魔法少女。
人間離れした強大な力を操る彼女たちは、古くから争いの道具として利用され、数を減らしていった。
その最後の生き残りというのが、僕の幼馴染である綾だ。
魔法少女が子を成せば、必ずまた魔法少女が産まれ、悲しみを生む。
だから、万が一にも手を出さないと決めていたのに――

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魔法少女とヤったら終わり

 幼馴染の(あや)は、とても可愛い。

 

 大きい目がくりくりとしていて、ニコッと笑った顔がものすごく眩しい。少し茶色がかった黒髪は工芸品のように美しく、みんなが見惚れてしまう。

 

 背丈は僕より少し低いくらいだけど、スラっとしたモデルみたいな身体をしていて……食べちゃいたいくらいに健康的だ。

 

 けれど、綾はある運命を背負っていた。

 

 この世には魔法少女という存在がいる。空を舞い、街を焼き、敵を屠る。それが彼女たちの持つ力だった。

 

 人間は魔法少女を崇め、敬い、畏れ、そして利用した。数々の争いの裏では、常に魔法少女という存在が暗躍していたのだ。

 

 だが、彼女たちとて万能の存在ではない。互いに戦えば、傷ついて死ぬこともある。人類が戦争を乗り越えて繁栄の道を歩む一方で、皮肉にも魔法少女は数を減らしていった。

 

 幼馴染の綾は、その最後の生き残りなのだ。

 

「ねえカズ、これの新刊ないのー?」

「な……ないよ。まだ買ってない」

「え~? 読みたかったのにーっ」

 

 制服を着たまま僕のベッドに寝転がっている綾が、わざとらしく頬を膨らませた。今日は午前授業だったので、綾は昼からずっと僕の部屋で漫画を読んでいる。

 

「つまんないの~」

 

 綾はゴロゴロと寝返りを打ち、仰向けになった。少し開かれた両足の間から灰色の布地が見えて、思わず目をそらす。それだけならともかく、ブラウスのボタンが外されて胸元がはだけていて……僕は視線を部屋の角に追いやることしかできない。

 

「ね、ねえ綾……」

「ん、なにー?」

 

 何でもないという風にこちらを向く綾を見て、心臓の動きが速くなる。僕は言葉を紡ぎ出そうとしているのだけど、口がもごもごと動くだけ。

 

「し、下着とか……見えてるっていうか……」

「えー、嬉しくないの?」

「嬉しいけど……って、ごめん違う! 違うから!」

「カズの正直なところ、結構好きだよー!」

 

 明るく笑う幼馴染の声が、僕の顔を紅潮させた。綾は本当に可愛い幼馴染で、一緒にいられることはこの上ない幸せだった。まるで生まれる前から教え込まれていたんじゃないかと思うくらい、僕は綾が大好きだった。

 

「カズもベッド来なよー」

「だ……だめだよ。付き合ってもないのに」

「えー? 私っ、カズのこと好きだよ?」

「……」

「カズってかわいいな~」

 

 綾と会話するとき、こっちが主導権を持つことはほとんどない。僕が好意を持っていることは、向こうにはとうに見透かされているみたいだ。

 

「じゃあじゃあ……」

「えっ?」

 

 僕の発声器官が働くのをやめている間に、綾はベッドから降りていた。ブラジャーのひもを覗かせたまま、いすに座っている僕の方に向かって歩いてきて――

 

「来ちゃった!」

「あっ、綾……!」

 

 向かい合うようにして、膝の上に座ってきたのだ。照れ臭そうにはにかんで頬をぽりぽりとかく幼馴染の姿は、僕の喉が鳴るのには十分だった。

 

「ちっ、近いって……」

「カズの髪って良い匂いするなー。ちょっと羨ましいかも」

 

 前髪の匂いを嗅がれた僕は、気絶しそうな心地だった。互いの鼻息が互いの顔にかかりそうな近さ。幼馴染の可愛さを摂取するには……あまりにも距離が短すぎる。

 

「あ、綾の髪だって……」

「ほんと? えへへ、良かった……」

 

 僕の顔は論じるまでもなく赤くなっているけど、柔らかそうな綾のほっぺたもほんのりピンク色に染まっていた。言葉では平静を装う綾も、内心では緊張しているのだ。自分だけではないのだと思って、僕は少し安堵する。

 

「ね、カズ……」

 

 綾の声色が、いつもより色を帯びていた。うっとりとした魅力的な瞳に、僕は少しずつ吸い込まれていく。事象の水平面を超え、気づいたときには……唇を重ねていた。

 

「んっ……」

 

 ぷっくりとした感触が伝わってくるのと同時に、艶やかな声が聞こえる。僕と綾の境界線が失われて、次第に溶け合っていく。舌と舌が絡み合い、互いの唾液が徐々に混ざっていく。

