無個性でヒーロー!? できらぁ! 作:にょわ
雄英体育祭、当日。
表での喧噪が嘘のように静かな生徒控室で、ひとり自分の心臓の音を聞いていた。
「ふぅ」
ひとつ、息を吐く。
胸に手を当てると、とく、とく、とく、とく……とほんのわずかに高鳴っている鼓動を感じた。
「ふぅ……」
ふたつ、息を吐く。
耳を澄ませば、うっすらと歓声がここまで聞こえてきた。
「ふぅ…………」
みっつ、息を吐く。
一度全員の力を抜いた後、ぐっと拳を握る。
……うん、いい緊張感。
「あっ架沙音! まだ
「ん、今行く」
やってきた幼馴染に返事をし、席を立つ。
ちらっと時計を見ると、もう集合時間の5分前だ。思ったより熱中しすぎたな。
「ねぇデク」
「うん?」
ゴムソールのスニーカー特有のきゅっ、きゅっ、という靴音の響く中、デクの方は向かずに
「頑張ろうね」
「……うん!」
ふふ、あのデクとこんな風に決意を確認し合うなんて、一年前の私に言っても信じないだろうな。
ぱちんと両頬を軽く叩き、気合を入れ直した。
「よっしゃーー!! いくぞーーーーー!!!」
「わっちょ、ちょっと架沙音!?」
デクの手を取り、走り出す。
まだなーんも始まってないのにもう楽しい! っはー緊張するーーー!!
■□■□■□■□
「とーちゃーーく」
てくてくとデクとダンデムすること早30秒、入場待機場であるゲート前広場に辿り着く。
おててをぶんぶん振りながら移動してたからかめっちゃ女子ーズに詰められたりしながらキャッキャウフフとご歓談していると、やけにうざったらしい表情をした男子が絡んできた。
「おやおやおや、随分とギリギリの登場だったねぇ入試主席ぃ! てっきり僕らB組が怖くて逃げだしたのかと思ったよぉ!」
「一緒にすんなし、ごめん架沙音、このバカ止められなかった」
ヒーロー科1年B組物間くんに同じくB組苦労人拳藤ちゃんじゃん、相変わらず若干一名対抗心剥き出しだねぇ。
それはそれとして売られた喧嘩は勿論買う。いっとくけど私は(かっちゃん相手に)レスバで796戦796勝(私調べ)のディベート王架沙音未来ちゃんだぞ?
「まっさかそんな~! 私は君達みたいに生き急いでないからさ、何事にもあるんだよね~~、余裕ってやつ」
「おいおい大丈夫なのかいそんなに余裕ぶっこいて! 君達随分警戒されてるみたいだけど、1学年丸ごと相手にする気かい?」
「あはは!
「……ぐぅ」
ぐぅの音出たー!!
ぐぬぬ顔の物間くんの横では六花ちゃんが"ほんとにうちの馬鹿がすみません"という苦しげな顔と"よくぞ言ってくれた"という誇らしげな顔と"舐めやがっててめぇ"という憎々しげな顔が混ざったよくわかんない表情を浮かべている。
ふふん、まずは前哨戦勝利かな。
「おい、架沙音」
「轟くん?」
今度は何々? 始まる前から千客万来じゃんか!
「さっき緑谷にも行ってきたが……お前にも、絶対勝つ」
……びっっっくりした、ここまでまっすぐ敵意ぶつけられるなんて思わなかった。
No2ヒーローの至宝、"強個性"の権化……そんな轟焦凍くんに因縁をつけられ、私は……。
「ーーっ! いいね最高だよ
あふれんばかりの喜びを、全身で表現する。
やっぱ宣戦布告ってのはこうじゃなきゃ! ね? 物間くん? と目を向けてやれば、思惑は伝わったのかとんでもないキレ顔を見せてくれた。
あはは、かっちゃんみたい。
「あぁわかったよやってやろうじゃないか架沙音未来! 病み上がりの所悪いが
クールな轟の熱さに当てられたのか、物間くんからもさっきまでの"みんなの代表"みたいなツラはなりを潜め、その顔からは覚悟と確かな自負心が伝わってくる。
『さあ、お待ちかねだろマスメディアども! なんだかんだ言って、お前らのお目当はこいつらだろぉ!?』
そこで、プレゼントマイク先生の出囃子が耳に入る。
同時に入場を促すスタッフさん。
……始まるなぁ、ついに。
「轟、あとついでに物間くんも」
「おう」
「はぁ!?」
折角熱い挑戦状
『本物の悪意と対峙し、しかし決然と立ち向かった期待の新星ッ! 一年、A組だろぉおおおお!?』
緊張で"
「返事は選手宣誓でするから、楽しみにしててね!」
にししっと笑いそう告げた後、入場ゲートを潜る。
暗い地下から外に出たことで一瞬視界が白飛びし、瞬きの後には……世界が変わっていた。
「……あはっ」
足元には青々とした人口芝とオレンジ色のトラック、少し視界を上げると見える観客席には見渡す限りの人が詰まっている。
会場は割れんばかりの歓声に包まれ、世界が私を祝福しているんだと錯覚するほどの高揚感を覚えさせた。
『イェア! 天地揺るがすこの大歓声! オレも負けてられねぇなぁ! 続いて同じくヒーロー科、一年B組の入場だ!』
引き続きプレマイ先生のアナウンスが続くが、正直あまり耳に入らず、ただただ体に満ち満ちる高揚感に身を委ねる。
『そして普通科C、D、E組! サポート科F、G、H組! 経営科I、J、K組も入場ぉ!!』
訂正、あまりにも露骨な偏向報道は流石に耳に入った。
□■□■□■□
あの後プレマイ先生によるさっきの偏向報道の
「おい架沙音」
校長先生のありがたーいお言葉が続く中、奇跡的に隣だったかっちゃんが小声で話しかけてくる。
なんじゃらほいと視線だけ向けて返事をすると、彼はなんとも
「今度は俺が一位になっからな」
「……三番目の男」
「なにがだクソボケ!」
本日3人目の宣戦布告、ん~~~架沙音ちゃんモテモテで困っちゃうな~~!
