薔薇乙女幻想録 -Legend of the dolls-【休載中】 作:豊之丞
どうにか、年内に投稿する事が出来まして、我ながら安心しております。
お待たせした分、長い話になりました。
それでは、どうぞ!
「お空、準備出来た?」
「私は何時でもいいよ!」
「私も大丈夫です」
薔薇水晶に旧都の案内を頼まれたお燐とお空。
手早く準備を済ませ、地霊殿の玄関前で打ち合わせをしていた。
「それじゃ、どこから行こうかね?」
「先ずは小間物とか見に行こうよ、私さ前に見たあれが気になっててさ!」
「お空、それはあんたが見たいだけでしょうが! 案内にならないじゃない」
「うにゅう…」
お燐の突っ込みにうなだれるお空だったが、
「私は其処でも構いません、行きましょう」
薔薇水晶が助け舟を出した形になった。
「良いのかい? 本当に?」
「地底都市には、どの様な物があるのか、興味があります」
「そうなんだ…」
「やっぱり薔薇水晶、話が分かるね! お燐なんかより全然分かってるよねぇ!」
「こら!お空!」
薔薇水晶に抱きつきながら喜ぶお空に、お燐は怒っていた。
「お空……もうそれ位にして……早く行きましょう」
「うん! じゃあ、案内するね!」
「これで大丈夫なのかなぁ…、あたいまで心配になって来た…」
二人を後ろから見ながら、何とも言えない不安を感じるお燐だった。
――――――――――――――――――――
旧都のメインストリートを歩く一行。
そこは、多くの商店が建ち並び、また多くの妖怪で行き交っていた。
「妖怪だらけですが、とても賑やかな場所ですね」
「あぁ、ここが旧都の中心部みたいな場所だからね、買い物したり遊び回る妖怪で、毎日賑わってるんだ」
「凄いでしょ? この辺の賑わいは、地上より凄いんだよ」
「確かに、活気があって気持ちが楽しくなってきますね」
薔薇水晶は相変わらず無表情ではあるが、辺りを見回し、どことなく楽しげに見えた。
「それでお空、行きたいお店ってのは、何処だい?」
「もう少し行った所にあるよ」
そう良いながら、お空を先頭に歩を進める。
「あっ! 彼処だよ!」
お空が指差した店には、色とりどりな小間物が数多く並んでいた。
「ああ、彼処か。 そういえば、お空は以前あのお店で長時間物色してたっけ?」
「うん、あの時はお金が無くて見てるだけだったから、今日は大丈夫なのよ!お小遣いいっぱいあるから!」
「あんまり無駄遣いしちゃダメだよ」
「とりあえず行ってみましょう、二人とも」
3人は店に入り、品物を見て回った。
「えっと、あれは…………あったあった! これ欲しかったんだ! おじさん、これ幾ら?」
「あぁ、それはね……」
お空と店主が会話をしてる間、お燐と薔薇水晶は品物棚を見ていた。
「お燐、貴女は買わないのですか?」
「いやね、欲しい物は沢山あるけど、買い出したらキリが無いからさ…」
「買いたい時に買っておくのが良いと思いますよ?」
「そう? まぁ、そう言うんなら……そうだねぇ、とりあえず…」
そう言いながら、棚にあったブローチを手に取る。
「このブローチ、前から気になってたんだ、あたいの服に合いそうな色だし」
「良いと思います、貴女の服の色には似合うと思います」
「そうかい?」
「はい、私でもそれを選んでいたと思います」
「……よし、これ買ったぁ!」
「………っ」
嬉しそうに会計しに行くお燐を見て、薔薇水晶は僅かに微笑んでいた。
「欲しい物、ゲットしたよー!」
其処へ会計を済ませたお空がやって来る。
「見て薔薇水晶! これ可愛いし綺麗でしょ?」
お空に見せられたら袋の中をのぞき込んでみる。
その中には、他にも色々な小間物が入っていた。
「何時の間にこんなに買っていたのですか………可愛いかと言われると微妙ですが…、どの小間物も凝った作りで、確かに綺麗ですね」
「でしょ? 絶対可愛いよ!」
「可愛い…んでしょうか…?」
良くは出来ているが、微妙に歪な形のそれに、薔薇水晶は首を傾げる。
「もう! 分かってないなぁ薔薇水晶は! ところで、薔薇水晶は何か欲しい物は無い?」
「私ですか?」
「うん! お金はいっぱいあるから、薔薇水晶が欲しいやつも買ってあげるよ」
「お空…、良いのですか? 私の為なんかに…、以前私は貴女を…」
「いいよいいよ、気にしないで! 以前は以前、今は仲良しなお友達でしょ?」
「……ありがとう、お空。 それでは、お言葉に甘えさせて貰います」
「お礼なんて良いよ! それで、何かある?」
「そうですね……」
薔薇水晶は、店内を見渡しめぼしい物が無いかを確認する。
