薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】   作:豊之丞

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続きです。

残酷描写は無し、シリアスとギャグで構成されてます^^


第26話 雛苺

その日の夜の事であった。

 

夕食を終え、神奈子が立ち上がった。

 

「それじゃ、私はお風呂に行ってくるわよ」

 

「分かりました、その次は諏訪子様ですね?」

 

「ああ、私はもう入った」

 

「早っ!」

 

「今日は、私が沸かしたんだから先に頂いたよ」

 

「一番風呂取られた…」

 

「夜ご飯前まで姿が見えなかったのは、そのせいでしたか…」

 

「まだ熱いうちに、入って来なよ!」

 

「全く……仕方無い、入って来るわ」

 

「上がったら教えて下さい」

 

 

風呂へ向かう神奈子に早苗がそう声を掛けた。

 

 

「では、私は夕食の後片付けをしますね」

 

「うん、後宜しくー」

 

そう言って、早苗は台所に、諏訪子は部屋へと戻って行った。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

片付けが終わり、早苗は自室へと戻って来た。

 

「さて、神奈子様が上がるまで、準備して待ってましょう」

 

戸を開けると、部屋は既に真っ暗な状態であったので、早苗は明かりを付けようと、暗闇の中を手探りしていた。

 

 

「ええっと……明かり明かり…………うわあっ!?」

 

暗闇の中、何かに躓き転倒してしまった。

 

 

「いたたた………何?何が置いてあるの?」

 

早苗は、再び暗闇の中を手探り、ようやく照明のスイッチを入れた。

 

 

「ふう…、やっと足元が見えるようになった…」

 

 

部屋が明るくなり一息つくが、

 

「…えっ? 何これ…?」

 

 

早苗の視線の先には、見たことが無い大きい鞄が置いてあった。

 

「……鞄? 私のでは無いわね、誰のかしら?」

 

鞄の前に座り、それを良く見ていた。

 

 

「結構大きいわね………中に何が入ってるのかしら…?」

 

早苗は、恐る恐る鞄のロックに手を掛けた。

 

「ゆっくりと……」

 

慎重に丁寧に鞄を開けていく。

 

すると、

 

「……っ!? これって……人形!?」

 

鞄の中には、一体の人形が眠る様に横たわっていた。

服装は、桃色を基調とした活動的な感じで、まるでベビードールのような服装。

髪型は金髪で内巻きの縦ロール、頭には大きな桃色のリボンを付けていた。

 

 

「す、凄い…、良く出来てるわね…」

 

早苗は、その人形を手に持とうとした時、気が付いた。

 

「……えっ? 涙の跡…?」

 

人形の瞑った目の周りには、涙の跡が残っていた。

 

 

「何で…、泣いているの…?」

 

 

その意味が分からなく、戸惑う早苗だが、とりあえず人形を持ち上げ、隈無く見回してみた。

 

「大きいわね…、まるで生きているようだわ…」

 

感慨深く人形を見る早苗。

 

 

「あっ…、これって…」

 

ふと鞄に目をやると、隅に一つのゼンマイがあるのに気付いた。

 

「動くの? もしかして、呪いの類とか…?」

 

不安に駆られながら、彼女は一旦人形を鞄へと戻した。

 

 

「…とりあえず、神奈子様と諏訪子様に報告した方が良さそうね」

 

 

足早に部屋を出ようとする早苗。

 

ここで、悲劇が起こる。

 

 

「おーい早苗、お風呂空いたわ………えっ!?」

 

 

「神奈子…様……っ!?」

 

 

ゴツ−−ンッ!!

 

 

「はがぁぁぁっ!?」

 

「いがぁぁぁっ!?」

 

 

見事なまでの正面衝突( >Д<;)

 

 

「何だよ……早苗……私が何したって言うのよ…!」

 

 

「ち…、違います! ……これは……事故です…!」

 

 

痛みで悶絶しており、会話がままならない2人。

 

 

「もう…、一体何事さね?」

 

 

「すみません神奈子様、諏訪子様を呼んで来て貰えませんか?」

 

「諏訪子を? 何があったの?」

 

「後で説明しますので、お願いします!」

 

「あっ、ああ…、分かった」

 

早苗の只ならぬ雰囲気を察して、神奈子は諏訪子を呼びに戻って行った。

 

それから少しして、2人が早苗の部屋へと入ってきた。

 

「どうしたんだい早苗? お前が私達を部屋に呼んだりして」

 

「何か事情があるんだろ?」

 

諏訪子と神奈子が早苗に尋ねた。

 

「これを見て下さい…」

 

早苗の指差した方には、鞄に横たわる人形があった。

 

 

「これって…、人形か?」

 

 

