くたばり損ない魔法少女わたしの独りゴト   作:土縁屋

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【外伝】子犬系“暴君”飼い主わたくしの奮闘記・1

 実はわたくし、お友達っていたことありませんでしたの。

 どういうわけか、友達になりたいなって子……みんな離れていってしまって。

 

 自分ではそんなつもり全然ないんですけれど……気難しい女だなんてよく言われますから、知らず知らずに威圧してしまったのかしら?

 中途半端にえらい、商人の家の子っていうのも近寄りがたい理由になっていたのかも。

 商人って生き方が性に合わないもんですから、あえて探索者の道に進んだ性格がよくなかったのかしら。

 色々と考えてはみるけれど答えは出ない。

 

 けれど、そんなわたくしにも可愛らしい友人ができましたのよ。

 ハナイ・ムラクモ。

 チャーリーことちゃーちゃんですわ。

 彼女を知る人は大抵、口を揃えて暴君だ蛮族だって言いますけれど……わたくし、思いますの。ちゃーちゃんは子犬ですわよ。

 寂しがりで、甘えん坊なわんこ。

 気まぐれな部分もありますから、手綱を繋いであげないとってリード付きのチョーカーあげましたけど……あんまり付けてはくれないみたい。……残念。

 

 運命の出会いってやつかしら。

 彼女にはじめて出会ったのは、迷宮都市のダンジョン中層。わたくし、絶体絶命の時でしたわ。

 そこに彗星みたいに現れて、嵐みたいに去っていってしまったのがちゃーちゃん。その時の配信コメント欄なんて、とんでもない騒ぎになってましたわ。

 それも無理ないとは思いますけれどね。わたくしだってびっくりしましたもの。

 

 なんとかしてお近付きになってみたいって思ったのは、下心があってのことじゃありませんのよ。

 ……きっとお父様やお兄様ならそういう気持ちありきの関係を構築するんでしょうけれど。──そういうの、結構うんざりしてましたので。

 

 ……わたくし、頭から離れませんでしたの。

 あの子に助けてもらった時のこと。純真な光を宿したオッドアイ。友達になりたいって、すごくすごく思いましたわ。

 ……もちろん、命を助けてもらった恩を返したいって気持ちもありましたけれど。

 

 お互いを知り合うと、ちゃーちゃんって意外に付き合いがいいことに気が付きましたわ。

 面倒くさそうな顔をしますけれど、結局最後は付き合ってくれますの。チョーカーを受け取ってくれたのも、そんな感じですわね。……付けてほしいなあ。付けてみたらきっとかわいいのに。

 知れば知るほど、どこかチグハグで……だからこそ愛らしい。無関心なようで、構われたがり。奔放なようで、従順。……ね? 子犬みたいでしょう?

 

 この愛らしくも素敵なお友達と過ごす時間がずっとずっと続けばいい。

 わたくし、すっかり骨抜きにされてしまって。愛犬家になっちゃいましたの。

 

 

 ───

 

 

 「──きて。……起きて」

 

 囁くような甘い声と、控えめに手を握られる感触──。

 なんだかほのかに温かくって、二度寝しちゃいたい気分になりましたわ。だってあんまりにも心地いいんですもの。

 黄金のまどろみに身を任せてしまいたかったけれど……残念なことにわたくし、寝起きっていい方ですの。……段々と意識がはっきりしてきましたわ。

 

 そして──ああそうだ。わたくし達、モンスターの討伐に魔の海域へ来ていて……。巨大なスライム……のようなモンスターに呑み込まれたんだったって思い出しましたの。

 じゃあわたくし、海水スライム(仮)の胃液に消化されて、栄養になってしまったの? でも今……物を考えられてますし……なぜかしら? 栄養に転生しても意識ってあるんでしょうか?

