薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】   作:豊之丞

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続きです。

今回も残酷描写、多数含まれます。


第29話 薔薇水晶の脅威

「…一体、何をしようって言うの…」

 

 

身動きが取れないさとりは、薔薇水晶を睨み言う。

 

 

「貴女は覚妖怪の能力上、肉体的苦痛を与えても首を縦には振ってくれないようですね、それならば精神的苦痛はどうでしょうか?」

 

 

「何を、言っているの…」

 

 

「簡単な事です…」

 

 

次の瞬間、薔薇水晶は手に水晶で形作られた矢を手にしていた。

 

 

「はぁっ!」

 

 

薔薇水晶が、その方向目掛けて矢を投げた。

 

 

「きゃぁ!?」

 

 

 

「……っ!?」

 

 

一瞬悲鳴が聞こえ、さとりがその方向を向く。

 

 

「……こいし?」

 

 

そこには、さとりの妹、古明地こいしの姿があった。

水晶の矢が服の袖を貫通し、壁に突き刺さっていた。

 

 

「私が気付いていないとでも思ってましたか?」

 

 

「…えっ!? 気付いてたの?」

 

 

「当然です、私がここに現れてからずっとそこに居ましたね? 」

 

 

「そ、そんな…、私が見えてたなんて…」

 

 

「いつ仕掛けてくるか待っていましたが、何時まで経っても何もしないので、私から仕掛けてさせてもらいました」

 

 

そう言うと、薔薇水晶はこいしの方へと歩き出した。

 

 

「…いけないこいし! 逃げて!」

 

 

「お姉ちゃん…?」

 

 

「逃がしません…」

 

 

すると、薔薇水晶の手には先程より長い水晶で造られた矢が握られていた。

 

 

「な、何それ…?」

 

 

「さあ、掛かって来なさい。 でなければ、私が貴女を殺します」

 

 

「……っ!」

 

 

「ダメよ、こいし! その人形は…」

 

 

「お姉ちゃん、私はやるわ!」

 

 

「えっ…!?」

 

 

「お姉ちゃんがそんなにやられたのに、黙ってなんかいられないよ…!」

 

 

「でも…、こいし……」

 

 

「大丈夫! 私が簡単には負けないよ!」

 

 

こいしは、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「…こんなものっ!」

 

 

服に刺さっていた、水晶のダーツを引き抜き投げ捨てた。

 

 

「…準備は良いですか?」

 

 

「うん! いつでも良いよー! コテンパンにしてあげる!」

 

 

「その元気が何時まで続くでしょうか? 見ものです…」

 

 

薔薇水晶はゆっくりと構えに入った。

 

 

「私から行くよー!」

 

 

こいしは、無数の弾幕を展開した。

 

 

「無駄……」

 

 

薔薇水晶の前に地面から無数の水晶かの柱が出現し、弾幕が弾かれた。

 

 

「なにそれ…」

 

 

「此処では狭すぎますね…、本来の威力が発揮出来ない…」

 

 

「そんなもの、壊しちゃうわ!」

 

 

それを見たこいしが、スペルを宣言する。

 

 

「表象『弾幕パラノイア』!」

 

 

こいしから放たれた弾幕が、水晶の柱を破壊していく。

 

 

「成る程、なかなかやりますね。 しかし…」

 

 

柱と弾幕の隙間から飛び上がった薔薇水晶は見事に回避する。

 

 

「その攻撃、なかなか面白いですね」

 

 

無表情は変わらないが、その避け方には余裕すら感じられる。

 

 

「では、私も…」

 

 

回避モードから反撃に転じる。

 

 

「まずはこれ…」

 

 

こいしの方へ手を向けた瞬間、激しい衝撃波を発した。

 

 

「うぐっ…!」

 

 

その激しさの余り、こいしは仰け反りながら後方へと押し戻される。

 

 

「長引かせるつもりはありません、一気に決める…!」

 

 

こいしが仰け反っている隙を逃さず、水晶の礫を飛ばす。

 

 

「がはぁぁっ!」

 

 

礫がこいしに直撃し、苦痛に表情が歪む。

 

礫の一発一発は、相当の重みのある攻撃で、普通の人間なら致死に値する。

しかし、こいしはそれを必死に耐えていた。

 

 

「それに耐えましたか、流石は妖怪ですね」

 

 

変わらず無表情の薔薇水晶が、こいしに迫る。

 

 

「まだ…、まだ終わってないよ…!」

 

 

「こいし! 無理よ! 今の貴女では…」

 

 

さとりの声を遮るようにこいしはスペルを宣言しようとした。

 

 

「記憶『DNAの……

 

 

だが、発動しかけた瞬間

 

