遠き星エイリア、もといお日様園では一妻多夫が認められている(詭弁)   作:\コメット/

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初めての、話。




第9話 女は失恋を経験して強くなるもの。

 

 

修行を積み、チームゼロとの死闘を経て様々な技を習得してゴッドエデンから帰還した雷門。

私の裏切りも誤解だと判明し───鬼道さんからキツく叱られた───無事、自らの居場所を守ることにも成功。

 

『決勝とかでまた裏切るんだろ?知ってる知ってる』

 

こう宣ったマサキは帰りの船でタイタニックごっこ〜組体操を添えて〜の刑に処した。

五月蝿く恐怖で叫び散らかしていたが、数分後には悲鳴も出せなくなり解放。グロッキーとなり、帰宅して暫くの平穏が約束された。

婿や嫁を愛している私が裏切るなどあり得ないだろう。

ただ、窮地に陥りはしたが収穫はあった。それは京介の察知の速さ。白竜が関係していたのもありはしたが、私の狙いを察した彼奴の思考能力には花丸を付けてやりたい。

試合での労いも兼ねて船では疲れて眠りについた京介に膝を貸してやったが、起きた直後に太腿をツネられた。痛かった、とても痛かった。

 

白竜とは連絡先を交換し、私は雷門の婿達嫁達について、白竜はゴッドエデンの後始末について、以来互いの近況を報告し合っている。

婿候補云々の話は有耶無耶にされたが、あれ程の男を逃す私ではない。一応雷門への勧誘も行ったが、前述したゴッドエデンの閉鎖に一役買うため丁重に断られた。

 

『いずれ、今回とはまた違った形でおまえとサッカーをやりたいな』

 

こうは言っていたので、来年のホーリーロードでは一緒に試合ができるのではなかろうか。楽しみだ。

 

 

 

本土へ帰還し迎えた準々決勝で、雷門は幻影学園と対峙。

得点率100%、驚異的な数字を叩き出しているマボロシショットという、私のプリマドンナとは対極に位置する必殺技を持ったエースストライカーお抱えのチームだ。

真帆路正というらしい男、なんでも大地...天城と因縁があるらしいが、試合中に過去の蟠りが解け、和解したようで。

試合も2点を取られたが、京介のデビルバースト、ロストエンジェル、輝のエクステンドゾーン、私のブレイキング・コメットからの天馬のマッハウィンドで一挙4点を奪い、守っても大地がアトランティスウォールを習得、信助のGK適正も見出され、チームは快勝した。

 

フィフスセクターの思惑を堂々と跳ね除け、遂に、ベスト4まで辿り着く。

準決勝の相手は新雲学園、戦いの火蓋が今か今かと切って落とされようとしていた───。

 

「なんてことだ」

 

そんな試合前、雷門と新雲が自陣ベンチで準備を整えていた時のこと。

不意に声が出ててしまうほどの光景を目の当たりし、私は脳天を貫かれたかのような衝撃を受けた。

 

「どうした急に」

 

近くでスパイクを履いていた京介が私を案じ、私の視線の方を見る。

特に変わったことはないと思ったのか、一度首を傾げてから再度私へ戻った。

 

「なんだ」

 

「京介、あの男は誰だ」

 

「あの男?」

 

「あの、オレンジ色の髪の、キャプテンマークを巻いた11番の少年だ」

 

「...ああ、あれか。そういえばデータに無いな」

 

音無先生調べでホーリーライナー内で解説があったが、そのどれもに該当せず、情報皆無な男。

身長は天馬より高く、京介より低い。チームメイトと話す彼の笑顔は爽やかであると同時に、穏やか。人を惹きつける人懐こさもあれば、他者を引っ張るカリスマ性も感じる。遠目ではあるものの肌身と一眼で分かる秘められたサッカー選手としての実力、控えめに言っても...、

 

「95点...!」

 

「なんの点だよ馬鹿」

 

「まーた愛星が変なこと言ってら」

 

京介と典人からの辛辣な言葉。

ここまでスリートップで点を重ねてきたというのに酷い言われようである。

 

「た、太陽!?」

 

「知っているのか天馬」

 

「う、うん...新雲の選手だったのか」

 

一方的に知っている仲ではないみたいだ。

太陽、と天馬が言った少年はこちらへ振り向くと、挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「...良いっ」

 

「剣城、右押さえろ」

 

「え」

 

「はい」

 

「ちょ」

 

いきなり二人がかりで羽交締めにされる私。

 

「なんだ、どうした二人とも、そんなに密着して。私の知らない愛情表現か?」

 

「おまえが他所様に迷惑かけないよう考え抜いた末の俺らなりの作戦だ」

 

「太陽って奴のところまで飛んでいくつもりだっただろ」

 

