無個性でヒーロー!? できらぁ!   作:にょわ

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"天才"

「うっし、それじゃ行ってくるわ」

「よろしく頼む、上鳴くん」

 

 デクと轟の決着の後、控室へ向かう上鳴と委員長をいってらっしゃいした後、どっちが勝つんだろーねーとみんなで予想大会をする。

 そういえば、二回戦からは試合間のインターバルが長めに取られているため、前の試合を見終わった後に席を立っても間に合うらしい。

 

 …………神……!!

 

 本当にありがとうイレイザーヘッド……いやこーちょーせんせー?

 

 いつだって雄英高校は私達の夢を叶えてくれる。雄英高校という生徒たちの小さな国……夢の国と名付けよう。ダメ? ダメかぁ。

 

「このマッチアップめっっっちゃ面白そうだよね! ヤオモモ!」

「そうですわね、どうなるか全く読めませんわ」

 

 私がA組の知識人担当、あたまもおむねもおっきなヤオモモに話しかけると、なんだなんだと周りが頭を寄せてくる。

 あっちょっと峰田くん寄り過ぎかな~~、ちょっと離れよーねー。

 

「なになに、個性的な相性の話?」

「いや、体術じゃない? アタシとのバトルで上鳴が近接めっちゃ強くなったってわかったし」

 

 透ちゃんと耳郎ちゃんが、それぞれの考えを述べるけど……むしろ。

 

「むしろ逆ですわ。相性が良すぎる(・・・・)のが問題なんですの」

「えっなにそれ! 有利ならいいんじゃないの?」

 

 期せずして脳内の私と被ったヤオモモの言葉に、興味津々とお茶子ちゃんが食いつく。

 ふふん、仕方ないなぁと重い腰を上げようとした瞬間、明ちゃんの瞳がキランと光った。

 

「説明しましょう!」

「知ってんのか発目ェ!」

 

 瀬呂くんノリよ。

 

「みなさん、ご家族の車で何かしらの移動をしたとき、ガソリンスタンドに立ち寄ること、ありますよね?」

「「「あるある~~」」」

 

 みんなノリよ。

 

「そこでお手伝いをする時、給油の前にやらなければならないことがあります……何かわかりますか?「はい!」はい芦度さん!」

「支払い!」

 

 ブッブーーーー。

 明ちゃんがいつの間にか持っていた赤いボタンを押すと、同じくいつの間にか持っていたポータブルディスプレイにでかでかと"×"と映り、不正解を知らせるSEが鳴る。

 ほんとにいつの間に……。

 

「とはいえたしかにそれもしなければいけませんね、部分点を差し上げましょう」

「わーい!」

「あっ俺わかったわ! はい!「はい切島くん!」静電気除去シート!!」

 

 一瞬の静寂。

 そして次の瞬間……。

 

 ピンポンピンポンピンポーーーーン!

 

「正解です!」

「っしゃー!」

 

 いつの間にかモニタサイズが倍になっていたディスプレイにさらに大きく"〇"と表示され、いつの間にか背負っていた巨大スピーカーがけたたましくファンファーレをかき鳴らす。

 ホントにいつの間に!?

 

 あ、まずい。放送席からとてつもない視線を感じる……このままじゃ、会場から物理的に"抹消"される……!

 

「え~、コホン。具体的にいいんちょの"エンジン"が何を燃料としているか、についてはまだ詳しくわかってないけど、あのマフラーから炎のようなものが出ている以上、なんらかの燃焼反応が起こってるとみるのが自然だよね」

「えぇ、流石未来さん!」

 

 ふふ~ん、そうだろうそうだろう。ほら、もっと褒めるがよい。

 頭をぐいぐいと明ちゃんに押し付けると、なでこなでこと頭を撫でてくれた。

 わひゃー!

