くたばり損ない魔法少女わたしの独りゴト   作:土縁屋

25 / 37
【幕間】“暴君”という少女

 『ザイオン遺跡に眠る秘宝・聖獣の輝石を持ち帰れ』──。それがあたしが受けた依頼だった。

 ……なんで今になって?

 そんな風に思わなかったわけではない。

 ザイオン遺跡といえば、王都からも多くの観光客が訪れる、有名な観光スポットだ。遺跡内部はかなり暴かれていて、定期的に『お掃除』されてるから、モンスターも湧かないって聞いてる。

 ちょっぴり薄暗いお部屋で楽しむ冒険アトラクションだなんて。呆れちゃうくらいに素敵じゃない? ……涙が出ちゃうわ、まったくね。

 でも、そんな安心安全アトラクションにも立ち入り禁止区域があるの。

 それが、深部。手付かずになってる地帯。ウワサじゃあ、マシナリー……古代の警備システムが邪魔をするから、誰も近付けないっていうけど、どこまで本当か怪しいもんだわ。

 

 だって、マシナリー自体は珍しいもんじゃないのよ。ダンジョンに潜るような仕事をしてれば、一度、二度はお目にかかれる。

 かくいうあたしも『窮鼠の牙』ってところでBランクの探索者やってるけど、それなりに見かけてきた。

 遺跡の防衛機構だなんだっていっても、穴ぐらで死蔵されてたような骨董品だもの。だからヨボヨボのお年寄りを相手にするようなもんよ。介護の気持ちで介錯する程度の相手にしかならないの。

 

 それだけに、怪しい……って思うの、自然じゃない? この依頼……何か裏があるんじゃないかしらって。

 例えば敵対商人の観光業が上手くいってることに嫉妬した手合いの嫌がらせ……とか。地上げのマネゴトをしろって依頼も珍しくないしね。

 

 何にせよ、気乗りしない依頼だった。

 できれば断ってしまいたかったけれども、あたし達は探索者。商人達がやれと指名してきたなら、拒否権なんかないのよね。

 素材を買い取るのも、探索で拾った物を根こそぎ持っていくのも全部商人の権利。探索者は彼らから支払われる報酬金だけが、唯一の取り分。

 ……要するにね、私兵ってことよ。あたし達は、金持ち連中のね。

 ギルドだ、二つ名だ、探索者がどうのといってもね。安全地帯で金だけ出してほくそ笑んでる人間達の手足に過ぎないの。

 

 

 指名されたのは、配信者として名が通ってるレイラ・アシュベリーがまず一人。フリーの探索者で、Bランクだっていう、腕利きね。

 見た感じ、悪くない身のこなし方だわ。手の置き方、重心の傾け方……。虫も殺せないような顔して、まるで隙が見えない。例えばあたしが今斬り掛かったとして、即座に反撃が来るでしょう。

 あたしの目に狂いがなけりゃ、そこそこ頼りにできそうな奴だわ。幸運なことにね。

 次に、『果てない夢』。構成員たった四名の零細ギルドだけれど、少数精鋭で鳴らしてるらしいわね。……自分達でそう言ってた。

 けど、口だけじゃないわね。自己紹介の短いやり取りの中にも、息の合った小さな連携が滲んでる。

 Cランクのパーティらしいけど、なるほどね。各々はそこまでやるようには見えないけれど、各自の穴を埋め合うことで厄介になるタイプね。

 

 ──最後。ハナイ・ムラクモ。ランクはS。二つ名は“暴君”。

 増虫事件で名を挙げ、あまつさえ、“謀帝”ロイ・ローの聖剣を折ってみせた最新の英雄……。

 いったい全体、どんな化け物が現れるかと思っていたら……こいつ、いつかの受付で会った、キュリア草女じゃないの! 魔よけ草をすり潰して持ってきたバカ。

 ……は? 冗談よね?

