薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】 作:豊之丞
「アリスゲーム…?」
「何だい、そのアリスゲームってのは?」
「アリスゲームっていうのはね、ヒナ達ローゼンメイデンがお互いのローザミスティカを奪い合うゲームの事なの」
「ローザミスティカってのは何だい?」
「ローザミスティカっていうのは、ローゼンメイデンの命の源で、いわゆる『魂』みたいな様なものなの。 これを失ったらヒナ達は只の人形になっちゃうの」
「それって……」
「ローザミスティカは、元々は一つだったの。 それをお父様が割って7つの欠片になったの。それを1に戻すためにヒナ達は戦うの」
「何よ…、それがアリスゲームなの…?」
「そうなの、アリスゲームに勝った者はアリスに一歩近づき、負けた者は動く事も話す事も出来なくなるのよ」
「そ、そんな…、酷い話だわ…」
雛苺の話に3人の表情は悲痛なものなっていた。
「ヒナもね、姉妹で戦うなんて嫌なの…、みんなで仲良く遊べたらって何時も思ってるの。 でも、でも……」
そう話す雛苺の目には涙が浮かんでいた。
「これは、お父様からローゼンメイデンに与えられた宿命なの、アリスになる為の絶対、絶対に避けられない定めなの、お父様に会うにはそれしか方法が無いの…」
「「「………っ」」」
雛苺のその訴えに3人は言葉を失った。
目の前にいる、可愛らしい格好をした人形が、恐ろしい程の過酷な運命を背負っている。
スペルカードルールなど、比にならない程の戦いをずっと昔から繰り広げてきた。
それは、想像に堅くない程の残酷なものに感じられた。
「ヒナはね、喧嘩は嫌いだけど、お父様に会いたいからアリスゲームをするの、そして……みんなも護りたいのよ。 でも、ヒナだけの力じゃダメなの、だから契約しなくちゃいけないの」
「…私と契約すれば、アリスゲームを制する事が出来るというの?」
「それは……分からない…、みんな、強いから…」
早苗の問いに、雛苺の表情は曇ったままであった。
そこに、今度は神奈子が聞いた。
「さっきの話だと、ローザミスティカは7つの欠片と言ってたけど、他に姉妹が?」
「うん、ヒナを含めてローゼンメイデンは7人いるの」
「7人も居るのかい? じゃ、他のローゼンメイデンも…」
「そうよ、7人のローゼンメイデンが一斉に目覚めた可能性が高いの。7つのローザミスティカが一つになる、アリスゲームが始まる合図…」
「今度は、幻想郷がアリスゲームの舞台になるって訳なのか…」
諏訪子と神奈子は神妙な面持ちのままであったが、
「何で…酷いわよ……同じ姉妹が争うなんて、何でそんな恐ろしい事をするの?」
「に、人間…?」
感情を露わにする早苗に、雛苺は少し驚いた。
「アリスってそんなに偉いの?そんなに凄いの? 私には分からない! だけど、今目の前に貴女だって、魅力的で立派じゃない! それなのに、何で戦わなきゃいけないの? それが貴女の『お父様』の願いだって言うのなら、私はその『お父様』を許さない!」
「に、人間……」
早苗の激情に、雛苺は圧倒され言葉が出なかった。
「早苗…、でもこれが、この子達ローゼンメイデンの宿命なのよ、私達はとやかく言えないわ」
「神奈子様、こんな酷い宿命があるのですか? あっていいのですか?」
「そ…、それは……」
「早苗、あんたの気持ちは分かるけど、神奈子の言うとおりだよ。 私達はとやかく言う事は出来ないし、それを見守る事しか出来ないのよ…」
「で、でも…諏訪子様……」
「例え残酷であっても、この子達の尊厳を傷つけてはいけないわ」
「……っ」
2人に諭され、早苗は俯いていたしまった。
「ねぇ、人間…」
「ひ、雛苺…?」
「さっきも言ったけど、ヒナは喧嘩するのは嫌いだし、他の姉妹とは戦いたくなけど、試練だから仕方ないないの…、でもね……」
「でも…?」
「こうやって貴女達に出会えた事も何かの運命だと思うの。 目覚める事が無ければ、出会う事も無かったのよ」