「ダメなのか?」

 

「「ダメに決まってる」」

 

「婿候補になるやもしれんのに?」

 

「前から思ってたがいるなら尚更駄目だろ」

 

「至る所に唾付けやがって、節操なしにも程がある」

 

「だっておまえ達OKくれないからキープは増やすに限るだろ」

 

「なんでそこは的を射かけてるんだよ...」

 

「節操なしなのは変わらねえ...」

 

「ええい離せ、目の前に婿候補がいるというのに止まる人間がどこにいる!?」

 

「お互い試合の準備中だろが!ウチの売りは代々、正々堂々のフェアプレー、伝統ぐらい守れ馬鹿!」

 

「いいから大人しくしとけ愛星力強っ!?クソ、なんて馬鹿力だ!」

 

「ぐぎぎ...!」

 

「踏ん張れ剣城!なんなら化身出せ!」

 

「ぐ...っ、駄目です間に合わない!」

 

「ふんぬあァッ!」

 

「「うわぁ!?」」

 

二人の拘束から逃れた私は、颯爽と新雲ベンチにいる太陽という名の少年の元へ。

 

「そこのキミ!」

 

「え、僕のことかな」

 

「ああ!」

 

力強く首肯。

うむ、至近距離では尚のこと感じられる婿力。やはり私の目に狂いはなかった。

特筆するなら瞳!純粋で汚れを知らないマナコ!いや、なら天馬と京介は汚れているのかと問われれば、そういうことではない。

天馬はお日様のような輝きとそよ風のような爽やかさの両方の性質を併せ持っているし、京介はゲームセンターの格ゲーで負けた時に台パンを堪えて悔しそうに小刻みに震えてるだけに留まっている。後者のことは陰で見ていた。バレてアイアンクローを食らった。

その二人を差し置いても、太陽の持つ心は非常に澄み渡っている。

それが私の目を惹いた理由だ。

 

「キミは...知ってるよ、愛星愛花さんだったかな。雷門の試合は結構見ててね、すごい女の子がいると思っていたんだ」

 

「認知されているとはな。そう、私の名前は愛星愛花。雷門中の一年生、人類全てに愛される運命にある女...キミのことも教えて欲しい。あと愛花でいいぞ」

 

「僕は雨宮太陽、愛花と同じ一年だよ」

 

「一年でキャプテン、すごいな」

 

「公式戦に出るのは初めてだけどね。チームには助けられてばかりだし、みんな今日を迎えるまで勝ち進んでくれた。その頑張りに報いたいし、何より雷門に勝ちたい」

 

差し出された右手に、私も応じる。

 

「良い試合にしよう、愛花」

 

「ああ。───時に太陽」

 

「なんだい?」

 

「私の婿候補にならないか」

 

「婿...候補?」

 

あーあ、言っちまった。せっかくファーストコンタクトよかったのに。突然現れて迫るのはアウトだろ。などと私の背後でチームメイトらしからぬ罵詈雑言が聞こえるが、無視。

 

「それって、僕をボーイフレンドにってことかな」

 

「簡単に言えばそうだ」

 

キョトンと首を傾げる太陽にグッと来つつ、私はコクコクと頷く。

大空を鏡写しにしたような青い瞳が揺れ、思考に入る太陽。

無理もない、私という超絶美少女に迫られれば、この反応にも頷ける。生まれてこの方敗北を知らず、兄姉達からも将来大物と期待されるほどの傑物なのが私だ。婿への勧誘一つ、驚くのも致し方な───、

 

「ごめん、愛花。キミの真っ直ぐで純情な気持ちは素直に嬉しい。けど、僕はまだそういった感情に理解が及ばないんだ。だから...ごめんね」

 

───ん?

 

今度は私が首を傾げる番だった。

状況をうまく飲み込めない。理解できない。今何が起こった?私に今何が起こっている?

 

 

 

あれ、私今フラれた?

 

 

 

数秒の間があって、ようやく私は声を絞り出す。

 

「そ.........うか。こちらこそいきなりですまなかったな」

 

「うん。愛花がよければ、友達として今後付き合えたらいいな」

 

「うむ、よろしく頼む。それでは邪魔したな」

 

「試合、楽しもうね!」

 

ニパーッと笑う太陽の笑顔を背に、無心でベンチへ帰投。

吹き出すのを堪えるマサキと他メンバーが私を迎えた。

 

「ど、ドンマイ愛花。く、くくく、あ、あははははは!!あんな、あんな真っ正面から丁寧にフラれるとか!あはははは!ひ〜っ、腹いて〜!」

 

「笑い過ぎだぞ狩屋!...いや、なんというか愛花。常識的に考えて、いきなり告白されたらそりゃ相手も断るよ」

 