「あれ……」
彼女は何かを見つけたらしく、その方向へと歩いた。
「あっ……」
薔薇水晶が見つけたのは、透明だが、若干紫がかった水晶の髪飾りであった。
「薔薇水晶……これがいいの?」
「……はい」
どことなく恥ずかしそうにしている薔薇水晶を見て、お空は笑顔でそれを取った。
「綺麗な髪飾りだね、薔薇水晶に良く似合うと思うよ!」
「は……はい……」
「これが良いのね? それじゃ、買ってあげるね!」
「…本当に良いのですか?」
「私に任せて!」
お空は胸を張りながら、それを持って会計へと向かった。
それから少しして、会計を済ませたお空とお燐が戻ってきた。
「薔薇水晶、買ってきたよ! もう貴女の物だからね!」
「お空…、わざわざありがとうございます…」
それを見た彼女は、何となく嬉しそうにしていた。
「とりあえず、外に出ようよ」
お燐に促され、3人は店の外へと出る。
「これが、薔薇水晶の欲しかった物かい?」
「あの店内で、一番目に付いたのが此です」
「ふーん、そんなに高そうなものじゃないみたいだけど…」
「そんな事いいじゃない! 薔薇水晶、今付けてあげるね!」
そう言って、お空が薔薇水晶の髪にその髪飾りを付けてあげた。
「……これでよし! ……うん、似合ってるよ!」
「そ、そうですか?」
「うん、悪くないね。 薔薇水晶のイメージにはピッタリだよ」
「は、はい……」
薔薇水晶の表情に余り変化は無いが、二人から見ても照れ臭そうにしていた。
「フフフ、薔薇水晶って可愛いとこあるよね」
「あれで、最初は地霊殿を陥落させようとしたんだから、信じられないよ」
お空とお燐がひそひそと話をしていると
ドンッ!
通り掛かりの妖怪がぶつかって来た。
「オラァ! 何突っ立ってるんだ! 邪魔だぁ!」
「何よ! 貴方の方からぶつかって来たんでしょうが!」
「何だと! やるのか!?」
「上等……」
「待て待て待てお空! ゴメンよお兄さん、コイツ時々周りが見えてない事があってさ、悪気は無いんだ。 此処は勘弁してよ!」
喧嘩腰になっているお空を抑え、お燐が前に立ち、代わりに相手を宥めながら頭を下げた。
「……ったく! 気を付けろ!」
その妖怪は、一言そう吐き捨てて去って行った。
「ちょっとお燐! ぶつかって来たのはアイツなのに、何でこっちが謝らなきゃならないのよ!?」
「お空! 忘れたのかい? さとり様に面倒は起こさないようにって言われたのが」
「う、それは…」
「今日は薔薇水晶の手前だし、それに今のあんたは制御棒が無いんだから、戦闘力は皆無に等しいよ」
「うぅぅぅ…」
先ほど出掛ける時、さとりの命で制御棒を外して来たのを、当の本人は失念していたのだ。
「………っ」
「…どうしたの、薔薇水晶?」
「…いえ、何でも」
「そう? まあいいや、今の事は忘れて次行こうよ」
「分かりました」
「はぁ、仕方ないなぁ……気を取り直して、次は見せ物の所に行こう!」
「はい」
2人は気付いていないが、そう返事をした薔薇水晶はさっきの妖怪を見つめていた。
明らかな敵意を向けて。
――――――――――――――――――――
それから3人は、旧都の中心に近い広場にやってきた。
そこでは、芸達者な妖怪達が、自慢の芸を披露していた。
見せ物小屋で披露する者、路上で演舞をする者、多種多様な見せ物を見物する事が出来た。
「今日もいっぱいやってるみたいだねぇ」
「ねぇねぇ! あれなんて楽しそうだよ?」
お空が指差したのは、一際ギャラリーで盛り上がっている場所があった。
3人もそこへ行き、妖怪達の芸を見物した。
「うわぁ、なかなか器用にやるね!」
「へぇー、あんなの見たこと無いね、新ネタかな?」
「あ……あの、二人とも……とても言いにくいのですが…」
関心しているお空とお燐に、薔薇水晶が少々困った表情で声を掛ける。
「どうしたの?」
「その……見えない……」
「あっ…」
体格の大きい妖怪達が目の前に居り、薔薇水晶の視界を完全に遮っていた。
「そっか、これじゃ見えないね…」
「ゴメンね薔薇水晶! 今抱っこしてあげる!」
そう言って、お空が彼女を抱き上げた。
「どう? これで見える?」
「はい、これならはっきり見えます。 ありがとう、お空」
「うん! じゃあ続きを見よ!」
そうして、再び見物を始めた。
妖怪の芸達者ぶりに、3人、いや、その場の者達も、時間を忘れ見入っていた。
それから、どれ程の時間が経ったか、
『……はい、これで終わり!』
一通りの芸が終わり、終わりの一声が掛かると、観客からは拍手が巻き起こった。
