無個性でヒーロー!? できらぁ! 作:にょわ
「~~♪」
鼻歌交じりに、スキップをしながら、もう誰がどう見ても"ゴキゲン!" と一発でわかる様相の私が、フィールドへ向かっていく。
「随分ご機嫌だな、架沙音未来」
「あはっ! わかっちゃう?」
ほら、一発でバレた。
主審を挟み、対面する常闇くんの顔に浮かぶのもまた、笑顔。
……おそらく。
いやだってほら! 嘴だから絶妙に表情が分かりづらくて!! いやでもあれは絶対笑ってるもん! 心と心で通じ合ってるもん!
「それでは、二回戦第三試合、架沙音未来VS常闇踏影、試合開……あら?」
せっかちさんなミッドナイト先生を手で制し(ごめんね)、勝手に演説を開始する。
ちょっと準備が必要なんだ、手伝ってもらうよ。
「今日さ~、めっっちゃいい天気だよね」
「? あぁ、そうだな」
空には雲一つなく、春の温かい日差しが競技場を燦燦と照らしている。
「私、今回は手加減も容赦も出し惜しみも一切せず、アンタをボコボコにするって決めてるの……でも、こんな天気じゃ本気のアンタに勝ったなんて言えないじゃん?」
「勝つことは前提か……ふっ、傲慢だな」
騎馬戦の時にも確認したが、常闇くんの"
つまりこの晴天は常闇くんにとって最悪のアウェイ空間であり、逆にその条件でここまで上がってきたことは称賛に値するが、未だ本領を発揮したとは言い難いだろう。
「だから!」
取り出すのは、"雲"のカプセルと"
え? 名前やばい? だってこれ、常闇くん専用のやつだから!
「ミッナイ先生! コレ、試合前準備として使っていいですか!? いいですね! ありがとうございます!」
「まだ何も言ってないわよ!? ていうか自分の有利な状況を試合開始前に作るのはダメに決まってるじゃないの!」
「あぁそれなら大丈夫です、だってこれ、常闇くんを強化するための"ここだけ曇り空くん"なので! いいでしょ、常闇くん?」
二つの内、"雲"の方を投げ、フィールドの外で中の機械を取り出す。
「これはめっちゃ冷たい水蒸気を散布して局地的に気温を下げ、他にも静電気弄ったり色々とモニャモニャして……まぁ要するに半径30mくらいのちょっと上の方に雲を作り出すベイビー! これで舞台上の光量を制限するってわけ!」
一回戦の飯田君と明ちゃんの試合で飯田君をサポートアイテムで強化するのが許されたんだから、両者同意ならこれくらい許されるはずだよね! ね! とミッナイ先生に詰め寄る。
「ま、まぁそれが本当なら……常闇くん、いいかしら?」
「ふん、態々こちらに有利なフィールドにしてくれるのであれば、是非もない。今の
「――ッ!!」
感謝と、期待と、その裏に見え隠れする……侮られていることに対する怒り、それがはっきりと肌に伝わってくる。
……あぁ、いいね、最高だよ。そりゃそうだ、馬鹿にするなって思うよね!
でも、それでいい!
「勿論!」
スイッチを入れた瞬間、もくもくと装置が大量の白い蒸気を吐き出し始める。
それは風に流されることなく頭上に滞留し、このスタジアムの客席の上あたりで形を作った。
舞台上に降り注ぐ日光を雲が遮り、影が落ちる。
……もう一つの方は、ちょっと妨害に見えるだろうし、試合始まってからにしようかな。
『ウッヒョー! ヤミダ! ヤミダ!』
あ、ダークシャドウくんでてきた。ふふ、はしゃいじゃってかわい。
「では改めて、準備はいい?」
「「はい!」」
こちらはポケットに手を突っ込み、常闇くんはファイティングポーズをとる。
「二回戦第三試合、架沙音未来VS常闇踏影……試合開始!」
「先手必勝!」
合図と共に、ダークシャドウが最短距離を突っ込んでくる。
たしかに私の戦闘スタイルはいっちゃえばヤオモモと同じ。何かをさせる前に潰すというのは理にかなっている。
ただ!