「凄い良く出来てるねぇ」

 

 

3人は鞄の前に座り、人形を凝視していた。

 

「先程、部屋に戻って来たら、既にあったんです。 どうするべきでしょうか?」

 

 

「えっ!? どうするって言われても…」

 

「うーん、困ったわね…」

 

人形の処遇に考える2人。

 

「早苗、この人形はさっきの手紙に関係してるんじゃないか?」

 

「さっきのって…、あのローゼンメイデンと書かれた手紙ですか?」

 

「そうだ、その手紙は?」

 

「はい、その手紙なら机の引き出しに…」

 

そう言って、早苗は立ち上がり机へと向かい引き出しを開けてみたが、

 

「…あれっ? 手紙が無い!?確かに入れて置いたのに……そ、そんな筈が……!?」

 

いつの間にか手紙が消えている事に早苗は驚愕した。

 

「これって…、一体どうなってるの?」

 

「私にも分からない…、結界を張っておいた筈なんだが、何も反応は無かったし…」

 

諏訪子と神奈子は怪訝な表情で、その様子を見ていた。

 

「間違いありません! 確かに此処に…」

 

其処に手紙を入れた事を必死で訴える早苗。

 

「誰かが持って行ったんだよ…」

 

「この結界を掻い潜るって来たなら、相当なヤツだろう…」

 

若干警戒し出す2人。

 

 

「神奈子様…、諏訪子様…」

 

「何…?」

 

早苗は、2人の前に正座して真剣な表情で話し出した。

 

 

「私、この人形の螺子を巻いてみようと思います」

 

 

「…えっ!? 巻くって……これ動くの?」

 

 

「早苗、本気なの…?」

 

 

「はい…、この人形を見てると、とても悪さをするようには見えないですし、それに…」

 

 

「…それに?」

 

 

「気になるんです、何故その人形は悲しそうにしているのか…」

 

 

「悲しそうに…?」

 

 

早苗の言葉に、2人は今一度人形を見る。

 

 

「あっ…、涙の跡が…」

 

 

「泣いてたの? この人形は…?」

 

 

「この人形からは、見た目とは裏腹に何か大変な運命、そして悲しい出来事を背負っているような……そんな気がするんです」

 

 

「「……っ」」

 

 

そこから、3人はしばらくの間沈黙していた。

 

 

「…分かったわ、貴女がそこまで言うなら私は止めないわよ」

 

先に口を開いたのは神奈子。

 

「私も同じく、元々はあんた宛てに来たもんなんだしね。 それに、この人形が何者なのかも気になるしさ」

 

諏訪子もそれに続き、2人は人形のネジを巻くことに静かに賛同した。

 

「神奈子様、諏訪子様、ありがとうございます…!」

 

その言葉に安堵したかの様に、早苗は笑顔を見せた。

 

 

「では、早速……」

 

 

早苗は人形を抱き抱え、ゼンマイを手に取る。

 

 

「ええっと…、ネジを巻く穴は……これね」

 

 

背中にある螺子穴にゼンマイを差し込む。

 

 

「一体、どうなるんだろうねぇ…」

 

「さあ…、こればかりは私にも予想が付かないな…」

 

その様子を、じっと見守る諏訪子と神奈子

 

 

カチッ カチッ カチッ カチッ・・・・

 

 

螺子を巻く音だけが部屋に響いた。

 

 

「…これで螺子は巻き終えました、さぁ……」

 

 

ゼンマイを鞄に置き、人形を持ち上げたまま様子を伺う早苗。

 

「「……っ」」

 

 

神奈子と諏訪子もその様子を見守る。

 

 

すると、人形からピンク色の光が瞬き出した。

 

「…えっ!? ちょっと……きゃぁぁっ!?」

 

早苗は驚きの余り、人形を放り投げてしまう。

 

放り投げられた人形は、そこからひとりでにゆっくりと起き上がった。

 

 

「か、神奈子様! どどどどうしましょう!?」

 

 

「さ、早苗! 何するのよ!?」

 

 

「か、神奈子、何とかしてよ! 軍神だろ!?」

 

 

「お、おい! 何なんだ!? お前等何で私ばかり盾にするんだ!?」

 

早苗と諏訪子は神奈子を盾に隠れてしまい、神奈子はそれに慌てふためいていた。

 

すると、人形から放たれていた光が徐々に消えていき、人形の目が開いた。

 

その瞳の色は、とても綺麗な黄緑色であった。

 

「あっ……あの……?」

 

どうするべきか完全に困惑する3人。

そんな中、先に動いたのは人形の方であった。

 

「きゃっは! ヒナの螺子を巻いてくれたのは貴女達なの?」

 