「いやぁ、なかなか面白かったねえ」
「凄かったよね! 弾幕ごっこ程じゃないけど」
「弾幕ごっこと比べたらダメだろ?」
「エヘヘ…」
お燐の突っ込みにお空は舌を出して笑った。
「どうだった、薔薇水晶?」
「そうですね…、私が今まで見てきた催しとは全く異なるものでしたね、流石は妖怪による芸というべきでしょうか」
「まぁ、何にしても楽しめたみたみいだね」
「とりあえず、下ろすよ?」
「はい…」
抱かれていたお空から下ろされた薔薇水晶は、今度はお燐に訊ねる。
「ところで、次はどこに行きますか?」
「そうだねぇ…、少しお腹減ったし、ご飯食べに行こうか?」
「さんせ――――!!」
それに真っ先に反応したのは、何故かお空。
「お空、そんなに大声出さないの!」
「だって! 私もお腹減ってたし! ねえ、薔薇水晶…………って、あれ?」
2人が薔薇水晶の方を向くと、何故か若干距離を取り、顔が引きつっていた。
「あんた、どうしたんだい?」
「いえ……あの………驚いてしまいまして……」
「あんなんで驚くなんて、貴女って以外と可愛いとこあるね!」
「か、可愛い…!?」
「そうそう! そんなに驚かなくたって何もしないわよ! 大丈夫だって薔薇水晶!」
「は、はぁ……」
二人のテンションに、少々困惑気味の薔薇水晶。
すると、その時
『ドガッ』
「うにゃぁ!?」
何者かが、お燐にぶつかって来た。
「そんな所に立って道を塞いでるんじゃねえ! 邪魔だから、さっさと道を開けろ!」
「ちょっと何よ! わざわざこんなとこ通らなくたって、此処は広いんだから、そっち通れば良いでしょう!?」
その場所は広々とした場所で、多少場所を取っても十分に往来が出来る場所である。
見方によれば、その妖怪はわざとお燐にぶつかって来たようにも見えた。
「ああ!? 此処は俺の縄張りだ! どこを歩こうと俺の勝手だろうが!」
「何よそれ! メチャクチャじゃないのよ!?」
「文句あるんか?」
「あったりまえ……」
「……待ちな、お空!」
「お燐!?」
今にも掴み掛かろうとするお空、お燐が制止した。
「だ、駄目だよ。 ここは我慢しなきゃ…」
「何でよ!? お燐は何も悪く無いんだよ? 悪いのはコイツらじゃない!」
「…いいから、黙ってなさい!」
「お、お燐…」
「………」
お燐の一喝に、お空は驚き、薔薇水晶は無言で見ていた。
「お兄さん……ゴメンよ、貴方達の縄張りとは知らなかったんだ。 こんな所に突っ立ってたら、そりゃ邪魔になるよね? 本当にゴメンよ、今退くから…」
頭を下げ、這いながら妖怪達の前から逸れたのだが、
「さっさと退け!」
「うがぁっ!」
お燐の腹部に妖怪が蹴りを入れ、彼女は激しく悶絶した。
「いたたたた……」
「お燐! 大丈夫!?」
慌てたお空が、悶えるお燐を介抱する。
「ケッ! 地霊殿のペットが俺たちの縄張りで粋がろうなんて、100年早いんだよ!」
「ふざけるな! お燐が何をしたってのよ!? もう許さない!!」
「あぁ!? やんのか!?」
お空と妖怪達が対峙する形になり、一触即発のムードに。
「…待つんだ、お空!」
「お燐? 何で止めるのよ!?」
「良いんだよ…、あたいの事は良いんだから…」
「良くない! あんな目に遭って、お燐は平気なの?」
「…さとり様の為だよ、お空…」
「お、お燐……」
頑なにさとりの事を庇おうとするお燐に、お空はそれ以上何も言えなかった。
「フンッ! 少しはやる気を見せるんかと思ったらこれかよ! 腰抜けペット共が!」
「もう、こんなヤツらに用はねぇ、行くぞ!」
そう吐き捨てた妖怪達は、その場から去って行った。
「こ、腰抜けですって…!」
お空は怒りを露わにするが、お燐の手前、手を出せずにいた。
「待ち……」
「薔薇水晶も止めるんだよ!」
水晶の矢を持ち、仕掛けようとしていた薔薇水晶を、お燐が止める。
「耐えるんだよ薔薇水晶、お願いだからさ……さとり様の為と思って…」
「しかし…、貴女は悔しくはないのですか?」
「悔しいけど……我慢だよ…、我慢……」
「……分かりました、貴女が其処まで言うのなら…」
お燐の説得に、薔薇水晶は持っていた矢を納める。
だが…、
「……ですが、私は貴女に危害を加えたあの者達を、許しません…」
溢れ出る殺気は消えなかった。
「お燐、立てる?」
「うん、もう大丈夫だよ。 ゴメンね、お空」
「もういいから、その話は止めよ?」
「お燐、今日は帰りましょう。 この続きはまた今度にしましょう」
「悪いね薔薇水晶、貴女にまで気を使わせて…」
「私は構いません、さあ」