「……っ!」
「だからね、悲しい事ばっかじゃないの、嬉しい事だって楽しい事だって沢山あるの!」
「ひ、雛苺……」
悲しそうではあったが、雛苺のローゼンメイデンとしての強さを見たような気がした早苗であった。
「幼い様に見えて、芯の強い子だね…」
「そうね…、ちゃんと自分の運命を受け入れる強さがあるようね…」
諏訪子と神奈子もその強さを少し感じていた。
「だから…、契約して欲しいの……」
「私は……」
雛苺からの契約の願いに早苗はまだ迷っていた。
契約する事で、目の前の人形の運命を左右してしまうかもしれないという、重大な責任を負うような気がして、その思いが尚更早苗を迷わせた。
「早苗、これはお前自身が決める事よ」
「この人形はね、お前を頼りにしてるんだよ、その願いに応えてあげなよ」
「…私で、いいのでしょうか…?」
神奈子と諏訪子にそう言われるも、まだ踏ん切りがつかない。
「人間、お願いなの…。 悲しい事は考えないで欲しいの、ヒナは楽しい思い出をいっぱい作りたいの…!」
「………っ」
それから少しの間、沈黙が部屋を支配した。
そして、早苗は雛苺を見て口を開いた。
「…分かったわ、貴女の事は私が責任を持って預かります。 だから…、安心してね」
「に、人間…、ありがとうなのー!」
早苗の一言に雛苺は満面の笑みを浮かべて抱きついてきた。
「あっと…、ちょっと……」
突然抱きつかれて来たので、バランスを崩してしまが、何とか立て直す。
「ふぅ…、それで契約ってどうするの?」
「…それじゃ、今から言うの」
雛苺が立ち上がり早苗の前に立った。
「…ちょっと待って!」
「えっ…?」
不意に早苗が雛苺に声を掛けた。
「神奈子様、諏訪子様、私はこの人形と契約しますが、宜しいですね?」
今一度、2人に了承の確認を取ったのであった。
「ああ、私は構わないよ。早苗が決めた事だから、それを尊重するわ」
「そう、お前が決めた事だからね、私も構わないよ」
神奈子と諏訪子は穏やかな表情で、それを了承した。
「良かった…、お待たせ雛苺!」
それを確認した早苗は、再び雛苺の方へ向き直った。
「うん! それじゃあね…」
「はい……」
「誓うの、ヒナの薔薇の指輪に……そして、ヒナのローザミスティカを護って欲しいの」
そう言って、雛苺は早苗の前に左手を差し出した。
「…薔薇の指輪に?」
「うん、この指輪に口付けをするの」
「…分かったわ」
早苗は徐に身を乗り出し、その指輪に口付けをした。
すると、突然ピンク色の光が2人を包んだ。
「えっ!? 何これ?」
「大丈夫、直ぐ終わるの!」
「くっ……!? 熱いっ…!」
手から感じる熱さに、顔を歪める早苗。
「さ、早苗!?」
「ちょっと神奈子、どうなってるの? 説明してよ!」
「私が知るか! 何でお前は私にばかり振るんだ!」
「何だよ!全く頼りにならない軍神だな、お前は!」
「うるさいっ!お前だって何も分かってないだろ!?」
目の前に事態に、2人だけたわいない口喧嘩を始める。
「またお二人は…」
顔を歪めながらも、早苗はそれに呆れていた。
「凄いの! 早苗の力は凄いのー!」
雛苺だけは一人はしゃいでいた。
そして、その光は徐々に消えていった。
「…終わったの?」
「うん、終わったよ! 左手を見て」
雛苺にそう言われて左手を見ると、
「……っ!? 薔薇の指輪が…!」
早苗の薬指には、雛苺と同じ薔薇の指輪が填められていた。
「それが、ヒナと契約した証なの。 これで一緒だね!」
「フフ…、そうですね…」
雛苺の笑顔を見て、早苗もつられる様に笑顔になった。
神様2人を除いて…。
「さ…、早苗? 大丈夫なの?」
「早苗、ちょっとそれ見せて!」
神奈子は心配そうに見つめ、諏訪子は早苗に駆け寄った。
「す、諏訪子様? 私は大丈夫です……大丈夫ですってば!」
諏訪子は、早苗の指に填められて指輪を凝視していた。
「この指輪どうなってるの? 触るわよ」
「えっ? ちょっと……痛いです! 痛い、痛い!」