 

 僕と綾は恋人ではないけど、互いの粘膜を接触させるのをためらうほど他人行儀でもなかった。僕たちにとって、幼馴染というのはプラトニックな関係性を示す神聖な語彙ではなく、肉欲を表す隠喩(メタファー)と言う方が正しかった。

 

「ねえ……」

「!」

 

 綾は僕の右手を掴み、自らの胸元へと近づけていく。はだけたブラウスの間から、僕の手がブラジャーの下に忍び込もうとする。

 

「あっ、綾……!」

「カズ、お願い……」

「だめだって言ってるじゃん!!」

「ひゃっ!!」

 

 まるで火にかけたやかんに触れたときのように、僕は自らの手を強引に引っ込めた。同時に互いの唇が離れ、なまめかしく光を反射する唾液の粒が舞う。

 

「ごっ、ごめん!」

「も~、カズのいくじなしー……」

 

 綾は耳たぶの先まで顔を赤くして、恥ずかしそうにブラウスを直していた。その隙間から覗く胸元に――

 

「あっ……」

「ん?」

 

 赤い紋章――綾が魔法少女たる証し――が見えて、思わず目をそらした。さっきまで昂っていた気持ちが、冷たい水をかけられたように静まっていく。

 

「どうしたの?」

「いや……なんでもない」

 

 綾は僕の様子を訝しむ。綾はそもそも自分が魔法少女であることを知らないようだし、きっと彼女自身の目には紋章が映らないのだろう。

 

「ねえ」

「……」

「ねえってば!」

「えっ!?」

 

 物思いにふけっている僕のことを、綾の声が目覚めさせた。綾は綺麗な目でじいっと僕の顔を見る。

 

「カズってさー、いつもちゅーはしてくれるのに……さ」

「……うん」

「なんで、その……続きっていうか……し、してくれないの?」

 

 いつもはきはきとしている綾が、珍しく言葉を詰まらせていた。幼馴染が純真さを失わないでいることを喜んでしまい、なんだか変態みたいだなと自分自身が恥ずかしくなってしまう。

 

「だって、その……まだ早いって言ってるじゃん。高校生だし、子どもでも出来たら」

「ちゃんと避妊すればいいじゃん! それに……カズの子どもだったら、別に……」

「あ、綾?」

「なんでもない!!」

 

 大きな声を出す綾を微笑ましく思うのと同時に――僕の心に複雑な思いが湧き上がる。

 

 綾が妊娠すると、その子どもは必ず魔法少女になる。仮にそのことが知られてしまえば。……どんな目に遭うのか考えるだけでもぞっとする。

 

 魔法少女は互いを傷つけあうだけの運命にあるのだから、その悲しみを連鎖させるわけにはいかない。だったら――魔法少女という生き物の営みを、ここで断ち切った方がいいに決まっている。

 

 最後の生き残りである綾が子どもを産まなければ、もう二度とこの世界に魔法少女は現れない。彼女たちが道具として戦場に散ることはなくなるのだ。

 

「ごめん、綾……やっぱり今日はやめておこうよ」

「……そう」

 

 僕だって綾と交わりたい。綾の身体を自分だけのものにしたい。ありったけの欲望をぶつけて、綾と共に快楽を貪りたい。でも――その果てに、新たな悲劇が生まれるのだとしたら。僕は呼吸を整えて、再び目の前の幼馴染と相対する。

 

「ねえ、カズはさ……私のこと、嫌い?」

「そっ、そんなわけない!」

「じゃあ、なんでしてくれないの?」

「それは、その……」

 

 きっと僕は情けない幼馴染に見えているのだろう。据え膳食わぬは男の恥、とはいうものの……綾からすれば、高級フレンチのフルコースを並べているような気分のはずだ。

 

「私のこと、異性として見てくれないの?」

「ちっ、違う! だって、その……」

「……まあでも、こんな風になってるもんね」

「言わないでってば……」

 

 綾は自らの股間に当たるものを感じていたみたいだ。身体の反応と発言が一致していない僕を不満に思ったのか、眉をひそめて顔を寄せてくる。

 

「ねえカズ、私だって怒るよ。手を出さなければ傷つけないって思ってるんだろうけど、手を出されなくて傷つくこともあるんだよ」

「ご……ごめん」

「謝るなら……さ。ねえ、触ってよ」

 

 あまりの迫力に何も言い出せないでいる僕の手を、綾が強引に掴んだ。再び胸元の方に近づけていき、さっき直していたブラウスを再びはだけさせる。

 

「触って、カズ……」

「あ、綾……! なんか変だよ……!」

 