手傷を負ったお燐をお空が支え、3人は地霊殿の方角へと歩き出した。
「しかし、何時もあんな事になるのですか?」
「いや…、今日は偶々だよ。 運が悪いっていうか、巡り合わせが悪かったね」
「何時もは、もっと楽しくウロウロ出来るんだよ。 ああいうヤツがいるとロクな事無いんだから」
「そうですか……偶々か………本当にそうなのでしょうか…?」
1人疑問に感じる薔薇水晶。
しばらく歩くと、また人混みが激しい場所へと差し掛かった。
「いやぁ、この場所は相変わらず混んでるねぇ」
「どうするの? 違う所から行く?」
「そうだね、迂回した方が良さそうだ。 薔薇水晶もはぐれないように着いて来て」
「はい」
混雑を避ける為、路地の方へと回る3人。
しかし、その路地も妖怪達で賑わっていた。
「何だよ、今日に限って騒がしいねぇ…」
「何かあったのかな?」
「別に祭りがあるって話は聞いてはいないけど…」
何とか妖怪達の間をすり抜けて行こうとする3人だが、
「……二人とも、気を付けて」
薔薇水晶が声を上げる。
「うにゅ? ……うわぁ!?」
お空が、何者かに突き飛ばされる。
「…ってえなぁ! 何処見て歩いてやが………って、何だ、またお前らか」
「あっ、あんた達は…!」
それは、最初に行った小間物屋の前でぶつかった妖怪達であった。
「一度ならず二度もかよ! 喧嘩売ってんのかテメェら!」
「違うよ! これは偶然なんだよ、他意は無いんだから!」
「フンッ! そんな事言って、実は俺達にいちゃもん付けてるんじゃないのか?」
「だから違うってば! そうじゃないって!」
「いたたた…、もう! 酷いよ!」
妖怪を説得するお燐、一方で突き飛ばされたお空が起き上がり、妖怪達を睨み付ける。
「お空、大丈夫かい?」
「私は大丈夫だけど……さっき買った物が…」
お空の視線の先には、先ほど買った小間物が散らばっていたのだ。
「何だ何だ、騒がしいな!」
「あっ、兄貴…」
そこに来たのは、先ほどお燐にぶつかった妖怪達と、1人の鬼であった。
その鬼は、妖怪達を引き連れ威張りながら歩いているという感じである。
「……何だ、またお前らか!」
「あんた…! 何でこのタイミングで…」
最悪の巡り合わせに、お燐は頭を抱えた。
「何だ、コイツら地霊殿のペットじゃないか、確かお燐とお空って言ったけか? お前ら知り合いか?」
「違うんですよ兄貴! コイツら俺達にぶつかっておいて詫びの一つも入れないんですよ!」
「そうなのか?」
「何言ってるのよ! ぶつかって来たのはあんた達の方でしょう? 何で私達が誤らなきゃならないのよ!?」
「相変わらず威勢だけはいい女だな!」
「ホントだよ、漫才でもやってるのか?」
「ハハハハ……!」
「な、なんですって!?」
その様子を見て、妖怪達は大笑いし、お空は再び憤慨した。
「お空、止めなって!」
「止めないでよ、お燐!」
突っかかろうとするお空を必死で宥めるお燐。
そして、何も言わずに静かに睨む薔薇水晶。
その様子を見ていた妖怪の1人が、辺りの様子に気付く。
「何だこれ…、エラく散らばってるなぁ…」
「あっ、それは……」
それに気付いたお空の表情が変わる。
「ほう、これはお前のか?」
「そうだよ、それは私が買ったの」
「そうか………フフフ、聞いたかみんな!」
「ああ、聞いた!」
「兄貴、ちょいとやらせてもらいますよ!」
「へっ、どうしよもない奴らだな……好きにしな!」
「おー!」
兄貴と呼ばれる鬼の、それを聞いた配下の妖怪達は動き出す。
「ちょっと…、何をするの…?」
「それは、お空のだよ?」
「分かってるさ、だからいいんだ」
「いいって…」
「ヘヘヘ……」
「…こうするんだよ!」
『バギッ!』
妖怪達は一斉に、小間物を踏み潰し破壊し始めた。
「あっ!? 何すんのよ!止めて! 私が買ったんだよ!?」
「うるせー! これは見せしめだ! 俺達に逆らったらどうなるか思い知らせてやる!」
「直接手を下さないだけ、ありがたいと思いな!」
容赦なく破壊を続ける妖怪達。
「お願い! 止めてよぉ!」
「お兄さん達、それはあんまりだよ! 何もそこまでしなくたって…」
だが、誰も耳を貸そうとせず破壊を続けた。
そんな事が、数分続いた…。
「ふう…、こんなもんでいいだろう」
「随分と良い形になったな! 粉々だけどな!」
「ハーハッハッハッ…!」
「ひ、酷い……折角、私がお小遣い貯めて買ったアクセサリーが………うぇぇぇん……」
目の前で、大事な物を破壊されたお空は、泣き崩れてしまった。
「おやおや、ついに泣き出したぞ、いいツラしてるなぁ!」
「超ウケるぜ!」
