貞操逆転世界で勇者パーティーの雑用やってます 作:銀髪を登場させないと◯ぬ呪い
Side イッチ
要は今回の遠征は俺に課せられた試練みたいなものだ。
なぜかカレンさんには目の敵にされてるし、ユウリさんは庇ってくれてはいるものの、それはあくまで俺が有能だったら、という前提がある。
ファウさんは……分からないけど敵対的ではないと思う。
……ふぅ、いずれ冒険者にならないと、って思ったから片っ端から本を読んだり、冒険者の人に聞き込みをして知識だけは死ぬほど付けてきた。
知識は絶対に武器になる。
特に戦闘力が雑魚でしかない俺にとっては、知識こそが唯一戦うための武器になり得る。
今回俺がすべきことは自分の知識と【家政夫】のスキルを使って有能であるとアピールすること。……頑張らないとな。
「……設営ポイントはここで良さそうですね。見晴らしが良くて、魔物の足跡が無い。近くに引っ掛かりの多い木もありますから、万が一の時は登って逃げるくらいのことはできます」
「もう野営の準備するわけ? ある程度目標の魔物を倒したらその場で設営すれば良いでしょ? 戻ってくる手間が省けるし」
「その場所が野営に適した場所である保証は無いので。事前の会議でユウリさんが追跡魔法を使用できることが分かりましたし、この場所に戻ってくることは容易いでしょう。それに《聖石》があれば
その場所その場所で野営準備をするのはある意味冒険者らしいし、街を仮拠点にしているわけじゃなければ俺も賛成していると思う。
でも今回はあくまで遠征だから行動範囲が限られている。
となると、野営をする場所を見定めて俺が設営などなど全ての雑務を引き受けた上で、みんなが帰ってくるのをご飯作りながら待っているのが一番効率良いんじゃないかなと思った。
多分戦闘に付いていくのは本当に無理だと思う。
体力的にも実力的にも。
次の街へと移動する旅だったら、体力管理のためにペースは速くならないけど、魔物を狩り尽くす勢いで移動する遠征だと正直自信はない。
「まあ分かったわ。じゃあユウリ、追跡魔法お願い」
「ん、りょーかい」
ユウリさんが軽く手を振ると、小さな光がぽわわ〜と現れて俺の胸に吸い込まれるように消えていった。
特に違和感はない。これが追跡魔法なのだろうか。
こんなに簡単に発動できて、魔法をかけられた側も違和感が無いとなると……簡単にストーカーとかできちゃうんじゃ……。
い、いや、みんなは男嫌いだって話だしそんなことをする意味も必要もないか。う、うーん、こういうことを考えすぎちゃうのは前世でゲームとかアニメに触れすぎたからなのかな。
ここは現実なんだからちゃんと切り替えないと。
「それじゃあ行ってくるわね」
「ええ、お気をつけて」
ファウさんがカシャカシャと音を鳴らしながら手を振ってきたので、俺も笑みを見せながら手を振り返す。……良い人だ……。
「よーし、準備しまくるぞ」
◇◇◇
Side カレン
「あ゛ー、流石に疲れたわね。流石にBランクの魔物相手だとそこそこ骨が折れるわ」
「ちょっと強かった」
「むしろピンピンしてるファウがおかしいのよ……誰よりも魔物の攻撃を受け止めてるのに」
ファウはふふーん、と鎧を鳴らして自身の健在をアピールした。タンクとして優秀すぎるのよねぇ……。
「アイツはちゃんと仕事してるのかしら。変なとこで野垂れ死にしてなければ良いけど」
「設営は終わってると思うから……ぼーっと待ってるんじゃない……?」
「ふん、楽な仕事で良いわね」
あたしたちだって時間はかかるけど設営くらいできるのよ。
寝苦しいし汗も流せないから寝心地は悪いけれど……。
でも野営ってそんなもんでしょ? 確かにコンディションは徐々に悪くなっていくけど、こんなものは冒険者だったら皆経験している苦労のはず。
たかが雑務で人を……それに男を雇うだなんて、あたしからすれば不要なことよ。ユウリもすぐに考えを改めてくれると良いのに。
そんなことを考えながらユウリの追跡魔法に従ってあの男が定めた拠点に戻っていく。
空は茜色で、まもなく闇の帷が落ちる頃。
丁度着く頃には真っ暗闇になっているんじゃないかしら。
「見えたわね……って、何だかいい匂いしない?」
「くんくん。……じゅるり」
「……!!!」
眠たげな瞳をカッと開いてヨダレを垂らすユウリ。
ファウは今にも小躍りしそうなほど鎧の音を鳴り響かせていた。
……ふ、ふんっ、あたしたちの帰りに合わせてご飯の準備をしていたのね。良い心がけじゃない。
「で、でもこんなことじゃ認めてあげないんだからっ」
「いきなりどうしたの」
「なんでもないっ!」
ずんずんっ、とわざと足音を鳴らして戻ると、あたしたちに気づいた男がホッと胸を撫で下ろして笑顔で出迎えた。
「良かった、無事だったんですね。──お帰りなさい」
「「「…………っっ」」」
──お帰りなさい。
刹那、頭によぎったのは幸せだった頃の家族の記憶。
……そんな言葉、いつぶりに言われたんだろう。
無事を喜んでくれたことも、もう色褪せた記憶の中でしかない。
思わず口元がむにゅむにゅ、と動いてしまった。
み、認めないわ!! 男はすぐそうやって言葉で丸め込もうとするんだから……!!
