薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】 作:豊之丞
「これって・・・」
置かれた鞄を前に、戸惑いを隠せないアリス。
「…アイツの仕業じゃなさそうね。盗みに来ることはあっても、こんな立派な鞄を置いて行くなんて有り得ないわ…」
もう一度周囲を見渡すが、やはり誰も居ない。
すると、アリスはふと今朝の手紙の内容を思い出す。
「そうなると…、あの内容は本当なの? 本当に異次元から回収してこれを…? ・・・まさか・・・!?」
何を信用するべきなのか、アリスは完全に困惑しきっていた。
しかし、念には念をと言う言葉が脳裏を過ぎる。
「あなた達、念のためにこの周囲を見回って来てくれるかしら? もしかしたらこの犯人が近くに潜んでいるかもしれないから」
上海人形達は、一斉に魔法の森周辺に散って行く。
「さて、これをこのままにしておくのもアレだし、ちゃんと保管した方がよさそうね」
そう言って、アリスは鞄を持って家の中へ入って行く。
部屋に入りテーブルに鞄を置くと、改めてそれを凝視する。
「ただの鞄にしては立派な造りよね、一体何が入ってるのかしらね?」
怪しがりながらも、中に何が入っているのか興味が湧いてくる。
「…ちょっとだけ、見ちゃおうかな?」
アリスは、鞄のロックに手を掛けた。
「カチャッ」っという音と共に意外にも簡単に蓋が開く。
「こ、これは・・・・!」
中には、眠るように横たわる一体の人形があった。
服装はオレンジ色のハイネックのワンピースの上に黄色の燕尾風の上着を来ており、どこかアンティークな感じがする。
髪の色は緑色でロールヘアにハート型の髪留めをしている。
また、一緒に日傘らしいものが入っていた。
「これが…、ローゼンメイデンなの? 凄い、何て完成度なの…」
一目見ただけでも、尋常な作りで無いことが分かる。
アリスは、思わず人形を持ち上げる。
「思ってた以上に大きいわね、よく出来てるし本当に生きてるようだわ」
人形を見て驚きを隠せない様子であった。
「球体関節…、これはビスク・ドールね。私も一度作ってみたいけど、結構手間が掛かるのよね・・・」
彼女は軽い溜息をついた。
「でも、顔は柔らかいわね。素材は何かしら?」
アリスは、人形を隈無く見回し触っていた。
そして、再び鞄の中に視線を落とすと一つのゼンマイを見つける。
「ゼンマイ…? って事は動くの!?」
驚愕しながらも、深呼吸をして落ち着こうとする。
「でも、これが本物のローゼンメイデンなら・・・、動いてもおかしくは無いか・・・」
そう呟くと、そのゼンマイを持ちネジを巻こうとする。
すると、見回りを終えた人形達が帰ってきた。
「あら、ご苦労さま。どうだったの? ・・・・そう、やっぱり居なかったのね」
犯人らしき存在は居なかったと人形達の報告を聞きながらも、アリスはその人形のネジ穴を探していた。
「えっと…、これね」
背中のネジ穴を見つけゼンマイを差し込む。
「後で何かあるかもしれないけど、ここに来た以上もう貴女は私のものよ、私がまいてあげる…」
カチ カチ カチ・・・・・・
ネジを巻く音が部屋中に響く。
「…さあ、これでいいわね。 どうなることやらね?」
期待に胸を高鳴らせながら様子を伺っていると、直ぐに動きがあった。
突然、黄色い光を放ちながら人形が浮き上がる。
「・・・・・ええっ!?」
驚きの余り、彼女は人形から手を離してしまう。
次の瞬間には、立ち上がったような姿勢になりながらその人形はテーブルに降り立った。
「・・ぁぁ・・・ぁ・・・・・・・・」
ほんの数十秒の出来事とはいえ、突然の事にアリスは言葉が出なかった。
その場にいた上海人形、蓬莱人形達はその様子を見てざわめいていた。
その場に立ち尽くすアリスに対して、その人形は見上げながら口を開く。
「・・・貴女が、私のネジを巻いたのかしら?」
「・・・・・えっ!?」
いきなりの質問に、彼女は思わず聞き返す。
