薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】 作:豊之丞
少しの間、残酷描写はありません。
ある日の昼前の時間、妖怪の山にある守矢神社に1人の少女が降り立った。
「ふぅ…、少し遅くなったわね。 お二人を待たせてはいけませんね」
1人呟きながら境内へ入って行くのは守矢神社の風祝である東風谷早苗。
人里で行われている朝市へ買い出しをしに行き、その帰りであった。
荷物も持ちながら、母屋へと入ると
「何で、また私のお萩を食べたんだよー! あれ高かったんだぞぉ!」
「うるさいなぁ、アンタのとは知らなかったんだよ! ワザとじゃないよ!」
「嘘だーっ! お前は絶対確信犯だ!」
「知らなかったって言ってるだろ! しつこいぞ!」
奥の座敷から2人の言い争う声が聞こえた。
「はぁ…、またやってるわ…」
そのやり取りを聞いて、早苗は半ば呆れていた。
やむなく、台所より先に2人のいる座敷へと向かった。
「神奈子様、諏訪子様、一体何事ですか!? 外まで丸聞こえですよ!」
部屋の襖を開け、言い争う2人を早苗は多少語気を荒げて止めた。
「あ、早苗! 聞いてよ! 神奈子のヤツが私のとっておいた高級お萩を食べちゃったんだよ! あれ、とっても高かったのに!」
守矢神社の二柱の1人、洩矢諏訪子が涙目で早苗に訴えて来て、早苗は思わず頭を抱えた。
「そういう事だったのですか…、本当なのですか神奈子様?」
「それは…、確かに私が食べたけど、諏訪子のものとは知らなかったのよ、本当さね」
早苗の問いに、二柱のもう1人、八坂神奈子は困惑気味に応えた。
「はぁ……お二人共、一体これで何回目ですか? いい加減にして下さいよ?」
この時の早苗は、いつもとは違う迫力があった。
「高かったとはいえ、お萩一つで言い争うなんて二柱のやる事ではありません!」
「それは無いよぉ! あれは本当に高かったんだから…、私は被害者だよ!?」
「おい!何私ばかり悪者にしてんだ!? 早苗何とかしてぇ!」
全く以て平行線な会話に、業を煮やした早苗
「…お二人共、お昼と夕ご飯は要らないんですか?」
「「……えっ!?」」
「折角、朝市で新鮮な食材を買ってきたのに、お二人がそんなんでは作る気が失せました」
「ま、まさか、それって…」
「お察しの通り、『抜き』って事で」
「「そんなぁ!?」」
早苗の一言に青ざめる2人。
「諏訪子様、お気持ちは分からないでもないですが、やはり大人げ無いです!」
「あーうー…」
「神奈子様も、これで一体何回目ですか!? 私がミスをすれば叱りつけるのに、ご自分は良いのですか?」
「そ、それは……」
早苗の剣幕に、2人は俯いてしまった。
「はあ……とにかく、これ以上喧嘩は止めて下さい、分かりましたか?」
「「う……うん……」」
「何ですって? 聞こえません! はっきり返事しなさい!」
「は、はいっ! ごめんなさい!」
「本当にすまなかった! だから、ご飯抜きだけは勘弁してくれ!」
諏訪子と神奈子は、早苗の前で土下座して謝っていた。
「もう、しょうがありませんね…。 では、これからお昼ご飯の支度をしますので、大人しくしていて下さいね」
「「た、助かった……」」
早苗の表情が緩んだのを見て、2人は安堵した。
「あ、それから諏訪子様、アメちゃんですよ」
「えっ、アメちゃん?」
そう言うと、早苗は飴の入った袋を渡した。
「はい、里の人からのご奉納ですよ」
「…おおー、これはデッカいやつだぁ!」
「フンッ、ガキンチョ」
「な、何だとぉ!? ガキンチョだぁ!?」
神奈子の一言に諏訪子が怒り出す。
「神奈子様……(ギロリッ)」
早苗の目が光る
「う……悪かったよ……」
「もう…、それから神奈子様にもご奉納ですよ」
「えっ、私にも?」