「地霊殿なんざ、古明地さとりが幅を利かせてるだけで、ペットの方はショボいな!」
「ハッハッハッハッハッハッ!」
妖怪達が大笑いしていると、引き連れていた鬼が少し真剣な表情で止めた。
「お前ら、女を泣かせるなよ! 姐さんが見てたらヤキ入れられるぞ!?」
「あっ…、それは怖いっすね! では、さっさと撤収しましょうか!」
「聞いたかみんな! 引き揚げだ!」
特に悪びれる様子も無く、その場を後にする妖怪達。
「うわぁぁぁぁん! 私の……お気に入りの……みんな……壊されたぁ………うぇわぁぁぁぁ!」
「お空…」
「お空……ゴメンよ……あたいが不甲斐ないばかりに……」
号泣するお空に、お燐は悲痛な表情で謝った。
どうする事も出来なかった自分に腹が立った。
(口惜しい、本当に口惜しい…!)
だが、彼女はそれでも主の言い付けを守り、手を出さなかった。
しかし、それで収まらない者がいた。
「お燐…、私はもう限界です…」
「ば、薔薇水晶…?」
お燐が見たその時の薔薇水晶の表情は、何時もの無表情では無く、確かな憤怒の表情になっていた。
「お空、あのような狼藉者には容赦をする必要は無いのです、例えさとりの命令があったとしても」
「えっ、薔薇水晶…?」
その一言に、泣いていたお空は、ハッとした。
「此処から先の事は、全ての責任は私が負います、これからあのバカ妖怪どもを叩き潰す…!」
「ちょっと、薔薇水晶! 待ちなって……」
お燐の静止も聞かず、薔薇水晶は妖怪達に向かって行った。
「拙い…、最悪な事になりそうだ…」
「薔薇水晶……凄く怒ってたよね…?」
「なお悪い!」
「……待ちなさい」
「ああっ!?」
その一言に、妖怪達が一斉に薔薇水晶の方へと振り向く。
「彼女が買った物を平然と壊して、謝りもせずに去ろうとは、貴方達には礼節というものが無いのですか?」
薔薇水晶がそう静かに話すが、妖怪達は逆上する。
「何だコイツは! 生意気に語りやがって」
「あれだけやっておいて、まだ俺達の恐さが分からないのか?」
「テメェ、見かけねー顔だが、地霊殿のヤツとは、どういう関係だ?」
「地霊殿の者達とは、身内も同然の間柄です。 貴方達はその身内に手を出したのですから、もう許しません」
小さな身体から発せられる殺気に、妖怪達は一瞬怯むが、再び見下したように喋る。
「フンッ! チビが何を言い出すかと思えば、気でも狂ったか?」
「俺達相手に勝てるとでも思ってるのか? 笑わせんな!」
「今ならまだ見逃してやるぜ、さっさと帰りな!」
妖怪達は揃って笑っていたが、リーダー格な鬼だけは違っていた。
「(何者だアイツ…、あの妖気というか何というか……ただ者じゃないぞ…)」
とてつもなく嫌な予感を感じていた。
「そうですか…、貴方達は自分の実力を随分と買い被っているようですね、お目出度い方々な事…」
「何だとコラァ!!」
「…ならば教えてあげましょう。 貴方達と私の力の差を…、後悔したところで誰も私を止める事は出来ません、覚悟しなさい…」
「言わせておけば…!」
「チビクソが! 後悔するのは貴様だ!」
1人の妖怪が、薔薇水晶目掛け飛び出す。
「今何と……」
薔薇水晶の手には、既に水晶の剣が作られ握られていた。
「もう一回…」
彼女も動く
「言ってみろ!!」
怒声と共に妖怪に迫る。
「ウオラァ!」
薔薇水晶に殴り掛かるが、
「何ですかそれは?」
その拳を水晶の剣で受け止め
「な、何…!?」
妖怪が怯んだ隙に飛び上がり
「二度と悪さが出来ないよう…」
振り下ろした剣が、妖怪の腕を切り落とす
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
「……それでは、もう悪さは出来ないわね?」
傷口から噴き出した血で、辺りが赤く染まり出す。
「な、何だあれは…?」
「どうなってやがる?」
予想外の事態に、妖怪達が動揺する。
「さあ、次は来ないの?」
「なっ…!」
「何なら、まとめて来て貰っても構わないわ」
「こ、コイツ…!」
「殺さないであげるから、さっさと来なさい…」
「ナメやがって!」
「だったら、本気で殺してやる!」
完全にキレた妖怪達が一斉に薔薇水晶に襲い掛かった。
「フッ…、単純な妖怪な事…」
薔薇水晶は、無表情でそれを見て、手を妖怪達へと向ける。
そこから水晶の礫が、向かって来る妖怪目掛けて放たれた。
「な、なんだこれは……!?」
「ぐぉわぁぁぁぁ…!」
水晶の礫は確実に妖怪達に命中し、妖怪達の動きが止まる。
「もう逃げ場は、無いわ…」
ズドンッ! ズドンッ!