 

「てことは、上鳴くんの"電気"は"エンジン"に有利ってこと?」

 

 よくわかってないけど、という副音声が聞こえてくる三奈ちゃんの疑問に、ヤオモモが答える。

 

「えぇ、電流によって内燃機関になんらかのダメージが発生するのは間違いないでしょうね。最低でもショートによる機能停止でしょうか」

「最低でも!? じゃあ絶対勝てるじゃん!」

「それがそーもいかないのよ、だって仮にエンジンを動かすガソリン的なエネルギーがいいんちょの全身に貯蔵されてるモノだとするじゃん? じゃあそのガソリンにマフラーから、或いは皮膚を介して電流が流れて点火しちゃったら?」

 

 その場面を想像したのか、顔をサーっと青ざめさせるA組諸君。

 誰も言葉を発せない中、お茶子ちゃんが満を持して言葉を絞り出した。

 

「爆轟くんする……ってこと?」

「「「ぶふぉっ!」」」

 

 お、おちゃこちゃ……いやそりゃBOMB! ではあるけど、ば、爆轟く……ふっ、くふふっ……ヤバ変なツボ入った……。

 

「丸顔テメェ!? んだその言い方ァ!」

「マジィぞ麗日、爆轟が、爆轟して……ぶふっ!」

「しょうゆ顔ォ! テメェもノってんじゃねぇぞボケェ!」

 

 みんなの腹筋が大かっちゃんして悶え苦しむ状況は、二人の試合が始まるまで続いた。かっちゃんはずっとかっちゃんしてた。

 

□■□■□■□

 

 いやまぁ全然笑いごとじゃないんだよね、うん。

 改めて電気に物理やらせといてよかったと心から思った。なんかあってからじゃ遅いし。まぁ今回のは物理ってよりは化学よりだけど。

 まぁ個性由来のものだし自然界由来の完全な"電気"とも工業製品として出回っている"エンジン"とは完全に同じものってわけじゃないから大丈夫、だとは思うんだけど……もしもが怖いからね。

 アホ(うぇい)なままの電気だったらよく考えず電気ビリー! いいんちょカッチャーン! だった可能性もあったかもしれない……、ていうかありそう……というか目に見える……。

 

 勿論生死のかかった戦いだったなら何も考えずぶっぱなしていいんだけど、ここは体育祭で二人は友人同士だ。

 自分への強化くらいはそこから電流が漏れても影響ないと思うが、放出は実質封印されたと言って過言ではないだろう。

 

 丁度舞台に上がって準備が完了した様子の2人を眺め、考える。

 

 さてどうなるかなぁ。

 

「それでは二回戦第二試合、上鳴電気対飯田天哉……試合開始!」

 

 戦いの火花が散った。火気厳禁だけどね!

 

「悪ぃけど飯田、この試合、一瞬で終わるぜ」

「そうか……ではこう返させてもらおう……俺も同意見だ!」

 

 いいんちょがダンっと足を踏み鳴らすと、マフラーがいつも以上に激しく燃えているとわかるほど赤熱化する。

 

「レシプロ……バースト!」

 

 そっかこれがいいんちょの新技か! エンジンを意図的にオーバーヒートさせることによる速度上限の突破! 私の乾坤一擲にも同じ機能あるよ! お揃いじゃん!

 ただ私の場合はあくまで装備が使えなくなるだけだけど、いいんちょのは身体機能の延長線だ。リスクはより大きい……ならその分メリットもより大きくなるとみていいだろう。

 ていうか君達時間制限付きの超強化好きね……勿論私も好きだよ、大好きといってもいい。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 気合一喝、一回戦の響香ちゃんよりさらに速いと感じる間もなく、舞台の端から端の距離を一瞬で0にする。

 

 

 勢いのままに振るわれた脚を……すご、躱した! しかしそれは織り込み済みだったのか、いいんちょは既に体勢を立て直そうと……は?