「私は箱入り娘じゃないよ常闇くん!」
左のジャブが二発、右のストレート、勢いを殺さず回転しながら左腕を刃状に変化させての薙ぎ払い、流れるように右、はフェイントで左を返す……全部見える、全部躱す、全て受け流す。
形状自由な
ウソです攻撃に回る隙が一切ありません! 結構有力!
てか速度も重さも凄いな! 騎馬戦の時とは大違いだ、曇っただけでこれって強化幅やばくない!?
でも逆説的に防御に回れば受けきれる! であれば!
「っよいしょー!」
『ウギャア!』
相手の力を利用した投げなら、充分差し込める!
「守れ!
『アイヨ!』
「な~んて♪」
あんだけ派手にふっ飛ばしてももう間に合うのはびっくりだが、君ならそれくらいしてくれると思ったよ!
拳を放つふりをして、中で握っていたカプセルを投げつける。
ラベルに"光"と書いてあるそれは、クロスした
『マブシイ!』
「ごめんね~、これちょ~っと準備必要だから、時間を作らせてもらったよ」
至近距離で最大光束二十万ルーメンの閃光を浴びた
「さて、ここからが本番だ!」
先程取り出した
現れたのは、野球場にあるようなどデカい照明を吊り下げた巨大ドローン。
「さぁダークネスシャイニング! 私達の舞台を照らして!」
カッ! という音と同時に照明が灯り、光源を直視出来ない程の光量がフィールド全体に降り注ぐ。
『フミカゲェ……』
「くっ……完封か……」
何故か諦めモードの常闇くんの元へ歩みを進めながら、この装置の"本来の役割"を説明する。
「ねぇ常闇くん、
「どういう……というと……光の裏に生じる影、だろうか」
「そう! 私も同じ意見! じゃあさ……その"影"の基準は?」
例えば、晴れの日の日陰と、曇りの日の日向……というか、雲以外に太陽を遮るものがない箇所。
どちらが暗く"見えるか"なら、おそらく晴れの日の日陰だろう。だが時にして、絶対的な光量としては日陰の方が大きいこともある。
そして、これまで
「常闇くん、こういう言葉すきじゃない!? "強い光は……より強い影を生み出す"!」
「ッ!」
「さぁショータイムだ
パチンと指を鳴らすと、
あはは! 常闇くんに合わせて全力でカッコつけた言葉選んでみたけど、結構楽しいじゃん!
『な、なんだぁ!? 自分で生み出した日陰を塗りつぶしていた白光に、穴が空いたぞぉ!?』
広範囲に照射していた光線の範囲を絞り、さらにドーナツ状に光を切り取る。
すると競技場を白く灼く光の、その中心だけが、綺麗な円形に沈んだ。
常闇くんを中心にした、半径5mの逆スポットライト。周囲との照度差、実に18万ルクス。真夏の直射日光すら上回るほどの差だ。
別に絶対的な暗さが増した訳ではない。中心部にも雲を介した日光は降り注いでいるのに変わりは無い。
しかし! この圧倒的な照度差が、相対的な暗闇を生み出す!
『オ? オォォ!? チカラ、ミナギル!!』
「ーーーーッ!! 実験……大・成・功!!」
手のひらサイズまで小さくなっていた
さぁこれでやっと舞台は整った!
なら後は私の分だけ!
「システムオン! ドレスアップ、コード・クロウ!」
"武装戦姫"のカプセルを出し、ゆっくり変身を行う。
逆ットライトは常闇くんを最大限強化する専用フィールドであると同時にそこへ縛る檻でもある。
その外側で変身する私に手出しはできない!
「『
「架沙音……! 貴様はどこまで……!」
常闇くんの言葉と共に、影が歪んだような気がした。
闇と一体化する
「ははっ! 笑みが隠せてないよ常闇くん! 一応言っとくけどフラッシュも使うから、悪く思わないでね」
このスタイルの都合上、真ん中に根を張る常闇くんと裏腹に明るい場所と高速で行き来することになる。
そんなことをすれば当然照度の差で目がやられてしまうため、八咫烏に搭載されているバイザーを装着する。
光を戦術に組み込む八咫烏のバイザーにはフォトクロミズムという現象が利用されており、まぁ簡単に言うと眩しい時はグラサンに、暗い時は伊達メガネになる、みたいな仕組みになっている。
さて……。
「ここまでお膳立てされた上で
「―――――ッッ!! 」
遠慮も躊躇も無し! 初手から最高速!