辺りに、水晶の柱が出現し逃げ場を塞いでいく。
「何だ、この柱は…」
「こんなもの…、ぶち壊せ!」
妖怪達は力付くで柱を壊そうとするが、全くビクともしない。
「一体、何なんだこれは!?」
「嘘だろ…、俺達の力で破壊出来ないなんて……」
「何を、焦っているのかしら?」
「な、何……?」
柱に気を取られていた妖怪達の目の前に、薔薇水晶が迫って来た。
「無駄よ…」
水晶の剣を妖怪に叩き込む。
「うがはぁ!?」
一撃を受けた妖怪の頭蓋骨が陥没し、その場へ倒れる。
「その水晶の柱は、お前達には傷一つ付ける事は出来ない…」
すぐ横にいた妖怪の横顔に、また一撃が叩き込まれ、妖怪の顔が変形する。
「うごぉ!?」
「次は貴方達…」
近くに居た妖怪目掛け、多数の鋭い水晶矢が妖怪達の身体を貫く。
「がぁぁぁぁぁ!」
「いでぇぇぇぇ!」
妖怪達の身体が、一瞬にしてボロボロになり、辺りを紅く染めていく。
「そんなになってまで抵抗するなど、無駄です」
「な、何を……!」
妖怪達に、掌を向けると激しく衝撃波を放つ
『ぎぇぉぁぁぁぁ!?』
それにより、大勢いた妖怪達が蹴散らされ、残りは数匹にまで減っていた。
「な、何てヤツだ…」
「な、仲間が……仲間達がこんな簡単にやられるなんて…」
残された妖怪達は動揺し、あたふたしているが、薔薇水晶は止まらない。
「何をブツブツとほざいているの…」
「うぉっ!?」
既に、薔薇水晶は目の前
「次はお前よ」
妖怪の顔面に、薔薇水晶の飛び蹴りが炸裂する。
「うげぇぇぇぇ!」
バキーン!
バキーン!!
ズドーンッ!!
その一撃に、妖怪は吹き飛ばされ、幾つもの水晶柱を壊し、旧都の建物を破壊して止まった。
近くに居た者達が驚いてしまう程に、激しい衝撃と轟音であった。
妖怪は、微動だにしていない。
「ク、クソッ…!」
残された妖怪達は、追い詰められた形になってしまう。
先ほどまでの余裕は、最早見る影もなかった。
「もう、お前達だけなの? 弱過ぎて詰まらないわ…」
睨みを利かせながら、妖怪達へと近付く薔薇水晶。
妖怪達と鬼は、戦慄した。
目の前の、小さな存在に圧倒されている事に。
「あ、兄貴! ヤバいですよ!」
「兄貴! 此処は兄貴が殺って下さい!」
「こんな時にばっかり俺に回しやがって…、テメェら弱過ぎるんだよ!!」
「め、面目ねぇ…」
ボロボロになった妖怪達はうなだれ、戦意を喪失していた。
「戦意を喪失した妖怪には用は無い、所詮は腰抜けって事ね」
「な、何だと…!」
周りの殺気と妖気など気にせず、彼女はその鬼の前に立った。
「貴方が、この馬鹿共のボスなのね?」
「貴様、鬼の俺に楯突く気か!?」
「鬼だろうと何だろうと私には関係無い、お前の配下が仕出かした狼藉、お前にケジメを付けてもらうわ」
「ケジメだと? ナメんじゃねぇぞ、このクソがぁ!」
「本当にクソなのはどっちなのか、すぐに分かるわ…」
その鬼の殺気と妖気で、地響きがし始める。
だが、薔薇水晶から発せられる殺気も、鬼に負けてはいなかった。
少し離れた場所で、お空とお燐は、ビクビクしながらその様子を見ていた。
「お燐、どうしよう…。 このままじゃ大変な事になっちゃうよ…」