「はい、里の和菓子屋さんから葛饅頭を頂きました」
「そ、そうか。 これは美味そうだ」
それを見た神奈子の表情に笑顔が戻った。
「お昼ご飯が出来るまで、それで我慢して下さいね。 私は台所にいますから」
それだけ言い残し、早苗は部屋を出た。
「やっぱり…、早苗には敵わないね…」
「そうね…、あの子はしっかり者ね。 こんな時だけは頭が上がらないよ」
諏訪子と神奈子は笑いながら呟いた。
―――――――――――――――――
昼食が終わり、早苗は台所で片付けをしていた。
「これで、洗い物は終わりね…。 一休みしましょうか」
1人呟きながら、早苗は自室へと向かった。
部屋に入り、座り込もうとした時、
「……あら? 何かしら…?」
部屋の隅にある机の上に、白い封筒がある事に気が付いた。
早苗が、その封筒を手に取ると、
『東風谷早苗様』
と書かれており、自分宛てである事が分かる。
「私宛…、誰かしら? そう言えば、幻想郷に来てから私に手紙なんて初めてね!」
久しぶりの自分宛ての手紙に嬉しさの余り笑顔が零れる。
しかし、次の瞬間には疑問も感じた。
「…でも、私の部屋に直接置いてあったって事は、神奈子様か諏訪子様の仕業って可能性もあるわね…」
そんな事を想像してか、早苗は冴えない表情であった。
「…仕方無いわ、中身を確認しますか…」
封筒を開け、中から手紙を出して広げて見た。
そこに書かれていた内容は、想像を遥かに反する内容であった。
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人口精霊ベリーベルが、異次元より回収しに行きまーす!
まきますか まきませんか
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「何よこれ…」
そな手紙を読んだ早苗は、プルプル震えていた。
「遊び心のある悪戯ならまだしも、これは酷すぎるわ!久しぶりの手紙なのに、台無しよ!」
怒りと悲しみが表情から滲み出ていた。
「2人に文句を言わなきゃ、気が済まないわ!」
早苗は手紙を片手に部屋を飛び出した。
向かった先は、2人のいる座敷。
早苗は思いっ切り襖を開けた。
「神奈子様! 諏訪子様!」
「……っ!? さ、早苗?」
「び、びっくりしたなぁ…、どうしたのよ、早苗?」
いきなりの事に驚く2人
「どうしたではありませんよ! これは何ですか!?」
早苗は、凄い剣幕で2人の目の前に手紙を差し出した。
「…何だいこれは? 何々…」
「神奈子、私にも見せてよー」
2人はその手紙に目を通し始める。
すると、それを見ていた2人が揃って笑い出した。
「ハハハ…、何だいこの酷いダイレクトメールは? こんなの幻想郷でも通用しないわよ」
「そうだねぇ! 外の世界じゃ時代遅れ過ぎて小学生でも引っかからないよ、ケーロケロケロ…!」
「…何故、笑っていられるのですか?」
神奈子と諏訪子は笑い転げるが、早苗は全く笑っておらず、鋭い目つきで2人を睨んでいた。
「その手紙はお二人の仕業なのですよね?」
「「…えっ!?」」
早苗の問いに、2人は困惑してしまう。
「まさか早苗…、私達を疑ってるの?」
「当たり前です! この屋敷で私の部屋に自由に出入り出来るのは神奈子様と諏訪子様だけなんですよ!? 疑って当然です!」
「ま、待ちなよ早苗、確かにあんたの部屋に出入り出来るのは私達位だけど、これは違うよ、私じゃないよ!?」
「諏訪子様…、いつまで惚けるつもりですか?」
「早苗……本当だよ、私じゃないよ…」
「本当よ、私もこんな事はしないわよ」
「そうですか…、お二人揃ってシラを切るつもりですか…」
怒りが収まらない早苗は、懐から大幣を取り出した。
「私…、本気でキレますよ…?」