 

「だから言ったろ? 一瞬で終わるって」

 

 ぱりっ。

 

 超速で振るわれる脚の後ろについているマフラーを掴むという離れ業をやってのけた電気が、電流を流す(・・・・・)。

 

「なっ!? うぉぉぉぉぉ!?」

 

 その瞬間。ただでさえ強烈な燃焼で炎が溢れていたマフラーがさらに激しく燃え上がり、凄まじい勢いで排気を噴き出した。

 まるで自身の推進力を制御できなくなったかのように飯田君がそのまま壁まで吹っ飛んでいく。

 

「アッチぃ……やっぱアレ直につかむのは失敗だったかな」

 

 あまりに速い決着に、会場が一瞬静まり返る。

 その中で火傷でもしたのか、マフラーを掴んだ腕をひらひら振る電気が、何故か妙に浮いていた。

 

「……い、飯田天哉場外! 勝者、上鳴電気!!」

 

 主審の声で試合が終わったことをじわじわと認識しだしたのか、じわじわと会場のボルテージが上がっていく。

 

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

 そして、気付いた時には今日一かと思わされるほどの大歓声。

 私はその光景を、ぽかんと口を開けたまま未だ処理しきれずただただ眺めていた。

 

□■□■□■□■□

 

 気が付いたら電気の控え室の前に立っていた。

 勿論、次が私の試合だからとか、私の戦法上試合前の準備としてどのカプセルを一番取りやすい位置に置くか等を考える必要があるからとか、理由をつけようとすれば幾らでもできる。

 ただ、どれもしっくりこなかった。

 文字通り、気が付いたらここに来ていた。

 

 急に無言でふらっといなくなったから明ちゃん達心配してるかな、なんて今更考えながら、控室のドアを開ける。

 

「……あ」

「あーーー……えと……きゃっ♡」

 

 丁度着替えている最中だったらしく、今まさにシャツを脱いでいた電気と目が合った。

 

「逆じゃない?」

「いやだったら俺の命がねぇよ、逆でよかったわ」

 

 一瞬変な空気になったが、お互いまぁいいかと気を取り直し、「んで、なに?」と着替えながら聞いてくる電気を尻目に私も適当な椅子に座った。

 

「さっきの試合、どうしてあの勝ち方を選んだの」

「なんで……って、飯田の体に電気流すと何起こるかわかんねぇじゃん? だからマフラー付近にだけ一瞬パリッとやって、排気される前の燃焼ガスに着火すればロケットみたいに反作用ですっとんでくかな~って」

 

 うん、やっぱりそうか……後から言われれば、たしかにと思わざるを得ない作戦だ。

 それに。なにより……。

 

「電気が、難しい言葉使ってる……」

「おい」

「あはは、でもたった一か月前の電気から見て想像できる? 自分が"燃焼ガス"とか"反作用"とかの言葉使ってるの」

「俺、成績びりっけつとはいえこれでも日本一偏差値高い高校受かってんだからな? いやまぁたしかにって思っちまってる自分もいるけどよ……」

 

 うごご、と頭を抱える電気をほほえましく見ながら、ぽつり、ぽつりと感情を言語化していく。

 

「私は、さ……"天才"っていうのは、勉強ができることでも、いろんなことを知ってることでも、初めてやることが一発でできることでもなくて、"できない"を"できる"の組み合わせで"できる"に変えられる人とか、当たり前の"定義"の一歩先へ踏み出せる人、だと思ってる……んだよね」

 

 自分の中でもまだ噛み砕ききれていないことを言葉にしているから、どうしても考えながら出す言葉がつっかえつっかえになってしまうのを歯噛みしながら、それでも、これだけは伝えたいから。

 

 だから明ちゃんは天才なんだ、あの子の中には"これは実現可能かどうか"っていう思考が無い。"面白そう"と"やる"の間に停車駅が一つもない。

 だから私も天才なんだ。既知を基に未知をひとつずつ解体していくのが、私にとっての一番の娯楽だから。

 

「観客席でみんなが何話してたか聞く? "電気は電気を使わずに委員長を倒さなくちゃいけない"。これは推測でも仮定でも無く、前提だったの」

「まじ? いやそれは流石に嘘だって、だってあそこにいたのって……」

「本当だよ、明ちゃんも、ヤオモモも、私もいた……その上で、私達は勝手に"できない"を、限界を決めつけた……ごめんね、電気」

 

 可能性を愛し、限界を嫌悪するこの私が、他人の限界を身勝手に推し量った(・・・・・・・・・・・・・・・・)。

 電気の電流操作の精度っていう要素を、途中式から外してしまった。

 