「
瞬間、スポットライトに切り取られた影の世界そのものが動いたのかと錯覚した。
おそらく単純な振り下ろし、だがその規模が桁違い!
それに……!
「見ず……らい!」
スラスターを全力でフカして有効射程から逃れるが……あ、だめだこれちょっと足りないな見誤った。
「しっ!」
第三の腕を用いて腕(翼?)の横っ面を叩き、今度こそ難を逃れる。
「そりゃそーだよね! こんな暗いとこで動く影が見えやすいわけない!」
しかも多分……。
「……ダメだ。サーマルにも映らない」
一瞬バイザーをサーマルモードに切り替えるが、映るのは常闇くん本体の姿だけだった。
……そりゃそうか、コイツは生き物みたいに見えても、本質的には常闇くんの”影”だ。熱源じゃない。
「はぁ……はぁ……散々煽っておいてその程度か! 架沙音未来!」
ん? 常闇くんやけにしんどそう……あそうか、そういえば強くなり過ぎた
ならこのまま耐えれば、勝手に自滅して私の勝ち……?
「……あははっ!」
「そんなわけ……ないじゃん!」
ゴーグルを脱ぎ捨て、
照度差で目がつぶれる? なら
規模が大きすぎて躱しきれない? なら攻撃の出で止めればいい!
私だけじゃ無理……でも、明ちゃんとふたりで作ったこの八咫烏ならできる!
目を凝らせ、別に暗く見える
中心部にだって、雲越しの日光はちゃんと届いているんだ、周りが馬鹿みたいに明るいせいで、目がそう錯覚してるだけ!影そのものである
「そ、こっ!」
薙ぎ払おうとする腕へさらに接近し、肘あたりを蹴り上げる。
それだけで軌道はそれ、圧倒的質量は頭上を通り抜ける。
やっぱり! 速度も質量も増してるけど、その分大振りになってる!
一発、二発、初めはギリギリだった回避も数をこなす毎に安定感は増していく。
ていうか常闇くん、逆ットライトのかなり縁ギリギリに陣取ってるな。
……あっまって? てことはさ〜!
にやぁ、と、口元が歪むのが自分で分かった。
「とっこやっみくん♪」
まっすぐ全力で常闇くんの元へ向かう。
途中で止めるために叩き付けを行ってくるが無視だ無視。これまでの打ち合いでそっちの攻撃の速度と軌道はもうわかってんだよ!
避ける方向は落ちてくる翼から逃げるんじゃなくて、前! 付け根方向へ急旋回し、追撃の横薙ぎには、地面に体全体が触れそうなほど深く降下――急制動! ベクトルを90°変換し避けきった。
瞬きの後にはもう下からすくい上げるような追撃が迫るが、その分焦ることは無い……というか、躱す必要もない。
なぜって? そりゃあ……。
「ふふん、とーちゃ〜く♡」
「チッ、こうも容易く……!」
常闇くんの首を両脚で挟み込むように拘束すると、
アハッ! 気持ち〜♪
「初めの打ち合いはどっちかと言うと技巧派だったのに、今は力任せの大振りばっか……そんな制御もままならない状態で密着されたら、私だけ狙うなんてできないもんね〜」
『ウ、ウゥ……フミカゲェ……』
わ、
「ふふーん、これはもう詰みだよね〜? あんな力押し一辺倒じゃダメじゃんか常闇く〜ん? もっと頭使いな〜♪」
完全なる完封勝利を成し遂げて気分がいい。もう誰がどう見ても"ゴキゲン!" と一発でわかるだろう。初志貫徹!
さーてこのまま常闇くん場外運んで勝ち〜……と思った瞬間、拘束している両脚が、逆に掴まれる。
「……は?」
……嫌な予感! ブースター点火! 即離だ――離れない!?
「ッ!」
「常闇く」
「ハーーーーッハッハッハ!」
「!?」
びっっっっくりしたナニ急に笑って何!?
「架沙音! たしかにお前の言う通りだ! 制御に手一杯でまともに活かせないようでは多少力が強かろうが技巧の前では無力だろう!」
「わ、わかってんじゃ」
「だが!」
「もーなに!?」
急に大声出さないでよビックリするからぁ!