 

 ここがあの世なら、無理に起きることもないのかも。……もうひと眠り……。

 

「……二度寝しちゃダメだよ」

「──ちゃーちゃん?」

「ん」

「わたくし達……スライムの栄養になってしまったんじゃ?」

「ちゃんと生きてる」

 

 あらまあ。

 ……ゆっくりと身を起こすと、ずり落ちる衣服。これ、ちゃーちゃんがいつも着てる緑色の服ですわね。……毛布にしてくれたのかしら。

 身を起こして周囲を見渡してみて……わたくし、言葉を失っちゃいましたわ。

 

「ちゃーちゃん。わたくしの目が壊れたんでなければ……。あの、ここ……滅んでるように見えるんですけれど……」

「ん」

 

 滅びた都市でしたの。

 建物の建築様式はあまり見たことがないものでしたけれど、間違いなく文明の名残を感じさせる都市が、恐ろしい力によって徹底的に破壊された跡。生命の気配がまったく感じられない……。

 

 さすがのわたくしも不安になってしまって、思わずちゃーちゃんの手を取ると……何故でしょうか。さっきまでのぬくもりがなくなって、すごく冷たく思える。

 思わず表情をのぞき込むと、彼女の無機質だけれど、わたくしには豊かに見える表情がこわばっているように感じましたの。

 普通に考えて……こんな状況ですもの。不安に思うのはちゃーちゃんも一緒なのかもしれませんわ。……でも何故かしら。わたくし、ふと頭に浮かんだその考え、全然同意できませんでしたの。

 

 身体の調子を悪くしてしまったのかしら? 衣服は濡れていませんけれど、状況から考えて海水を浴びたはずですし……。……でもその考えもしっくりこない。

 じゃあ例えば──この場所のこと……知っているとか。

 でも、荒唐無稽な考えですわ。だってここ、スライムのお腹の中ですもの。そんな場所のこと知ってるなんてありえないですわ。

 ……でも、妙にしっくり来てしまって。

 

「わたくし達……どうなりましたの?」

「……ごめんね、わかんない。──わかんないけど、場所のことは知ってる」

「…………それは、聞いても……よろしいことなのかしら?」

「ん」

 

 だから、知ってると返ってきた時には驚きはありませんでしたの。問題はそのあと。

 彼女は無造作に頷いて、「あそこ見て」と指差しましたの。その指先には、砕け散った小さな家屋。……何か巨大なものに突き上げられてしまったような壊れ方をしていますの。

 あれがいったい何なのでしょうか? 聞いてみると、「わたしのおうちだよ」とこともなげに返ってきて、ちょっと混乱してしまいましたわ。

 お家とは? ちゃーちゃんの住み家って、二番街のあれですわよね? ……え?

 

 ……。

 つまり、生家であると、そういうことなのでしょうか?

 ……ん? だとすると……、ちゃーちゃんってスライムのお腹出身系探索者ですの? ええ(困惑)?

 これ、里帰りできてよかったですわねっていうべきところなのかしら……。でも普通に嫌味にしかならない気がするのでやめておいた方がいいですわよね、うん。

 

 わたくしの微妙な表情を見て、勘違いをわかったのでしょう。「……この場所、幻覚だよ」ですって。あらあら。……お恥ずかしい。

 けれど幻覚ということは、つまり魔法ですわよね。スライムに吞まれた先に幻覚魔法が展開されているだなんて……そしてその幻覚がちゃーちゃんの故郷だなんて、物凄く意味が分からない状況ですわね……。

 

「……出口つくろ。端っこまで行って、ぶち抜けばいいから……すぐ出られるよ」

「あらまあ。ちゃーちゃんは頼もしいですわねえ」

 

 

 ───

 

 

「……ッ」

「ちゃーちゃん! 大丈夫ですのっ?」

 

 滅びた街を歩いていると、不意にちゃーちゃんが足を止めましたの。……何か、痛いことを我慢するみたいに両眼を強く閉じている。

 わたくし心配になって、肩に触れましたの。──そうしたら。

 

【ば、化け物……っ! 消えろ! 頼むからこの街から出て行ってくれよ! ──く、来るな! ひぃぃ!】

 

 ちゃーちゃんから靄が出てきて……二人のヒトの形を結びましたの。

 一人は男性。怯えを顔に貼り付けた、成人ですわ。石を投げたと思ったら腰を抜かして、命乞いをしている。この方、情緒どうなってますの?

 ……もう一人は、今よりもずっと幼いですけれど、見間違えなんてしませんわ。ちゃーちゃん。彼女は男性の攻撃へ反撃をするでもなく、構うでもなく、普通に通り過ぎて行っちゃいましたの。……何故でしょう。そのことが一番、無性に悲しい気がしましたの。

 

 

「……もう大丈夫。ありがと」

「無理はしていませんの? もう少し休んだ方が……」

「大丈夫。どうってことないよ」

 

 しばらく背中をさすっていると、どう見たって大丈夫そうじゃないちゃーちゃんが先を急ごうとしますのよ。

 これ絶対休んだ方がいいですわよ。わたくし、ちゃーちゃんの友達だからわかりますけれど、間違いなくメンタルにダメージ入ってますでしょ?

