薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】   作:豊之丞

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翠星石と妹紅は、ある目的で人里へ行きました。

しかし、予想だにしなかった事態に向かいます。


第33話 翠星石の初人里

それは、日が高くなってきた頃の話である

 

「暇ですぅ! 他にする事はねぇですか!?」

 

「うるさいなぁ…、何も無いから本でも見てろよ」

 

「幻想郷縁起の事を言ってるなら、とっくに読み尽くしたですぅ! 10回以上隅から隅まで読み尽くしたですよ!」

 

「そんなに!?」

 

翠星石が妹紅の家に来てから数日

2人のやり取りは、こんな感じであった

 

「じゃ、薪割りでもするか?」

 

「薪割りは嫌です! 何で翠星石がそんな労働をしなくちゃならねぇですか!?」

 

「お前も此処に住んでんだから、少しは家事を手伝え!」

 

「それはお前の役目です、翠星石は専門外ですぅ!」

 

「じゃ、何が出来るんだよ?」

 

「何がって…、その……お菓子作りとか……」

 

「…何だって?」

 

「お菓子ですぅ! 女子なら好きでしょ!?」

 

「お菓子作りか…、残念だけど、私はあんまり食べないよ」

 

「嫌いですか?」

 

「いや、嫌いじゃ無いけど…、わざわざ自分で作ってまで食べようとは思わない」

 

「何ですか、自分で作るから良いんじゃないですか。 本当にお前は面倒臭がりですねえ」

 

「うるさいなぁ、大体お菓子って何が作れるんだよ?」

 

「クッキーとか、スコーンとかですが何か?」

 

「洋菓子か…、そう言えば幻想郷に来てから久しく食ってないな…」

 

「ほほう…、それは良い事を聞いたですぅ」

 

「…何だよ?」

 

「こうして翠星石がお前の所に来たんですから、腕を振るってやるです!」

 

「まさか…、お菓子作りをするのか?」

 

「その通りです、今からやるですよ!」

 

「今から!? 言っとくけど、材料は無いよ?」

 

「はぁ!? この家は本当に何もねぇですね! 貧乏の極みだわ!」

 

「無くたって私は生活出来るんだよ! 決して貧乏じゃない!」

 

「迷った人間の道案内をしておいて対価を取らないなんて、お前はお人好し過ぎるですぅ!」

 

「私が道案内してるのは、別にそんなんじゃないんだよ!」

 

 

「不老不死になると、マヌケ面して道案内するしか出来ないんですかねえ?」

 

「何だと、この野郎!」

 

翠星石の毒舌は、普段は物静かな妹紅を激怒させるには十分な威力があった

 

「怒ったって何も怖くねぇですぅ!(べぇー」

 

「お前、マジ燃やすぞ!」

 

「無駄ですぅ、お前は翠星石には逆らえないですぅ!」

 

「やってみるかぁ!?」

 

「そらぁ!」

 

 

『バギッ!』

 

 

「いってぇぇ!?」

 

間髪入れず、翠星石のドロップキックが妹紅の臑に直撃した

 

「フンッ! お前がどれだけ強いかは知らないですが、翠星石に勝とうなど100年早いですぅ!」

 

「く、くっそぉぉ…」

 

仁王立ちする翠星石の前で、妹紅は悶絶しながら睨んでいた

 

「喧嘩は終わりです、さっさと出掛けるですよ」

 

「…出掛けるって、何処へ?」

 

「お菓子の材料調達に決まってるじゃないですか!」

 

「てことは、里まで行かないといけないのか?」

 

「里って…、人里の事ですか?」

 

「そうだ、幻想郷で里って言ったら、人間の里の事になるんだ」

 

「おおー、幻想郷縁起で読んだです、幻想郷で一番賑やかな場所なのよね?」

 

「ああ、あそこなら大体の物は揃う。 洋菓子に使える材料があるかは分からないが…」

 

「きっとあるですぅ! そうと決まれば早く行くですよ!」

 

「待てよ、金は誰が出すんだよ?」

 

「勿論、お前です」

 

「何で私なんだ!?」

 

「この翠星石が直々に腕を振るってやるんですから、お前は材料費を出す、当たり前じゃないですか!」

 

「待て! 勝手に決めるな!」

 

「まさか、そんな金も持ってないとか…?」

 

「いや…、持ってるさ……勘違いするな!」

 

「だったら、ブツクサ言ってねぇで早く準備して行くですよ、この白髪アマ!」

 

「こいつ、殺してえ…!」

 

容赦ない毒舌に、妹紅の殺意は増すばかりであった

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「こうやって、他の人間の前でも堂々と出歩けるなんて、幻想郷は良い所ですぅ!」