それは、まるで子供の様な無邪気な笑顔で話し掛けてきたのだ。

 

「ええーっ!? 人形が喋りました!?」

 

「これは、一体どうなってるのよ!? ねぇ神奈子ったら!」

 

「私に振るなぁー!」

 

予想外の出来事に、軽くパニクる3人。

その様子を人形は多少不安そうに眺めていた。

 

「ねぇ…、ヒナは迷惑だったの…?」

 

「…えっ?」

 

「みんなは、ヒナが此処に来た事、迷惑だった?」

 

「…ち、違う! そんな事無い!」

 

人形の問いに、早苗は力強く否定した。

 

「これは…、その……びっくりしたんですよ、突然でしたので…。 ですよね? 神奈子様、諏訪子様!」

 

「…あ、ああ。 そうだよ、驚いただけさね」

 

「びっくりはしたけど…、迷惑なんて思ってないよ?」

 

早苗の問いに、2人は直ぐに表情を緩めて答えた。

 

「よ…、良かった……なの」

 

人形は、安心した表情で胸をなで下ろした。

 

「…ところで、貴女は? 名前は何て言うの?」

 

早苗が人形に尋ねる。

 

 

「そ、そうなの! ヒナはね、雛苺って言うの。 薔薇乙女(ローゼンメイデン)の第6ドールなのよ!」

 

「ローゼン…メイデン……」

 

「あの手紙は本物だった訳ね…」

 

「そういう事になるね…」

 

雛苺と名乗った人形の自己紹介に、3人は納得したかの様な表情であった。

 

「…ところで、貴女達の名前は何て言うの?」

 

「あっ、ごめんなさい。私は東風谷早苗です。この守矢神社で風祝をしてます」

 

「守矢…神社……? 風祝って何…?」

 

「まあ、巫女みたいなものですよ」

 

「み、巫女…?」

 

「そ、そこからですか!?」

 

軽く顔を引き吊らせる早苗。

 

 

「まぁ、そこは後で説明するさね。 私は八坂神奈子、この守矢神社の祭神の一柱でもあり、風雨神だ」

 

「私は洩矢諏訪子、守矢神社の二柱の1人、祭神の一柱で土着神の頂点なんだよ」

 

「…2人共、凄い人なの……?」

 

2人の自己紹介に、雛苺の頭に?マークが浮かぶ。

 

「お二人共、種族は神様なんですよ。 神奈子様が神霊、諏訪子様が八百万の神なんです」

 

「…えっ? 神様ってこんな普通に居るの?」

 

早苗のその説明に雛苺は驚きを隠せなかった。

 

「信じられなくても仕方ないわね。でも、幻想郷では普通に有り得るのよ」

 

「まぁ、誰だって最初は驚くよねえ」

 

神奈子と諏訪子は笑いながら素っ気なく返した。

 

「…幻想郷って…、何?」

 

「幻想郷とはこの一帯の土地の名称ですよ、後で説明しましょう。

ちなみにですね、私は人間ですが……同時に現人神でもあるんですよ」

 

 

「えっ………っ」

 

 

「…雛苺さん?」

 

 

考え込むように俯いた雛苺を、早苗は心配しながら声を掛けた。

すると、彼女の反応は意外なものだった。

 

「…凄いのー! みんな神様なんて信じられないけど凄いのー!」

 

「そ、そう…」

 

「「げ、元気だね…」」

 

雛苺の無邪気さに多少圧倒される3人。

そして、雛苺は目を輝かせながら早苗に寄ってきた。

 

「早苗って言うのね? ヒナの螺子を巻いたのも早苗なの?」

 

「えっ? ……ええ、貴女の螺子を巻いたのは私よ」

 

「やっぱりだー! それじゃあ、早苗はヒナと契約するのー!」

「け、契約…?」

 

その言葉に早苗は怪訝な表情で雛苺を見た。

 

「あっ……、これもちゃんと説明しなきゃダメなのね…」

 

雛苺は立ち上がり3人の方を向いた。

先程まで明るかった表情が一変し、とても悲しそうに俯いていた。

 

「どうしたんだい、雛苺?」

 

神奈子が、そっと雛苺に声を掛けた。

 

「あのね…、ヒナが此処に来たのには理由があるの」

 

「理由?」

 

「そ、それはね…」

 

言い辛そうにしている雛苺に、今度は諏訪子が声を掛けた。

 

「ゆっくりで良いから、言ってごらんよ」

 

「う、うん…」

 

2人に促され、雛苺は意を決して話し出した。

 

 

「ヒナはね…、アリスゲームをする為に此処に来たの…」

 




デフォな展開ではありますが、薔薇乙女を語るには欠かせないシーンなんで、省略はしません。


次話に続く…。
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