 

「遅い」

 

 

薔薇水晶から放たれた、水晶の矢がこいしの掌を貫いた。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

こいしの悲鳴が木霊し、貫かれた掌から夥しい血が流れ出した。

 

 

「まだ…」

 

 

再び薔薇水晶から放たれた水晶の矢が、こいしのもう片方の掌を捉え、彼女ごと壁へと叩き付けた。

 

 

「ぐぁはあぁぁぁぁ!?」

 

 

「こいしぃぃぃぃ!!」

 

 

こいしの悲鳴、さとりの絶叫が部屋中に響いた。

 

 

「痛い…、痛いよぉぉ…!」

 

 

激痛で泣きじゃくるこいし。

それでも、薔薇水晶は無表情を崩さない。

 

 

「古明地さとり…」

 

 

「……っ!?」

 

 

「これから、貴女の妹の末路をその目で見ていなさい」

 

 

「な、何をするの…?」

 

 

「貴女が、私の申し入れを断った事を後悔する結果になります」

 

 

「こいしを、どうするの…?」

 

 

すると、薔薇水晶はこいしの方へと近付き、

 

 

「古明地こいし…」

 

 

「な……!?」

 

 

「恨むなら、あの薄情な姉を恨みなさい…」

 

 

そして、こいしの壁に突き刺さっている方の掌の矢を持ち、抉り出した。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

矢を伝い、白い壁が赤い血に染まっていく。

 

 

「やめてぇぇぇ!! 痛いよぉぉぉぉ!!」

 

 

こいしは泣きながら嘆願するが、薔薇水晶は止める気配は無い。

 

 

「どうですか? 貴女はこれ以上自分の妹が傷付くのを見ていられますか?」

 

 

さとりの方を向き、彼女は言った。

 

 

「こいしぃぃ! …お願い、お願いだからこいしをそれ以上傷付けないでぇぇ!!」

 

 

さとりは、泣きながら叫んだ。

 

そこで、薔薇水晶の手は止まり、水晶の矢を掌から引き抜いた。

 

こいしはそのまま地面へと崩れ落ちた。

 

 

「うぇぇ………ぇぇぇ……」

 

 

こいしは完全に戦意を喪失し、血塗れで泣いていた。

 

 

「気は変わりましたか? この子を傷付けたくないのであれば、私の申し入れを受けて下さい」

 

「……っ」

 

 

水晶の檻の中から、さとりは涙目で薔薇水晶を睨んでいた。

 

 

「さあ、さとり……、貴女が『はい』と言ってくれれば、私は悪い様にはしません」

 

 

「そんな事…、どうして信じろって言うの!?」

 

 

「私は嘘は言いません、ローゼンメイデンとして誓います」

 

 

「くう……!」

 

 

「お姉ちゃん…、ダメ……!」

 

 

「私は……」

 

 

「…お姉ちゃん!!」

 

 

こいしの叫び声がさとりの返答を遮った瞬間だった。

 

 

「さとり様ぁぁ!?」

 

 

「どうしたんですか、さとり様? 悲鳴が……!」

 

 

さとりとこいしの悲鳴を聞きつけ、お燐とお空が駆けつけてきた。

 

 

「な、何これ…」

 

 

「ど、どうなってるの…?」

 

 

2人は、部屋の中の光景を見て愕然とした。

 

水晶の柱が地面から突き出て天井を破っている。

さとりは、檻のような中に閉じ込められ、こいしは血塗れで倒れている。

 

 

「お燐!お空!」

 

 

「さとり様、これは一体…」

 

 

「こいし様も…!」

 

 

「…貴女達は、何者ですか?」

 

 

突然現れた2人に、薔薇水晶はなお無表情で聞いた。

 

 

「私は火焔錨 燐、古明地さとり様のペットだ!」

 

 

「私は霊烏路空よ、さとり様を酷い目に合わせるなんて許さない!」

 

 

2人は薔薇水晶を睨み付け、直ぐに攻撃出来るように身構えた。

 

 

「二人共、気を付けて! その人形はとても強いわ!」

 

 

「えっ…、人形…?」

 

 

お空は驚いたように、薔薇水晶を見た。

 

 

「私を殺しますか? 良いでしょう、お相手します…」

 

 

そして、薔薇水晶も二人の方を向き身構えた。

 

 

「相手が人形だろうと妖怪だろうと関係無い! さとり様に手を出すヤツは、あたいが許さない!」

 

 

そう言い放ち、お燐が動いた。

 

 

「貴女の…」

 

 

だが、お燐の素早い動きを見切り、

 

 

「一時の感情に任せた攻撃は…」

 

 

