「お願いします!! 俺をパーティーに入れてください!! 戦闘はできませんが、料理洗濯その他諸々の雑用全てを引き受けます!!!」
「ハァ?」
──男なんて、軟弱者で強者に傅くことでしか生きられない卑怯な奴らばっかりだ。
あたしはそう信じていた。
◇◇◇
Side 勇者カレン
幸せな家族そのものだったと思う。
優しいけれど怒ると怖い母親と、そんな母親を宥めながらいつも柔和な笑みであたしの頭を撫でてくれる父親。
貧しくもなく、されど裕福なわけでもない。
普通の幸せを絵に描いたような家族だった。
父はどうやら昔から色男と言われ、様々な女性からアタックされていたらしい。
そんな中で、剛毅で女勝りな母が父を射止めてあたしが生まれたそうだ。
母はガサツだったが、元冒険者としての力と地位を持っていた。母がこうだと道を示せば、村の人達は有無を言わさずに付いていくような……そんな影響力を持った人だった。
8歳の頃、そんな母が死んだ。
流行り病だった。本当に呆気なかった。
父は悲しむよりも呆然と、自分の寄る辺が無くなったかのような喪失感に喘いでるように見えた。
父はあたしを養うために働き始めた。
村の人達は優しかったから、色々な事情を汲んで父のために働き口を用意してくれた。
そのお陰で父は男がやるにしても簡単すぎる仕事を割り当てられ、あたしを養うには十分なお金を貰っていた。
しかしあたしは、そんな父がある日漏らした一言が今でも忘れられない。
「どうして……どうして男の俺が働かなくちゃいけないんだ」
その表情には怒りが滲んでいた。
父の仕事は冒険者ギルドの受付だった。
ただニコニコと依頼の管理と接客をすれば良いだけの仕事で、ギルドの複雑な雑用の類からは外してもらっていたほどだ。
どうして──?
13歳の頃、あたしは【勇者】の職業を授かった。
120年振りの勇者の誕生らしい。
そして父はあたしに媚を売るようになった。
不自然に褒め、甘やかし、あたしの機嫌を損ねないような言葉遣いを意識するようになった。
──ああ、そうか。
父は母が村のリーダーだったから。
何もせずとも従っていれば良かったから。それが安寧だから。
全てを察してしまったあたしは、もう父親のことを父と思えなくなった。何かしか別の生物のような……そんな不気味な存在に思えて仕方なかった。
「──あたしは旅に出る。【勇者】になったからには魔王討伐を目指さなくちゃいけないから」
「あ、あぁ! それでこそ僕の娘だよ……!」
「……ええ、そうね」
この村へは二度と帰らないつもりだった。
15年間育てて貰った恩は【勇者】である娘を育てたという実績がいずれ返してくれる。あたしが何も言わないのはせめてもの情けだった。
──ああ、軟弱者の男が嫌い。
強者に……権威に傅くことでしか自分を保てないから。
自分が何もできないから。最初から諦めているから。
◇◇◇
旅を続ける中で信用できる仲間が二人加わった。
皆似たような境遇を持っていて、パーティー全体での会話は少ないけれど、背中を預けることができると心の底から信じられる仲間だ。
旅を続けて二年。
あたしたちの実績は面白いくらいに積み重ねられていき、今や王都の冒険者であたしたちのことを知らない人間はいないと言われるほどだった。
そんな矢先のこと。
あたしたちの前には見たことないくらい綺麗な土下座でパーティーに入れてくれと頼む男がいた。
「ハァ? 戦闘はできないって? 論外よ論外。あたしたち冒険者の目的は魔王を討ち果たすこと。足手まといの男なんて御免被るわ」
「そこを何とか……ッ!! 皆さんが戦闘だけに集中できるような環境づくりをしてみせますので!!」
──強者に傅くことでしか自分を保てない。
それはまるでこの世界の"男"を体現したようなヤツだった。
線が細く、多少は鍛えられているみたいだが傍目から見ても戦えるような体じゃない。こんな体じゃあたしたちの過酷な旅について行けるわけがないし、そもそも
考えるまでもないわね、却下よ却下。
そう断ろうとした時、思わぬところから男の援護射撃が入った。
「……わたしは入れても良いと思う」
「ハァ!? ユウリ!? 正気なの??」
目を剥いて信頼している仲間であるユウリを見る。
ローブを着た銀髪の少女。ぬぼーっと何を考えているか分かりづらいその表情は、いつにも増して分かりづらかった。
「……もちろん、まずはお試し。この人の能力を見てから考えてもいいと思う」
「能力って……何を見るのよ」
するとユウリはその碧みがかった瞳をジトッと向けて言う。
「わたしたち、戦闘しかできない。料理はおいしくない。洗濯もろくにできない。ファウは喋れないからぼったくられる。旅の質を上げることは大事」