「技術に劣る膂力であろうが……それを極限まで高めれば天さえ穿つ!!」
まさか常闇くんそんなマジでやるのか
「ま、最後くらいはお前の言う通り、
そう言って一瞬浮かせた腕で自分のとんがった頭を指さす常闇くん。
そして前方に目を凝らすと……逆ットライトの領域ギリギリまで体を巨大化させた
「
……そうか。
『フミカゲェ! イインダナ! ホントニ!』
……そうか、そうか。
「
『アイヨォ!』
「……あはっ」
そうか!!!!
その覚悟、確かに受け取ったよ
「……ありがとね、常闇」
「何を……ッ!」
悪いけど、今の私にその程度の拘束で満足したのは失敗だったね。
「
展開した武装が格納されていき、初めのスーツケースへと戻る。
勿論それは、常闇が掴んでいた分厚い脚部装甲も。
拘束から解放され自由になった私は常闇の前へ降り立ち、"最終兵器"と書かれたカプセルを取り出す。
中から出てくるのは当然、絶対鏖殲滅丸。
明ちゃんに託されたもはや相棒とすら言えるこいつを両腕でしっかり持ち、大きく振りかぶる。
ごめんイレセン! 私の計算が正しければ
『オォォォォォォォ!!』
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
真っ黒な影と真っ黒な鉄塊が正面からぶつかり、周囲へ衝撃波を巻き散らす。
その衝撃はフィールドを歪ませ、粉塵を巻き上げる。
それに留まらず、上空に生み出した雲を吹き飛ばし、飛行する
一瞬の静寂。
フィールドを覆っていた白光も、フィールドを穿っていた暗黒も晴れ、立っていたのは……。
「……架沙音、お前何故……俺の拘束を抜けた時点で退避しなかった」
「へへ、言ったでしょ? 手加減も容赦も出し惜しみも一切せず、アンタをボコボコにする、って」
「はは、そうだったな」
「常闇踏影、場外! 勝者、架沙音未来!!」
「……完敗だ」
……私、ただ一人。
「っっっっっ!!! いやったーーーーーー!!!」
体の内側で大爆発する喜びのままに、両腕を天高く突き上げ喜びを表現す――。
「ったたたたた!」
ることができず、その場にうずくまった。
うっひゃ~やば、両腕完全にぶち折れてるなこりゃ。
うむむ、これじゃデクのことあれこれ言えないな……。
もはや懐かしいホップジャンプ拳版しかり、こういうのは威力を極限まで高めるために振りぬくことで全衝撃を前方へ逃がす前提で安全設計を行う。
だから今回みたいに正面衝突で競り合ってしまうと、衝撃の一部がこちらに返ってきてご覧のあり様になってしまうのだ。
「……ごめん、それ無理」
「?」
「両腕、折れてるから……肩に掴まれない」
「…………」
『フミカゲ。オレガハコブ』
「……そうだな。頼む、ダークシャ」
うっそあんなぶっ飛ばしたのにもう復活したの……と思ったら、なんかめっちゃミニミニサイズになった
「か、かわいい……」
「……何から何まですまない、ほら乗れ」
「あはは、ん、ありがと」
常闇くんにおんぶされ、競技場の出口へ向かう。
客席からの割れんばかりの拍手が、疲労した全身に心地よく響いた。
……あ、そうだ忘れてた。あれこれは言わないけど
「ごめん常闇、うるさいかもだからちょっと耳塞いで」
「? わかった」
素直でたすかる、ありがとう。
「すぅ……デクーーーー!!」
拍手に負けない様、残った力を振り絞って声をかける。
A組の集まっている客席を見ると、デクと目が合った。
あ、でもこっから先は流石にあそこまで届かないな。もう声張れないや。
てことで、通訳任せた、と隣の響香ちゃんに目配せをし、首肯が返ってきたのを確認して続ける。
「私は、勝ったぞ」
はっはっは! ま、やっぱ私は天才だからなー! デクとは違うんですよデクとはー!
勿論勝ち負けより大事なことはある……でも、それはそれとして勝った方がいいに決まってんじゃん!
「ん、ありがと常闇、もういいよ」
「そうか、わかった」
やだ紳士、かっこいいなこいつ。
こうして、決勝トーナメント二回戦も無事、突破することができたのでした。
次の試合、見れるかなぁ……見なきゃいけないのに、もはや義務で。
ほんとウチの幼馴染ズ、そっくりで可愛い。