」
「ほざいたなアマ...上等だ!その余裕、叩っ斬ってやる!」
うむ、やはりこういうタイプは御し易い。
気取って肩掛けしている学ランを放るあたり、本気でこのタイマンに臨むと見た。
「結局、集まったのは四人だけ...」
「けど、剣城が来たのは収穫なんじゃないか?」
「そうですねっ」
「みんな、頑張ってー!」
マネージャーの二人、空野葵と瀬戸水鳥先輩、顧問の音無先生も応援してくれていることだ。
張り切っていくとしよう。
「先行ボールは剣城だ、始め!」
円堂監督の号令により、私と京介の1vs1がスタート。
「後悔させてやるよ...」
睨みを効かせ、足に吸い付くようなドリブルでこちらに突進してくる。
流石に...シードだったか。選ばれた存在なだけはある練度だ。
「だが甘いっ!」
「なっ!?」
フェイントを仕掛けてきたが、私はそれを読んでいた。
軽いステップで切り返し、京介と位置が入れ替わる形でボールを奪取。
「あ、あんな簡単に剣城を止めた!?」
「シュートもすごいけど、ディフェンスもすごいんだ!」
むふふ、もっと崇めよ二人とも。そして輝く私を見て精進せよ。最低でも、婿候補には私と同等の力を有してもらいたいからな。
「そら京介、もう一度こい」
「ぐぎぎ...ッ!」
「剣城がブチギレてる...」
「血管って本当に浮き出るんだ...」
そんな顔をしては、クールキャラとしてのおまえの尊厳が台無しだぞ?ほれほれ。
「クソッ!どうして突破できない!?」
あらゆる策を弄して私を抜こうとする京介。しかし、その全てに私は対応してみせる。右に行こうとすれば右に行き、フェイントを仕掛けて左へステップすればそれにもついていき、ボールをループさせての突破も私がヘディングをすることで防がれる。
「やるじゃないか、愛星!剣城も良いオフェンスだ!」
「一度も出し抜けてない状況のどこが...!」
「やはり課題は突破力だな。技量は充分ある、ここは趣向を変えて強引さを捩じ込んでもいいかもしれん。ヒートタックルとかどうだ?」
「何様だ!」
「敢えて言うならお日様だな!!」
「のあ!?」
ボールだけを狙った完璧なスライディング。
凡そ10分間、京介の攻めを受け続けた私だったが、全てにおいてブロックを成功させた。
「よし、次は愛星が攻めだ!」
「舐められたままで終われるか...!」
「ふっ、良い目をするようになったな京介。であれば、私も力の一端を見せようじゃないか」
脱力、指先と足先を鋭利にする感覚。
研ぎ澄まし、眼光により対象を射抜く。
「刮目せよ...私の必殺技、プリマドンナをっ!」
「プリマドンナ...?」
ドリブルをしながら近づいてくる私。
身構える京介。
ドリブルをしながら近づいてくる私。
狙いが分からない京介。
ドリブルをしながら近づいてくる私。
ゾワッ
何かに気づき、一瞬にして大量の冷や汗をかく京介。
「く、くるな。くるな!おい、こっちくるなバカ!」
「おいお〜い、ディフェンスが逃げちゃダメだろぉ〜?」
「ならその可視化できる気色悪いハートをしまいやがれ!なんだ、何するつもりだ!?オフェンスと言いながら何するつもりだおまえ!?」
「なに、僅かな暇の中で私とバレエに興じるだけの技よ。そう恥ずかしがることはない、誰もが最初は初心者、手取り足取り優しく抱いてやるからなぁ!」
「や、やめろおおお!!!」
私から背を向けて逃げる京介。
馬鹿笑いする信助。
苦笑いのほか女性陣。
他人事とは思えず失笑の天馬。
これもまたサッカー、と頷きながら微笑む円堂監督。
結局、プリマドンナは一度も成功せずに私のオフェンス練習は終わった。
愛花:雷門に現れた超新星。入学して暫く経ち、同学年(主に天馬や葵、信助)とは打ち解け、先輩方からはなんだこいつという評価。
天馬:雷門に現れた革命の風。シリーズ通してのポテンシャルといい、セカステの遺伝子といい、最強はこいつでは?と書いてる者は思っている。よく愛花にセクハラされる。
剣城:雷門に現れたフィフスセクターの刺客。ビジュといい過去といい性格といい全てがメロい。愛花と同じクラスで、一方的に話しかけられてウンザリしている。
信助:天馬のマブダチ。天馬と愛花の漫才じみたやり取りを一歩引いて傍観しており、愛花の婿候補に選ばれなくて心底良かったと思っている。