Side ユウリ
「……ん」
ふと、目が覚めた。
目を擦りながらもう一度寝ようと毛布に包まったけど、なんだか目が冴えてしまってまったく寝れない。
朝一番に起きるファウがまだ寝ているということは、きっとまだ夜更けすぎの頃合いだろう。
「……起きよう」
こうなってしまってはあまり寝れない。
アキの加入で生活の質が上がってから、こういう風に夜中に起きることは無くなったはずなんだけど……こういう日もあるか。
わたしはそう判断して毛布に包まりながらテントの外に出ると、隙間風がびゅうっと吹いてきて、芯から震えるような寒さが身を伝った。
「うぅ、さむい。戻ろう……」
どうして外に出たのだろうかと、数秒前の自分を恨みながらテントの中に戻ろうとした時、不意に隣にあるアキのテントからカチカチと歯の鳴る音と、浅い息遣いが聞こえた。
「まさか……」
嫌な予感がして急いで中に入ると──そこには、わたしたちが前まで使っていた麻布の薄い布切れに身を包みながら寒さに耐えているアキの姿があった。
「なに、してるの」
「……ぅぁっ、ゆ、ユウリさん……?」
真っ青な唇を震わせながら動かすアキに、わたしは困惑と怒りを覚え──とりあえずそれどころじゃないと、わたしを包んでいた毛布をアキに被せる。
微かな抵抗はあったけれど、寒さで力を失っているアキ相手に言うことを聞かせるのは簡単だった。
「……ユウリさん、どうして」
「それはわたしのセリフ。なんで毛布が無いの」
毛布の温かさで少し回復したアキがそんなことを聞いてきた。
わたしがジト目を向けながら聞き返すと、アキはバツの悪い表情を浮かべて──いつもみたいに作り笑いを浮かべる。
「あ、あははっ、すみません。ドジこいちゃって前の街に忘れてきちゃったんですよね。皆さんにバレるのが恥ずかしくて……」
「嘘、つかないで」
「嘘だなんて……」
「あの毛布、材質含めて見たことがない。きっとアキの私物でしょ。それに……三人分しか元々無かった。違う?」
……多分アキはこれまでも、わたしたちにあの毛布を使わせて、自分だけはこの無いに等しい麻布のボロキレで耐え過ごしてきたに違いない。……そっか、だから自分だけは違うテントで。
「……ユウリさんはまるで心が読めるみたいですね」
「……っ」
思わずドキッとした。
でもアキの表情はわたしを糾弾するようなものではなくて、どことなくわたしたちに対する後ろめたさを隠したがっているような表情だった。
「……このパーティーの中で、倒れても戦闘に支障がないのは俺だけです。カレンさんはメインアタッカー。このパーティーの火力を支えています。ユウリさんはアタッカー兼サポーター。その慧眼と経験から来る支援は、カレンさんの注意力の欠如という弱点を完璧にカバーしています。ファウさんはタンク。言うまでもなく必要な人材です。──そして俺は【家政夫】。これも、言うまでもないでしょう?」
またしても自分を卑下するような言葉に、わたしは胸の奥をチクリと刺されたような痛みが広がるのを感じていた。
……アキの言い分は決して間違っていない。あまりにも合理的で、無駄がなくて──道徳心に欠けている。
だからこそ、わたしはアキの瞳をしっかり真正面から見て言い放つ。
「わたしたちは仲間。足りないところはカバーして補う。アキの戦闘力の無さは、日々の献身で補えている。戦闘においてはアキがわたしたちを必要とするように、日常の生活で、わたしたちはアキを必要としてる。
──このパーティーに、いなくて良い人なんていないよ」
「────ッ」
ハッ、と彼はわたしの瞳を見返した。
……この言葉が言えるようになるまで時間がかかった。わたしはただ、自分はいなくても良いと卑下し続けるアキのことが許せなかった。
「……ユウリさんは、優しいですね。本当に──残酷なくらいに。俺が欲しくてたまらない言葉を、そんな簡単に言うんですから」
悲しさと嬉しさが入り混じったような声音で彼は言った。
沈んでいた表情は少し晴れやかになっていて、わたしの言葉がアキの助けになったことが、わたしにとっては何よりも嬉しかった。
「ははは、ユウリさんって本当に心が読めたりするんですか?」
冗談混じりで言った彼の言葉に──わたしは勇気を振り絞って頷いた。
「ねえ──本当にわたしが心を読めるって言ったらどうする?」
「えっ、ギャンブル無敗じゃん……とかめちゃくちゃデリカシー無いこと思っちゃいます……すみません」
……なんか思ってたのと違う答えが返ってきちゃった。
◇◇◇
わたしはアキに自分のことを話した。
生まれた時から周りの心の声が読めてしまうこと。それが原因で村八分にされ、唯一の味方だった母親を病気で亡くしたこと。