「……っ!?」

 

 

迫り来るお燐を避け、水晶の磔を飛ばす。

 

 

「うがぁぁぁっ!?」

 

 

一瞬の隙を逃さない。

 

 

「所詮……」

 

 

薔薇水晶の手には、水晶で出来た剣が握られていた。

 

 

「あっ……!!」

 

 

「愚の骨頂…」

 

 

一気に飛び上がった薔薇水晶は、お燐の頭上に水晶の剣を無慈悲に振り下ろした。

 

 

「かはぁぁっ!?」

 

『バキーンッ!!』

 

 

振り下ろされた剣は、お燐の脳天に直撃した瞬間、粉々に砕けた。

 

 

「うがぁぁぁ……」

 

 

お燐は白目を剥き、地面へと倒れた。

 

 

「「お燐ー!!」」

 

 

お空とさとりの呼び掛けに、お燐の反応は全く無かった。

 

 

「そんな…、お燐が……!」

 

 

さとりが、力無く膝から崩れ、

 

 

「お燐!しっかりして!お燐!!」

 

 

お空は、お燐を介抱するが全く反応が無い。

お空は、泣きながらお燐の名前を呼び続けた。

 

 

「安心しなさい…、その子はまだ死んではいません」

 

 

薔薇水晶は、更に続ける。

 

 

「しかし、そのまま放っておけば、危うい事態になります」

 

 

「そんな…」

 

 

「彼女を助けたいなら……分かりますね? 古明地さとり…」

 

 

「……!!」

 

 

拳を力一杯握り締め、目の前にいる人形に対して激しい怒りが込み上げるさとりだが、必死で冷静さを保とうとしていた。

 

 

「貴女の選択肢は二つ…、私の申し入れを受けるか、彼女達を見殺しにするか…」

 

 

「…分かった……」

 

 

「…待って下さい!」

 

 

さとりの声を遮ったのは、お空であった。

 

 

「私は戦います! さとり様やこいし様、そして…お燐の為に!」

 

 

「お、お空…!?」

 

 

「……っ」

 

 

表情を変えない薔薇水晶の前に、お空が叫ぶ。

 

 

「無駄な抵抗です、およしなさい」

 

 

薔薇水晶は、既にお空の力量を図っていた。

 

 

「貴女の攻撃力は、確かにずば抜けて凄いものです。 それはひしひしと感じます。 しかし……それだけで勝てる程甘くはありません…」

 

 

「何よ…、私をバカにしてるの…?」

 

 

「お空ダメよ! 挑発に乗っちゃダメ!」

 

 

さとりの必死の説得も、お空の耳には届いていない。

 

 

「貴女も、ああなりたいのですか?」

 

 

「な、何ですって……!」

 

 

「あの子と同じ運命を辿る事になります…」

 

 

「うるさい…」

 

 

「…その様子だと、何も理解出来てないようですね」

 

 

「うるさい!うるさい!!」

 

 

「貴女…、本当にバカなのですね…」

 

 

「このっ……!」

 

 

薔薇水晶の馬鹿にするような挑発に、お空の怒気が高まっていく。

 

 

「それでは、長生きは出来ませんよ…」

 

 

「お空、聞いちゃダメ!」

 

 

「可哀想な子……」

 

 

「もう、それ以上は…」

 

 

「あの子と一緒ね…」

 

 

「それ以上言うな…!」

 

 

「どう足掻いたって、私には勝てない…」

 

 

「お燐を……」

 

 

「所詮、貴女達はその程度…」

 

 

「よくも…」

 

 

「何も出来ない…、何て可哀想……」

 

 

「お前 よくもぉぉぉぉ!!!!」

 

 

怒りが頂点に達したお空は、薔薇水晶に制御棒を向けた。

 

 

「お空! やっちゃダメ! 貴女が殺されるわ!」

 

 

「お空…、ダメだよ……!」

 

 

「ウォォォォォォォォ!!!」

 

 

もはや、さとりの叫び、こいしの嘆願は、お空の絶叫に掻き消され、届く事は無かった。

 

 

「本当に可哀想な子ですね…、ならば……」

 

 

「爆符『メガ……

 

 

「私が壊してあげましょう!!!!」

 

 

薔薇水晶が動いたのは、お空のスペル宣言より早かった。

 

 

その瞬間、薔薇水晶の表情が初めて変わった。

 

 

それは、正に…

 

 

これから獲物を狩る、ハンターの顔つきで、

 

 

不気味に笑みを浮かべていた。

 

 

お空の命運は…?

 

そして、さとりの決断は…?

 




次回、地霊殿編クライマックスです!

そして、裏で暗躍する人達(?)も登場します。
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