 採取クエストの一つさえマトモにこなせないようなマヌケが“暴君”なわけ? ……いや、でも腕っぷしが強いなら……。

 そう思って観察してみるけど、とてもじゃないけど強者の振る舞い方じゃない。隙だらけで、覇気がなくて、おまけにやる気もない。

 まともに装備さえ身に着けてこないんだから、てんで戦闘なんてできやしないって見るのが妥当だろう。

 

 

 ……なるほど合点がいった。実績作りってわけね。

 聞かない話じゃない。貴族のぼんぼんやらギルド長連中の親類なんかが戦績を金で買って箔付けをするって。

 コイツが何者かは知らないけど、この依頼の裏にあるのは、つまりこの娘の英雄譚を作ってやろうって、そういうことに違いない。

 やれって依頼されりゃ、否やはないけどね。……嫌いだわ、そういうの。

 

 

 ───

 

 

「ちゃーちゃん。ほっぺに食べかすついてますわよ。拭きますから動かないでね」

「……ん。ありがと」

「歯磨きは? ちゃんとしましたの?」

「……魔法でちゃんときれいにしたよ」

「それだけじゃいけませんわ、気持ち的に! ……帰ったらやってあげますわね」

 

 アンタら親子かなんかなの? てか、魔法をそんなしょうもないことに使ってんじゃないわよ。……ていうか、緊張感がなくなるから、そのやり取りマジでやめてほしいんですけど?

 

 深部へ向かう道中、“暴君”とアシュベリーはもう、イチャイチャ、イチャイチャ。鬱陶しいったらありゃしない。

 あたしは脱力するくらいのもんだけど、『果てない夢』のやつらはヤバいわね。一触即発って感じで、かなり不満がたまってる。

 ……よく我慢してる方だなって思うわよ。

 だってどうしたって、彼女がやったっていう戦績と、今ここでアシュベリーとおままごとしてる姿とじゃ“暴君”の二つ名が符合しないもの。

 遊びできてんじゃねえぞって言いたくなる気持ちはわかる。

 

 ……面倒なことになる前に、終わらせちゃいたわね。こんな仕事。

 

 

 ───

 

 

 深部が近づいてくるにつれて、あたしも緩んでいた気持ちを引き締めとく。

 魔力を練り上げて身体を循環させつつ、手持ちの道具や武器を軽く確認する。あたしだけじゃない。アシュベリーも、『果てない夢』達だってそう。

 ……“暴君”は相も変わらず、自然体のままでのそのそ歩いてるだけ。……こんな湿っぽくて薄暗い場所だってのに観光気分でいられるなんて、うらやましい限りだわ。お願いだから、そのままお行儀のいいお荷物ちゃんでいてほしいもんね。

 

 『この先、危険地帯』

 何が面白いのか、立札をまじまじと見ていた“暴君”が、ふと、何かを感じ取ったように顔を上げたの。

 次の瞬間、すさまじい魔力の胎動を感じた。──奇襲!

 

 結界を多重展開する。一枚二枚では抜かれると本能で直感して、消費度外視で張れるだけ張る。終わった後の息切れが地獄だけれど、後のこと!

 『果てない夢』は、ラッシュとかっていったかしら。大盾持ちの前衛が受けに回って、後衛の二人が強化の術や障壁の魔法を重ね掛けしてる。

 アシュベリーは“暴君”を姫抱きにして、距離を取ってる。回避に専念するつもりみたいね。

 

 一拍ののち、魔力砲撃があたし達を襲った。

 赤黒い魔力光を包み込むように、弾けるような銀の光が氾濫と化して押し寄せる。

 受け止めた段階で、結界は十枚近く消し飛んだ。それからはもう必死だった。必死になって結界を張り直し、補修し……耐えるだけ。

 五秒だろうか。もっと長かったかもしれないし、短かったかもしれない。食い殺してやろうと大顎を開いて迫る極光に抵抗して、指先どころか生きているという感覚さえ失われ始めたころ、ようやくそれがおさまってくれた。 

 ……魔力の使い過ぎね。めまいがする。

 

 異様な静寂が、場を支配してる。

 光が飛んできた方を見やれば、そこには一つ目のマシナリー。……骨董品というには、ちょっとおめかしがされ過ぎた外見。

 普通、ダンジョンに配備されてる警備システムなんて、豆鉄砲みたいな弾丸を放ってくる球体だとか、動き回るゴミ箱もどきだとか、そんなもの。

 だってのにアレと来たら人型だし、どう見たって骨董品って風情じゃない。

 