 

「まあ、妖怪達が普通に彷徨いてる場所だから、目立たないんだろうな」

 

「今まで居た世界では、考えられなかったわ」

 

それからしばらく、翠星石と妹紅は喋りながら人里を歩いていた

 

「へえー、これが人里ですか、とっても賑わってるですね!」

 

「そうか? 何時もと変わらないと思うけどな」

 

目を輝かせている翠星石に、妹紅は素っ気なく返した

 

「しかし…この風景、違和感ありすきですぅ。 前にいた時代より古臭い感じです」

 

「それは仕方ない事だよ、幻想郷は外の世界とは結界で切り離された土地だからな。 日本の年号で言えば明治の初めで時が止まっているような感じかな?」

 

「なるほど、道理で発達した文明を感じない訳ですね…」

 

「まあ、時々外の世界から流れ着くものがあって、それを元に活用しているものもあるが」

 

「幻想郷は時代遅れですねえ…」

 

「そうでもないぞ? 河童達の技術は凄いぞ」

 

「…河童?」

 

「まぁ、いずれ会えるだろうよ。 それより、お菓子の材料を買うんだろ?」

 

「…そうですぅ、翠星石は初めてだから場所が分からないです。 案内して欲しいですぅ」

 

「私もそこまで詳しく無いんだが…」

 

そうして、2人の材料集めの為の商店巡りが始まった

 

 

それから半時…

 

 

「…やっと買えたのは、小麦粉と砂糖と卵と牛乳ですか…」

 

「…まだあるのか?」

 

「当たり前です、バターも欲しいし出来ればチョコレートやオリーブオイルも欲しいですし、メープルシロップなんかもあると良いですねえ」

 

 

更に一時…

 

 

「…妹紅」

 

「…何だよ?」

 

「何でこんなにも、欲しいモノがねえですか!?」

 

「そんな事、私に言われても…」

 

「人里は色々あるって言ってたじゃないですか! バターは何とかありましたが、ココアパウダーも無ければメープルシロップも無いし、ベーキングパウダーも無いとか、此処の人間共は何でこんな生活が出来るですか?ふざけてるですぅ!」

 

「いや、無くたって生活は出来るだろ。 それに、人里だって何でもある訳では無いし…」

 

「そんなんじゃ困るです! これだけじゃ、作れるバリエーションが少なすぎるですぅ!」

 

「それだけで作れるんなら、良いじゃないか?」

 

「ダメですぅ!これだけじゃつまらないですぅ!」

 

「とは言ってもなぁ…」

 

「何とかならんですか? 幻想郷が洋風な物が無い、こんなに貧乏くせー場所とは思わなかったですぅ…」

 

翠星石は、怒りながら肩を落とした

 

「…そういう物を入手出来なくも無いが」

 

「えっ…、本当ですか?」

 

「…紅魔館だ」

 

「こ…、紅魔……館」

 

それき聞いて翠星石は顔色が変わった。

 

「あの…、吸血鬼がいるという……紅魔館の事ですか…?」

 

「そうだ」

 

「………っ(汗」

 

「…何だよ、ビビってるのか?」

 

「ビ、ビビってなんかねぇです! でも…その……」

 

「(本気でビビってやがる…)」

 

さっきまでの強気な翠星石は影を潜め、妹紅は若干呆れ顔であった

 

「…仕方ない、慧音に聞いてみるか」

 

「…慧音?」

 

「上白沢慧音、私の友人だよ。 知ってるだろ?」

 

「あぁ、お前が前に言ってた大切なお友達ですね。 幻想郷縁起にも名前があったですよ」

 

「そう、彼女なら何かしら情報を持ってるかもしれない」

 

「当てになるですか?」

 

「アイツは私なんかよりずっと顔が利くからな、一応聞いて見よう」

 

「仕方ないです、それでお願いするです…。 紅魔館に行く位なら…」

 

「紅魔館言ったって大した事無いって。あそこの主は案外話は分かるヤツだと思うよ」

 

「でも…、吸血鬼ですよ? 血を吸われるですぅ…」

 

「お前人形だろ? 吸われる血なんてあるのかよ?」

 

「血は無くたって、吸血鬼は怖い存在ですぅ! 前の前の時代では吸血鬼狩りとか魔女狩りとか、実際にあったですよ!?」

 

「それ、何時の時代だよ…」

 

「何時だって変わらないですぅ!」

 

「分かった分かった、さっさと慧音の所に行くぞ。 荷物を持ってるのも疲れた…」

 

そう言って、妹紅と翠星石は慧音のいる寺子屋へと向かった

 

――――――――――――――――――

 

 

「着いたぞ、ここだ」

 