「ていうか、もう大変な事になってるよ! あたいはこれを一番恐れてたんだ…」
「お燐、そう思うなら止めてよ! このままじゃ薔薇水晶が殺されちゃうよ!」
「バカ言わないでよ! あたい達はアイツに殺されかけたんだよ? どうやったって止められる訳無いじゃん! しかも、対峙してる相手は鬼だよ? あの間に入ったら、あっという間にあたいは肉の塊にされちまうよ!」
「そんなあ〜! 薔薇水晶止めて! もういいよ! 恨みは十分晴らしてくれたからさ!」
何とか薔薇水晶を止めようとするお空ではあったが、
「お空、貴女の気は収まっても、私の気は収まりません。 もう少し其処で見ていて下さい」
「薔薇水晶! お願いだからもう止めてくれよ! これ以上はさとり様が…」
「…黙りなさい」
「くっ…!」
「薔薇水晶…!」
薔薇水晶の睨みに、二人は竦んでしまった。
「心配しないで、私は負けません。 早く終わらせて、みんなで地霊殿に帰りましょう」
「………っ!」
その言葉に2人はハッとする。
「薔薇水晶、私達の為に闘ってくれてるんだ…」
「1人で抱え込んで闘うなんて…、バカだよ…!」
「(2人共、ごめんなさい…。 すぐに終わらせます…)」
彼女の視線は再び鬼に向けられた。
「フンッ! 別れの挨拶は終わったか?」
「別れの挨拶? 何の事かしら? それをしなければならないのは、お前の方じゃなくて?」
「ぬかしやがって…!」
「御託などどうでもいい、早く終わらせましょう」
「こ、コイツぅぅぅぅ…」
バカにするような薔薇水晶の態度に、激しい怒りに鬼の額に青筋が浮かぶ。
「ざけんじゃねぇぇぇぇ!!」
鬼が地面を蹴ると、地響きと共に亀裂が入り薔薇水晶に迫る。
「フッ…」
彼女は飛び上がり、それを回避する。
「流石は鬼というところでしょうか、噂通りの怪力ですね…」
だが、彼女には一切の焦りは見られない。
「しかし、その怪力も使いこなす事が出来なければ、宝の持ち腐れ…」
「だったら見せてやる! 俺の力をな!」
薔薇水晶目掛け飛び上がった鬼は、拳の連打を薔薇水晶に繰り出す。
「フフ……」
彼女は、その拳を受け流す。
口元は笑っている様にも見えた。
「当たれコラァ!」
鬼は、必死で無数のパンチを高速で繰り出すが、ただの一撃も薔薇水晶には当たらない。
「それが貴方の最高なのですか?」
「ち、ちくしょう…! 何で当たらないんだ? 姐さんにだって一発は当てられるのに…!」
「貴方の言う『姐さん』とは誰かは知りませんが、どうやらそれが貴方の限界のようですね」
その動きを見切った薔薇水晶が、反撃に出る。
「終わりにしましょうか…」
繰り出された鬼の腕を流しながら左手で止め
「なっ…!」
「これ…」
右手に持っていた水晶矢で、腕を貫く。
「ぎぇぇぇぇ!」
「そして…」
また作り出された水晶の矢で、鬼の喉を切り裂く
「うごぉぉっ!?」
切り裂かれた傷口から大量の血が吹き出し、薔薇水晶も返り血を浴びる。
「これで…」
そこから、少し距離を取り
「終わりよ!!」
鬼の頭部に、渾身の回し蹴りを叩き込んだ。
「うごぁぁぁぁぁぁ!!」
ズドーンッ!