諏訪子は好奇心から、その指輪を触ったり引っ張ったりしていた。
「おい諏訪子! もう止めろ!早苗が痛がってるだろ!」
たまらず神奈子が止める。
「だって気になるじゃん、こんな超常現象みたいなの初めてなんだからさー」
「だからと言って、無理に引っ張るとか止めろ!」
興味津々の諏訪子を、神奈子は咎めた。
「諏訪子様、これから幾らでも見れますから、放して下さい…」
「うっ…、分かったよ」
諏訪子は渋々、早苗の手を解放した。
一呼吸置き、今度は雛苺が2人に聞いた。
「ねえ…、神奈子と諏訪子って言ったの?」
「ああ、そうだよ。何だ?」
「ヒナはね、こうして早苗と契約したから、2人とも仲良くしたいの…」
上目遣いで、2人を見つめる雛苺。
「(うわっ…この人形、可愛いかも…)」
「(こんな目をされたんじゃ、ダメなんて言えないじゃない…)」
少なからず、2人に精神的ダメージを与えていた。
「…ああ、勿論だよ! お前さんは今日から守矢神社の一員だよ」
「あんたは早苗と契約したんだから、ここは自分の家だと思ってくれていいよ」
「神奈子…、諏訪子…、ありがとうなのー!!」
そう言うと、今度は2人に抱き付いた。
「おっとと…、可愛いな…」
「私に、いきなり娘が出来たような感覚だねー」
「おいおい…」
「…良かったわ、お二人とも打ち解けたみたいだし」
その様子を見て、早苗はとても嬉しそうな表情をしていた。
「雛苺も此処に住むんですから、神社の事も教えてあげませんとね」
「そうだね、それと幻想郷の事も説明してあげなきゃね」
早苗と諏訪子のやり取りに、雛苺が尋ねる。
「そうだったの…、幻想郷ってどんな場所なの?」
「幻想郷っていうのは、博麗大結界で隔離された土地の事だ。 此処には外の世界で忘れられたモノや生き物が集まる場所、幻想入りとも言うのかな?」
「結界…? 忘れられモノ…?」
神奈子の説明に明らかに付いて来られない雛苺。
「この幻想郷はね、妖怪が多く住む場所なんだ。妖怪と言っても色々いて、この辺だと天狗と河童だね。後は…吸血鬼や鬼、妖獣、覚、妖怪兎と他にもまあキリがない位いるよ。他にも魔法使い、亡霊、仙人、ゾンビ?、閻魔さんに死神、付喪神なんかもいるよ。そして、私達のような神様もね」
「す、凄いの…、ヒナが今まで見てきた世界とは全然違うの」
「確かに、幻想郷は一癖も二癖もある場所だからね。 時間はあるし、ゆっくり勉強するといいよ」
「うん! ヒナも色々知りたい事がいっぱいあるの!」
神奈子の説明と諏訪子の言葉に雛苺は目を輝かせていた。
「それなら、明日は『幻想郷縁起』を見せてあげるわ。 幻想郷の事が細かく書いてあるから」
「うん、見たいの! でも…」
「…でも?」
「字が読めないかも…」
「ええ〜!?(;´Д`)」
「仕方ないだろ? 早苗が読んでやりなよ」
「そ、そうですね…、分かりました」
「さて…、今日の続きは明日にしましょうか」
「私も部屋に戻ろうかな…」
「神奈子様、諏訪子様、お待ち下さい!」
「「!?」」
立ち上がろとした2人を早苗が止めた。
「折角雛苺が家に来たんですから、アレをやりましょう!」
「アレっ…? …ああ、そうね、やりましょうか」
「いいね!やろやろ!」
そう言って3人は立ち上がり、雛苺の方を向いた。
「雛苺…」
「…何なの?」
「せーの……」
「「「ようこそ、守矢神社へ!!」」」
「みんな……ありがとうなのー!!」
3人からの歓迎の言葉に、雛苺は満面の笑みで応えた。
こうして、守矢神社に一人(?)の家族が増えた。
「そう言えば早苗」
「…はい?」
「風呂、もう冷えてるよ?」
「……orz」
雛苺と守矢神社編は、これで一旦終了です。
何時もより、薔薇乙女(雛苺)の出番が少なかったと思います。
雛苺ファンの皆さん、申し訳ないm(_ _)m
でも、今後出番は増えてくると思います。
恐らく、ウザい位にw
…て事で、乞うご期待!
さあ、ラストのお人形は…、
これも、波乱万丈な展開になりそうです。