薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】   作:豊之丞

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続きです。


第16話 光

「あれって…」

 

妹紅が、その光を不思議そうに見ていた。

 

「あれは、お前の心境の変化の表れです」

 

「そうなのか?」

 

「そうですぅ、出なければ翠星石が説教した甲斐がないですぅ!」

 

「そっ、そっか…」

 

翠星石の少々尊大な物言いに、妹紅は思わず苦笑いしてしまう。

 

「いいですか、お前はもっと希望を持つです。 そして、もっと笑うです。 全てが血と泥ばかりな事じゃないわ、生きていればきっと良い事だったあるですよ!」

 

「…まだ、はっきりと自分を見いだせた訳じゃないけど…、そう思えるように善処はするよ」

 

「フフフ、それでいいですぅ。 後は翠星石が少しだけお手伝いするですぅ!」

 

「…手伝い?」

 

「まあ、見てろですぅ」

 

そう言って、翠星石は妹紅の『樹』の側へと近寄った。

 

「今は、こんな事しかしてあげられないけど、これからのお前の為にも…」

 

「な、何を…?」

 

「スィドリーム…」

 

翠星石が呼び掛けると、緑色の光を放つ人口精霊が現れ、そして、その中から如雨露が現れたのだ。

 

「あ、あれは…」

 

妹紅は、驚きながらも静かにその様子を見ていた。

 

「私の如雨露を満たしておくれ、あまぁいお水で満たしておくれ」

 

翠星石がそう唱えると、如雨露の中から水が溢れ出てきた。

 

「(な、何だ!? 如雨露の中から水が湧いた? 何だよアレ…)」

 

そして、翠星石はがすうっと飛び上がる。

 

「健やかにぃー、のびやかにぃー!」

 

そう唱えながら、翠星石は『樹』の周りに水を掛けた。

 

「緑の葉っぱを、キラキラ広げて…」

 

すると、樹の枝木から緑の葉っぱが、見る見るうちに生えて出来てた。

 

「す、すげえ…、これがアイツの力…」

 

その様子に、妹紅は只々驚愕していた。

そして、水を撒き終えた翠星石が降りてくるが、表情は曇っていた。

 

「これ以上はダメでした…、古い枝葉を剪定しなければ、上手く伸びないですぅ…、蒼星石がいれば…」

 

「…蒼星石?」

 

「蒼星石とは、翠星石の双子の妹です。 私達は二つ名で『庭師姉妹』と呼ばれてるの。 翠星石は『庭師の如雨露』しか持ってないです。 蒼星石の『庭師の鋏』があれば、剪定出来るのに…」

 

「そうか…、それは知らなかった」

(コイツ、双子だったのか…。 妹もこんな感じなのか?)

 

妹紅は、そんな事を心の中で思っていた。

 

「今はまだ先が見えないけど、光も水もくれる人がいる。 後はこの子の自身の持つ生きる力に期待するしか無いですぅ」

 

「それって、すなわち…」

 

「そうです、全てお前次第なのですぅ」

 

そうして、二人はその『樹』を見上げた。

 

すると、人口精霊が翠星石の前を浮遊しており、何かを伝えているようであった。

 

「……っ!? 人間、そろそろ時間切れですぅ」

 

「…時間切れ?」

 

「ここでネジが切れたら、永遠に夢の世界へ閉じ込められてしまうですぅ」

 

「えっ!? 閉じ込められるってまさか…」

 

「そうです、そうなったらお前はこの夢から出られないのよ、現実世界的には廃人と化すですぅ」

 

「な、何ぃ!?」

 

「現実のお前は、生ける屍になっても良いんですか?」

 

「それは困る! 永遠に夢の世界とか、シャレにならんぞ!?」

 

翠星石が告げた内容に妹紅は、慌てふためいていた。

 

「ならば、さっさと帰るですぅ。 案内するですぅ」

 

「…はぁ!?」

 

案内しろという言葉に、妹紅は困惑してしまう。

 

「それはどういう事だよ?」

 

「忘れたですか? ここはお前の夢、お前の世界ですよ。 翠星石には帰り方が分からないですよ」

 

「え……、えっと……」

 

「分かったら、さっさと飛ぶ!」

 

「……ああもう!分かったよ! 案内すれば良いんだろ!?」

 

半分投げやり気味の妹紅は、翠星石をおぶる形で森の中を飛んだ。

出口のあると思う方へ、妹紅の直感で向かった。

 

 

「ちょ、おま…、飛ばしすぎですぅ!」

 

「急がないと閉じ込められるんだろ? もっとスピード上げるぞ!」

 

「えぇっ!? これ以上は……、 きゃぁぁぁ!?」

 