吹き飛ばされた鬼の身体は、幾つもの家屋を倒壊させ、ようやく止まった。
その鬼もまた、全く微動だにする事は無かった。
「ひ、ひぇぇぇぇ…」
それを見ていた、配下の妖怪達は、腰を抜かしへたり込んだ。
「ねぇ…」
「はぇぇっ!?」
闘いを終えた薔薇水晶が妖怪達の前に降り立ち、彼等を見下ろしていた。
「もう相手になる方は、居ないのか?」
「うわぁぁぁぁ!?」
妖怪達は後退りするばかりで、抵抗すら出来なかった。
「フッ、情けない妖怪共ね…、少しは身の程が分かったのかしら?」
それまで放っていた殺気を収めた。
そして、妖怪達にこう告げた。
「貴方達に、まだ主人がいるのならば伝えなさい。 仕返しに来るのならば何時でも地霊殿の私の所に来いと。私は逃げも隠れもしないと、そう言いなさい」
「は、はい……」
妖怪達は、完全に怖じ気づいており、全員が逃げるようにその場から去って行った。
「…下らない闘いだったわね……」
そう呟くと、彼女は能力を解除した。
同時に、周りに立っていた水晶の柱がゆっくりと消えていった。
「あ…ああああああ…」
「ば、薔薇…水晶…」
すぐ近くでは、度肝を抜かれた様子をお燐とお空が見ていた。
「…2人とも、もう大丈夫ですよ」
2人の元に近寄って来た薔薇水晶の様子は、何時も変わらないものになっていた。
だが、口元は僅かに、穏やかに笑っていた。
「薔薇水晶…、薔薇水晶ぉぉぉぉ!!」
「うわぁっ!?」
感極まったお空が、薔薇水晶に飛び付き泣きじゃくった。
「良かった…良かったよぉ! 薔薇水晶、殺されちゃうと思ったから! でも…でも、薔薇水晶は無事で戻って来てくれた、嬉しいよぉ!」
「お空…、私は大丈夫ですよ、あの程度の者に負けるような事はありません。 でなければ、アリスゲームに勝つなど不可能なのですから…」
「薔薇水晶……ありがとう、薔薇水晶!うぇぇぇぇん…!」
お空は再び薔薇水晶を抱き締めて泣いた。
「お空……苦しいですよ…」
「薔薇水晶…」
「……っ?」
「あたいからも礼を言うよ、ありがとう」
「お燐…?」
「最初は、さとり様の言い付けを破って行っちまった貴女が腹立たしかったけど、みんな纏めてぶっ倒してくれて、胸がスカッとしたよ!」
「お燐…、ごめんなさい、貴女には迷惑を掛ける結果になってしまいました。 しかし、私はあの者達の狼藉に我慢ならなかったのです」
「そっか…、後始末は大変そうだけど……まぁ、何とかなるさ!」
「お燐…、ありがとう…」
薔薇水晶はお燐に静かに頭を下げた。
「ぐすっ……ぐすっ…」
「お空、少しは落ち着きましたか?」
「うん…、ごめんね…」
「構いませんよ、これを貴女にあげます」
そう言って差し出したのは、お空に買って貰った水晶の髪飾りであった。
「これは、薔薇水晶に買ってあげた…、良いの?」
「はい、元はといえば貴女に買って貰ったものですから、厳密には貴女のもですよ」
「で、でも…」
「良いんです、また買えばいいだけの事ですから」
「薔薇水晶…、ありがとうぉぉ!!」
「えっ、お空…?」
再び抱きつかれた薔薇水晶は、困惑してしまった。
「私、薔薇水晶の事が大好き! 強くて、思いやりがあって、優しいし、大好きだよ!」
「そ、そんな…、お空…」
「フフフ、貴女も随分とお空に気に入られたみたいだね」
「お燐…、止めて下さい…」
お燐に弄られ、薔薇水晶を顔を赤くした。
「まぁいいさ、早いとこ帰ろう。 何時までも此処に居ると、また面倒な事になりそうだしね」
「分かりました、さあお空、帰りましょう」
「はーい!」
そうして、3人は足早にその場を後にした。
破壊された家屋などをそのままにして…。
―閑話休題―
「…ところで、さっきの鬼は……死んだの…?」
「いいえ、私は1人も殺してはいませんよ」
「そ、そうなの?」
「はい、ちゃんと生きていますよ、ただし…」
「……っ?」
「五体満足な身体では無くなりましたが」
「あちゃー…」
「これで、あの鬼や妖怪達は、生きている事の喜びを実感する 事が出来るでしょう」
「はぁ、益々後が怖いや…」
「ねぇ、薔薇水晶! また今度遊びに行こうね!」
「ええ、何時でも良いですよ」
「やったー♪」
また、何時ものようにはしゃぐお空。
「はぁ…、お空はお気楽でいいよなぁ…」
一方で、お燐は頭を抱えた
「さとり様に何て言い訳しよう…、あいつらだって、きっとこのまま大人しくは引き下がらないだろうしなぁ…」
この後の事を考えると、尚更頭が痛くなった。
その不安は、後に的中する事になる。
お燐が考えている通り、見事なまでに…。
以前なら、2~3話に分けるような内容ですが、1話に纏めてみたので、長文になっております^^;
読み応えはあったかと思います。
変わらずの鈍亀更新なので、次話がいつ投稿出来るかは分かりません。
これからが、面白くなっていく展開なんで、なるべく早めに投稿出来ればとは思ってますが…。
もはや、失踪の一歩手前(=_=)
忘れかけた頃に更新出来ればとは思っております。。。