入試一位とは言えこんな無個性女にみんな敵愾心剥き出しにしちゃって……かわいいなぁほんと。
『選手宣誓、入試主席、1年A組架沙音未来さんお願いします』
「はい!」
司会のミッドナイト先生に促され、小さなお立ち台に上る。
中継用のドローンにより私の姿がドアップでモニターへ映されているのを確認してから、右腕を高く掲げた。
「宣誓! 我々雄英高校一年生一同、スポーツマンシップに則り正々堂々競い合うことを誓います!」
私の学生らしい爽やかな宣言が会場に響き渡り、割れんばかりの拍手が鳴り響く。おいかっちゃん、舌打ち聞こえてるぞ。
『架沙音未来さん、ありが』
「さて」
ミッナイ先生の言葉を遮り、言葉を続ける。ごめんね先生。
……ほんとは、これだけで終わるつもりだったんだ。
ここからの台本を用意しているわけでもないし、何を言うか明確に決まっているわけでもない。
「えーー、コホン」
でもさぁ……あんな風にアッツい気持ちぶつけられたら……楽しくなっちゃうに決まってるじゃんか!!
「私、"無個性"なんです」
突然語りだした私に、その内容で、会場にどよめきが広がる。
私が普段色んなサポートアイテムどったんばったん振り回していることもあり、私が無個性と知ってる人は意外と少ない。
知ってるのはA組のみんな、それに対抗心メラメラのB組、今後のプロデュースのためヒーロー科のことを調べている経営科、明ちゃんのとこにしょっちゅう突撃しているせいで色々バレてるサポート科……あれ? 意外と多い? てか普通科以外みんなしってる??
……ま、まぁいいや。
「その私がここにこうして立っている意味……わかるかなぁ?」
にまーっと口を三日月型に吊り上げ、後ろの生徒たちの方へ振り向く。
「無個性以下の皆さ~~ん♡ カッコイー個性ひっさげてそれって、恥ずかしくないんですか~~♡」
一瞬、静寂。
いや一瞬じゃないな、結構静寂。でも構わず続ける。
「私、普段はサポートアイテム使いまくって戦うんですけど、それじゃあみんなが勝てなくて可哀そうだからさぁ……決勝まではサポートアイテム、封印しま〜す!」
……正確には持ち込め許可が出たサポートアイテムが『身に着けられる分』だけだから、決勝で戦うだろうやつらを考えたら序盤じゃ使えない、ってだけなんだけどネ。まぁ物は言いようってやつ?
「悔しかったらつよ~い個性で
あはは! 言っちゃった!! やっばいなこれ後で絶対イレ先にドヤされる!
やっとここまでの言葉を飲み込めたのか阿鼻叫喚になる生徒たちを尻目に、観客の方へ向き直る。
「さて、会場の皆さん、この中継を見ている皆さん!」
カメラどこ? そこ? よし見つけた!
「皆さんの中には、私と同じように無個性の人もいるかもしれない。それを理由で虐められてる人だっていると思う……」
一度言葉を切り、大きく息を吸い込む。
……やっと、やっと言えるんだ。
「だいじょーぶ!!
私自身が道導になる。個性の有無を理由に未来を諦めてしまった人に、それを理由に努力を辞めてしまった強く在れなかった人たちに。
こうすればいいんだよって、こんな風になれるんだぞって、道を示す。
「私は! 無個性でもヒーローになれるって証明するためにここに来た!」
さっきのメスガキ煽りはヒーローとしてどうなの?という意見は一旦聞かないことに!
「宣誓、私が一位になる!」
あらためて、最低最悪の宣言を言い放つ。
さて、だいぶ長引かせてしまった演説を締めるとしよっか……気持ちキリっとした顔からにぱっとした笑みに切り替えてと。
「以上です、ありがとうございました」
今度こそ、一瞬の静寂。
私の柄じゃないなりに頑張った熱い演説が民衆の心に響いたのかどうか……その結果は。
『『『ワァァァァァ!!!!』』』
会場全体どころか近隣一体に響くんじゃないかという程の万雷の喝采が、何よりの答えだろう。
『おい架沙音、お前
「…………はぁい」
その後、わざわざ全体放送でちゃんとイレ先にドヤされるのでした。ぐぅ。
なんだかんだ幼馴染2人に影響受けまくってる架沙音ちゃん可愛い。可愛くない?