わたし、華亥ムラクモ♡ ホテルでオシャンなブレックファストに舌鼓をどんどこどん! 食いしん坊で暴れん坊なティーンエイジャー♡
今日も今日とて王都の暗い路地から見上げるお空は星がいっぱい光ってる。地下なのにどうして? それはね、ムラクモちゃん。天井に魔法をかけてそれっぽい星空を投射してるからなんだって。要するに、街ぐるみでやってるプラネタリウムってことですねえ。まー! なんてロマンチックなんざましょ!
……個人的には天井の星よりも、そこら中に取り付けられてる猥雑なネオンの方が目立ってる気がしちゃうけど。見ろよ! これが地上の星ってやつだぜ! うーん。
おじょー様はね、実家に戻ってご両親を安心させて来るんだって。紹介したいから一緒に来ないかって誘われたけどねえ……断っちゃった。
申し訳ないんだけどねえ……まだちょっと早いかなって。……ムラクモちゃんは身持ちが固い女なんだもん! くっ、ころせ! ちょっと大親友兼飼い主になったからって、心まで支配できるとは思うなよ! ……自認ペットはもう手遅れでは? あー! 聞こえない、聞こえない!
ところで、この変な揚げ物、おいしいわね。
「おいしい。……これ、何揚げてるの?」
「イワビツメレンソウだよ」
……なんて?
…………まあ、毒がないならいいか。味もおいしいし。
モギリモギリ。
「しかし、変わったお客さんだねえ。こいつ、史上最低の味って学者先生からも太鼓判押されてるってのに」
聞き捨てならんな、貴公。ムラクモちゃんの味覚が崩壊していると申すか? ……だいたい何でもおいしく食べれるだけだい!
で、でもよぅ兄貴……。この露店通り……同じような店たくさんあるのに、ここだけ客が無人だぜ……。言うな! いまさら後には退けぬ! ここで決着をつけるぞ! ぱくーっ。
……あ。あとで聞いたんだけど、イワビツメレンソウって、グロキモお魚の名前みたい。汚れた水に生息する、岩みたいに身が硬い生き物らしいよ。
臭くて硬いって有名なんだって。……おいしいけどなあ
おやつタイムを済ませたら、屋台おばさんにまた来るねとお手々フリフリ。王都観光へきゃっちいんざりばーす。意味は知らない。
有能ムラクモちゃんはあらかじめ情報収集をしておいたんだけどねえ、特に興味をそそられるようなところってなかったのん。闘技場とか、賭博場あるよって言われても、うーんって感じ。じゃあ、どんな場所なら満足するんだい!? それはねぇ……。
……
…………。
ダメだ! 思いつかない! やだ! わたしって……無趣味すぎ!?
兵器みたいな人生に徹しすぎて、まともな人生の経験ってやつが致命的に足りてへんわ! がびーん! ずがーん!
……。
ま、まあ。こういうのはね、焦ってどうなるもんじゃないから……。明日から本気だそ。
───
目的地もなく街を徘徊するのもなんだから、とりあえずの目的地ってことでギルドに行くことにしたの。
王都のギルドだよ。さぞ大きくて、人もたくさんいるんやろなあ。そんでもって、「今日から俺も探索者だ!」って希望に満ち満ちた若者……いっぱいいると思います。いいね! せっかくだからムラクモちゃんはそんな新人に鬱陶しくダル絡みをするぜ! チンピラ系かませ犬探索者わたし。
……って思ってたんだけど。なんかねえ、潰れちゃってるらしいんだよね、ギルド。
近くにいたお兄さんが言うにはねえ、国からの圧力があったんだって。今の王都はかなり物々しいから、巻き込まれない内に帰った方がいいよって。
ほへー、大変だぁ。
ところでねえ、このお兄さん、なんかめっちゃ裏切ってきそうな見た目してるのん。
……もしやこやつ、王室直属諜報暗殺部隊の隊長とかそんなんじゃなかろうね? キャッ、こわいっ。ムラクモちゃんをどうする気なの? ……さすがにそれは言いがかりにもほどがありますねえ。
さておきさておき。早々に目的地を失っちゃったわたしはこの広い王都の星空の下……途方にくれちゃうのでした。うえーんしくしく(しらじらしい嘘泣き)。
なんか……人生ってつまんねえな。俺って……何のために生きてんだろ? あ、そうだ(唐突な閃き)。自分探しの旅に出よう!