 ……とんだ貧乏くじだわ。

 それでも、死にたくないなら戦うしかない。疲弊しきった身体に鞭打って、槍を構える。ウカツに飛び込むのは自殺行為でしかないだろう。こっちは消耗してるし、火力の差だってある。まずは様子見をしなくては……。

 

 

「──散開だ! ルルとブーケはラッシュの援護! ラッシュはヤツの気を引け! 俺はどうにか弱点を──」

 

 ……『果てない夢』の方も無事だったようね。

 上ずった声で教科書通りの指示を飛ばすグレルに、舌打ちをしたくなった。わからないのだろうか? 今はやみくもに攻める段階ではない。撤退さえ考慮に入れて、見に回るべきところなのだ。

 だってのに、この馬鹿は怒りか、焦りか……視野が狭くなっている。追い詰められた時ほど、冷静に。これができないやつが、よくも今日まで生き残ってきたもんだなと、奇跡の瞬間を目撃したような気分だ。

 

 マシナリーは今にも軋む音が聞こえてきそうな動作で動き出した。

 どうやら、人を模した形をしているが、人のように動いて戦うのは得手ではないようだ。……懐に入れば勝機があるかもしれない。

 それが分の悪い賭けとなるかどうか……イチかバチかで動きたくはなかった。

 これが、この時のあたしの判断だった。

 

 ただ……。

 本当の意味で二つ名を付けられるような英雄というのは、理解を超えている。

 そう再認識させられたのは、次の瞬間だった。

 

 ハナイ・ムラクモ。

 気が付けば、あの張りぼての“暴君”が、アシュベリーに世話を焼かれている時のような自然体のままマシナリーに向かって歩いて近づいていた。

 もちろん、そんな獲物の無防備を狩人が見逃すはずもない。

 大きく振り上げられる右足。次の瞬間には、哀れな少女の血肉が、遺跡の床にべっとりこびりつく──そのはずだった。

 ──けれど。

 

 おチビさんのね、小さなかわいい手のひらが、巨人マシンの踏みつけを軽々と受け止めて……そのままもぎ取ったのよ。……悪い夢かと思ったわ。

 そしてね、すっころんだマシナリーの頭部を無造作に踏んづけて、破壊したの。その間もずっと、金と緑のオッドアイは眠たげに細められたまま。……つまり“暴君”はこの期に及んでも戦うような気分ではなかったってこと。

 ……とんだ節穴だわ。

 

「すごいですわ、ちゃーちゃん!」

「むぎゅ。……ん。存分に褒めちぎるといいよ」

 

 アシュベリーに抱きすくめられて撫で回される少女のお手本みたいなドヤ顔に、相も変わらず“暴君”の面差しはない。

 見抜けなかったこと……言い訳するつもりないけどね。虎なら虎らしくガオーっとでも吼えててほしいもんだわ。

 

 

 

 ───

 

 

 深部探索は順調そのものだったわ。

 マシナリー相手だろうが、トラップ相手だろうがまるでお構いなし。立ち塞がるもの何もかも踏み潰して進む姿はまごうことなき“暴君”そのもの。

 あたし見立てに過ぎないけど、このマシン達……Bランク以上の危険性はあると思うわ。下手すりゃAランクかも。

 そんなのの大軍勢がさ、ちまっこい娘の軽いパンチでまたたく間にスクラップ山に変わるのよ。とんでもないわよね。

 あたしやアシュベリーもいくらかは貢献したけど、ほとんど“暴君”が片付けちゃったわ。

 『果てない夢』のやつら、生きた心地しなかったんじゃないかしら。えらく好き放題言ってたし。あたしの方はね、なんかもう笑いしか浮かんでこなかったわ。いっそ清々しい気分だったかも。

 

 “暴君”のやつがね、照明魔法かしら? それを使って突拍子なく光り始めたの。意味わかんないでしょ? 

