薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】 作:豊之丞
しかし、それで終わりではなかった。
女には結婚などする気は更々無く、ただ地上での生活を楽しみたいだけの理由で最終的には全ての求婚断ってしまう。
「最初から、この女の狂言だった訳ですか…」
翠星石は呆気に取られてそれを見ていた。
そして、妹紅の父親の自刃後、その女の使者が現れ、女は忽然と姿を眩ませのだ。
「…逃げやがったんですね、あの女は…」
「…あの時、私はアイツが月に帰るという形で逃げたと思っていたんだ。 だから、アイツが困る事をやってやろうと…」
「何をしたと言うですか…?」
「・・・・っ」
妹紅は何も答えなかった。
そして、また画面が変わり、何かの一団が山を登る場面が見えた。
それは、「かぐや姫がいないこの世では不老不死に何の意味も無し」という帝の命により蓬莱の薬を山の火口で燃やすというものであった。
「蓬莱の薬…、それが不老不死の薬なのね?」
「…そうだよ」
「ちなみに、この山は?」
「これは富士山だよ」
翠星石の問い掛けに妹紅は静かに答えた。
しばらくその様子を見ている、後ろから一団を追跡してくる人物が見えた。
「あれは…、お前?」
翠星石は思わず、画面に映る妹紅と横にいる妹紅を見比べた。
その映像の中の妹紅はフラフラしながら一団に付いていっており、力尽きそうなのは目に見えて分かった。
だが、一団の長がその妹紅を発見して手を差し伸べたのだ。
「あの人間は、優しいですね。 まだ小娘のお前を励まして、水までくれて良い人間ですぅ」
「岩笠・・・」
翠星石の表情に安堵が見えたが、妹紅の表情はまだ神妙であった。
それは、その先の地獄絵図を想像していたかのように。
山の頂上にたどり着いた一団であったが、役目を果たそうとした時、ひとりの女が現れる。
そして、有無言わさず一団の兵士達を殺害していく。
ある者は串刺しにされ、ある者は首を切り落とされ、辺りは血で染まっていく。
そんな惨殺が行われていたのに、女は何故かその男と妹紅には手を掛けなかった。
「な、何て事を…!」
「木花咲耶姫…!」
翠星石は驚愕し、妹紅は怒りの表情で睨んでいた。
そして、恐怖で動けない二人にその女はこう告げた。
『我が富士山でその薬を燃やすことは許さぬ、どうしてもと言うなら、不変と不死を扱う我が姉「石長姫」がいる八ヶ岳に行くが良い』
そう告げると、その女は去って行った。
「一体これは、どういう…」
翠星石は目の前で行われた惨劇、そしてその女の言った事が理解出来ていなかった。
そして、二人が山を下山する場面が映し出されていた。
「この先は・・・、止めろ・・・・・止めてくれ・・・・」
「・・・人間?」
歯軋りしながら声を絞り出す妹紅。
何故、そんな事になっているのか分からない翠星石。
再び映像を凝視していると、男の後ろを歩く妹紅の様子がおかしい。
よろめきながらも、その視線は、男の腰に巻き付けてある薬の入った袋にあった。
「お願いだ・・・、これ以上は・・・・」
必死で訴えかける妹紅。
だが、映像の中の二人には当然届いていない。
そして、映像の中の妹紅の目つきが変わり凶行に及ぶ。
『な…、何を…!? ぐわぁぁぁぁっ!』
背後からその男を崖から蹴落とすものであった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
妹紅の涙を流し絶叫した。
そして、映像の中の妹紅は、男の亡骸から薬の入った袋を奪い去った。