「ちゃ、ちゃんと準備できたんでしょうね!? 今から全部チェックしてやるわ!! ユウリ、ファウ、見るわよ!!」
「う、うん……」
「!!」
あたしと同じように惚けていたユウリとファウは、何かを誤魔化すようにあたしの後を慌ててついてきた。
振り返って男を見ると、彼はあたしの言葉にまるで傷ついた様子なく煮ていた鍋の様子を楽しそうに見ていた。
……なんなのよ、この男。
◇◇◇
「完璧……悔しい……」
三人揃って穴が空くほどに色々な場所をチェックして回ったけど、何とも悔しいことにどれも完璧……というか全てが高水準な準備だった。
寝所のテントの中は高級ホテルの一室がごとく整えられた毛布と枕が設置されていて、いつも寝れないけどこれなら寝れそうだ。
……というか荷物が嵩張るからいつもは簡素な寝袋だったけれど……男のポータルは思っているよりも物が入るようだ。
そしてあたしたちが置いていった自分の道具類もしっかり配置されていた。
テントから出たあたしはそこで、傍らにかなり小さなテントが設置されていることに気がついた。
「このテントはなによ」
「ああ、これは俺用のテントです。《エコバッグ》にまだ空きがあったので入れることができました。いやー、地べたで寝ることも覚悟していたので良かったです」
「一緒にテントで寝れば良いじゃないの。──言っておくけど、あたしたちはホントの男嫌い。あんたを襲うつもりなんて微塵も無いわよ」
たはは、と笑う男にしっかりと釘を差していく。
どうせ自己防衛で……とか言い出されるだろうし、その前に言わないと……と思ったら、彼はきょとんと目を丸くして言った。
「え……? いや、俺はまだ皆さんの本当の意味での仲間ではないので。仲間うちだけで共有したいこともあるでしょうから……と思ったのですが……すみません、カレンさんの言っていたことは全く何も考えてませんでした」
「……っ」
な、なによ!
これじゃあ、まるであたしがバカみたいじゃない!!
は、恥ずかしい……と顔を覆うとした瞬間、男はいきなり頭を下げて言い放った。
「すみません、先に言っておきますがこの話を深掘りするつもりはないです。──ファウさんのこと……手前勝手な予想で申し訳ないのですが、何か人前にお顔を晒したくない事情があるのかと思いまして。話を聞いている限り、カレンさんやユウリさんであれば大丈夫なように見えました。ですから、尚更仲間として認められていない俺がその場にいるのはダメでしょう」
「「──ッ!!」」
ユウリが目を見開き、ファウは呆然と立ち尽くした。
いやっ! 本当に勝手な予想ですがっ! とバツの悪い表情でワタワタと慌てる男を見て──あたしは今まで男というだけで彼に勝手なレッテルを貼っている自分が恥ずかしいように思えた。
「……っ、でも」
──それでもやっぱり、あたしの過去が邪魔をする。
父だけがそうだったなら、父だけがあんなに醜かったのならば、あたしはここまで男を毛嫌いすることもなかった。
でも、これまでの旅で出会った男は皆同じだった。
初対面で、まるで値踏みされるように見られる。一見人好きな笑みを浮かべておいて、あたしの価値を勝手に測っていた。
【勇者】の職業を授かったと言ってみれば、パッと瞳を輝かせてすり寄ってきた。
どいつもこいつも、あたし個人のことを見ようともしない。
それからあたしは男に期待することをやめた。
期待しても良いことなんて無いから。最初は優しくても、自分に利をもたらす存在でないと分かれば速攻で切り捨て、そうでなければすり寄る。
そう考えると、母が死んでもあたしを育ててくれた父のほうがまだマシかもしれないなんて……滑稽でしかないわ。
まあ、それでも村の人の支援が無ければあたしのことを捨てていただろうけど。
……信じられない、男なんて信じられない。
けれど同じくらい、彼が見せた誠意を無碍にすることは憚られた。
疑念はある。それをこの短い期間で晴らすことはできない。
でも……少なくとも誠意には誠意で応えたい。
「ファウはあたしたちの前でも鎧を脱ぐことは無いわ。この鎧も魔道具の類で、中はそれなりに快適らしいのよ。……だから、気にすることないわ。……あんたがファウに何も聞かないことは……その、礼を言っておくわ」
「誰にでも触れられたくない過去はありますよ。俺だってそうです。……この話はやめにしてご飯にしましょう! 口に合うか分かりませんが好きなだけ食べてください」
ファウのことについてあたしたちが知ってることは多くない。
彼女があたしたちの前でも鎧を脱ぐことは無いけれど、本当は一回だけ素顔を晒してくれたことがある。でもそれは彼女の秘密に触れることだから、彼には言えない。
それに彼もこれ以上触れる気はなさそうだ。
……とりあえずご飯にして、それから改めて話し合って彼をパーティーの一員にするか決めましょう。
まあ、あたしとしては今のところ50%くらい入れても良いとは思うけれど……少なくとも何か害意を持った瞬間にあたしが叩き斬るし、彼は能力で誠意を示した。
あたし個人の感情でそれを否定するわけにはいかない。
でもこれでご飯が不味かったら話は無しよ。
携帯干し肉よりも美味しくないと困るもの。
「「ウッマ」」
「!!!!!!!!!!!」
こうして男──アキはあたしたちの正式な仲間になった。
べ、べつにご飯が美味しくてつられたわけじゃないし……どのみちあたしが否定してもユウリとファウは賛成してたから、賛成多数で通ってたし……。
次回掲示板回
とりあえず小説パートで毒食らうとこまではなるべく手早くいきたい。
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