 だから思わず聞いたの。そしたら、

 

「ん。……ノリで」

 

 とかって返ってきたのよね。

 ……もしかしてこいつ、とんでもない馬鹿なんじゃないの? って思ったら、マジメに取り合うのもなんだか馬鹿らしくなってきちゃったわ。

 

 

 ───

 

 

 聖獣の輝石は、割と容易く手に入ったわ。

 最深部のね、いかにもって箱に入ってた。見た目はね、手のひらサイズの青い石っころよ。

 ……ご大層なお名前の割に、大したお宝じゃないことにがっかりするわね。

 ダンジョン採取物っていったら、伝説の聖剣とか、禁忌の魔導書だとか、そういう類がゴロゴロある。だからこそ商人どもは血眼になって探すのよね。

 ……けどこれ、ただの宝石だわ。見た目は綺麗だけど……何の力も宿ってなさそう。報酬は期待できそうにないわね。

 あたしとしては、こんな石ころより、“暴君”が『果てない夢』のグレルに手渡ししてた猛り狂うドラゴン像の方が価値が高そうな気がするのよ。独特の見た目で、芸術性高いと思うわ。すごく!

 ……頼んだらあたしの分も彫ってくんないかしら?

 

 ……いけない。

 ダンジョン内部にいるってのに、気を抜いちゃった。

 

「ん。これで任務達成?」

「そんなわけないでしょ。依頼品は納品するまでがクエストよ。

 いい? ……ちょっと腕が立つからってね、アンタ油断すんじゃないのよ。こういう分かりやすい部屋がガラガラの時って──」

 

 注意喚起も兼ねて教訓ってやつをくれてやろうと“暴君”へ振り向いた、その時。

 

 

「ぐああーっ!」

「り、リーダー!」

「いやぁ! グレルゥー!」

 

 ──レーザーがグレルを貫いたの。……サプライズ好きの警備員さんで、心臓に悪いわね。まったく。

 見た目ばっかりは最初にあったやつの光線の方が派手だったけれど、威力……というか、殺傷力ね。比べようもないくらい、こっちが上だわ。

 弾速、貫通力、予兆……。こっちに向けられでもしたら、結界を間に合わせる自信はない。

 

 視線を向けるとそこには四脚のマシナリー。さしずめ、警備隊長さんってところかしらね。獲物へと狙いをつける蜘蛛めいた動きで降りてくる。

 ヤツがあのレーザーを連射できるとしたら……決死の戦いを覚悟する必要あるかも。

 深呼吸を一つ。

 

「……あのマシナリー……ヤバそうだわ。アシュベリー! アンタ、戦える?」

「ええ! 準備万全ですわ! ちゃーちゃんは?」

「ん。やれるよ」

 

 そりゃそうでしょうね。アンタはね。

 『果てない夢』は──難しいかしら。後衛は二人ともグレルの治療に専念しているし、盾持ちはその三人のそばで守りに専念しようとしてる。

 ……ヤツを潰さなけりゃ、どの道全滅だってのに。愚かな選択だわ。

 ──けど、嫌いじゃない。

 

「……アシュベリーは援護に専念して。あたしは陽動するわ」

「スカードレッドさんが危険ではございませんの?」

「ふんっ、危険が何だっての。こんなヤクザな商売してんのよ。くたばる覚悟なんか、とうの昔にできてんのよ!」

 

 何か言いたげなアシュベリーの言を強引に打ち切って。

 「トドメはアンタが刺すのよ」。そう伝えようとね、“暴君”へと視線を向けようとした瞬間だったの。

 

 ドゴッ。

 重たい音がしたわ。

 反射的にそっちへと視線を向けると、警備隊長マシナリーの四脚がむしり取られて、べこべこに破壊されていた。その近くには退屈そうに欠伸をしているハナイ・ムラクモ。

 ──は?

 ……え? ん?

 

 

 ……。

 

 

「終わらせるなら、今から終わらせますよって一声くらい掛けなさいよね!」

 

 ばしーん!

 これ、八つ当たりじゃないからね、断じて。乙女に恥をかかせた報いとして、正当な鉄槌だから!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。