「此処にいるですか?」

 

「ああ、慧音は寺子屋の教師をしているんだ」

 

「へえ、先生ですか…」

 

「まだ、授業中かな…?」

 

妹紅が寺子屋の中を覗こうとした時であった

 

「妹紅じゃないか! 久しぶりに来てくれたのか!?」

 

「うおっ!?」

「ひぃぃっ!?」

 

いきなり大声を掛けられ驚く2人

振り向くと、青い服にスカート、頭に変わった形の帽子を乗せた、何時も格好の慧音がいた

 

「どうしたんだ? 何か用事があったのか?」

 

「…ああ、それなんだけどさ…」

 

「も、妹紅…(グイッ」

 

「ああっ…?」

 

翠星石は妹紅の陰に隠れて、もんぺを掴んでいた

 

「あの人間…、誰ですぅ…?」

 

「そんなに驚くなよ…、彼女が慧音だよ」

 

「この女が、ですか…?」

 

「妹紅、そこに居るのは…?」

 

「ああ、コイツはな…」

 

「妹紅! お前何時からそんな幼女に手を出すようになったんだ!?」

 

「慧音待て! これはそうじゃないんだ!」

 

「お前にそんな趣味があったなんて、これは何かの間違いだろ? 直ぐにお前の歴史を食べてやる!」

 

「待てって! 何でそうなるんだよ!?」

 

息巻く慧音に妹紅は頭を抱えた

 

 

それから少し時間が経ち、すっかり落ち着いた慧音と妹紅と翠星石は、寺子屋の中で茶を飲んでいた。

 

その間に翠星石の、ローゼンメイデンについての、そしてアリスゲームについての説明を妹紅から慧音にしていた。

 

「そうか…、さっきは済まない、私の勘違いでつい取り乱してしまった…」

 

「慧音は早とちり過ぎるよ」

 

「驚かすんじゃねぇです…」

 

「いやあ、本当に悪い。 ところで、翠星石だったな?」

 

「は、はい…」

 

「君は、過酷な運命を背負って生きてきたようだが、その事で『お父様』を恨んだりはしてないのか?」

 

「恨むなんてとんでもないです! でも…、アリスゲームは避けたいです…」

 

「そうか…(こんなに小さい人形が、私の想像する以上の宿命を背負ってるなんて、何もしてやれないのがやるせない…!)」

 

慧音は、無意識に拳を握り締めていた

 

「…どうしたんだ、慧音?」

 

「い、いや何でもない。 翠星石」

 

「な、何ですか?」

 

「私はお前のマスターでも無いし、アリスゲームに介入する事も出来ない。 たが、幻想郷にいる間は何時でも遊びに来てくれていいぞ」

 

そう言って、慧音は翠星石の手を握って微笑んだ

 

「私個人的にも、薔薇乙女の事に興味がある。色々話を聞かせてくれないか?」

 

「慧音…、分かったです、色々お話してやるです!」

 

それに翠星石は笑顔で応えた

 

「良かっな、翠星石」

 

「はいです、これで人里に来る理由が出来たですぅ!」

 

その様子を見て、妹紅も自然と口元が綻んでいた

 

「あっ、そう言えば慧音、本題がまだだったんだ」

 

「そ、そうだったです!」

 

「本題?」

 

思い出したかのように、慧音に本題を切り出す2人

 

「…なるほど、クッキーとかいう洋菓子を作るための材料を探していたのか」

 

「そうです、でも人里にはココアパウダーもシロップも無くて絶望してたですぅ!」

 

「人里は和菓子を取り扱う店が殆どだからな、洋菓子を取り扱う店は稀なんだ」

 

「何とか入手する手立ては無いですか?」

 

「ううん、そうだなあ…」

 

慧音は腕を組んで考えていた

 

「…持ってそうなヤツは居るにはいる」

 

「本当ですか? それは誰ですか?」

 

「魔法の森に住む人形遣いか、…紅魔館だ」

 

「……っ」

 

「やっぱりか…」

 

予想通りの答えに、妹紅は頭を抱えた

 

「前者はあくまでも個人の邸宅だから切らせている可能性がある。 後者なら確実に入手出来るだろうが、お勧めはしない」

 

「…どうする、翠星石?」

 

「うぅぅ…、材料集めだけで何でこんなにハードル上げられるですか!?」

 

涙目の翠星石、残された選択肢は2つ

どちらに行っても、一悶着は必至…

 




さあ、翠星石はどちらに行くのでしょうか?


前話の後書きに書いた、3ターン目から、姉妹の再会があると書いた件。

見事に、そのフラグをへし折りそうな展開になりましたw

こういう展開の方が面白いかな??
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