つーことでね、適当に都をぶらつくことにしたの。あっちへふらふら、こっちへふらふら。ぶらぶら、ぶらりんぶらりんちょ。
しばらく歩いてたらねえ……どの辺りかしら。土地勘ないから全然わかんないけど、なんかドデカいドームの近くに来たの。ワイガヤ、ワイガヤ。うおっ、めっちゃ混んどる。きゅいーっ。
でね。そんな人がごちゃらこいる中に、不審者見つけちゃったのん。
見るからにわたくしお金持ちのお嬢様ですわって子がねえ、ぼろっちい布を頭からかぶっとる。……ものすごく挙動不審って感じでさぁ、周りをキョロンキョロン。
……スンスン。これはにおうぜ! 何かの陰謀のにおいだ! きっと地底帝国との所領争いが起こってるに違いないぜ! 時は戦国……大地底時代なんだぁ。じゃあ、あの子は何者? きっとメッセンジャーなんですのよ! いるでしょ。物語なんかの序盤で、「地球は狙われている!」って言ってくるやつ。……なんて名推理だ! 明察秋毫とはムラクモちゃんのためにある言葉だな! 言い過ぎ!
「ふああ……」
うーん。頭使ったら眠くなってきちゃった。
もうちょいぶらつきたい気もするけど、そろそろホテルに帰ろうかな。さらば、メッセンジャー・ガール。キミが、キミの勇者に無事出会えることを草葉の陰から祈ってるのん。
「……ん」
……六人か。
「……」
帰ろうと思ったんだよ。帰ってさあ、ぐっすりネムネムしようと思ったのに……。
でもさあ、メッセンジャー・ガール……長いな。メガ子でいいか。メガ子の周りをねぇ、武装した人達が取り囲んでるもんだから、気になっちゃう。
流石のムラクモちゃんも頭ハッピーセット黒歴史わたしを卒業してるから……。いまさら頭ごなしにヒーロー気取りで人間同士の喧嘩に割り込む気なんかないんだけど……。
むむむ……。
例えばさあ、メガ子を狙ってるのが本当に地底人なら千切って助けて終わり! って単純なんだけど……。囲んでる人達、どっからどう見ても人間なのよねえ。ムラクモちゃん、一身上の理由で人を殴りたくないのん。
でも……あの人達、けっこう訓練されてるみたい。……化け物相手の動きじゃないな。人間を殺し慣れてる奴の体さばきだ。
これ、放っておいたら、メガ子殺されちゃうんじゃない? 危ない黒服のおじさんに、口では言えないような目にあわされちゃうんじゃないのって。
「…………」
……も、もうちょっとだけ様子見ようかな。
もしかしたら、遠目におてんばメガ子を見守ってるだけのボディガードの可能性も、微粒子のレベルで残ってるしね、うんっ。
そんなストーカー・ムラクモの祈りとは裏腹に、事態は深刻な方向へと進んでいく……。なんだって!? メガ子の借金が……一億を超えた!? 何かの間違いです! いやいや……ムラクモちゃんプリティ教団に貢ぐあまり、多額の負債を抱えてしまったのですよ……。ゆるせん! 恨みを食らえムラクモ! ぎゃあーっ! 映画『うちの娘に限って!』 ムラクモちゃん脳内で絶賛放映中!
メガ子の話。
メガ子ね、ドデカドーム前から移動してってる。ヘイ・ユー! 目的地はどこ? わかんにゃい!
そんで、しばらくテコテコ歩いてたんだけど……ここでね、黒服! 動いた!
「きゃああ!!」
思ったよりも機敏な動きでね、メガ子を暗い路地の方へと連れ込んじゃったの。キャッ! 不健全!
……おっと。ふざけてる場合じゃないわね。
こういう場合ねぇ。事情を知らない赤の他人がムリクリ割り込むのもどうかなって思うけど……。
放っておけないんだから仕方ないよねぇ。……この世は弱肉強食! 強いやつが偉いんだもん!