飛ぶ速度が早くなり、翠星石は捕まって居られずに振り落とされそうになってまう。

 

「おい、翠星石!」

 

間一髪で、妹紅は翠星石の手を掴んだ。

 

「何やってるんだ、しっかり捕まってろよ!」

 

「・・・・っ!」

 

そう言う妹紅の後ろ姿を、翠星石は黙って見ていた。

 

「えっと…、私の勘だとこの辺りか…?」

 

妹紅の視線の先には、森が開けたような感じで、眩しい光で包まれていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「……はっ!?」

 

妹紅が目を覚ますと、そこは見慣れた自分の家の自分の部屋であった。

 

「そう言えば…、翠星石は?」

 

「ふう…、無事に戻れたですぅ」

 

「うおぉぉっ!?」

 

隣に座りこちらを見つめる翠星石に、妹紅は驚き飛び起きる。

 

「いつから其処に!?」

 

「今さっきですぅ、何ビビってやがるですか?」

 

「そ、そうか…」

 

サラッと言う翠星石に妹紅は気が抜けてしまった。

 

「しかしお前の能力…、人の夢の中に入り込んで精神に直接影響を及ぼすとは…、こんな経験初めてだぞ」

 

妹紅は片手で頭を抱えながら愚痴るように言った。

 

「これが、翠星石の能力ですぅ、下手な嘘はつけないですよ♪」

 

「うぇ・・・」

 

翠星石の黒い笑顔に妹紅は思わず引いてしまう。

 

「それじゃ、そろそろ……あれ……?」

 

翠星石は何故かフラフラと倒れ込んでしまう。

 

「お、おい! どうした!?」

 

妹紅は翠星石の身体を受け止めて抱えた。

 

「…契約してない状態で、能力を使いすぎたですぅ…、螺子が切れそう…」

 

「螺子? そうか…、少し待てよ」

 

妹紅は翠星石の鞄からゼンマイを手に取り、改めて螺子を巻いてあげた。

 

「ふう…、何とか復活出来たですぅ」

 

「脅かすなよ、何事かと思ったぞ」

 

妹紅は安堵の表情を見せた。

 

「それで、契約って言うのは?」

 

「言葉の通りです、翠星石は螺子を巻かれましたが、それだけでは不十分なのですぅ。 人間から力を貰わなけれ能力を十分に発揮出来ないから、契約する事によって力が供給されるようになるですよ」

 

「なる程、そういう仕組みなのか…」

 

翠星石の説明に感嘆している妹紅。

 

「一応聞くが…、私でいいのか?」

 

妹紅が尋ねると翠星石は少し考えるように俯き、そして再び向き直って言った。

 

「…仕方無いわ、他に選択肢は無いです。 お前が翠星石の螺子を巻いたのですから、お前を選んでやるですぅ。 それに契約しておかないと、いざという時に困るですから…」

 

「それって、アリスゲームの事か?」

 

「さっきも言いましたが、翠星石はアリスゲームは出来るだけ避けたいです。でも、向こうから仕掛けられたらどうしよもないから、仕方ないです…」

 

「そういうことか…、仕方ない、それでどうするんだ?」

 

「…えっ!?」

 

「どうやって契約するんだ? これは私には分からないぞ?」

 

「え、えっと…」

 

翠星石は一瞬躊躇したが、妹紅の心意気を受け入れる事にした。

 

「それじゃ……誓うです、この薔薇の指輪に」

 

そう言って、左手を差し出す。

 

「えっ? 誓うって…」

 

「この薔薇に証を…、口づけを……するです…」

 

「……マジで!?」

 

何故か顔を赤くする妹紅。

 

「お前…、今何か変な事考えてなかったですか?」

 

「そ、そんな事は無いぞ! ……多分…」

 

ジト目で睨む翠星石に、妹紅は思わず視線を逸らした。

 

「…もうっ!翠星石まで変な気分になったじゃねえですか! 余計な事は考えないで、早くこれにキスしやがれですぅ、白髪女!」

 

「な、何だとコイツ!」

 

妹紅の額に青筋が浮かぶが、これ以上の押し問答は無駄だと考え折れる事にした。

 

「ハア…、分かったよ、それじゃ、するぞ…」

 

「い、良いわよ…」

 

そうして、妹紅は恐る恐る翠星石の指輪に口づけをした。

すると、その瞬間緑色の光が妹紅と翠星石を包む。

 

「な、何だこれは!?」

 

「我慢するです、直ぐに終わるです!」

 

「熱い……!」

 

その熱さに顔を歪める妹紅。

 

「フフフ…、凄い力ですぅ! こんなの今までで初めてですぅ!」

 

