くたばり損ない魔法少女わたしの独りゴト   作:土縁屋

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【閑話】“暴君”の授業

 昔に比べて、探索者志望の子供が増えてるってのは結構よく聞く話題だ。ジッサイ、私の友人にも探索者志望って子は多い。

 ……かくいう私、アイリ・チャドーもそういう一人だし。

 教師からしたら、学校の卒業生が騎士やら政務官なんかの公務についた方が都合がいいのかもしんないけど、私達イマドキの世代ってやつに言わせたら、そんなのは将来設計として全然安定してない。

 

 腕っぷしを売り物にして生きようって思ったら、探索者をやるのが一番割りがいい。

 騎士だとか兵士とかってさ、いわゆる宮仕えってやつだから、お金とかいっぱいもらえたりして、生活的に安定しそうに思えるけど、実はそうじゃない。

 戦争になったら従軍しなきゃなんないし、国保有のダンジョンを攻略したり、維持したりもしなきゃなんない。普段からキツーい訓練もしてるって話だし、ほかにも色々仕事あるみたい。やってらんないよね。

 

 その点、探索者ってすごく気楽だって話。上を目指さず、のらりくらり生きるだけなら、そんなにあくせくダンジョンに潜んなくてもいいって。

 生活は都市連盟が保証してくれるし、外国へも面倒な手続きなしで行ける。探索者になったからって、別に王国民をやめなきゃなんないわけじゃないのもいいよね。

 

 それってのも、都市連盟って結構特殊な立場で、国みたいな力を持ってるけど、別に公式に国家って認められてるわけじゃないってこと。

 各国の商人が商人同士のネットワークで繋がってる……商業組合って形が一番近いのかな? つまり、国じゃなくって組織。

 ただし、迷宮都市って土地を持ってて、ギルドって軍隊も保持してる。そういう人達が一般市民ヅラして国内に入り込んで好き勝手動くんだもんね。政治とかに疎い私でも普通に弾圧したくなっちゃうよ。……王都はちょっと前にそれやってだいぶ治安悪化したけど。

 最初に言ったけど、最近の子供達の『将来の夢』トレンドは、探索者。

 つまり、商人を弾圧してギルドを潰すと、回りまわって治安維持を担ってた人達を潰すことになっちゃう。ややこしい話だ。

 

 

 ───

 

 

 近頃の王立学園はとあるウワサで持ちきりだ。

 “モシモシ花”って、心底くだらない話だよ。放課後の校内で甘い匂いをかぐと、頭の中を支配されちゃうとかって。

 それで支配された生徒は、夜の教室に呼び出されて血を抜かれてしまう……とか。この時に「モシモシ」って語りかけてくるのが人なのか植物なのかわかんない奴で、そっからモシモシ花って名付いたってことみたい。……しょ、しょーもない。

 第一、支配されてんのになんで“モシモシ花”認識出来てんのよ。というか、なんで一回あいだを挟むわけ? 最初の甘い匂いの時点で、普通に血を取ればいいじゃない。……まあ、こんなの作り話だろうしね。怪談なんてこんなもんか。

 ただ……。ジッサイに貧血で医務室に運び込まれる生徒ってかなり増えたらしい。ここ一週間は特に。ベッドが足りない日もあるってさ。

 

 そんなもんだから、『対植物モンスター』だとか『植物特攻』だとかってラベリングされた武器やら道具やら……売りさばいてるお調子者が出てきてる。そういうやつはだいたい商家の子だったり、商人志望の子だったりして。私が探索者になったとして、将来の上司候補ってやつだね。……普通に人柄を疑うわ。

 

 “二つ名持ち”の探索者が講義に来るだなんて、一大ニュースが校内を駆け抜けたのは、そんな怪談まみれのある日のこと。

 たちまち生徒達の興味はそっちに移ったよね。

 そりゃそうだって話。うちの学校、定期的に学外教諭を呼んで授業してもらうんだけど、いつもなら騎士先生のありがたーいお話だとか、文官先生の受験対策だとかね。こう言っちゃなんだけど、シゲキ不足ってやつ?