旅を続ける中で人間不信に陥ったこと。それでもカレンとファウという大切で信頼できる仲間を見つけたこと。
そして──アキの心の声がなぜか読めないこと。
それらを一つずつ話していく。
アキはジッとわたしの話を聞きながら相槌を時折打った。
「……そうだったんですね。話してくれてありがとうございます」
「うん、こちらこそありがとう。……ここまで詳しく言えたのはアキが初めて。カレンもファウも、心の声が聞こえちゃうから少し、怖くて」
この話を聞いてアキがどう思ったのかはわたしには分からない。その口から発せられる言葉が本音かどうかすら知らない。けど、それが本音だって信じることが"信頼"なんだと今では思う。
だからわたしは覚悟を決めて彼の言葉を待った。
「……俺の心の声が聞こえない理由は分からないです。多分、聞こえてたら色々とやかましいと思うので。……さっきのギャンブル云々っていうのは半分冗談ですけど、俺がこの話を聞いて言えることはそう多くありません」
「うん、何でも良いから言ってほしい」
アキはすぅと息を吸って言った。
「……俺はユウリさんの歩んできた道程を想像することは難しいです。ですから、その力のことを一概に肯定することも否定することもできません」
「うん」
「でもきっと、お母さんにとっては心を読める力なんてどうでもよくて、ユウリさんの存在そのものが【祝福】だったんでしょうね」
「わたしの存在が祝福……?」
そうだったのかな。
わたしを生んだことで、母も村の人からの迫害の対象になってしまった。心の声で母はわたしに対する恨み言なんて一度も言ったことがないけれど、心の声を制御して隠していた可能性も捨てきれない。
だって、母は何も悪くない。
こんな力を持って生まれてしまったわたしが──
(どんなあなたでも、大好きなんだよユウリ)
……ちがう。あの言葉に嘘はないから。
母はわたしという存在まるごと愛してくれた。
「──願わくば、あなたの力が祝福でありますように。……この言葉はきっと、ユウリさん自身が
「………っ!」
アキの言葉は、幸せだったあの頃の母を思い出させた。
……あぁ、言いそう。母ならきっと。
わたしは瞳を閉じて思い出に浸る。
「……うん、そうだったら良いな」
◇◇◇
「あの……どうしてこうなったんですか?」
「わたしも寒いから。毛布だけじゃ限界だから魔法も使う。《炎球》」
「いやでもわざわざくっつかなくても良いんじゃ……」
「……? どうして? こっちのほうが効率的、でしょ?」
「っ、俺の心の声を読めたら離れたでしょうね……!」
「本音を言って。アキの言葉ならわたしは真意を疑わないから」
「くっ……恥ずかしいんですよ……! 女性と密着する経験なんて一度もありませんし……」
「?? どうして男の人が恥ずかしがるの? 嫌な気持ちになるなら分かるけど……もしかして嫌?」
「嫌なわけないじゃないですかぁ……ああ、こればっかりは世界が憎いな……伝わらない」
「嫌じゃないなら、朝までこのまま」
ぎゅっと彼の腕を掴む。
……その瞬間、なぜか心の内側からムズムズする謎の感覚に襲われて、わたしははたと首を傾げた。……なんだろう、この感覚。
悪いものではない気がするけど。
わたしがアキのことを
……わたしはどうにもそれを無くしたくなくて、もう少しだけアキとの距離を縮めた。
◇◇◇
Side アキ
なぜか銀髪美少女と一緒に毛布で暖を取ってる件について。
貞操逆転世界なせいで俺が恥ずかしがっても伝わらないし、俺に対して微塵も警戒心が無いんだけどなぜに??
いやそうかあるわけないか。
この世界で警戒するべきは俺の方だもんね。
……うぅむ、悪い気はしないけどシンプルに照れる。
さっきの一件で心の距離はぐっと縮んだ気はするけど、こんなことで信頼してもらえたとか勘違いするんじゃないぞ俺。
身の程を知ることから人間関係は始まるからな。
特に、折角胸の内を明かしてくれたんだから、それに甘えて調子に乗ることは絶対に許されない。
ああ、にしてもそうか、ユウリさんって心の声が読めるんだ。確かにファウさんとも意思疎通が取れてるように見えたし、色々と疑問が氷解した気分だ。
「………………」
────少し、俺の心の声は聞くことができないと聞いてホッとした。俺はまだこのパーティーにいることができそうだ。
本当に良かった。
俺が奴隷だったとバレなくて。
凄まじい低評価爆撃食らってるんだけど何事……?
引き続き、(お気に入り高評価感想ここすき)の4大欲張りセットは執筆のモチベになるのでよろしくお願いいたします!!!
次話は掲示板です。