そうして、光はゆっくりと消えていった。

 

「これは…、指輪?」

 

妹紅の左手の薬指には、翠星石と同じ薔薇の指輪が填められていた。

 

「それが、翠星石と契約をした証よ。 これでお前から力を貰って、もしもの時も闘いを有利に進める事が出来るですよ」

 

「…だが、程々にしてくれよ。 私は不老不死でも体力は底無しって訳では無いからな」

 

「大丈夫よ、お前が死ぬ手間で止めてやるですぅ!」

 

「おい、それは無いだろ…」

 

サラッと恐ろしい事を言う翠星石に、妹紅は苦笑いする。

 

「フフッ、ありがとうです人間…、いえ、妹紅」

 

「……何か言ったか?」

 

「な、何でも無いですぅ」

 

ムッとした表情で翠星石は言った。

 

「ところで、妹紅に幾つか聞きたい事があるです」

 

「聞きたいこと?」

 

「はい、さっきも言った蒼星石の事ですが…、お前の所に問いが来た時、二通ありませんでしたか?」

 

「問いって…、手紙の事か? いや、一通しか無かったが…」

 

「おかしいですね…、今までだと翠星石と蒼星石はいつも一緒なマスターの元で目覚めるのですが…」

 

翠星石が疑問に思っていると、妹紅はふと手紙の事を思い出した。

 

「そう言えば、あの手紙……何だか変だったな」

 

「変とは?」

 

「色々と書き直された箇所が多かったんだ、届け先も元々は私宛てでは無かったみたいだし…」

 

「そうだったですか…、という事は蒼星石はどこか違う場所で目覚めているって訳になりそうね」

 

「他の姉妹達も目覚めてるのか?」

 

「恐らく…、みんな一斉に目覚めた可能性もあるですぅ。 何だか心配です、蒼星石が悪いマスターの元に行ってなければ良いですが…」

 

不安そうな翠星石だったが、妹紅は微笑しながら言った。

 

「それは大丈夫だろう。 幻想郷にはそこまで悪いヤツは居ない筈だからな」

 

「だと良いですが…」

 

「幻想郷で目覚めてるなら、いずれ会えるだろ?」

 

「…それもそうね、きっと会えるですね! …でも、それが闘いの合図にならなければ良いけど…」

 

「そうだな……」

 

2人は神妙な面持ちになっていた。

だが、翠星石は直ぐに笑顔を取り戻した。

 

「…まあ、考えていても仕方ないですぅ。 目覚めてしまったからには、この幻想郷とかいう所での生活を楽しんでやるですぅ!」

 

「ははは…、言っておくが幻想郷での生活は、お前が考えている以上に刺激が多すぎるかもしれないよ」

 

「大丈夫ですぅ、妖怪なんかに襲われたら、お前から力を供給して撃退してやるですぅ!」

 

「結局、私頼みなのかよ!?」

 

「当たり前ですぅ、最早お前は翠星石の家来も同然なのですから」

 

「おい! 力は供給してやっても家来になった覚えはねぇぞ!」

 

「いちいち煩いヤツです、契約した時点でそういう事になったです!」

 

「…契約したのは、失敗だったか…?」

 

妹紅は、ボソッと呟いた。

 

「それから、この家は何も無さ過ぎて質素過ぎるですぅ、可憐な翠星石には似つかわしくない家ですねぇ」

 

「うるさい! 私の家なんだから質素だろうと関係無いだろ!? これから居候するヤツが言う台詞か?」

 

「わーい、白髪女が吠えてるですぅ!」

 

「その呼び方は止めろ! ぶっ飛ばすぞ!!」

 

「出来るものならやってみろですぅ! 白髪女は翠星石の前でひれ伏せさせてやるですぅ!」

 

「この野郎…、もう頭来た!」

 

翠星石のダメ出しと毒舌に妹紅は我慢の限界に達し、捕まえようとしたが簡単にかわされてしまう。

 

「おっと、捕まえるですか?捕まえれるなら捕まえてみやがれですぅ!」

 

「コイツ…、もう許さん! 燃やしてやるから表出ろぉ!!」

 

妹紅は手から炎を出して叫んだ。

 

「へぇ、それがお前の能力ですか…、そんなちゃちぃ炎なんか、直ぐ消火してやるですぅ!」

 

「フンッ! やってみな、性悪人形が!」

 

 

――そうして、翠星石の居候生活が始まり、同時に妹紅にとっては受難の日々が始まった…。

 




妹紅と翠星石編は一旦終了です。

薔薇乙女登場話も折り返し地点を過ぎましたが、まだまだですね!

次は、誰の出番か?
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