「うっ……それはそうだけど……でも……男って」
「だからお試し」
ユウリの言葉は正論であたしは何も言うことができなかった。
……というかあたしとファウが悪いみたいに言ってるけど、あんたも戦闘以外何もできないじゃない!! ……ただの同じ穴の狢だったわ……。
「ハァ……」
あたしは未だ土下座を続ける男を見る。
……いや本当に土下座が綺麗ね。無駄に姿勢良いし。
「……わかったわ。とりあえず1ヶ月はこの街にいる予定だったから、その間試用期間としてあんたを臨時メンバーとして認めてあげる。良いわね?」
その瞬間パッと男は顔を上げて、まるで世界がまたたく間に明るくなったかのような錯覚を覚えてしまうほどの笑みを見せた。
……っ、くっ……この……ふ、ふんっ、こうやって男はすぐ女に色目を使って優位に立とうとするのよ。
冒険者に男の免疫が無いことを利用しようとする男もいるにはいるらしいし。
……実際冒険者に男嫌いが多いのは事実だけれど、残念ながら好みと性欲というのは割と切り離せるものだから……男に詐欺られてお金を騙し取られた冒険者もチラホラいる。
この男があたしたちを詐欺するつもりならわざわざパーティーに加入したいなんて言うはずが無いのだけれど……今に見てなさい。怪しい動きをしたらすぐに叩き斬ってやるんだから。
◇◇◇
冒険者としての最終目的は魔王を倒すことだけど、基本的な仕事は魔王によって生み出された魔物を討伐することだ。
あたしたちみたいに真面目に魔王を倒すことを目指している冒険者は少数派で、ほとんどの冒険者は魔物を倒して、その素材をギルドに売って生計を立てているものが多い。
旅は色々と入り用だからこそ、あたしたちもその例に則ってゆく先々で魔物を倒しながら旅の資金を賄っている。
今回のように魔物が多く棲息している危険域の近くに街がある場合、そこを仮拠点にして1ヶ月〜3ヶ月後くらい時間を取って魔物討伐に勤しんでいる。
魔物討伐はあたしたちの訓練にもなるしね。
今の強さで魔王を倒せると言えるほど過信はしていない。
「今回の遠征は2泊を予定しているわ。場所はコレヌスの森の深層付近。あんたには旅に必要な物資の購入を任せるわ。──言っておくけど、このお金をちょろまかすなんてことをしたら地獄の果てまで追いかけてぶち殺してやるから覚悟しなさい」
「え、そんなことしないですよ。できるだけ安く済むように頑張ります」
あたしは何も分かってない男にドヤ顔しながら言った。
「はっ、安ければ良いってわけじゃないわ。必要費用内で、質の良いものを目利きで選びながら買うの。物資はパーティーの生命線。安く済むことに越したことはないけれど、あくまで質が優先よ」
「……毎回変なもの買わされてるのによく言う」
「そこ!! 静かに!!」
ボソッと毒を吐くユウリにビシッと指を指す。
ぐぬぬ、いちいち余計なことを……まったく。
げほん、と咳払いをしながら男にお金を渡す。
これが試用期間の第一の試練みたいなもの。
実のところ、男に渡した資金はあたしたちが普段物資を買うために使っている金額よりも少ない。
別に新人イジリとか男嫌いが高じて……ってわけじゃなくて、あたしたちが買い物ベタなのは理解しているから、それなら当然それよりも安く済ませることはできるでしょう、という合理的な予想だ。
……こんなことあたしは一切思いつかなかったんだけどね、
全部ユウリが考えてくれたわ。さすが【賢者】ね。
「分かりました!! 任せてください!!」
「ふんっ、返事だけは一丁前ね。まあ期待しないでおくわ」
そんなやり取りをかわし、スタタと勢い良くギルドを飛び出していった男を見てあたしはため息を吐いた。
「そういえば、あたしとユウリで勝手に決めちゃったけれど、ファウはあの男をパーティーに入れることについてどう思ってるの?」
全身鎧の巨躯の持ち主……ファウに問いかけると、
……あんたも賛成なのね、そう……。
ま、使えないようだったら速攻でクビにしてやるけど。
◇◇◇
「カレンさーん! 物資買えましたよ!! はいこれお釣りです!」
「へ? えっ……あ、あんた本当に物資買ったんでしょうね!?」
「え……? か、買いましたけど……? 今はポータルに入れてあるんで抜かりがないか後でチェックしてもらえると助かるんですけど……」
男は渡したお金を半分も使わなかったようだった。
まさか何か買い忘れたんじゃないでしょうね。
流石に買い物ベタと言っても物資の相場くらいは知っているのよ。魔物を一定期間寄せ付けさせない《聖石》なんて使い切りなのにクソ高いし……食糧だって携帯干し肉も馬鹿にならない金額だ。
……ん? ポータル……?