マサキの馬鹿笑いと蘭丸の冷静な分析が心に刺さる。

 

「フラ、れた...私、が?」

 

今まで経験したことのない衝撃。

初めての失恋、初めての敗北、全ての波が一挙に押し寄せてきて、それらが敗北という事実を助長させ、視界が歪み、大粒の何かが目から溢れた。

 

「う、うぅ...っ」

 

「あ、泣く?泣いちゃう?散々婿勧誘しまくっといて、たった一回の失敗で泣いちゃう?」

 

「...もん」

 

「ん?」

 

「な゛か゛な゛い゛も゛ん゛っ゛っ゛!!!」

 

「いやいや泣いてるし、説得力ねー」

 

「な゛い゛て゛な゛い゛も゛ん゛っ゛っ゛!!!」

 

「煽るな狩屋その辺にしとけ!愛星、大丈夫か?ゆっくり息吸え?」

 

「う゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ん゛」

 

「泣き声汚いしうるさ、幼稚園児かよ。園のチビ共よりガキじゃん」

 

「う゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ん゛」

 

「ま、愛花が泣いてる...」

 

「一度崩されたらここまで脆いのかコイツ...」

 

試合が始まるまで、私は蘭丸に背中を摩られながら泣き続けた。

初めての敗北は、涙と悲哀の味がした。

 

 

 

私は号泣した。それはもう一生分の涙を出し尽くすかの如く涙腺を決壊させた。

蘭丸に背中をポンポンされ、葵に抱きつき、水鳥から頭を撫でられ、茜に一部始終を写真に収められながら、どうにかこうにか泣き止んだ。

普段厳しい鬼道監督も、泣き腫らして未だに鼻をズビズビしている私を見て、

 

『まぁ...なんだ、頑張れ』

 

と言葉を濁してエールを贈るぐらいには、今の私は重篤である。

しかし、これから行われるのは新雲学園との試合。それも決勝進出を賭けた大事な一戦だ。

控えの者達を差し置いてスタメン起用されている身として、私情を理由に出場辞退をするわけにはいかない。

よって、私はピッチに立った。

泣き止んだとはいえまだスンスンしてるし大丈夫かよコイツ、とマサキの視線が背中を刺す。

 

ホイッスルが鳴り、試合はスタート。

準決勝の舞台であるデザートスタジアムの特性、不規則に動く砂の動きに両者が動揺する中、

 

「ふっ!」

 

流れを掴んだのは新雲学園のエース、太陽。

雷門のパスが砂によって乱れたのを狙い、隙を突いてのカットに成功。ドリブルで駆け上がる。

 

「───ここは通さんぞ」

 

その行手を阻むのは、私。愛星愛花だ。

 

「愛花!」

 

「アイツ、大丈夫なのか?」

 

「さっき幼稚園児が引くレベルで大泣きしてましたよね...?」

 

外野がうるさい。

 

「愛花...その、さっきは...」

 

「断ったことに関しての謝罪は不要だ、私が見込んだ男なら堂々としていろ」

 

それに、だ。

ボールの奪い合い、攻防を繰り返しながら、私は笑う。

 

「女は失恋を経験して強くなるもの。ここにいる私は、今までの私と思わない方が身のためだ!」

 

「愛花...ああ!伝わってくるよ、愛花の強い想い!僕も死力を尽くして、キミと戦う!」

 

私と太陽の蹴りがボールに合わさり、強烈なインパクトとなってフィールドを揺るがす。

互いに笑みが溢れ、この試合がかつてない程の死闘になることを予感させた。

 

「要は恋敗れて無鉄砲の無敵人間になったわけ」

 

「マサキ黙れマジで黙れ永遠に黙れ」

 




愛花:太陽と狩屋に打ちのめされて負ける意味を知った女。スポーツ漫画王道の一度負けを経験するをしたので、強くなった。色々と。
太陽:いきなりの告白で面食らったが、丁重にお断りした。ただ、時間を重ねて打ちとければ案外コロリと落ちるかもしれない。
剣城:今度真正面から断ろうかと思ったが、泣かれても面倒なので現状維持を選んだ。試合ではランスロットで2点目に貢献。
天馬:ちゃんと覚醒。3点目を入れた。幼馴染の葵が気丈なタイプなため、同い年の女の子がワンワン泣くのを初めて見た。大丈夫、多分狩屋以外全員そうだよ。
神童:マエストロで1点目を演出。アニメ同様に太陽に吹き飛ばされて足を痛め、入院へ。
霧野:女装いじりされても真っ先に気にかけてくれた超優しい先輩。狩屋にはあの後キツく叱ったらしい。

次回最終回ですが、諸事情のため更新が遅れます。気長にお待ちください。
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