 幼馴染の積極的な態度を喜ぶと同時に、いつもと異なる様子に違和感を覚え始める。綾は僕の嫌がることをするような人間じゃない。なんで、なんで――

 

「へっ……?」

 

 微かな光が、僕の顔を青ざめさせた。胸の紋章が……赤い光を放ち始めている。まさか、魔法少女としての力が目覚め始めて――

 

「カズが嫌でも、絶対するから」

「がっ、ぐわああっ!?」

 

 綾の目が鋭く光ると同時に、無数の見えない腕に押さえつけられる。首元を掴まれていて、満足に息が出来ない。

 

「あ、綾ぁ……!」

「ごめんね、すぐに済むから。上手にいかせてあげるからね」

「やめっ、がっ……!」

 

 苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい。

 

「綾っ、ねえっ……!」

「なあに、カズ?」

「こんな力、どうして……!」

「だって私、魔法少女だもん。ふふ、気づいてないと思ってたの?」

「そっ、そんな……かはっ!」

「カズって本当にかわいい……。私、やっぱり赤ちゃん欲しいなっ」

「それはっ、絶対にっ……!」

 

 綾はいそいそとブラウスを脱ぎ始めて、胸の谷間を露出させようとしていた。僕の視界はどんどん狭まっていて、綾の綺麗な身体を見ることは出来なかったけど……紋章が赤く光り輝いているのははっきりと分かった。

 

「苦しい? でもねっ、カズが悪いんだよ?」

「綾っ、やめて……!」

 

 気力すら吸い取られてしまい、僕の筋肉はピクリとも動かない。それでも僕は抗う。綾のために、次の魔法少女を生まないために――

 

「おやすみ、カズ。いっぱいえっちしようね」

 

 泉のように湧き出る多幸感に溺れながら、僕は深く深く闇に沈んでいった……。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……任務終了しました。直ちに標的を回収してください」

 

 ブラに仕込んでいたマイクを通じて、私は本部に連絡した。床に脱ぎ捨てたブラウスを拾いながら、乱れた髪を整える。

 

 古い椅子に縛り付けられるようにして、カズは眠りについていた。いつも見ている、とても穏やかな寝顔。ついつい、私は彼の頭を撫でてしまう。

 

「ん」

 

 階段の下から複数の男の人が上がってくる気配を感じる。きっと近くで待機していたのだろう。私は急いでブラウスを羽織り……ショーツを脱いで、カズのベッドに隠した。

 

「!」

「やあ。ご苦労」

 

 不躾にノックもせず、本部長が部屋に入ってきた。趣味の悪いスーツにサングラスをかけて、あろうことか土足のまま。

 

「履き替えてください。ここはカズの家です」

「何を言っている? そいつの識別名は恐怖(イロウエル)。魔法少女に卵を産み付け、魔法少女と同等の力を持った分身(コピー)を大量に産みだす……人類史上最悪の魔物(モンスター)だ」

 

 本部長はじっとカズのことを睨みつけた。

 

 十七年前、恐怖(イロウエル)……いや、カズは魔法少女である私の誕生を察知し、自らを小山(おやま)和人(かずひと)という人間に偽装した。幼馴染として私に接近・寄生することで魔法少女の力を得て、人類を滅ぼさんとしていたのだ。

 

「やれやれ、長い道のりだったな……」

 

 いつの間にか本部長は煙草に火をつけていた。紫煙がくゆり、嫌な臭いが鼻をつく。

 

「やめてくださいッ!」

「あっ!?」

 

 反射的に、私は本部長の頭上に水を出現させてしまった。彼のサングラスが情けなく流され、若作りにセットされた白髪が乱れる。

 

「ほっ、本部長! ご無事ですか!」

「本部長!」

「きっ、貴様ぁ……! 魔法少女だからって舐めた真似を……!」

「十六年に渡って私の行動を縛り付けておいて、たかが水くらいでお怒りですか?」

「ぐっ……」

 

 部下たちに介抱されつつ、本部長は悔しそうな声を漏らした。

 

 カズの存在に気づいた本部は、私に寄生する前に排除することを決めた。だが、力尽くで殲滅しようとすれば()()魔法少女に寄生する可能性がある。そうなれば元も子もないということで、本部はある大規模作戦を立案した。

 

 そう――それは、()()()を使ってカズの行動を操ることだったのだ。私を通じて、本部は少しずつ嘘の情報をカズに流し、意識を改造していったのだ。

 

 魔法少女は()()()()()戦争の道具に使われた悲しき存在であること。魔法少女の子は必ず魔法少女になること。そして――()()()()()()()()()()()()()()

 