 日常に丁度いい刺激ができると、“モシモシ花”のウワサはまたたく間に忘れ去られた。稼ぎ時だって思ってたお調子者達は残念そうだったけど、商売なんてきっとそんなもんだよ。知らんけど。

 

 

 数日ほどして、いよいよ外部教諭の来校当日。

 この頃になると、生徒達の興味が高まりに高まって、どの“二つ名持ち”が来ると思う? レベルから、ちょっとした賭け事にまで発展してた。

 ちなみに私は“不死鳥”を推しといたよ。王都民として当たり前だよね。……あの子の諦めねえ姿が尊いんだ。

 一刻も早く授業を受けてみたいけど、私達のクラスは……三日目だ。もどかしい。でも誰が来たかって答えが出るのは今日だろう。普通に生徒間で噂になるので。

 

「ね、アイリ。センセーの魔力……いただきに行かない?」

 

 つとめて平静に過ごそうとしていると、友人のルメリア・ベルージュが急にそんなことを言い始めた。

 ……はっきり言って正気ではない提案だと思う。だって普通に初対面の人間が「魔力ください」とか言ってきたら怖くない? キモいよね。

 だがジッサイ、彼女は魔力オタクの変人で有名なやつで、唐突に「魔力ください」を言ってくる。私も言われた。

 

「普通に嫌だよ。例えばさ、講師が“暴君”だったりとか……無いと思うけど“簒奪王”だったらどうすんの? 殺されるよ」

「ダイジョーブだって! 仮に“暴君”さんが来てたって、彼女、王都を助けてくれた英雄じゃん! 王都事変の時、脱走モンスターから王都民助けてくれたんだよ!」

「あんた、あの闘技場の戦い見てないから! ヤバかったんだから、マジで!」

「いーからいーから! 行こ行こ!」

「ちょっ……引っ張んないでってば!」

 

 そしてすごい強引。

 内心結構ビビってる私を知ってか知らずか……どっちにしてもお構いなし。

 ルメリアに引きずられつつ……せめて、“不死鳥”ちゃんが来てくれてますようにって願っとこ。祈りは届くかもしんないし。誰に届けたらいいのか知らないけど。

 

「前の騎士センセーは二十階の訓練室で講義してたし……まずはそこ行ってみる?」

「……あんた、マジで行き当たりばったりね」

 

 向かう途中、魔導構築理論講師のラーネ・アウロラに捕まって、普通に説教食らうハメになったので、その場は諦めて昼休憩の時に行くことになった。ちなみに今は朝。朝礼終わったところ。

 

 

 

 ───

 

 

 

 結論から言えば、“二つ名持ち”センセーには会えた。

 訓練室の隣に設えられたロッカールームで、ベンチのところに転がって寝ている少女がそれ。私も小さい方だけど、この子はさらに小柄で、しかも幼い顔立ち。

 ……すごく見覚えのある容姿だった。

 鉄みたいな色をした髪の毛に……。きっと閉じられた瞼の向こうには金と緑のオッドアイが封じられているんだろう。一度見たら決して忘れられないあの瞳が。

 ……背筋が冷たくなるのを感じた。

 

「ぼっ……“暴君”……っ!」

「……“暴君”? この子が? ……えぇ? 

 なんか随分可愛いんだね。あたしてっきり、もっといかつい感じの女戦士が“暴君”なのかって思ってたわ」

「か、帰ろ? ルメリア……。やばいよマジで。下手なことして、この子の機嫌損ねでもしたら……学校もろとも粉砕されちゃうかも」

「ビビりすぎ、ビビりすぎ! ほんのちょっぴり魔力もらうだけだよ! 機嫌損ねるも何もないって!」

 

 ──こいつには危機感ってのがないのか? お前今、猛獣の前で無防備をさらしてるも同然なんだぞ。

 それともルメリアの言う通り、私がビビりすぎてるだけなのか。……いやでも、いくらかわいく見えても虎は虎。

 お気楽な顔で“暴君”へ近付いていく姿を見るに、やっぱりおかしいのはあいつなんじゃないだろうか。

 

