わたし、華亥ムラクモ♡ きらびやかな地下都市のさらに深い場所……。そこで蠢く黒い陰謀を暴い……たりは特にする気がない、一般通りすがり観光客♡
退廃的な地下の街。猥雑なネオン輝く大通りから外れたいっとう暗い路地裏。そこには少女が二人。何も起こらないわけもなく……なんてねぇ。夢の世界へランデブー中のメガ子を担いで、そそくさー。
すれ違う人達の「なんやあいつ……」的な視線をいなしつつ、いなしつつ。
どこ行ったもんかなってちょっぴり考えちゃう。メガ子ってば、なんか追われてるみたいでしょ。行ける場所って限られてるよねえ。
……考えてみて、結局。ロクに土地勘もないわけだし、わたし達が泊まっとるホテルに連れ込んだらいいかな、って。いやん、不潔! 深読みはやめたまえ!
でもねえ、なにごとも思い通りにいかないのが人生の悲哀……ってやつなのよね。哀しいなあ。
帰りの道中は危険がいっぱい! 胸がいっぱい! 涙ちょちょぎれちゃいますねえ。
ついさっきヘコませてあげた黒服くんのご同業っぽい方々や、目つきの悪いチンピラさんがね、テコテコってついてきちょる。
……あんれれ〜? おかしいなぁ。
さっきまであーんな変な人達に尾けられるようなことなかったのに〜。もしかして、モテ期が到来しちゃったのかしら? きゃんっ、困っちゃう♡ もうっ、来るなら来るって言ってよね! こっちにも心の準備ってのがあるんだから! なんつって。
……メガ子。メッセンジャー・ガールポジにしては、ずいぶん荒っぽい逆ハー築いちゃってるみたい。思ったよりずっとモテモテなのねえ。
こりゃ、すったもんだ、どったんばったんの観光案内珍道中になっちゃいそうですねえ。
プリティムラクモちゃん(自意識過剰ナルシー)とお近づきになろうとさりげなく寄ってくるならず者を避けつつ、避けつつ。
キャッ、この人ストーカーです! なんだって!? キサマよくも! 現行犯逮捕だ! うわーん許して~。……ムラクモくん。鉄の堀に囲まれて頭を冷やし、ちゃんと更生するんだよ。……わたし追われてる側!
んーでね、ホテルの前まで戻ってきたんだけど……張られちょる。人数は……十三人ってとこか? ……いや、ちょっと離れたところにも何人かいるな。
……別の場所を探すしかないみたい。
い、言っておくけど、逃げるんじゃないから! キミ達なんか指先一つでやっつけられるんだからね、ムラクモちゃんは! これは……ちょっと、一身上の特殊な都合で別の場所に行かなきゃなんないだけだから! 最強は常にムラクモちゃんだ! そのことを、どうか忘れないでください。
……メガ子が起きるまで、適当にその辺歩き回るしかなさそう。
───
「待てやコラァ! てめえらはこの“瞬撃”のマーク様が酷い目にあわせてやるって言ったろうがーっ」
と思ってた時代もあったんだよね。
うん。
賢いムラクモちゃんはね、天才がゆえに知っていたのだ。こういう場合、いかにして身を隠すのが正解かって。ゆえにムラクモちゃんがとった手段はこれだー!
具体的にはね、ビルの壁をこう……蹴り上がってみたり、民家の屋根を忍者走りしてみたり。とりあえず高いところにいれば見つかんないよねって思ったの。完璧な隠遁の術ですねえ。
……なのにね、どういうわけか今、変態さんにめっちゃ追いかけ回されてます。……するってーと、彼らはムラクモちゃんの予想をはるかに上回るやり手ってことかい? 恐るべし、王都チンピラー。
わたし達を追ってるのはね、なんか派手なワイシャツ着てるお兄さん。見るからにチンピラ。口を開けばチンピラ……。蟹股で走る姿もとってもチンピラー。
ふっ、負けたよ……キミには。清々しいまでのチンピラぶりを称えて、ドチンピラーのあだ名を授けましょう。光栄に思うといいよ。
「てめえらは俺の手柄になるんだよ! もっともっと出世して俺は男を上げるんだーっ!」
どたどたどたーっ。びゅんびゅんびゅん!
