わたし、華亥ムラクモ♡ じょーちゃん、じょーちゃん。ああ、なんであなたはじょーちゃんなの? それはね、優しくってかわいくって……キサマに首輪をはめる飼い主だからだ食らえーっ! マッスルリングチョーカー・マークⅡ! 飼い犬系暴君女の子♡
……いや、ムラクモちゃんはどんな相手にもこうべは垂れないけどね、うん。
れっちん達を見送ったら、またもやムラクモちゃんったら一人っきりよ。もしゃもしゃもしゃり。
でも忠犬チャリクモはたとえ大親友兼飼い主ちゃんが不在でも、こうして健気に待ったげちゃう♡ その待ち時間……すんごい長いレベル。うん。
ま、まさかそんな……! なぁんて健気なんだぁ……。世界にあまねく忠誠心コンテストの数々ぜんぶ、優勝かっさらっちゃいますねこれはぁ。
けれどもだけど。
忠犬チャリ公だなんてかっこつけちゃったケド……。ムラクモちゃんってば我慢弱いもんですからぁ、さすがに飽きてきちゃいましたよぉ。うえーん、暇だぁ。
や、待つこと自体はだいぶ前から飽きてんだケドね。あくび混じりに一人遊びに興じておりますよ。──秘技! お宿に出たり入ったりするお客さんを眺めるの技! 別に面白くはないけど、なんか暇つぶしになるよね。なんとなく。……これもすぐ飽きたケド。
……もう! ムラクモちゃんったら本当に身勝手なんだから! ご自分で約束なさったことも忘れ去ってしまいますのん? い、いや別に……そうは言ってないだろ! 嘘ばっかり! あなたっていつもそう! そんなムラクモの自分勝手に泣かされるのはいつだって被害者諸君なのよ! ──ゆるせぬ! 命をもって償え! ぐさー!
なんつってねえ。しょうもないこと考えてたの。
そしたらねぇ。……気配感じたんだよ。覚えのある魔力。ムラクモちゃん基準でけっこう強めの……うーん。ブルおじかな。
ブルおじったらね、なんかよくわかんないケド、お宿の裏側から入って来とるかんじだよ。──むむ。動きから察するに……こっそりムラクモちゃんの背後を取ろうとしてござるな? ニンニン。
……きゃんっ、暗殺者!?
こ、こんなにもプリティなムラクモちゃんの首を狙おうとは……ゆるせぬ! キサマ、どこの手のモノだ! けっ! 吐けと言われてはいそうですかってやつがいるかよ! ……確かにそうだ! ごめんねぇ。ムラクモちゃん理解ある大名だから、無理には聞かないよ。
…………あれ? なんの話だっけ?
あ、そうだ。ブルおじがコソコソしてるよってことだったぁ。不意打ち狙ってんじゃないのって。
しかし無意味だ! 何故なら最強だから! 不意打ちの一つや二つでムラクモちゃんを討伐できると思うてか! いいや! それは囮のオトリだー! ぐわーん!
……ふああ~。
時間つぶしも楽じゃないねってねぇ。
お椅子にもたれかかってグデーってしとるとね、コソコソブルおじが声かけてきたよ。ヒソヒソ~って。……いちおう驚いたげた方がいいのかしら?
ひゃああん!? ムラクモちゃんってばちょービックリ! ロープライスにサプライズ! お安く驚きをお譲りします。……へっ。値段通りに安っぽい仕掛けだぜ! なんつって。
……。
まあいいや、なんでも。めんどいし。
「よう、久しぶりだな“暴君”」
「…………。ん」
「何だ、随分反応が鈍いな。……少しはビビらせでもすりゃ、その無表情が崩れるかと思ったんだが。相変わらず可愛げがねえ」
「……気配、覚えちゃったし」
「……。ますます可愛げがねえ」
……可愛げはあるけどね。むしろ可愛げしかないけどね。
見てよこのプリティ。ヘッドのてっぺんからレッグの先っちょまで、余すところなくラブリーでしょ。プリティ千年郷は実在してんですよ。ここにある。
ほら見て、もっと見て。よーく見て。百年間研磨し続けたダイヤモンドより眩しいでしょ。……百年もダイヤを磨いたら消滅するのでは?