 こんな嘘の物語(ナラティブ)を十六年に渡って流し込まれたカズは、私との生殖を躊躇するようになった。そして「寄生の恐れがなくなった」と私が本部に報告したことにより、今日――満を持して殲滅作戦が実行されたのだ。

 

「もっ、もういい! 用は済んだんだ、直ちに恐怖(イロウエル)を回収しろ!」

「はっ、はい!」

「はい!」

 

 声を荒げる本部長に従い、部下たちが次々に部屋の中に入ってくる。彼らは私を押しのけ、カズを抱えて持ち上げようとしていた。

 

 私たち魔法少女は、人間からの突然変異で生まれる。その存在理由ははっきりと解明されていないけれど、「魔物(モンスター)への対抗手段としての、人類進化の一形態」というのが有力な学説らしい。

 

 つまり、魔法少女は「魔物(モンスター)と戦うため」に生み出されてきた生命体であり、私以外にもこの世にたくさん存在しているのだ。

 

「おい、お前!」

「……私ですか?」

 

 ずぶ濡れの本部長が口を開いた。嫌な目つきで私を睨んだまま、さらに言葉を続ける。

 

「お前には次の作戦に参加してもらう。命令があるまで待機しろ」

「十六年も私の人生を勝手にしておいて、休みもくれないんですか?」

「当たり前だ。貴様ら魔法少女は魔物(モンスター)を倒すのが仕事だ」

「……」

「なんだ、不満か?」

 

 魔法少女が悲しき存在、というのはカズが信じていた偽りの真実なのだけれど……部分的には正しい。私たちは生まれた時から人類に利用されるからだ。

 

 人間の子たちみたいに自由に遊びに行くことは出来ないし、自由に友達を作ることも出来ないし、ましてや恋なんて出来るわけもない。私たちは何も学べず、大人になれない()()のまま人生を終えていく。

 

「……本部長、報告したいことがあります」

「報告?」

 

 私は抱きかかえられたカズを手で示した。部下たちや本部長は怪訝な顔をしている。

 

「そいつが何だ?」

「紹介します。私の好きな人です」

「何を……何を言っている?」

「こんな化物に恋なんかするわけないってお思いでしょうけど。正しい恋を知る暇も与えてくれなかった、あなた方の責任ですよ」

「責任? 我々に何の咎がある?」

 

 この期に及んでことの重大さに気づかないなんて、やっぱり人類は愚かだ。私たち魔法少女には到底及ばぬ存在だと思う。私は彼らを嘲笑うかのように、そっとスカートをまくり上げた。

 

「ひっ!!?」

「見てください。こんなにカズの赤ちゃんが生まれたんですよ」

「馬鹿なっ、寄生はしていなかったはずだっ……!」

 

 私の股から粘液が垂れ流されているうえに、鼓動と同期して脈打つ無数の手足が姿を現しているのだ。きっと本部長たちは身の毛がよだつ思いだろう。

 

「魔法少女は人類の従順な(しもべ)じゃありません。私が本当にカズを愛してしまうなんて、あなたたちは考えもしなかったんでしょうね」

「貴様っ、恐怖(イロウエル)との交尾は一度もないと報告していただろう!?」

「……女の子を処女だと思いこむの、中学生でやめた方がいいですよ」

「ぎゃあああっ!!!?」

「ひええええっ!!?」

「うわああああっ!!!?!!」

 

 次の瞬間、私の()()()が一斉に飛び出し――本部長と部下たちの身体に襲い掛かった。カズの部屋が血が汚れていくのを見て、しまったなと苦笑する。

 

 カズは私との性行為を拒んでいたし、今でもあまり積極的じゃない。それでも、十か月前……カズは私とえっちしてくれた。それが成就した今日、私はこの作戦を実行することを決めたのだ。

 

 私はカズとえっちを繰り返した。とても気持ちよくて、とても幸せだった。本部に言われた行動じゃなく、本能の赴くままの行動だったからかもしれない。

 

 床に放り出されたカズは、穏やかな表情で眠りについている。私はカズの姿勢を仰向けに戻して、そっと顔を撫でた。

 

 カズは本当に私のことを思って性行為を躊躇していたみたいだけど、むしろその事実が私を興奮させた。理性と欲望の狭間で揺れつつ、ごめんねと半泣きになりながら腰を振る彼の姿は本当に可愛らしく、私の情欲をそそらせた。

 

 私はそっとカズの下半身にまたがる。今日もたくさんしようね。気に食わない連中はみんないなくなったし、もう遠慮することもないもん。

 

「えっ、綾……?」

 

 カズはようやく目を覚ましたのか、驚いたような顔をしていた。ああ、本当に愛らしい。本当に、本当に――

 

 幼馴染のカズは、とても可愛い。


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