薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】 作:豊之丞
「アリス!ただいまかしら」
「あっ、おかえり金糸雀」
金糸雀が家に戻ると、丁度人形作りを終えたアリスが出迎えた。
「どうだった、幻想郷は?」
「うん、今まで見たこと無いものが見れて刺激的だったかしら!」
「そう、でも気を付けなさいよ、空を飛んでても襲って来る妖怪がいるから」
「だ、大丈夫かしら……多分……」
少し引きつり気味の笑顔で答える金糸雀に、アリスは苦笑いしていた。
「…まぁいいわ、今日は何処まで行ってたの?」
「今日はね、えっと…」
金糸雀は、懐からアリスお手製の地図を出し、それを見ながら説明した。
「この『霧の湖』って所までいったからしら」
「霧の湖って…」
すると、奥から数体の上海人形がアリスの元へやってきた。
「……分かったわ。 ねえ金糸雀、悪いけど、この子達のお手伝いをしてもらえる?」
「分かったかしら!」
そうして、金糸雀は上海と共に奥へと向かった。
「話の続きは、夕食の時に聞くか…」
そう呟き、彼女は自室へと戻った。
――――――――――――――――――――
夕食時、2人と人形達で食卓を囲む光景も、随分馴染んできた。
そこで、アリスは金糸雀に昼間の話を聞く事にした。
「ねえ金糸雀、さっきの話だけど…」
「さっきのって、霧の湖の話かしら?」
「ええ、何かあったの?」
「いえ、湖には特に何も…、此処から近かったし、行ってみただけかしら」
「そうなの…」
すると、金糸雀は思い出したように続けた。
「…あっ、そう言えば、今日は収穫があったかしら!」
「収穫?」
「そう、ローゼンメイデンの姉妹を見つけたかしら!」
「えっ! 本当に!?」
「えっと、あれは…、確か紅魔館って所だったかしら」
「こ、紅魔館ですって!?」
アリスは紅魔館というキーワードに驚いた。
「紅魔館で見たのは、姉妹の中では一番質が悪いって言われている、水銀燈だったかしら」
「水銀燈って…、第1ドールだったわよね? てことは、紅魔館にいる誰かがマスターなのね」
「遠くからではっきりとは聞こえなかったけど、吸血鬼がどうこうって言ってたような…」
「それが本当なら、水銀燈のマスターは、レミリア・スカーレットになるわね…」
「えっ? あの幻想郷縁起にも危険度が高いって書いてあった、あのレミリア・スカーレット?」
「そうよ、こんな組み合わせになるなんて…、彼女達は間違い無く強敵になるわよ」
「そ、そんなに!?」
「只でさえ質の悪い第1ドールに吸血鬼の組み合わせなんて、鬼に金棒よ」
「これは…、予想外だったかしら…」
アリスの言葉に、金糸雀の表情は引きつっていた。
「…それで、紅魔館ではそれだけだったの?」
「…そうそう、もう1人居たかしら」
「それは誰なの?」
「第3ドールの翠星石かしら」
「その翠星石っていうドールが紅魔館に居たって事は、まさか…」
「ええ…、あれは間違い無く、アリスゲームをしていたわ…」
金糸雀から告げられた一言に、アリスは固まった。
「それで…、どうなったの?」
「あれを見る限り、今回は勝負が着かなかったかしら」
「そうなんだ…」
その言葉に、アリスは胸を撫で下ろした。
例え、敵になるであろう人形であっても他人事には感じられなかったのだ。
「でも、翠星石の方が一方的にやられてたかしら…」
そう言った金糸雀の表情が曇った。
「相手が悪すぎるわ…」
「今回の水銀燈は、まだ相手にしたくないかしら…」
「…それで、その翠星石はそれからどうしたの?」
「マスターと一緒に迷いの竹林の方へ行ったわ」
「迷いの竹林へ? 彼女のマスターは分かる?」
「ううん…、名前は思い出せないかしら…、服装は白いシャツにお札みたいなのが貼られた赤いズボン、髪は長い白髪で…」
