薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】 作:豊之丞
2人にそう告げた蒼星石の表情は先程以上に険しいものになった。
「それが、貴女の宿命なのね…」
幽々子が静かに聞いた。
「そうです、アリスゲームとは僕たちローゼンメイデンが闘い、お互いのローザミスティカを奪い合うゲーム。
これに勝った者はアリスに一歩近づき、負けた者は動く事も話す事も出来なくなり只の人形になる。そして、敗者の魂は『迷子の海』となって無意識の海に漂う。
それが、僕達薔薇乙女に与えられた宿命…」
蒼星石から告げられた言葉に、その場の空気が重苦しいものになっていた。
「ローザミスティカっていうのは?」
妖夢は、蒼星石にローザミスティカの事を尋ねる。
「ローザミスティカとは、僕達ローゼンメイデンの命の源、魂とも言うべきものです」
「それを奪い合うって…、アリスゲームとは、すなわち人形達による殺し合い…」
「そう、これはアリスになるために、お父さまが僕達に定めた試練…」
「そんな…、あなたは、そのような過酷な宿命を背負って、ここに来たと言うの?」
「それも、闘う相手は同じローゼンメイデン、貴女にとっては姉妹なのよね…」
妖夢は悲痛な、幽々子は神妙な面持ちであった。
「でも、決して悲しい事では無い。これは、お父さまが望んでおられる事。その願いを叶える事こそが僕の本望…」
「・・・・っ」
蒼星石の言葉に、妖夢は何も言えず俯いたままであった。
「ローゼンメイデンは、何体居るの?」
幽々子が再び蒼星石に尋ねる。
「僕を含めて全部で七体です。 第1ドール水銀燈、第2ドール金糸雀、第3ドール翠星石、第5ドール真紅、第6ドール雛苺、そして第7ドールは…」
「・・・やめて!!」
「「・・・っ!」」
妖夢の叫びに、2人は驚いてしまった。
「どうして、同じ姉妹がそんな残酷な事をしなきゃいけないの?
アリスゲームって、一体何なのよ!?
みんな同じローゼンさんから作られた人形なんでしょ?
あなたのような素晴らしい人形にそんな仕打ち、あんまりだわ…」
「妖夢・・・さん・・・」
涙を流しながら訴える妖夢を、蒼星石はただ見つめるしかなかった。
そんな妖夢に幽々子は、静かに優しく語り掛けた。
「…妖夢、貴女の気持ちはよく分かるわ。
でも、これはこの子達に与えられた宿命なのよ。 アリスになるために闘う、これは宿命と同時にローゼンメイデン達には誇りでもあるの。
私達は、その誇りを傷付けるような事はしてはいけないのよ」
「で、でも・・・!」
幽々子の言う事は頭では分かっていても、妖夢はどうしても納得が出来なかった。
「私達だって、普段スペルカードルールで弾幕ごっこをしてるでしょ? アリスゲームのように何かを奪い合いこそしてないけど、似たような事をやってるわ…」
「違います! 弾幕ごっこは異変を解決するための手段であって、殺し合いの手段ではありません! それに、姉妹同士での殺し合いなんて、そんなの聞いた事がありません!!」
「よ、妖夢・・・」
激情を露わにする妖夢に、幽々子はそれ以上何も言えずにいた。
だが、それを見ていた蒼星石は妖夢に諭した。
「…妖夢さん、幽々子さんの言う通りだよ。
確かに残酷な運命かもしれない。 でも、これもアリスになるために仕方のない事なんだ。
だから、仮に僕が闘いに負けてローザミスティカを奪われる事になっても、誰も恨むつもりは無いし、それを潔く受け入れるつもりだ」
「そ、蒼星石・・・」
「大丈夫、僕は負けないよ。 きっとアリスになって見せる。
だから・・・・もう、泣かないで・・・」
蒼星石は、妖夢の涙を手で拭った。
「蒼星石・・・・そ、そうよね、そのために私の所に来たのよね!」
妖夢は、涙を拭いながら笑顔で応えた。
「はい! だから、その為にも・・・・妖夢さん、貴女の力を貸して欲しいんだ」
「私の…、力を?」
「そう、僕と契約して欲しいんだ」
「け、契約・・・?」
「僕は貴女によって螺子を巻かれた。でも、それだけでは不十分なんだ。
人間から力を貰わなければ能力を十分に発揮出来ない。
契約をする事によって貴女から力が供給されるようになって、闘いを優位に進める事が出来るんだ」
蒼星石の説明をひたすら聞いていた妖夢だが、分からない事もあった。
「…でも、私で良いの? あなたは今まで人間以外と契約した事はあるの? 私は半人半霊なのよ?」
「そ、それは・・・、分からないよ・・・」
「そ、そうよね・・・」
当然、これまで人間以外と契約したことが無い蒼星石は返答が出来なかった。
また妖夢も、それに困り果ててしまう。
それを見ていた幽々子は、妖夢達に話し掛けた。
「妖夢、とりあえず契約してあげさない」
「ゆ、幽々子様!? で、でも、大丈夫なのでしょうか?」
「出来るか出来ないかは、やらなきゃ分からないでしょ?
