TS転生美少女が男友達ムーブして幼馴染の情緒を破壊する話 作:寿司鮓
「んじゃ、またなー」
そう言って手を振りながら歩いていく歩夢と駅で別れる事となった。
……そして気づいたら俺は家についていた。
それまでにどうやって道を歩き、そしてどうやって家までたどり着いたのかまるで思い出すことが出来なかった。
ガチャリと玄関の扉を開けて「ただいまー」と言いながら靴を脱ぐ。
リビングを通過して自室に戻ろうとするが、その前に母親に捕まってしまう。
「お帰り……どうだった? 歩夢君と久しぶりの再会は」
ちなみに、うちは共働きで二人とも日常的に仕事をしている。
母さんの方は在宅ワークだが、何やら今日は事情があったらしく入学式には参加出来ていなかった。
そう考えてみると、歩夢の方も家族と一緒に来ている雰囲気ではなかったな。
もしかして似たような家庭環境なのだろうか?
「せっかくなんだから、私も歩夢君がどんな子なのか見てみたかったわ。貴方からしか歩夢君の事は聞いていなかったから」
「あー、えっと。その、うーん」
困った。
まさか勘違いしていたと白状するのは勇気がいる。
そうやってうんうん言っていると何か勘違いしたのか、母さんは少し困ったような笑顔を浮かべた。
「もしかして、その。思った感じじゃなくなってた?」
オブラートに包んだ表現だった。
不良になってたとか、とにかく結構はじけた感じになっていたのだろうかと思ったのだろう。
「いや、そういう訳じゃなくてさ」
「確かにそういうのってメールだけでは分からないものね。メールでは凄い丁寧なのに実際会ってみたら派手な人とか良くいるらしいし、その逆もまた然りって」
「……いや、そういう感じでもなくてさ」
「? じゃあ、真面目な感じだったの? そう言えば歩夢君ってサッカー少年だったわよね。もう運動なんてしないって感じだったとか」
「母さん、その。驚かずに聞いて欲しいんだけど」
俺は覚悟を決め、母さんに告げた。
「その、歩夢君がさ。歩夢ちゃんだったって言ったらどう思う?」
「……、……。……ちょっと待って」
額に手を当て、母さんは目を瞑る。
数秒の沈黙ののち、「……ええ、頭を整理したわ」と目を開けてこちらを見てきた。
どこか呆れたような表情だった。
「まさかとは思うけど」
「はい」
「……女の子の事をずっと男の子だと勘違いしていたの?」
「じ、実はそうだった的な」
「……今度会ったら改めてしっかり謝ってきなさい」
「う、うん」
「女の子を男の子だと思って扱ってたって、流石にそれはどこかしらで失礼な事というか、それこそデリカシーのない事をしていたでしょ。いや、そもそも勘違い自体がデリカシーのない事だけど!」
「返す言葉もありません……」
一人称が「俺」で口調の男の子っぽかったから仕方ないじゃんと言いたかったが、しょせん言い訳なので口を噤む。
はあ、とため息を吐かれる。
それもまた致し方がないなと思った。
「……で? 歩夢、ちゃんはどんな子だった?」
「勘違いしてた身でこんな事を言うのもなんだけどさ、あんまり変わらなかった」
「それは雰囲気がって事?」
「すっごく良い奴だったと思う」
「……そう」
俺の言葉に母さんは穏やかな笑顔を浮かべた。
「それなら、これからもその縁を大切にしなきゃね」
「うん」
「あと、もう一度言うけどちゃんと謝罪はしておきなさい! 何かデリカシーのない事を今までしてこなかったかって」
「……はい」
俺は頷き、それからひとまず着替えと荷物を置くために自室へと戻った。
まず服を脱ぎ、動きやすい部屋着になってからベッドに倒れ込む。
ベッドに顔を埋め、呻く。
「やっちまったなー」という気持ちと、これから改めてどういう風に歩夢と付き合っていけばいいのだろうかという思い。
実際、これから男友達として青春を送ろうと思っていたのだから、それらすべては完全に白紙になったと言える。
「でも」
歩夢の奴。
……垢抜けた、な。
あの綺麗な笑顔が、とても印象に残っていた。