その外見の特徴から、アリスは翠星石のマスターが誰なのか直ぐに分かった。
「…その特徴からして、藤原妹紅で間違い無いわね」
「藤原妹紅って、縁起に老いる事も死ぬ事も無い程度の能力って書いてあった…」
「簡単に言えば、不老不死ね」
「ああ…、翠星石も大層なマスターを付けたかしら…」
「でも…、藤原妹紅も相当な使い手の筈なのに、彼女をマスターにした翠星石が簡単にやられたとなると、先が思いやられるわね…」
「うう…、やっぱり何処の世界でもアリスゲームを制するまでの道のりは険しいかしら…」
金糸雀は肩を落として呟いた。
「こうなったものは仕方ないわ、何とかして突破口を探すしか無いわよ」
「ううん…、今の水銀燈に勝とうとすると……骨が折れるかしら…」
戦略を考えながら、金糸雀は食事を続けた。
「…争う事が無いのが、一番なんだけどね……」
「…へっ? 何か言ったかしら?」
「何でもないわ、早く食べてしまいなさい」
「う、うん…」
そう言って、アリスは静かに紅茶を飲んだ。
―――――――――――――――――――
夕食を終え、片付けを済ませる人形達。
アリスは、その間にシャワーを浴びていた。
そして、寝るまでの時間は、雑談をして過ごすのが日課のようなものであった。
「それで金糸雀、明日はどうするの?」
「まだはっきりとは決めてないけど、此処から比較的近い無縁塚の方へ行ってみようかしら?」
金糸雀は、地図を見ながら嬉しそうに答えた。
「無縁塚に?貴女って自分でハードルを上げるのねえ…」
「だって、外の世界の物が落ちてくる場所なんでしょ? 興味があるかしら!」
金糸雀のお気楽な発言に、アリスは頭を抱えた。
「断っておくけど、無縁塚は墓地なのよ? 確かに外の世界の物が落ちてくる事もあるけど、結界の綻びがあるから冥界や三途の川に繋がる事もあるのよ」
「うっ…、それは…」
「あんな危険な場所、行くことはオススメしないわ。最も香霖堂の店主は別だろうけど」
「でも…、私…気になります!」
「ぶふほぉッ!?」
(それ、何のネタよ!?)
金糸雀の予想外の台詞に、アリスは思わず、ずっこけそうになった。
「はあ…、仕方ない。それじゃ、戦闘用の上海を一体連れて行きなさい」
「えっ…、いいの?」
「一体位なら問題無いわ、ちゃんと貴女のサポートをしてくれるから」
「アリス…、ありがとうかしら!」
金糸雀は、アリスの手を握って感謝した。
「良いわよ、でも…、呉々も無茶はしちゃダメよ?」
「うん、分かったかしら!」
その返事を聞いて、アリスも笑みを浮かべた。
「ところで、アリスも明日は…」
「ええ、明日は人形劇の打ち合わせで人里に行ってくるわ」
「人里? カナも行きたいかしら」
「今度の人形劇の時に連れて行ってあげるから、それまでは違う所を散策してなさい」
「わ…、分かったかしら」
とりあえず、アリスの言う事に従う事にした。
「でも、その間上海を操るのは…」
「大丈夫だ、問題ない」
「………っ」
アリスは、何故か何時もより低い声で威圧感に答えた。
金糸雀は、素直に首を縦に振った。
「…それじゃ、カナはもう寝るかしら」
「ええ、先に休んでちょうだい」
「じゃ、お休みかしら」
「お休みなさい」
そうして、金糸雀は鞄へと入った。
「さて…、私も……」
それからしばらくして、部屋の明かりが消された。
その夜、みんなが寝静まった頃。
寝間着のアリスは、1人自室の窓から空を見上げていた。
「やっぱり…、始まってしまうの? アリスゲームが……」
「どうして、姉妹が闘わなきゃならないの?」
「人形師ローゼンは、本当に『アリス』なんていう少女を求めてるの?」
「最後の一体になったからって、アリスになれなかったら?」
「彼女達は、何の為に闘って来た?」
「こんな闘い、何か違う……間違ってる…!」
「アリスゲームは、弾幕ごっことは違う」