蒼星石だって、貴女から力を供給されなきゃ能力を発揮出来ないんだから、どちらにしても必要なのよ」
「は、はあ・・・」
「蒼星石も、妖夢と契約がしたいんでしょ?」
「は、はい、出来れば…」
「なら、早くやりましょう♪」
早く契約しろと言わんばかりに2人に促す幽々子。
「「(だ、大丈夫なのかな・・・?)」」
少し不安になる妖夢と蒼星石。
「…幽々子様が、そう言うのだから・・・しましょうか、蒼星石!」
「…は、はい!」
「それで、契約ってどうやってするの?」
妖夢の質問に、蒼星石は立ち上がり、左手を出した。
「ならば・・・誓え、この薔薇の指輪に」
妖夢は、その言葉に意を決する。
「…分かったわ、誓うわ」
「それならば、この薔薇に証を」
「えっ・・・?」
「この薔薇に、キスを・・・」
「えっ、ええ・・・」
言われるままに、妖夢は蒼星石の指輪にキスをした。
その瞬間、蒼い光が妖夢を包んだ。
「な、何!?」
「よ、妖夢!?」
妖夢は慌てふためき、幽々子はその様子を見て驚きあたふたしていた。
「な、何これ? 熱い・・・!」
「凄い・・・、君の力をとても感じます、妖夢!」
左手から感じる熱さに妖夢は顔を歪める。
しかし、直ぐにその熱さは収まり蒼い光も消えていった。
「・・・これは!?」
妖夢が左手を見ると、その薬指には蒼星石と同じ薔薇の指輪が嵌められていた。
「どうやら上手くいったみたいだね、これで僕と貴女は契約が成立したんだよ」
「もう、いいの…?」
「はい!」
蒼星石は笑顔で応えた。
「…万事上手くいったみいね。
貴女達、お似合いのカップルよ♪」
幽々子は、からかうように2人に言った。
「えっ!? ゆ、幽々子様、私達はそんなんじゃありませんよ!」
「あらっ、顔が赤いわよ? そんなに照れなくてもいいわよ(-∀-)」
「だーかーらぁ! そんなんじゃありませんってば!」
「ゆ、幽々子さん、止めて下さい…、恥ずかしい…」
妖夢は顔を赤くして抗議して、蒼星石は俯いてしまった。
「あらあら、微笑ましい光景ね、羨ましいわぁ♪」
幽々子は、悪びれる様子も無く扇子で顔を隠しながら笑った。
「もうー、幽々子様ったら!」
妖夢は幽々子の様子を見て呆れてしまった。
「…ところで、聞きたい事があるだけど…」
蒼星石が上目遣いで聞いてきた。
「どうしたの? 蒼星石」
幽々子が聞く。
「お二人の所に、レンピカからの問いが来たとは思うけど、もう一つ何か無かった?」
「あっ・・・」
それを聞いた妖夢は、ハッと思い出した。
「あ、あの…、あれって、あなたと何か関係があったの?」
妖夢が恐る恐る尋ねる。
「それには、翠星石と書いてあったよね? それは僕の双子の姉の事なんだ」
「げっ・・・!」
蒼星石のその言葉に妖夢の顔が青ざめる。
「その手紙、どうしたの?」
「あ、あの・・・、その・・・それはですね・・・」
なかなか切り出せずに、妖夢の目が泳いでいた。
「妖夢、言いなさい。 隠したって無駄よ…」
幽々子が妖夢に促した。
「そ、その・・・、ごめんなさい!」
「えっ!? 一体どうしたの?」
突然謝られ、状況が把握出来ない蒼星石。
「その手紙は…、その手紙は、私の不注意で風に飛ばされてしまいました! あなたの双子の姉とは知らず不適切に扱ってしまいましたー! どうか、どうかお許し下さーい!」
妖夢は、蒼星石に許しを乞う為に必死に土下座して謝っていた。
「あ、あの…妖夢、お願いだから頭を上げてよ…」
土下座する妖夢を見て焦ってしまっていた。