 無理にでも休ませようと思いましたけれど……失敗しましたの。

 ……そうでしたわ。わたくしよりちゃーちゃんの方がずっと強いんでしたわ。あらまあ。うっかりでしたわね。

 

 

 さらに進むと、景色が変わってきましたわ。

 瓦礫とゴミが山みたいに積み重なって、地面になっているエリアでしたわ。ちゃーちゃんの無理を止められないのがちょっぴりムカッとしたので、がっしり手を繋いで撫でながら進みますの。

 するとね、再びちゃーちゃんが足を止めましたわ。わたくし、今度は抱きしめることにしましたの。……人のぬくもりって安心するって言うでしょ? たぶん効果あると思いますのよね。

 

 ちゃーちゃんから立ち上る靄。今度は、女性とちょっぴり成長したちゃーちゃんに変わりましたわ。

 この幻影ちゃーちゃんったら、とっても活発な様子で、

 

【おかーさん、おかーさん! 今日のムラクモはね! 火災現場から被災者を救出したし、悪の手先、強盗団をやっつけたんだよ! これぞノンブレスでオーブンチン!】

【……そう。ムラクモはえらいねえ……】

【えっへん!】

 

 ……女性はちゃーちゃんのご家族の方かしら。とても顔立ちがそっくりですの。ひょっとするとお母さまかも。

 でも……。親子の距離感じゃありませんわ。ちゃーちゃんとの間に距離がありすぎます。……それに。ちゃーちゃんを見やる瞳に恐怖が張り付いている。

 わたくし思わず、ちゃーちゃんを抱きしめる腕に力を込めちゃいましたわ。「んぎゅっ」という悲鳴に気が付いて緩めましたけれど……。

 

 何とも言えない気持ちになって幻達のやりとりを見ていると、場面が変わったのかしら。

 ……女性がちゃーちゃんに怒鳴り始めましたわ。それはもうすごい勢いで、さすがのわたくしも聞くに堪えない罵倒の数々を。幻影ちゃーちゃんは泣いてませんでしたわ。……ただ、諦めたような光をオッドアイに宿らせただけ。

 女性にも事情はあるのかもしれませんけれど……家族に向かって、お前なんか娘じゃないとまで言い放つのはどうかと思いますわ。

 

 ……ちょっとよく見ていただきたいんですけれど、ちゃーちゃんって本当に言うほど化け物に見えます? わたくし、全然同意できないんですけど……。どう見ても子犬ですわよね? そりゃ人よりちょーっと力が強いのはわかりますけれど……。

 まあ、わたくしの義憤は置いておくとして。

 

【──あ】

【キシャアアアアア!!】

 

 罵倒を呆然と聞くだけの幻影ちゃーちゃんの目の前で、肩で息をしていた女性が……地面から生えてきた巨大なミミズに飲み込まれましたの。

 年端もいかない子供の前で立てるには生々しすぎる破砕音がバキメキ。わたくし、思わずえづきそうになっちゃいましたわ。

 幻影ちゃーちゃんは信じがたいものを見たって顔。ミミズに向かってぎごちない足取りで一歩を踏み出して……小さく。

 

【おかーさん?】

 

 とだけ。

 そして、金と緑のオッドアイが剣呑に輝いて──終わりみたいですわ。

 

 「変なの見せちゃってごめんね」って謝ってくるちゃーちゃんに、「謝ることないですわ」って返しつつ……考えますの。

 あのミミズなんだったんでしょう。ワイワームに似ている気がしましたけれど、大きさも気持ち悪さも比較になりませんわ。

 ……この場所が幻覚で、今見ているものがちゃーちゃんの……記憶をもとにした幻なのだとしたら。

 ちゃーちゃんはいったいどこから来て、何と戦っていたのでしょうか?

 

 ……いえ、やめておきますわ。ちゃーちゃんはかわいい子犬で、わたくしの大切な友達。

 それ以上でも以下でもありませんし、それでいいんですの。

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