慌ただしく走りつつね、変な刃物をたっくさん投げてきちょる。……人に向かってあんなもの投げるなんて、なんて野蛮なのかしら。信じらんないざますわね。
……うーん。
三下くさい物言いの人だけど、それなりにはできるみたい。さっきから撒いたろ、って頑張ってるけど、振りほどけないのん。……面倒だなあ。
「ひゃああっ!」
びゅんびゅんびゅん!
変な刃物とドチンピラーに追われつつ、追われつつ。
不毛な時間を過ごしてるとねえ、どうやらメガ子が目を覚ましたみたい。目の前を横切ってった先っちょがくねってした刃物にびっくらこいて、あざとい悲鳴を上げちょる。……ダイジョーブ、ダイジョーブ。ムラクモちゃんプロフェッショナル……ネ。シャチョさんの身体に傷はつけないヨ。ホントホント。だからこの契約用紙に安心してサインできちゃうヨ!
うーん、胡散臭い!
「……おはよう。ご気分いかが?」
「いいわけないでしょ! 違う、そうじゃない……。な、何が起きてるんですっ!?」
「後ろ。チンピラの人に追われてるよ」
「え? ……あの人!」
ん?
心当たりある人なのん? もしかして有名人? 生き別れの兄妹? 宿命のライバル? それとも……大穴でヤクザのおじょーと舎弟の関係だったりして! わはは! ……そんなわけないか。
メガ子ってばね、苦~い感じのお顔して、「“簒奪王四天王”……王都に入り込んでるなんて」って。「“簒奪王”の側近がどうして」とか「お父様たちはどうなったの」とかぶつぶつ言っとる。……そんでね、今にも無理心中したるって感じの悲壮な表情になって、
「倒してください!! あいつは“簒奪王”の手先です!」
だって。
……さてはこやつ、ムラクモちゃんが人間を殴る気ないって言ったの、忘れておるな?
言っときますけどぉ、一緒にいる間はメガ子のこと守るけど、イコール人間を殴るってワケじゃないからね。勘違いしないでよねっ! ぷんすかぷんぷん!
まあ、いいけどね。
わたしはわたしの道をゆくだけさ……。キャッ、かっこいい! ……ホントぉ? それってただ空気読まないってだけでは……言うな! 俺にはこの生き方しかできぬ!
みんな違ってみんないい。素敵な言葉ネ。
「……そんなことより、観光案内するって約束だよ。どこに行ったらいいの?」
「そんなこと、って……」
「行先。……どっか行こうとしてたんでしょ」
「……っ! ……そうです、けど……」
ところで、めちゃくちゃ刃物飛んでくるわね。弾切れとかしないのん?
というか、刃物より、ドチンピラーの罵倒の方がムラクモちゃんにダメージ与えちょるんですケド。口にするにもおぞましいお下品な悪口が飛んできてますよ。
やめてやめて! 内なるムラクモちゃんが「さくせん:暴力で解決する」へカーソル合わせしちゃう!
「……わたくし、ゼルヴィナ教会に行こうとしてましたの。リアンナ様のお力を借りようと思って……」
「どっち行ったらいいの?」
「ダメです! 四天王を引き連れてなんて行けません! せめて、あいつだけでも倒さなくては!」
なんて頑固なメガ子だ。……でも実は、そういうタイプ嫌いじゃないよ。
そんな風にね、押し問答しながら走ってたんだけど……気付いちゃったんだよね。
あ、大通りに出ちゃうって。ムラクモちゃんとしたことが、メガ子との会話に脳内CPUを使いすぎちゃった。
ヤバいよこれって思って、人気のない方へ行こうにも……難しいの。だってそこかしこから人の気配がするんだもん。なんでこうなるまで気が付かなかったんだ! ごめん。……彼らのお友達だろう攻撃的な気配や、なんも知らない平和な気配。ごちゃ混ぜだぁ。
……もしかして、ムラクモちゃんってば追い立てられちゃったのかも。……なんてこったい、ドチンピラーは追い込み漁師だったのね!