「そんなに気にしなくて良いよ、仕方ない事なんだから…」
「で、でも・・・」
蒼星石の表情は少し残念そうだったが、特に怒っている様子は無かった。
「大丈夫、あの子ならきっと他の主人の所で目覚めてるよ。 そんな気がするんだ…」
何かを感じたように、蒼星石は上を向いた。
「だ、だと良いけど…」
妖夢は不安そうに蒼星石を見た。
「なら、幻想郷の何処かにいるわね」
幽々子が小さく呟いた。
「それなら、きっと会えるよ。 その時はお二人に改めて紹介しますね」
蒼星石は微笑んで言った。
「翠星石だっけ? その子はいい子なの?」
「はい、少し人見知りはするけど、僕の大切な姉です」
「そう、ならば早く会って見たいわね」
幽々子と蒼星石のやり取りを見ていた妖夢の表情は何故か冴えなかった。
「(そんな大切な姉なのに、ローザミスティカの奪い合いをしなきゃいけないなんて…、悲しすぎる…)」
妖夢の目からは再び涙が溢れ出していた。
「…どうしたのよ、妖夢?」
「い、いえ、何でもありません…」
幽々子に声を掛けられ、妖夢は慌てて涙を拭いた。
「妖夢、色々思うところはあるかもしれないけど、僕を信じて欲しい」
「…分かったわ、あなたの事、信じるわ」
そして、蒼星石は両手で妖夢の両手を握った。
「これから、よろしくお願いします、マスター!」
「ええ、こちらこそ、よろしくね、蒼星石!」
2人はお互いに微笑み合った。
幽々子もまたその様子を何も言わず微笑みながら見ていた。
すると、蒼星石の陰から蒼い光輝く物体のようなものが浮遊して出てきた。
「あっ、レンピカ…、そんな時間なんだ、分かった」
「それは、何かしら?」
幽々子が蒼星石に尋ねた。
「あっ、まだお二人には紹介してませんでしたね。 これは僕の人口精霊でレンピカって言います。 僕の事を色々サポートしてくれるんですよ」
レンピカと紹介された人口精霊は、蒼星石の掌の上で浮遊していた。
「へぇ…、それはそれで凄いなあ…」
妖夢は、興味津々でレンピカを見つめていた。
「あの…、僕はもう寝させて貰いますね」
「えっ!? 寝るの?」
「そう、ローゼンメイデンにとって眠りは欠かせないんです」
「「(本当に人間みたいね…)」」
2人は心の中で呟いた。
「それじゃ、おやすみ・・・」
「…待って」
鞄に入った蒼星石を妖夢が呼び止る。
「あなたに言いたい事があるの」
「・・・っ?」
「…あなたと、あなたのローザミスティカは、私が護る! この刀に賭けて!」
そう言って妖夢は、楼観剣と白楼剣を手に取り見せた。
「…ありがとう、妖夢」
それを見た蒼星石は微笑んで鞄に入った。
「…さあ、私達も休みましょうか」
幽々子は立ち上がり部屋から出たところで振り返った。
「妖夢…、カッコ良かったわ♪」
「・・・っ!もう、幽々子様ったら!」
幽々子の言葉に妖夢は顔を赤くした。
そして、幽々子が行ったのを確認して妖夢も立ち上がった。
「…さて、私はお風呂に入ってこようっと」
妖夢は着替えを手にして部屋を出た。
自室に戻った幽々子は、布団の上に座り静かに呟いた。
「あの人形は、きっとこれから壮絶な運命を辿るわ、妖夢にとっても辛い事でしょうね…。私には2人に何がしてあげられるのかしら…」
その表情はとても悲しげであった。
これから迫り来る出来事を察知しているかの様に…。
妖夢と幽々子と蒼星石編は一旦終了です。
次は、やっぱり「彼女」ですかね?
しかし、携帯投稿は不便だ・・・orz