「あんた《収納》持ちなの!?」
「い、いや、そんな大層なものではないです。《エコバッグ》ってスキルで……そんなに多くの物は入らないので物資くらいが限界ですかね、アハハ……」
バツが悪そうに笑う男。
いやいや、物資くらいって……それだけ入るならポーターとして十分にやっていける……いえ、わざわざ男をパーティーに入れる物好き冒険者なんてあたしたち以外にいない、か……。
「まあ良いわ。ファウとユウリも待ってるから、とりあえずあたしたちが泊まってる宿屋まで行くわよ」
「や、宿まで……あ、はい分かりました!」
ふんっ、何を勘違いしてるのかしら。
女が皆肉食系だと思ったら大間違いよ。あたしたちみたいに心底男を毛嫌いしている人たちだっているのだから……まあファウは分からないけど。
◇◇◇
「「完璧だ…………」」
宿屋の一室に並べられた物資は文句のつけようが無かった。
野営に必要な道具は揃っていて、《聖石》もちゃんと2泊分用意されていた。
大凡、想定される物資は抜けがなく完璧。
そして食糧が携帯干し肉のような加工品ではなく、野菜やら生肉やらの原材料だったのは、男の料理ができるという言葉を信じるのであれば妥当。
……人の手作り料理なんていつぶりかしら。
「だからこそ、説明してちょうだい。食糧の面で節約できたのは見れば分かるわ。けど、それだけじゃこれだけの物資は買えなかったはずよ」
「なんか圧迫面接みたいだなぁ……」
何かよく分からないことを呟いた男は、ゴホンと咳払いをすると急にキリッと凛々しい表情になって説明し始めた。
「はい、基本的には値段交渉を行いました。まず食糧品の類ですが、実は少し前まで八百屋で働いておりましたので、その伝手を頼ることで格安で仕入れることに成功しました。ですので、次回以降は使えないものだと思っていただけると」
な、なによ……さっきまでオドオドしてたのに急にハキハキと喋って。
更に男は続ける。
「《聖石》につきまして、実は市場に出ているものより教会で直接購入したほうが二割ほど安くなります。王国であればこのシステムはどこでも変わらないので憶えておくと良いと思います。そして……その、皆さんツッコまれていないようなんですが、敢えて購入しなかったものが火打ち石と飲料水でして」
「「あっ」」
「……!!」
思いっ切り確認忘れだった、とあたしとユウリはお互いに顔を見合わせて渋面を作った。
ファウは「言ったのに!」と言わんばかりに鎧をカシャカシャして存在をアピールしていた。
し、仕方ないじゃないの……物資の量だって多いんだから。
一つや二つくらい抜けがあったって……ハァ……あたしたち、その確認忘れでいくつもの旅を不便に過ごしてきたのよね。
ところで敢えて買わなかったってどういうことかしら。
聞こうとする前に男は言った。
「俺は職業スキルの効果で《生活魔法》というスキルがあります。これは簡単な火を灯したり、飲料水を生み出したりする魔法でして、俺がいればそれらの物資は必要ないかなと思って購入しませんでした」
「………べ、べんり……わたしは調整が利かないから火魔法使うと森に引火しちゃう……」
ユウリがキラキラした瞳で男を見た。
どうやら【賢者】として男の使える魔法は彼女の琴線を刺激したようだ。……確かに聞いたことのない類の魔法ね。
かなり有用なのは間違いないけれど。
まあでも戦闘向きじゃないのは聞いていれば分かる。
本当に雑用特化なのかしら……。
「……ということでこの程度の出費に抑えることができたんですが……ど、どうですかね? 俺は合格ですか……?」
くっ……悔しいけど有能ではあるようね。
ふん、少しは認めてやらないでもないけど……どーせすぐに馬脚を表して泣き言を言うに決まっているわ。
男なんて根性無しの軟弱者なんだから……そうじゃなきゃ……そうじゃなきゃ
◇◇◇
Side イッチ
な、何とかパーティーに入れてもらえた……。
【家政夫】の職業授かった時は危うく天に向かって中指立てるところだったけど……【勇者】のパーティーに加入できたのは魔王を倒さなければならない俺にとってデカい。
よぅし、戦闘では貢献できないんだし全力でサポートを頑張るぞ。
次も小説パートな模様
お気に入り、評価いただけると励みになります!