冗談言ってる場合じゃないのん。
あんな物騒なヤツを連れて人通りの多い道に出ちゃったら、たくさんの人がケガするよ。……死んじゃう人だって出るかも。
そう思ったらね、約束があるからって、無理に止めてた思考が動いちゃうの。メガ子の言ってることって正しいんじゃないか、って。
──でもわたし、頭が悪い。人の善悪を見抜けない。
……前にも横にも行けなくなって、足が止まる。
「“暴君”様?」
「……ちょっぴり揺れるよ。しっかり捕まってて」
「え? ──ひゃあ!」
王都に来てからこっち、約束破りっ放しじゃないのよ、って。意志薄弱約束破り魔わたし。
……でも、優先しなきゃなんないのは何かってことくらい、ちゃんとわかってるつもりだよ。だってわたし、魔法少女だもんね。
とう、っとスタイリッシュに後方宙返り三回転ひねり。特に意味はない。
刃物を叩き落しつつ、叩き落しつつ。胸に手を当ててぜはーぜはー息を吐いてるメガ子に、ねえと声掛け。
「聞きたい。……あなたはさ、正しいの?」
「っ。……自信は……ありません。だって正しさって、人がいたら、いただけあるものじゃないですか。……でも少なくともわたくしが──フーが思う正しさは、力のない人が泣かないような、理不尽に潰されないような……そんなものであるようにって思ってる!」
「ふーん。……じゃ、信じるね」
いきなりこんなこと聞いてメンゴメンゴ! フラメンゴ!
でもちゃんと答えてくれて嬉しかったから、ムラクモちゃんもお腹くくっちゃうね。やったぜムラクモの助太刀! 百人力だ! わーわー! ムラクモ殿、お討死! ええー! 拍子抜け大王!
「やぁっと追いついたぜぇ……観念したかぁ?」
「……いちおう言っとくけど。回れ右、した方がいいよ」
「する気ねえよ! ガキを一匹始末するだけだ! たったそれだけで──」
びゅんびゅんびゅん!
ドチンピラーね。なんだろ。バタフライナイフってあるじゃない。あれ使ってさ、なんか手遊びするやつあるでしょ。あれやりながらニタニタ追い詰めてる気になってる。
うわぁ……絵に描いたような三下だぁ……。キングオブ三下。やはりドチンピラーの名は君にこそふさわしい。
んーで、ナイフアクションのフィニッシュに、刃をペロリ。きも(素)。
「──王族の首を刎ねたってハクがつく! こんなうまい話、捨て置けぎゃああああ!!!」
おいしいでしょ。……うまい話だけに(ドッ!
イワビツメレンソウの揚げ物だよ。たーんと召し上がれ♡
もうっ、ドチンピラー先輩ったら、ムラクモちゃんにあーんしてもらえるなんて、この果報者♡
だからね、ほらぁ。、抵抗したらぶっぶー、ですっ(ぶりっ子)。
「んむーっ!!! んごぉーっ!!!」
どう? おいしい? うまいって言え♡
「うわぁ……」
「ぼ、“暴君”だ……。アレは間違いなく暴君……」
「おええ……見てるだけで吐き気がする拷問だ……」
拷問じゃないよぉ。愛の布教ですぅ。
メガ子やドチンピラーの取り巻きくんにドン引きされつつ、されつつ。
「あっ(昇天)」って感じで気を失っちゃった彼を、もう悪いことすんなよって取り巻きに引き渡して一件落着。
これが大団円って……やつかあ。
意外と生臭い臭いがするもんだな。……なんつって。