「お、お前っ…、何て事を!!」
驚きの余り、思わず横にいた妹紅に詰め寄る翠星石。
「・・・そんなつもりは・・・・無かったんだ・・・つい・・・・、岩笠・・・・・赦してくれ・・・・・、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
妹紅は、謝罪の言葉を口にしながら泣き崩れた。
「お前は、とんでもねぇゲス野郎です! 命の恩人にどうしてそんな事が出来るですか!!?」
翠星石は、妹紅の胸ぐらを掴み叫んだ。
「…彼奴さえいなければ!」
「そんな言い訳、聞きたくねぇですぅ! 貴様ってヤツはぁ!!」
鬼のような形相で妹紅に食ってかかる翠星石。
「うぅ・・・あぁ・・・・」
泣き崩れる妹紅は何も喋れなかった。
そんな様子を見た翠星石は胸ぐらを放し、込み上げる怒りを必死で抑えるように再び映像の方を見ながら呟いた。
「…蓬莱山輝夜、その女が全ての元凶だと言うのね…」
「・・・・っ」
翠星石は何かを察知したかのように言ったが、妹紅は何も答えれなかった。
そして、再び映像が変わった。
蓬莱の薬を口にした妹紅は、不死身になったが、同時に成長も止まり普通の人間として暮らせず、各地を転々とする日々を送った。
最初の数百年は身を隠さないと自分や周囲にも迷惑を掛ける悲惨な日々を過ごす。
「こうなる事は分かってた筈じゃないですか…」
また、次の数百年は恨みを晴らすかのように見つけた妖怪を無差別で退治する荒んだ日々。
「無害な妖怪まで…、勝手過ぎる…」
「・・・・っ」
翠星石の言葉が、妹紅の心に突き刺さる。
また、次の数百年は妖怪にも物足りなくなりやる気を失い、その日その日を漠然と過ごす日々。
そんな、各地を転々と歩き渡る生活をしている間に、この幻想郷に辿り着いた。
幻想郷は全てを受け入れる、妹紅にとってそこは最後の安住の地であった。
そして、その地で長年の宿敵である蓬莱山輝夜と再開したのである。
実は、輝夜は月へは帰っておらず、月から迎えに来た使者を一緒に来ていた八意永琳と共謀して殺害し、逃亡生活を続けて幻想郷に辿り着いていたのだ。
それを知った妹紅は、自分の父親が受けた屈辱、積年の恨みを晴らすべく輝夜との激しい殺し合いを繰り広げるようになったのだ。
そこで、映像は途切れた。
妹紅は俯き、何も言わず黙っていた。
「そういうことだったですか…、お前の過去は大体分かりました」
「・・・・」
「とりあえず、お前に言っておく事があるです」
「えっ…?」
そう言った翠星石は、座り込んいる妹紅を見下ろして言った。
「お前は復讐するためだけに、何千年も下らない人生を過ごしてきたのですか!?」
「・・・何だと!?」
妹紅は翠星石を睨みつけた。
「最初は、あの悪女のした事がとんでもねぇ事だと思ってました。でも、お前も人の事は言えないです! 自分のお父様が受けた屈辱の仕返しの為に、お前は命の恩人を殺めた!」
「そ、それは・・・」
「そんな事が許されるとでも思ってやがるですか!? それで、お前のお父様が喜ぶとでも思ってるのですか!?」
「私は…、岩笠を殺めた事を今でも臍を噛む思いでいる…」
「死んだ人間はもう戻って来ないです、永遠に会えないんですよ!!」
「・・・・っ!」
翠星石の怒りの罵倒に妹紅は歯を食いしばり黙って聞いていた。
「お前の気持ちは分からんでも無いです、お前のお父様が受けた屈辱、そして自刃。お前があの女を恨むのは同然です。
でも、1000年以上も前の事を何時までも引き摺っていくつもりですか?
父親の仇と銘打って永遠にそんな事を繰り返すつもりですか?