「──ちょっと、ルメリア! ダメだって!」

「大丈夫ダイジョーブ。心配ないってアイリ。この子ぐっすり寝てるみたいだし。

 それに……アンタだって曲りなりにこの王立学園に来てんなら、“暴君”と呼ばれるほどの人物の魔力……サンプリングしてみたいって思うでしょ?」

「思わないよ! 私、探索者志望だし。

 そ、それに……。私その人がギガントデスクロー・アラクネをメチャクチャにするところ、見たんだ。あの王立闘技場で、間違いなく」

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 あの日……“二つ名持ち”が二人も出場するからって、親に無理言って闘技場に行ったんだ。ギガントデスクロー・アラクネの強さは有名だったよ。何せ数十年の間、負けなしだもの。

 観客席とバトルリングの間にはバリアが張られてたけど、結界越しにもわかる威圧感があった。あんなの人がどうこうできるようなモンスターじゃないって思ったし、ジッサイ、どうこうできないから、乗り越えられない壁だなんて呼ばれてた。まるで死の旋風そのもの。

 それを、この少女は簡単に殺した。

 たぶん……魔法だと思うけど、バトルリングもろとも抑えつけて、童女のような小さな手で天を衝くように巨大なクモの足をむしり取って殺した。

 強いとか弱いとか、そういう次元で話を進めるような存在じゃないのは一目瞭然だった。

 ここまで話したら、私がビビる理由も無理ないよなって思うよね?

 

 結論。おかしいのはやっぱ、ルメリアのバカだ。

 

「……。時間なの?」

「あ! うっす! おはようございまっす! 突然で申し訳ないんすけど、ちょいと魔力くださいませんか!?」

「ちょ、ルメリア!」

「????」

 

 言い合いをワチャクチャ繰り広げてると、騒ぎ過ぎたらしい。いつの間にか“暴君”が目を覚ましていて、私達をじっと見つめていた。

 彼女のオッドアイは、あの日見た時よりもだいぶ穏やかに凪いでいて……いや。凪ぐどころの話じゃないな? ものすごく無気力にまなじりが垂れ下がっている。

 ルメリアの命知らずが無謀にも切り込んでいったところに、さしもの“暴君”も困惑した様子だったが、やがて考えるのが面倒になったのか、欠伸を一つ。きわめて軽く「いいよ」と言った。

 ……あれ? これ……おかしいのってルメリアの方だよね?

 

 というか、なんでお前ら普通に馴染んでんだよ。

 

 

 ───

 

 

 “暴君”の授業は、学内でかなり評判だった。

 単純に彼女自身が王都民から支持を受けているというのもあるけれど、どうやら講義の内容も面白いらしかった。

 

 一足先に受けた先輩が興奮した様子で語っていたが、「非常に刺激的でユニーク」とのことらしい。

 詳しく聞いてみたいところだったが、「受けてみればわかる」の一点張りで教えてくれない。……何をもったいぶってんだか。

 しかし……いったいどんな授業をするのか、私も気になってきた。

 

 そんなこんなで迎えた、三日後。私達が講義を受ける日だ。

 訓練室に集まった私達を軽く見渡すと、

 

「わたし、華亥ムラクモ♡ キモ虫の潰し方からミミズの千切り方まで、何でもござれの敏腕教師女の子♡ ……よろしく」

 

 開口一番に媚びてきた。

 ……え!?

 何何何! 怖いよ! いきなり媚びたと思ったら急に素に戻るんだもん! こいつ情緒壊れてんのか?

 そう思ったのは私だけじゃなかったみたいで、何とも言えない空気が訓練室を満たしたけど、“暴君”はまるで気にせず普通に講義に入った。……ハートが強い。

 

「ん。……硬いやつの殺し方教える」

「は? あの……。それは実技……ということでしょうか?」

「うん。戦いしてて、厄介なやつの殺し方」

 

 いや、物騒過ぎでしょ。ずっと物騒なんですけど。てかここ、学校。殺す殺す言いすぎでしょ。

 やっぱ“暴君”は“暴君”だったわ。

 

 その“暴君”だけど、物騒な発言にざわめく生徒達に構わず、シミュレーター装置を指差してみせると……「ん」とだけ言った。……どういうこと?

 そう思ったのは私だけじゃなくて、普通にみんな困惑すんだけど、“暴君”は装置を指差したまま動かない。らちが明かないと思ったのか、クラス委員の子が「あの……。その装置が何か?」と聞くと、「使い方わかんない」と返ってくる。

 いやあんた、講義三日目でしょ。つか、使い方書いてあんでしょ、壁のところに、あんな大きくわかりやすく紙はっつけてある。そういうことを他の子が指摘すると、「字、読めない」って……。

 

 ……私の中の“暴君”像、だいぶメチャクチャになってきてるんだけど……。

 ひょっとしてこの子……。とんでもないポンコツなのでは?