 ……あぁ、だから私はこんなにも自分の感情が合っているのか不安を覚えてるのか。

 

「ふぅ」

 

 一息。

 

 うん、やっと言語化できてすっきりした。

 いや~生まれて初めて"自分を疑う"っていう行為をしたけど、こんな怖いんだ! びっくりした~ホント。

 

 さて、そもそも私がここに来たのは電気を褒めるためなんだ。ってか褒めるためだったってわかった。

 憑き物も落ちて心晴れやかな気分のまま、素肌をさらしたままの電気の背中をバシっと叩き、とびっきりの笑顔で心からの賛美を送る。

 

「すっっっっごいじゃん電気! あの瞬間、この会場で電気は一番の天才(・・)だったんだよ!」

「……ッ! おう!」

 

 一瞬呆けたような顔をした後、どうだすげーだろと言わんばかりににししっと笑う電気の背中をバシバシと叩き続ける。

 

「いやホントにすごいよマジのガチでめっちゃ! よくあんなの思いついたね! てか思いついてもできるって思えたね!」

「語彙力死に過ぎだろ……ってかそれこそお前のおかげだよ、さっきも言った気がするけど、俺に"勉強しろ"って言ってくれてありがとな、マジで」

 

 いや、それは電気の努力じゃんね、それに"勉強しろ"なんてそれこそ親にも先生にもクラスメイトにも……。

 

「たしかにいろんなやつに言われてはいたけどよ、お前が学ぶ"意味"を教えてくれた……つーか見せてくれたのがやっぱデカかったわ。"知ってる"って自由なんだなって、これをすればこんなことができんだぞって、実際やってみたらこれまで感覚で使ってた個性の解釈が一気に広がった感じあるしよ」

「そ、そっか」

 

 な、なんか照れるな……。

 それに、普通0からの勉強って"やってみる"から"わかる"がたった一か月で変わるワケないんだよ、もとが勉強嫌いなら尚更。

 

「だからってこんなに早く結果には繋げられないんです~~、勉強ってのはかけた時間がそのまま結果に反映されるものだから、これやれって参考書だけ渡されて、まぁ質問には全部アドバイスあげたけど、それでもここまでこれたのは、やっぱり電気がなんと言おうとアンタ自身の努力の結果だよ、そこに私が助けた余地は……ちょびっとしかない」

「ちょびっとはあんのな」

「ふふん、まぁね」

 

 参考書を進める中で"なぜ"をLINE一本ですぐに解消できる人間が横にいるなんて、まぁちょっぴりに含めるくらいはいいだろう。

 

「勉強が楽しいって感じるなんて思わなかったぜ、まじで……ていうかコレやってなかったらマジで何も考えず放電して飯田爆発してたかもって気がしてコエ~」

「あはは、本人ですらそれなのウケる」

 

 そっか……そっか。

 私の背中が、誰かの背中を押してたのか。

 

「じゃ、私そろそろ自分の控室行くから、あ、あとこれ」

 

 ポケットからひとつのカプセルを開いて、中から出てきたチューブを投げ渡す。

 

「なにこれ?」

「火傷用の軟膏、ぱっとみでもそこそこ深そうだから、それ持ってリカバリーガールのとこ行きなよ、絶対」

「まじ? うわ、なんかそういわれたらめっちゃ痛い気がしてきた……」

 

 気付いてなかったんかい。

 

「あ、でも、試合までには絶対客席戻っててね、絶対だよ」

「いいけど、そりゃまたなんで」

「ふふん、ようやく学ぶ楽しさが芽生えた電気の為に、師匠が偉大な背中ってのを見せてやろうじゃないか、弟子一号くん!」

 

 一瞬きょとんとした後、ぶはっと吹き出しながら既に歩き出した私に向けて言葉を返した。

 

「楽しみにしてるぜ、未来!」

 

 ふふ、次の試合、俄然楽しみになっちゃったな。

 後ろ手に扉を閉めながら、さてどうやって常闇くんをけちょんけちょんにしてやろうかなと、思考を巡らせるのだった。




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