はい。
ところで、特に興味ないけど……なんでこんなところにブルおじいらっしゃるの? 観光旅行? 物好きだねえ。
……ムラクモちゃんが言うことじゃないケド、今ここって戦争起きそうだよ。巻き込まれて大怪我しないウチに帰った方がいいんじゃない? 危ないし。
って感じのことをねえ、教えたげたのん。そしたら知っとるわって。そっかぁ。物知りだねえ。
「……で、じゃじゃ馬姫は部屋か?」
「うん」
「……ふんっ、どうやら思ったよりは根性見せたらしい……が。結局これか。
おい、案内しろ」
「やだ」
「あ? 今はふざけてる場合じゃねえだろ」
や、ふざけちゃないですけど。
ムラクモちゃんに正論パンチされちゃうってよっぽどだと思うんですケド、あえて言っちゃうよ。……普通に年頃の女の子のお部屋におじさんご招待すんのはダメだよ。ふしだらだもん。
それでもさぁ、「どうしたって伝えたいことがあるんだ君に! この想いどうしてくれるんだい? もう辛抱たまらねえ!」って思うなら、自分で探してねぇ。ムラクモちゃんは案内しないよ。
なんたってムラクモちゃんの風紀魂はリキッドメタルより頑強だからねぇ。衝撃に強いタイプの倫理観だよぉ。
冗談言ってるわけじゃないってわかったのかな? ブルおじったらだいぶイライラしたみたいでね。頭がしがしーってやって、「頼むから案内しろ。俺だってそう暇な身分じゃねえんだ」だって。……知らないよぉ。
ムラクモちゃんはやりたくないことはやりません。何故なら“暴君”だから! 暴君……それは、わがままを極めた……孤高の迷惑生産者。
押し問答続けとるとねえ、ブルおじ聞いてきたの。「何が気に食わねえ?」って。……だから最初から言うてるでしょって。年頃の女の子のお部屋におじさん案内したくないよってさぁ。……脳内で。
……テレパスくらい習得しててよね!
「ん。ふしだらだよ」
「は……? いきなり何言ってる? あ?」
「ひりしあ女の子。あなた、おじさん。……ふしだら」
「…………。
……わかった。部屋の前まででいい。そして、俺は部屋に入らねえ。これならいいだろ? さっさと案内しろ」
……うーん。どうだろ。これはふしだらではないのでしょうか?
ムラクモ脳内陪審員達、閣議決定お願いしますよ! ポクポクポク……チーン! 判決が出ました! おおー! 結果は……? 有罪!
ただし……処刑されるのはムラクモ、キサマだーっ! “暴君”が裁判所に足を運ぶとは命とりだったな! のんきな顔しやがって馬鹿め!
うん。
「……いいよ。こっち」
「ハァー……。百年分の苦労を一瞬で背負った気分だ」
───
案内したよ。
んでねえ、ブルおじったら、ひりしあに話しかけたのよ。
……ひりしあね、実はムラクモちゃんとかれっちんも一回くらいは「お話ししようよー。ご飯食べないと死んじゃうよー。せめてお風呂は入ろう?」ってラブコール送ってはいたのん。ぜんぶ無反応だったケド。
……。
だってのにぃブルおじの声には反応が返ってきたんだよ。
……な、なんだって!? ……クッ。俺とお前、何が違ったんだ……。いったい何が……!
おそらくは好感度の差ではないでしょうか? もしかすると日ごろの行いかもしれません。……なるへそ! 返す言葉がない!
……うーん。
ブルおじとひりしあ、大事なお話してる。さすがにここでウトウトしたりすんのは空気読めてないから真面目そうなお顔しとくよ。
……ふああ~。眠い。なんつってぇ。
お話の内容はねえ……「ガッツ出せよ! お前だけだぜ! お前だけが世界新記録を狙えるんだ! ……あの日。グラウンドをランニングしてるお前を見た俺に、電流が走ったんだ! この気持ち、わかるか!? ……俺は元F1レーサーだった。だが、意図的な整備ミスでとんでもない事故を起こしてしまい、今はタクシードライバーをしてる。……ふっ、語っちまったな。お前には期待してる。俺だけじゃねえ。色んなやつがお前を応援してるってこと、忘れんなよな!」
って感じ。長い要約だぁ……。
言うだけ言ったら、ブルおじねぇ「俺は行くぜ。……取り返しはつかねえがよ。てめえでやったことのツケ、見届けに行かなきゃなんねえ」って。……うーん?
よくわかんないけど、なんかカッコ付けとるから、きゃんっ、さすがブルおじさんですぅ☆ す・て・き☆ って適当に持ち上げとくの。……ウザキモいわね、こやつ。
……あ、そうだ(唐突な思い出し)。
そういえば、あっちん言ってたね。変なカルト宗教が暴れてるらしいって。教えたげよ。
かっこよく去り行く背中へ、コール、コール!