そんなの悲しすぎるですぅ!!!」
翠星石はまた妹紅の胸ぐらを掴んで、感極まり涙を流していた。
「よく考えろです、そんな堕落したお前の姿を・・・両親、兄弟、親類縁者がもし見たら、どれだけ嘆くか…」
「・・・・っ!」
「お前が殺し合っている姿を見て、胸を締め付けられる位悲しむ者がいたら…!」
「うっ・・・」
翠星石の言葉に妹紅は何も返せなかった。
「お前の事を大切に思っている人間がいる筈です! お前はその人間まで悲しませるですか!?」
「け、慧音・・・」
妹紅の脳裏に一人の女性の姿が浮かんだ。
「お前にとって、その人間はどんな存在ですか? 大切な存在では無いのですか!?」
「そ、それは・・・」
「例え不老不死で、殺し合ったてところで死ななくても、それを嘆き悲しんでるかもしれないです! 復讐だからと言ってお前はその人間をずっと悲しませるつもりですか!?」
「・・・・・」
「お前は自分の愚かさ、醜さ、浅ましさに気が付かないの? そこまでして仇が討ちたいですか!?」
「…そ、それでも、私は…」
そんな煮え切らない妹紅の態度に翠星石は力いっぱい叫んだ。
「いい加減にしやがれですぅ!!! 何故お前はそれ程までに絶望に向かおうとするですか!? お前の瞳の中には大切な人が見えないのですか!? その気になれば護る事だって出来るのに…。
でも、私達は違う・・・こんなの不公平だわ・・・」
「す、翠星石・・・」
「私達ローゼンメイデンは・・・、私が望んでも無いのに、ローザミスティカを奪い合って壊さなきゃならないです・・・。
私は、姉妹達と仲良くしたいのに・・・もっと遊びたいのに・・・もっと側に居たいだけなのに・・・、薔薇乙女の宿命(アリスゲーム)がそれを許してくれない・・・。
私は他の姉妹の悲しい顔が見たく無い。特に蒼星石の・・・。
でも、それでも闘わなければならない・・・。
お前達はどんなに殺し合っても死なないし壊れない、不老不死なんだから。
でも、ローゼンメイデンは違う、攻撃されれば痛いし壊れる。そして、ローザミスティカを奪われれば最後、バラバラのジャンクにされるのよ!
お前達みたいに不死身じゃないから壊されても元に戻らない。 けど、壊されようとも闘わなきゃならないのよ!
そんなのおかしいです!間違ってるですぅ!
何で、私達が・・・どうして・・・・どうして・・・!!」
「・・・・っ」
翠星石の涙ながらの訴えに妹紅は何一つ言葉を掛けれなかった。
何も言えない自分に腹が立ち、拳を力いっぱい握り締めた。
父親の仇との名目で輝夜と殺し合ってきた、特に深い意味ある訳ではなく、ただその為である。
だが、目の前の人形は自分が望まなくても闘わなきゃならない、アリスになる為の宿命。
残酷にも思える運命、妹紅は目を閉じて何かを考えていた。
「翠星石・・・」
「・・・人間?」
そして、妹紅は静かに語り出した。
「お前の言う通り、私は父の仇という名目でつまらない人生を送ってきたかもしれない。 だけど、これもまた私の宿命…。 蓬莱の薬を口にした瞬間からこうなることは定められていたと思う。 だから、これからもアイツとの闘いは続く、永遠に…」
「…お前ってヤツは…!」
怒りを滲ませる翠星石だが、妹紅は翠星石を直視して力強く言った。
「だが、私はもう大切な存在を悲しませるような事は決してしない。これからもアイツとの闘いが続いても、大切な人を巻き添えにはしない!」
「に、人間・・・」
「お前の言う通り、私は大切に思う人が居る、そして大切な仲間も…、だから私はそいつらを護る! この先、永遠の別れが来ようとも…!」
「あっ・・!」
「もちろん、お前の事もな、翠星石」
「・・・っ!」
妹紅はそう言って翠星石の涙を手で拭ってあげた。
翠星石は恥ずかしそうに俯いてしまう。
「…どうした?」
「な…、何でもないですぅ…、でも…」
「翠星石…?」
翠星石は顔を上げて妹紅に言った。
「大昔の事とはいえ、お前は命の恩人を殺めた。そして、無害な妖怪までも手に掛けた。それを永遠に抱いて生きなければならないですよ。その悲劇を忘れない為にも…」
「ああ、分かってる。仮にも墓場まで持って行くつもりだ…」
「…でも、それ以上にお前は今を懸命に生きなければならないです、大切な人の為にも…。例え、それが永遠の時間のうちの僅かな時間だったとしても…」
「・・・っ!」
「貴女は一人じゃない、多くの大切な仲間がいる、それを忘れてはいけないわ。 私だって…」
「翠星石…、ありがとう…」
翠星石の言葉に、妹紅は無意識に笑顔になり自分の涙を拭った。
「お礼なんて…、礼には及ばんですぅ、翠星石はお前のマスターになるんですよ、これ位当然ですぅ!」
「ふふっ、そうかよ…」
妹紅は静かに微笑した。
そして、遠くの空から一筋の光が差し込んでいるのが見えた。
妹紅の悲しい過去。
そして、翠星石の優しさ。
続く・・・・。