「だから、貴女が私のネジ巻いたのかしらと訊いてるんだわ!」
「・・・喋った? まさか・・・・ホンモノなの!?」
「ホンモノって何の事かしら? カナはローゼンメイデン第2ドールの金糸雀(かなりあ)かしら♪ そして…、ローゼンメイデン一の頭脳派かしら!」
金糸雀と名乗った人形は、おどけたように自己紹介をした。
「やっぱり…、貴女本物のローゼンメイデンなんだ・・・・」
アリスは驚愕しながらも、喜びを隠せずにいた。
「自己紹介したんだから、今度は貴女の名前を教えて欲しいかしら」
「…あっ、ごめんなさいね。 私はアリス・マーガトロイド、七色の人形遣いよ、俗に言う魔法使いってやつね」
アリスが自己紹介をすると、金糸雀は驚きの表情になる。
「えっ!? 貴女はアリスって名前なのかしら!?」
「そうだけど…、何?」
「えっ、それはその・・・・」
金糸雀は何故か口ごもってしまう。
そこで、アリスが口を開く。
「ところで貴女さ…」
「…何かしら?」
「テーブルの上に立つな!!」
「ひぃ!? ご、ごめんなさいかしら〜!」
アリスに怒鳴られ金糸雀は直ぐにテーブル降りる、その際に日傘らしい物を手に取った。
気拙い雰囲気になってしまい、金糸雀はとっさにアリスに話題を振った。
「…ところで、後ろにいる人形は貴女の?」
「ええ、みんな私が作った人形達よ。こっちが上海でこっち蓬莱っていうのよ、みんな挨拶なさい」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
人形達は一斉に金糸雀に挨拶(?)をした。
「…良く分からないけど、凄いかしら!私達ローゼンメイデンと同じように完全自律で動くの?」
「いいえ、私が命令を与えればそれなりに動いてくれるけど、完全自律とまではいかないわ。 尤もその完全自律が目標なんだけどね」
「でも凄いかしら! 今まで色んな時代で色んな人間と契約したけど、こんなの初めてかしら!」
興奮を隠せない金糸雀はアリスに言った。
「契約?」
「あ…、それは後で説明するかしら」
何故か煮え切らない答えが返ってくる。
「…まあいいわ、ところで何故貴女は私のところに来たの?」
「貴女はピチカートの問いに応えたと思うけど…?」
「問いって……あ、あの時の手紙ね… 」
それを聞いて、今朝の出来事を思い出すアリス。
しかし、直ぐに金糸雀に質問を返す。
「…でも、今度はちゃんと答えてね。 貴女は何故此処に来たの?」
アリスがそう問うと、金糸雀は徐に口を開く。
「カナが此処に来た理由は・・・、アリスゲームの為かしら」
「アリスゲーム? 私の? ・・・・・・って、そんな訳無いよね?」
「そんな訳無いわ・・・・」
アリスのボケた質問に金糸雀は苦笑いして答えが、次の瞬間には真剣な表情に変わり話出した。
「アリスゲームっていうのは、お互いのローザミスティカを奪い合うゲームの事。 負けた者は動くことも話すことも出来なくなり、勝った者はアリスに一歩近づくことが出来る。 そして、全てを集めればアリスになれてお父さまに会えるのよ。 これは私達薔薇乙女(ローゼンメイデン)に与えられた宿命かしら」
「ローザミスティカ?」
「私達ローゼンメイデンの命の源で、魂みたいなものかしら。 人間で言えば心臓になるのかしら?」
「それを奪い合うって・・・」
「そう、言い替えれば殺し合いみたいなものよ」
金糸雀から告げられたら言葉に、アリスは衝撃を受ける。
「そんな…、そんな事って…」
アリスの表情が曇る。
「そんな悲しい顔しないで欲しいかしら、これはお父さまが望んだ事なの、だからカナはその願いを叶えたいかしら!」
金糸雀の迷いの無い決意のようなものを感じ、アリスは何も言い返す事が出来なかった。
「アリスゲームが始まるとして…、他の薔薇乙女達も何処かで目覚たの?」
「恐らく、もう目覚めてると思うわ。 しかも、そんな遠くない場所で…、そう感じるかしら」