 こんなポンコツのくせに、戦闘力は一級品どころじゃないって、脳がバグりそう。

 

 

 シミュレーター装置を起動すると仮想敵を出現させられるんだけど、三種類ね。浮遊砲台と、自走大壁と、なんかでかいやつ。

 マシナリーを基に現代技術で作ったやつだから、難しい動きをプログラミングできなくってほぼサンドバックみたいになってる。

 そんなサンドバックの中から今回指名を受けたのは自走大壁で、一番硬い奴。

 

 見た目はシンプルに四角くて分厚い壁。キャタピラついてる。見るからにしぶとそう。……ジッサイ、他のマシナリーもどきは結構損壊するけど、こいつは一度も壊れたことがない。なので、主に失恋してムシャクシャした生徒や、機嫌の悪い奴によくサンドバックにされる憂き目にあってる。殴り放題って。

 哀れみを込めて視線を送っていると、自走大壁へ悲劇が襲った。

 

「見てて」

 

 パッと見た限りだと、まるで気負いなく握りこまれた“暴君”の手のひらが、自走大壁を軽く撫であげたって感じ。

 全く持って攻撃するような動作ではなかったけど……受けた大壁はまるで超巨大モンスターの突進を食らったみたいにひしゃげて爆散した。

 呆気にとられる私達へ、“暴君”は「硬いやつは、力いっぱい殴ったら壊れるよ」って。

 ……いや。いやいやいや。……は?

 

「あ、あの……。その、殴り方とか? 力の込め方とか……。できれば私達もできるように、技術指南していただければな、なんて思うんですが……」

「……わかんない。なんとなく殴ってるだけだし」

「えぇ……(困惑)」

「他にもこんなやり方ある」

 

 そういって軽く指を弾くと、離れた位置にあったはずの自走大壁が一体破裂する。……ええ? 「今のは?」と生徒が聞けば、「デコピンだよ」と返ってくる。

 いや、デコピンなのはわかるよ。見ればわかります。なんでそのデコピンで離れた位置のマシナリーもどきが爆散してんだって聞いたんですけど!

 そんなような意見をぶつけられた“暴君”は、「空気、ピンってやってる」って。……どういうこと?

 

 しかし……これって授業ですか? 本当に講義なの?

 なんかもう、“暴君”がなんとなく破壊行為をしているだけでは? しかしジッサイ、生徒達は楽しんでいるし……。

 ……いやまあ、“二つ名持ち”の攻撃を生で見られる機会なんてそうないし、しかもそれが、“暴君”となれば……「非常に刺激的でユニーク」なんて評価にはなるのかもしんないけど。

 なんか釈然としないよね。

 

 

 ───

 

 

 放課後になって、帰り支度を進めていると、ルメリアが寄ってきて、妙なことを言い出した。

 こいつが変なのはわりと平常運転なんだけど、今回は特に様子が変だった。どこか熱に浮かされたようなうつろな顔してる。

 

「ねぇ、この後……残れない?」

「残りたくない」

「……あともう少しで幸福の花が咲くっていうからさ。見たいでしょ? どうせだからアンタも残んなさいよ」

「はあ? 何を意味わかんないこと言ってんの。……もしかして、魔力バカをやりすぎて、妄想と現実の区別がつかなくなったの?」

「……チィッ!」

 

 いや、そんなこれ見よがしの舌打ちされたって、残らないよ。

 普通に見たい番組あるし。そうじゃなくても放課後の学校とか絶対残りたくない。不気味だし。

 ……てか、幸福の花がどうとか、胡散臭いよ。ゼルヴィナ教じゃあるまいし……カルト臭いこと言うのやめてよね。

 

 居残りしたくないっていう私の意志が固いことを察してか、ルメリアは鬼の形相で踵を返して大股に離れていった。そんな怒んなくたっていいじゃない。

 ……そして翌日。

 

 医務室のベッドに横たわるルメリアを見て……“モシモシ花”に操られていたってことを、知った。

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