だからムラクモちゃんが一番偉いんだーっ! ゆえに好き勝手させていただくぜ!
……ヒゲモジャスキンヘッド。
悪いけど、約束ちょっぴり破るよ。
とうっとジャンプ。特に意味はない。
やあやあ、どうもこんにちは。
場違い女わたしがログインしましたよ。
「闖入者を確認した」
「現場判断で排除する」
黒服さん達ね、プロフェッショナルって感じ。通信機みたいなのでコソコソお話しつつ、淀みなくムラクモちゃんのこと排除しに来たのん。いやんっ、こわい。
……うーん、対応が早いなあ。もしかすると、後ろから尾けてたのバレてたんかな。メガ子の方はお口あんぐり開けて困惑しとるのに。
ま。なんでもいいや。
てなことでね、はいどーん!
無謀にもムラクモちゃんを刺し殺そうと突き出された槍をねぇ、えいやっと、デコピンで消し飛ばしちゃう。……あ、今の危ない。ちょっと力入れすぎちゃってた。下手すりゃ持ち主も殺しかねないよ。魔法使った方がいいかもしんない。……それいくぞー!
見て! 見よ! これがムラクモちゃんお得意の魔力圧縮だーっ! ぶわーん! ぎゅっ! ってやったらね、懲りずに攻撃しようとしてた黒服さん達みんなあっちゅう間に制圧できちゃった。
「……ん、暴れないでよ。力加減って苦手なの。手元狂ってグチャグチャになっちゃう」
「はったりを……!」
「ま、待て! こいつ……!」
なんですか?
なにかおっしゃりたいことでも?
……そなためっちゃ溜めるやん。
「…………“暴君”だ」
「あ、あの増虫事件の……?」
「き、切り抜き動画で見たことがある……。確かに“暴君”だ……!」
「じゃ、じゃあ……俺達を抑えつけてるこれって……クイーン・インセクトを圧殺した、って……? い、いやだあ!」
最初に槍をブンブンしてきた黒服さんが戦慄の表情で言ったの。
そしたらねえ、お仲間さん達がザワコザワコし始めちゃった。
はい、そうです! わたしがあのセレブレティペットドッグ配信者、アイドル系魔法少女のムラクモちゃんですよ♡ あ、サインほしい? もうっ。いつもはお断りしてるんですけどぉ……あなただけのトクベツ、だゾ♡ なんつって。
「な、何故だ! 何故貴様がここに!」
「ん。普通に観光ですけど」
「そ、そういうことではない! ぼ、“暴君”がなぜ我々の邪魔をするのかと聞いているっ」
そ、そんな凄まないでよぉ。
特に理由なんてないよ。なんか放っとけないから、なんとなくやったってだけだもん。
だからそんな、「あ、あの“暴君”がやったことだ。深慮遠謀の末の行動に違いない」みたいな空気感ほんまにやめておくれやす。
「……裏なんかないよ」
「ヒィ! 潰さないで……」
こうね、お手々を持ち上げたの。
話す時にジェスチャーとかするでしょ。そういう風に。そしたらねえ、黒服くん達ってば、腰砕けになっちゃった。
でもこんだけ怖がってたら、もうこんなことすんなよって注意するだけで事件の再発はしなさそう。
…………。
うん! 一件落着だな!
「あ、あの!」
「ん?」
「フロー……わ、わたくし! フローゼ・バーム・ブランシュバインですわ!」
黒服くん達によーく言い含めてねえ、バイバイってしてたら背後からドデカ挨拶が襲ってきたのん。お耳キーンですわよ。
ちょっと! ムラクモちゃんは背後から話しかけられるの嫌いなんだからね! なぜって? それは最強だからさ。最強は常に前だけを見ているものなのだ……。
うん。
メガ子ね、もうムラクモちゃんのプリティマウスにトゥ・マウスする気なんじゃないかってくらいに顔を近づけてきてさぁ、言ったの。
「“暴君”様! どうかわたくしを……! 王都をお救いください!」