「一度壊されたら、元には戻らない」
「やり直しが効かないのよ…!」
「マスターの出来る事は、自分のドールに力を供給するだけ」
「何でそれしか出来ないの? マスターの価値なんてその程度なの?」
「恨むわ、自分の無力さを」
「こんな事なら、出会わない方が良かったのよ!」
「だけど………」
ふと、アリスは金糸雀の鞄の方を振り向いた。
「貴女は、確かに強いわ」
「それは、実際に闘った事がある私には分かる」
「貴女なら、『アリス』になれるかもしれない…」
「けれど…」
「貴女は…、辛くないの?」
「苦しくないの? 悲しくないの?」
「同じ人形師から造られた姉妹達なのに…」
「ローザミスティカを奪い合い…」
「目の前で、姉妹が動かなくなる…」
「そんな屍を前に、貴女は怖くないの?」
「私は……、怖い……」
「貴女を失うのが……」
「貴女が動かなくなる姿を想像するだけで…」
「私は怖いわ…!」
「出会ってまだ日は浅いけど……」
「貴女との出会いは、私にとって…」
「かけがえのない出来事…」
「この出会いが、私を変えてくれる」
「そう信じている…」
「ずっとは無理でも…」
「出来る限り…、そう……出来る限り……」
「貴女の側にいてあげたい…」
「そんな、当たり前の平和が許されないって言うの?」
「アリスゲームって…、何なのよ!!」
何時しか、アリスの瞳からは涙が溢れ出ていた。
無意識のうちに感極まっていた。
「いけない…、私としたことが…」
「一番辛いのは、貴女だよね…?」
「マスターの私がこんなんじゃ、貴女に余計な負担を掛けてしまうわね…」
「私が、もっとしっかりしなきゃ…」
アリスは自身の涙を拭い、胸元に手を置き拳を握った。
「私は………」
「金糸雀を……」
「護りたい……」
「あの子の苦しむ姿は見たくない」
「アリスゲームに介入するのは、越権行為かもしれない…」
「だけど……」
「黙って見てるなんて、私には出来ない!」
「私に出来る事…」
「マスターとして、私は出来るだけの事をする」
「最後まで……」
「金糸雀……!!!」
その瞳には、強い決意
そして、揺るぎない信念すら感じられた。
―――――――――――――――――――
翌日、朝食を済ませたアリスは、人里へ向かおうとしていた。
「それじゃ、私は先に出るから、貴女が出掛ける時は戸締まりはちゃんとしてね」
「はい、分かったかしら!」
「よろしい、それじゃ行ってくるわ」
「行ってらっしゃいかしらぁ!」
金糸雀に見送られ、アリスは飛び上がった。
「アリスも出て行ったし、私も準備しようかしら♪」
金糸雀は部屋へ戻り、支度を始めた。
「鞄の中身はっと…、大丈夫かしら。 それから…」
金糸雀は、大きめの箱を風呂敷で包んでいた。
「これは、アリスお手製のサンドイッチかしら! お昼が楽しみかしら♪」
満面の笑みで、それをお出掛け用の鞄へと入れた。
「これで、準備万端かしら!」
鞄を担ぎ、日傘を手に取る。
「ピチカートも、良いかしら?」
すると、黄色い人口精霊が金糸雀の辺りを飛び回っていた。
「そして…、上海! 行くよぉぉ!」
「シャンハーイ!!」
彼女が呼び掛けると、奥からランスと楯を持った一体の戦闘用上海人形が現れた。
「さあ、これで良いかしら。 備えあれば憂いなし! 妖怪でも妖精でも幽霊でも、ドンと来いかしらぁ!」
そして、家の戸締まりを終え、飛び上がった。
ローゼンメイデンと上海、2体の人形は無縁塚の方角へと消えていった。
無縁塚がどんな所か、期待に胸を膨らませ、金糸雀の表情は笑顔に満ちていた。
アリスの心配を余所に…。
「あの子、大丈夫かしら…?」
人里に向かいながらアリスは呟いていた。
「一応、上海は付けておいたけどさ…、何事も無ければいいけどね…」
次回も、金糸雀のターンです。
こういう展開にするには、少し早かったかな?