「待って。……危ない人たち暴れてるって」
「知ってるよ。……てめえは何も心配しなくていい。こっちで処理するからよ。……ゆえに」
……ん。
チンピラみたいだったブルおじがね、なんだろ。えらい騎士様みたいになったよ。見た目じゃなくってねえ。うーん。
なんとなくで騎士様。フィーリングナイト・ブルおじ。
「フィリシア皇女を頼む」
「ん。約束は守るよ」
「そうか。……じゃ、今度こそ行くぜ」
人差し指と中指を立ててピッ。
おおぅ、相変わらずかっこいい去り際だあ。さすが、本家本元は違いますねえ。
……ブルおじを見送ったら、ムラクモちゃんもまた黒パンおばさんとこ戻ろ。ひりしあのこと待たなくっちゃ。
んで、またしても席を占拠してねえ、ひたすら居座り続ける系迷惑行為に勤しんでたのよ。
……そんなに長くは待たなかったかな。
ひりしあがねえ、お部屋から出てきたの。……ムラクモちゃん、見てわかったよ。無理してる。答えなんか出ちゃないだろうなって。
……でも。
そのお目々はね、ムラクモちゃんもびっくらこいちゃうくらいに……強かった。
「……聞いてくれるかい?」
「ん。聞くよ」
「正直に話すよ。……いくら考えたって答えなんか出ない。出そうにない。
……だって。私にとっての正しさは……おじい様なんだ。ここに至っても、あれだけ悩んで、見て回って……それでも、私が思う正しさの形って、おじい様だったんだ」
「うん」
「考えたんだ。ずっとずっと考えてた。
一時はムラクモ。君がやってくれたように、選択そのものを破壊するのが正しさなのかとも考えた。……でも気付いたんだ。それは正しさじゃない。手段だ。暴力的な手段。じゃあ、正しさって何なんだ? ……答えが出ない」
「……うん」
「聞いてみたいんだ。……ねえムラクモ。君にとっての正しさってなんだい?」
「……わかんない。……ただ。わたし、魔法少女だってだけ」
「それは、どういうもの?」
「ん。ヒトの味方でいること。人外を千切ること」
「……ふふ。シンプルだね。シンプルで……なのに残酷さと優しさが同居してる」
……ひりしあね、ずずいーって近づいてきて、ムラクモちゃんのお手々握ったよ。大切なことを言いたいみたい。
──ところで。真面目なお話の最中だってわかってんですケド、空気読めてませんよねってマジでわかってんですケド。
ひりしあ、ちょっとくちゃい。……ほらぁ、あんなにお風呂入れっつったのに言うこと聞かないからぁ。……ムラクモちゃんノーズにダメージ入ってますよ。
だが……耐えろ、ムラクモ! 我慢するんだ! 今は決意表明の真っ最中! んんんー。真面目な顔崩さないように気を付けなきゃ。
そーれしゃきん!
「──ああ。まったく。まったくもって君らしい。
だから、そんなに君に……。
“暴君”華亥ムラクモに、フィリシア・ドゥ・シルヴェリオンが依頼するよ」
「ん。なら……聞くね。
──あなたは、正しいの?」
「わからない。
わからないから……考えるよ。考えて、考えて、考え続けて生きていく。……この答えでは、不満かな?」
「……いいよ。……何してほしいの?」
「道を」
「?」
「私、おじい様が好きだ。おじい様が優しいことを知っている。
許されないことをした人なのは知ってるさ。
でも……それでもっ、私のおじい様なんだ! 許せないなんて……。誰かの恨みを背負って憎むことなんて、どうしてもできないっ! ……ひどい、女だろうか?」
「知らない。……どうだっていいもの」
「……は。……はは。君らしい。
……本当に君は、私に答えをくれない。
おじい様のところへ行きたいんだ。行き方なんてわからない。障害もたくさんあるだろう。
──だから。
どうにかしてくれ。君のやり方で」
「ん。……ちょろっち荒っぽくなるよ。……いいの?」
「構わない。……君を、信じるって。そう決めたんだ、私が……自分で」
……。
そっかぁ。
言っとくケド、ガチのマジで荒っぽくなるよ。お城行ったら兵士さんもたくさんいるだろうしぃ。ムラクモちゃん、そんなの相手にしたくないから、器物損壊気にしない感じでやっちゃうよぉ。
ずがばきー! どけどけー! 拙者拙僧、ムラクモ暴走団だぞ! 身体一つで大爆走! 近隣住民の迷惑なんのその! 進行方向にあるやつ全部踏んづけてバキバキにしちゃうんだから♡
……これ。あとで弁償しろとかって言われませんよね? ムラクモちゃん既に払わなきゃなんないお金あるんで勘弁願いたいんですケド。……しかしやめない! 何故なら……人は誰しも心に持っているからさ……速さへのあこがれを。なんつって。
……ところで、ひりしあってお姫様なんでしょ?
だったら、「皇女が帰ったぞ! 門を開けよ!」ってやったらいいのに。どうでもいいけど。
そうと決まったら出陣だーっつってね。テンションアゲ↑アゲ↑のひりしあなんだケド。……でもねえ、ここで空気を読まないムラクモちゃんは引き留めちゃうよ。明日にしましょうねって。
めっちゃ反発されたんだけどね。「おめえ正気なの? 主人公がいい感じに覚醒して出陣前イベントまでやったのに、直前ですっ転ばせるとか空気読めてる?」ってな感じにぃ。
や、気持ちはわかるよぉ。でも今あなた、深夜テンションだよ。……あと、ごはんいっぱい食べてから……お風呂はぜったい入りましょうねえ。