それは冗談でも何でもなく、本気でキレる一歩手間であった。
「待て早苗! ならば私達がやったという証拠はあるのか?」
「そ、そうだよ。 あんたは私達の筆跡を知ってるだろ? これは私や神奈子の字じゃ無いよね?」
「……っ!? そ……それは……」
神奈子と諏訪子の問いに、早苗は口ごもり俯いてしまった。
「お前はそこまでちゃんと確認したの? こんな酷い内容では怒るのも無理無いけど、頭ごなしに私のせいにするのはいけないぞ?」
「私でもこんな酷い手紙、いくら何でも早苗には出せないよ…」
俯く早苗に2人は静かに優しく諭した。
「ご……ごめんなさい……。 神奈子様と諏訪子様がこんな事する訳がありませんよね……」
早苗の目からは止めどなく涙が溢れ出した。
「…幻想郷に来てから、初めて貰った手紙で……嬉しかったのに…、こんな内容で……情けなくて…」
掠れた声で訴える早苗に、2人はそれ以上責める事が出来なかった。
「早苗、もう泣くな」
神奈子がそっと早苗の肩を叩いた。
「幻想郷はそんな所だから、誰かが悪戯したんだろう。 あんまり気にする事は無いさね」
「そうだよ、神奈子の言う通りだよ。 早苗は笑顔が似合うんだから、泣いちゃいけないよ」
横から諏訪子が静かに話し掛けた。
「もし、早苗にこんな舐めた手紙を送ったヤツを見つけたら、私がぶっ飛ばしてやるよ!」
「諏訪子の言う通りだ、そいつを見つけたら私が痛い目に合わせてやるよ」
「諏訪子様…、神奈子様…。 ありがとうございます…」
2人の慰めに、早苗にようやく笑顔が戻ってきた。
「取り乱してしまい、すみません…」
「気にしなくていいさ!」
「そうそう!」
「…はいっ! ……しかし、この手紙はどうしましょうか…」
3人は手紙を囲むようにして座り、それを凝視した。
「いっそのこと、『まきますか』にすればいいんじゃない?」
「えっ!? 諏訪子様!?」
「それも一理あるな、この手紙には回収しに来るとあるから、そこをとっ捕まえればいいのね」
「…それで、上手くいくのでしょうか?」
「大丈夫さね、結界を張っておけば、どんな侵入者でも分かるからね。 それに…」
「それに…?」
「早苗を泣かせたヤツを、タダで帰す訳にはいかないな…」
「そうね…、どうやって痛めつけようかねぇ…」
「(うわっ…、割と本気になってる……)」
神奈子と諏訪子から怒気を感じ、早苗は少し怯んでしまう。
「…とりあえず、『まきますか』に○をしよう、早苗」
「わ、分かりました……神奈子様がそう仰るなら…」
「はい、ボールペン♪」
「諏訪子様、準備が良すぎです…」
諏訪子からボールペンを手渡された早苗は、神奈子の言うとおりに『まきますか』に○を囲った。
「これで、後は待つだけだね」
「どんな面して現れるのか、楽しみだねぇ」
神奈子と諏訪子は、黒い笑みを浮かべていた。
「これで、本当に大丈夫でしょうか…」
「心配なさんな、さぁ、まだやる事あるんだから、早くその手紙を片付けてきな」
「わ、分かりました…」
そうして、早苗はその手紙を持ち、自室へと戻って行った。
部屋に入った早苗は、返信用封筒に手紙を入れ引き出しに閉まった。
「本当に大丈夫かなぁ…? 何だか落ち着かないわ…」
不安を拭い切れていない早苗だが、送ってきた正体の知れない相手に対しても、怒りがこみ上げてきた。
「神奈子様と諏訪子様は、ああ言ってたけど、実際に現れたら私がとっちめるんだから!」
早苗は部屋を出た。
「そうね…、秘法『九字刺し』で懲らしめてあげるわ♪」
その表情に、ドス黒い笑みを浮かべながら…。
しかし、まだこの時の早苗は知らない。
これが全ての始まりである事を。
そして、守矢神社全体を巻き込み、早苗の運命も変えるような出会いになる事も……。
次に出てくる薔薇乙女は分かりますよね?
続く…。