「ローゼンメイデンって、全部で何体居るの?」
「カナを含めて7体かしら、第1ドール水銀燈、第3ドール翠星石、第4ドール蒼星石、第5ドール真紅、第6ドール雛苺、そして第7ドール…」
そこまで言うと、金糸雀は何故か口ごもる。
「第7ドールは?」
「実は、カナはまだ第7ドールには会った事がないかしら…、でもみんな一応姉妹かしら〜」
「そう…、長いこと生きてきた貴女もまだ会ってない妹がいるのね…」
金糸雀の話に頷きながら聞いていると、決心したかのように金糸雀がアリスに切り出した。
「でね、貴女にお願いがあるの」
「何?お願いっていうのは?」
「アリスゲームに勝つ為にも…、カナと契約して欲しいかしら」
「契約っていうのは具体的にはどういうことなの?」
「私達ローゼンメイデンは、人間に螺子を巻かれると動くけど、それだけでは不十分なのよ、それで人間から力を貰わなければ能力を完全に発揮出来ないかしら、それには契約しなきゃならないのかしら」
「ふーん、なるほどねぇ・・・・」
金糸雀の話を聞いたアリスは納得したかの様に頷いてはいたが、どこか黒い笑みを浮かべていた。
「・・・アリス?」
「ねぇ金糸雀、此処が何処だから知ってる?」
「此処? アリスの家じゃ…」
「そうじゃないわ、この一帯の場所の事よ」
「そう言われても…、カナは目覚めたばかりで分からないかしら」
困惑した表情で金糸雀が答えると、今度はアリスが語り出す。
「ここはね、幻想郷って場所なの」
「…げんそうきょう?」
「そう、幻想郷ってのはね日本という国の東の山の中にあると言われている場所で、ここは外の世界で失われ幻想になったものが集まるとされる場所。妖怪、妖精、亡霊、宇宙人…、ここは多種多様な種族が住む場所でもあるのよ」
「えっ…、妖怪?妖精?」
「幻想郷はね、妖怪達によって築き上げられてると言っても過言では無いの」
「そんな…、カナも色んな時代で生きてきたけど、妖怪なんて会った事なんか無かったかしら? そんなの迷信かしら!」
顔を引きつらせながらも、強がりるように金糸雀が言う。
「あら? そんな事無いわ。 現に貴女の目の前にいるのも『妖怪』なのよ?」
「・・・えっ!?」
それを聞いて、金糸雀の顔が青ざめる。
それを見たアリスはクスリと笑う。
「フフフ・・・・、大丈夫よ、取って食ったりなんてしないから、厳密には私は魔法使いだから人間を食べる事はしないわ」
「よ、良かったかしら・・・ってカナは人形かしら!」
それを聞いた金糸雀は、安堵の表情を浮かべた。
「私と契約したいのよね? 人外でも大丈夫なの?」
アリスは、素朴な疑問を投げかけた。
「人外であっても、契約すれば力は供給されるから大丈夫!…な筈かしら…」
人外と契約なんて初めてな訳だから金糸雀本人にも分からない。
「本当に? 心配なんだけど・・・・」
アリスがそう呟くと、金糸雀は怒ったように言った。
「貴女がカナの螺子を巻いたんだから、ちゃんと責任を取って欲しいかしら!」
そう捲くし立てられ、アリスは困ったような表情で答えた。
「分かったわよ…、契約してあげてもいいわ」
「…本当かしら!?」
金糸雀は笑みを浮かべたが、次の瞬間アリスから予想外の言葉が告げられた。
「但し、タダでとは行かないわ。 本当のところ貴女の実力が見たいのよねぇ。 だから…、私とスペルカード勝負をしなさい!」
「…えっ!? スペルカード勝負?」
「ええ、俗に言う『弾幕ごっこ』ってやつよ」
「そんな、急に言われても・・・」
「大丈夫よ、難しい事は無いから。 今から説明してあげるわ、とりあえず…」
「とりあえず・・・・?」
「表出なさい」
アリスは鋭い目つきで金糸雀を睨む。
「ひ、ひぃ〜! い、一体どうなっちゃうのかしら〜!?
一抹の不安を抱え、金糸雀はアリスの後ろを着いて行った・・・。
「フフ、伝説の人形が幻想入りなんて、面白くなってきたわね…」
聞こえない様にアリスは呟いた。
勝負の行方は、どうなるのか?